第28話 デート

第28話 デート


 リディアたちが街に戻ると、宿に直行し、まずは体を休めることにした。翌朝、リディアは自身のステータス画面を見ながらノエルへ相談する。


「ノエル、現在レベルが199なんだけど、200になると進化するのかな?」リディアが問いかける。




「マスター、レベル200でダンジョンロードへ進化可能です。」




 リディアはその言葉に少し興奮を覚えた。「進化か…さらに強くなれるなら、挑戦する価値はあるな。」




 その時、フェンが部屋に入ってきて、ニヤリと笑った。「リディア、エレン様と一緒に買い物に行かないかにゃ?どうせ宿にこもっているだけじゃ退屈だろうにゃ。」




 リディアは少し戸惑いながらも、「買い物か?いいぞ。」と答えた。




「エレン様を頼むにゃ!リディアなら安心にゃ。」




「了解! まかせてくれ! フェンは一緒にいかないのか?」リディアは軽く肩をすくめて笑ったが、女性と二人きりで出かけることに少し緊張している自分に気づいていた。




 エレンが微笑みながら、「それじゃあ、リディアさん。行きましょうか。」と声をかけた。リディアはその笑顔に一瞬見とれながらも、軽く頷いた。彼女の隣にいるだけで、なんだか妙にそわそわしてしまうのを感じた。




 街の市場に出かけると、人々の喧騒と新鮮な食材の香りが広がっていた。リディアとエレンは並んで歩きながら、時折お互いに視線を交わしていた。




「こっちの店も見てみましょうか?」エレンが指さした店は、美しいアクセサリーが並んでいた。




「いいね。見てみよう。」リディアは、転生前に女性と付き合ったことがなかったため、少し緊張しながらもエレンに従った。彼女の隣にいるだけで、何故か胸の鼓動が速くなるのを感じた。前世では恋愛経験がなく、女性と二人で出かけること自体が初めてだったのだ。




 ちっ。魔物を倒すより緊張する…。しかし、緊張しすぎかな、とリディアは内心で自嘲気味に思った。




 店の中でアクセサリーを見ていると、エレンが小さなペンダントを手に取った。「これ、素敵ね。リディアさん、どう思いますか?」




 で・でた。この手の質問は、答えが決まっている定番だ・・・。や・やばい。褒めすぎても軽薄に思われるかもしれないし、控えめすぎても失礼かもしれない。リディアは一瞬考えた後、なんとか言葉を絞り出した。




「す、すごく似合いそうだな。」リディアは少しどもりながら答えた。エレンは微笑みながらペンダントを元に戻した。リディアは彼女の微笑みに少し安心しながらも、内心の葛藤はまだ続いていた。正解だったのだろうか…。






 市場を歩き続けるうちに、周囲の人混みがさらに増してきた。リディアはエレンとはぐれないようにどうしようかと考え、手をつなぐべきか少し迷った。しかし、結局その勇気が出ず、代わりにエレンの服の袖を軽くつまんだ。




 エレンはその感触に気づき、リディアの顔を見た。リディアが少し照れくさそうにしているのを見て、エレンは心が温かくなった。




 リディアはエレンと歩いていると、手を繋ごうかと何度も迷った。自分から手を繋ぐのは、年齢=彼女なしの自分には高いハードルだった。結局、リディアはエレンの袖をつまむことで精一杯だった。




「リディアさん、ありがとう。袖をつまむのも悪くないけど…」エレンは優しく微笑みながら、リディアの手を取った。「これで、絶対にはぐれないわね」




 !!!?




 突然のことでリディアはかぁーっと一気に顔が赤くなり、下を向いた。エレンの手の温かさが直接伝わってくる。「そ、そうだな…ありがとう、エレン。」なんとかお礼を絞り出した。やばいな。緊張しちゃって何も考えられないや。




 リディアの心は高揚感と敗北感で揺れていた。自分から手を繋げなかったことへの悔しさと、エレンの優しさに包まれる安心感。その感情の渦に飲み込まれながらも、彼女はエレンの手をしっかり握り返した。




 二人は手をつないだまま、露店を見て回った。エレンが興味津々にあちこちの店を覗き込むたびに、リディアもつられて笑顔になった。どこか心が軽くなるような気分だった。




「リディアさん、見て。これ、可愛いわね。」エレンが小さなガラスの置物を手に取った。その瞬間、リディアはエレンの横顔に見とれてしまった。




「そ、そうだな。すごく綺麗だ。」リディアはどもりながら答えたが、エレンの微笑みがさらに心を揺さぶった。




 ふと、二人の間に一瞬の静寂が訪れた。リディアはエレンの手を握り直し、ほんの少しだけ強く握った。その小さな変化にエレンも気づき、優しく微笑んだ。




「お、お腹すかないか?軽食でもどうかな?」リディアは少し緊張しながらも、勇気を出して提案した。




 エレンは頷いて、「いいわね。ちょうどお腹が空いていたの。」二人は近くのカフェのようなお店に向かった。




 お店に入ると、温かい雰囲気と花の香りが迎えてくれた。リディアはメニューを見ながら、「何がいいかな?」とエレンに尋ねた。




 エレンは笑顔で、「ハーブチーズベリーパイとベリーフラワーティーがいいわ。」と答えた。リディアも同じものを頼み、二人で木製のテーブルに座った。




「さっきのガラスの置物、本当に素敵だったな。」リディアは会話を始めた。エレンがうなずきながら、「そうね、でもあなたの反応がもっと素敵だったわ。」と言った。




 リディアは照れながらも笑顔を返した。彼女は、自分がエレンの隣にいることがとても自然に感じられ始めていることに気づいた。




 二人は食事を楽しみながら、互いのことをもっと知るために様々な話題について語り合った。ハーブの香りとベリーの甘酸っぱい味わいが、会話をさらに和やかにしてくれた。時間が経つのも忘れるほど、心地よいひとときを過ごした。




 ふと、リディアはエレンに尋ねた。「こんな素敵な場所、どうして知ってたの?」




 エレンは少し照れながら答えた。「実はここ、私の秘密の場所なの。大切な人と一緒に来たいと思ってたの。」




 !!!?


「ば・ばかやろう・・・。冗談いうなよ…」リディアは驚きと照れ隠しで声を上げた。




「ふふふ。」エレンは少し舌を出してにこやかに笑った。




 二人はその後も楽しい会話を続け、カフェの外に出る頃には、すっかり日が傾き始めていた。エレンとリディアは並んで歩きながら、これからの冒険について話し合い、新たな一歩を踏み出す準備を整えた。




 エレンとリディアが宿屋に帰り、今日の街歩きの話を楽しそうにしていた。そんな二人のやり取りを、フェンは興味深そうに見つめていた。




「あの……二人はいつの間にそんなに仲良くなったにゃ? リディア、エレン様と話す時と、私と話す時の口調が違うにゃ……」




 フェンは少し言いにくそうな顔をしながら、それでも疑問の方が強かったのだろう。眉をひそめながら、そっと聞いてきた。




 リディアは笑いながらフェンに答えた。「エレンとは、買い物をしながら自然に仲良くなったんだよ。お互いの好みを知るうちに、距離が縮まった。」




 エレンも微笑んでフェンに説明する。「そうね。リディアさんとは、一緒に過ごす時間が増えるうちに、自然と親しくなった気がするの。」エレンはウィンクして付け加えた。




 フェンは納得したようにうなずき、再び二人の会話に耳を傾けた。宿屋の窓から差し込む夕陽が、三人の影を長く伸ばしていた。




 ▼街づくり


 リディアのダンジョンは、各種魔物たちがその特性に合わせた居住地づくりを進めていた。エンシャントドワーフのバルドが居住区づくりのリーダーとして指揮を執り、リディアの配下である五星たちも協力していた。今日は西側の居住区についての会議が開かれていた。




「ゴブリンやコボルト、オークたちの居住区は入口付近が適してます。彼らは警備と迎撃に優れてるさかい、この位置最も理に適うてます」とシャドーが述べる。




「そうなの~!。敵が侵入してきた場合、まず彼らが第一の防衛線となるの~。ボーンズ、あなたの意見はどうなの~?」とリリィが尋ねた。




 ボーンズは話せないが、堅く頷き、その骨の翼を広げて同意を示した。




「ボーンズも同意しているの!」とリリィは笑顔で言った。「この街ではゴブリンたちは最弱の魔物だけど、前線で時間稼ぎをしてもらうの。門番にはゴーレムを配置して、交代でゴブリンを置くの!コボルトやオークたちの連携で主力が来るまで耐えるのが作戦なの!」




「うちも同意します。」とシャドーは続けた。「次は空飛ぶ魔物たちの居住区について話し合いましょ。バードやハーピーは壁の高い位置に巣を作るのんがええ思います。」




「彼らは上空からの索敵を担当しますから、その位置が最適なの。」とリリィが賛同した。「エヴァー、あなたはどう思う?」




 エヴァーは静かに頷き、その暗い瞳でリリィを見つめた。彼もまた言葉を話せないが、その目は全てを理解しているようだった。




「次は南側の居住区についてです。モグラやシャドウ、スケルトン、ドライアド、グールたちが畑の近くに住むことになりますが、問題はありませんか?」とバルドが問いかけた。




「南側は畑が豊富で、彼らが居住するには最適な場所です。特にスケルトンやグールは不死なので、昼夜問わず畑の管理を任せることができます。また、ドライアドの加護やフィールドモグラたちが土地を豊かにし、作物を多く収穫する手助けをしてくれるでしょう」とロゼッタが補足した。




「了解したの」とリリィは言った。「それでは北側のスライムたちの居住区について話しましょう。ゴミ捨て場が彼らの居住地となるわけですが、何か問題はありますか?」




「スライムたちはゴミを処理するのが得意ですから、北側は理想的な場所です」とバルドが答えた。「ゴットスライムのルークも同意しているようだ。」




「中央区についてはドラゴンやスパイダーが住むことになりますが、彼らが最も力を発揮できる場所です」とシャドーが言った。「ボーンズ、あなたも中央区にいることが多いでしょうが、他の魔物たちとの共存について意見はありんすか?」




 ボーンズはまた頷き、その巨大な体で周囲を見渡した。彼の存在は中央区の魔物たちにとって大きな安心感をもたらしていた。




「最後に、ダンジョン5階の我々五星の居住区についてなの!」とリリィが言った。「この場所は我々の訓練と生活に最適化されており、リディア様の指示通りに整備を進めているの!」




「五星の皆が協力してくれているおかげで、全てが順調に進んでいます。」とシャドーが微笑んだ。




「ええ、みんなのおかげなの!」とリリィは満足げに言った。「これからも力を合わせて、私たちの居住区を発展させるの!」




 その言葉に五星たちは一斉に頷いた。彼らはリディアを心から信頼し、その指示に従って自分たちの役割を全うしていた。今日もまた、彼らの連携と努力によって、リディアのダンジョンは一歩一歩と理想の形へと近づいていくのだった。

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