頑張れない

丸膝玲吾

第1話

 頭の中で音楽が鳴り響いている。音楽を聞く誘惑に打ち勝つことができずにBOSEのヘッドフォンをつけた。

 私は勉強をしなければならない。私を育ててくれている親に、優しい親に、自分のしたいことがあるにも関わらずそれを我慢して自分たちを育ててくれている親に報いるために、私は勉強しなければならない。

 私はYouTubeを開いた。私は最低だ。

 私は音楽を聴いている。私は最低だ。

 私は小説を書いている。私は最低だ......

 親の写真が送られてきた。親は少し見ない間に老けていた。彼らは今、自分たちのしたいことは何か、と模索している。自分たちがやりたいことをやるのだと私たち子供に伝えていた。

 私はまだまだ扶養が必要そうである。彼らに学生がいる限り、私たちが自立した社会人でない限り、彼らは自分たちの人生を生きられない。私は彼らの重枷となっている。

 かといって私は自死を選ぶつもりもない。そんな気持ち毛頭もないそれは親に対する最大の親不孝だし何よりまだ生きたいからだ。前者の気持ちが強くあってほしいと思うが、残念ながら私の気持ちの大部分は後者だ。私はどこまでも身勝手なのだ。

 早く自立しなければならない。もっと勉強をして大学を卒業しなければならない。姉は就職を失敗したから親は彼女の世話をしなければならない。私が枷となっている場合ではない。

 親は私が単位を落とすのを見て「でも頑張っているだよね」と聞いて私は「うん」と答える。嘘である。

 私はYouTubeを見ている。小説を書いている。小説を読んでいる。NetFlixを見ている。マッチングアプリをしている。SNSを眺めている。妄想している。私は嘘をついている。

 私は嘘をついている。

 私は頑張れない。私は頑張るという言葉を盾にしてあたかも自分がそういった症状、病に陥っているかのような表現をしている。実際はただただ怠惰なだけだ。快楽に溺れてマスターベーションを繰り返すような、猿なだけだ。

 本当にごめんなさい、と思う。ここから脱しないと、と思う。

 親はいずれ死ぬ。私は一刻も早くこの状況を脱しないといけないのだ。

 彼らが幸福であることを願う。そのためには、私は一刻も早く大学を卒業し、かつ幸福でなければならないのだ。

 親がもし今日死んだら。

 私は嘘でもそんなことを書きたくない。何故ならそれを文字に、文章に落とし込むことでそれが事実になってしまう気がするから。何よりこの行為は全て私のためであって、私ために虚構であっても親を亡き者にしていいのかと思うのである。

 しかし、考える。

 両親は今日日光へ出かけている。もし、彼らが事故にあったら。事故にあったらどうしよう。突然心臓発作でも起こって彼らが倒れたらどうしよう。

 無限の落下。坂口安吾が行ったように、無限の落下の感覚。地面がなくなり、光の一才届かない暗闇へと無限に落下していく。体内が空になり、網膜には何も映らない。耳は音をとらえず腕に触るものは透明な空気ばかり。そんな感覚。

 死なないでほしい。まだ何も返せていない。

 私は今までLINEの返信がそっけなさすぎたように思える。もっと丁寧に返信していきたい。

 

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頑張れない 丸膝玲吾 @najuna

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