第39話 あたいの押しのレイユたん

「ふっふふーん、ふっふふーん、レイユたん♪ メロディーはこんな感じでいいかな」


「フォイーン様」

「ん? 何? バラク。今ちょっといい所で忙しいんだけど」


「宿題は終わりましたか? そろそろ――」

「はい、はーい。パパがそう言っているんでしょ? 大丈夫だから心配しないで」


「今までのことを考えたら、その言葉は信用できません。忙しいかもしれませんが、先に宿題をやってください」

「イヤだ、イヤだ、イヤだ! 宿題なんてやりたくなーい!」


「言うことを聞いてくだ――」

「宿題、宿題って。そんなにうるさく言うなら、また出ていってやる!」


「家を飛び出して捕まり、人間にいいようにされたのは、どこのどなたでしょうか?」

「……」


「まったくこれだから。ちゃんと大人の言うことを聞くんですよ。トラブルに巻き込まれますから」

「ねぇ、ところでバラク」


「何でしょうか?」

「あたいが頼んだ、レイユたん人形。出来上がった?」


「はい。配下の者に作らせました。木彫りでいいんですよね? これです」

「どーれ――、えーーっ! これ全然似てないじゃない!」


「これでも精一杯努力したみたいで……」

「納得いかなーーい!」


「はぁ」

「あっ、そうだ! バラク」


「はい、何でしょ?」

「周りに人形作る専門のヤツいないのよね? だったら人形を作れる人間を捕まえて作らせればいいじゃない♪」


「それなら、人形とはいわず、そのレイユとやらを捕まえてくればいいのでは?」

「レイユたんはあたいの押し! 押しなの! ここに連れてきたらパパが何するかわからないでしょ?」


「まあ、そうですね」

「パパが間違って殺しちゃったりしたら――そんなのイヤ!」


「わかりました。そのような人間を何とか探してきます。フォイーン様、宿題をちゃんとやるのですよ」

「あっ、バラク。ついでにレイユたん団扇うちわと、レイユたんタオルを作れる人間も連れてきて」


「はぁ……。それはまた後で考えます。フォイーン様、では人形を作れる人間を探してきます」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「旦那、ここから逃げてください。あのバケモノやばいって勘が言ってます」

「ロサル……、痺れて逃げられない」


 どうやらロサルは麻痺していないようだ。悪魔はゼヘトさんを睨みつけていた。


「ひー!」

「お前、人形作れるか?」

「わ、は、い、どうか命だけは取らないでください」

「言うことを聞けば殺しはせぬ。我が同胞、フォイーン様の為に働け」

「は、は、は、い!」


 ゼヘトさんは悪魔に怯え、腰を抜かしていた。


「レイユ君、どうしよう」

「レイユ様――」


「ん? レイユ?」


 テレーザとミムの声に反応して悪魔がこちらを見る。


「お前、レイユという者を知っているのか?」

「僕がレイユです」


 ミム達が答える前に、僕は悪魔にそう言う。


「そうか――、#$%&#$%&#$%&これはフォイーン様にいい土産が持って帰れるかもしれん

「おい、悪魔! 旦那に手を出すんじゃねぇ! あっしが相手だ!」

「お前黙ってろ」

「ふっ、知るか!」


 ロサルは毅然と悪魔と対峙していた。悪魔はロサルを無視して僕に言う。


「レイユとやら、頼みがある」


(何だ、悪魔が僕に頼むって、魂を奪う気か)


「お前の私物を貰いたい。例えばその服とか」


(はっ?)


「旦那の服が欲しいだぁ?」

「ん? レイユの服が欲しいと言っているのだが」


 ロサルは顎に手をやり、何かを考えている様だ。そして悪魔に言う。


「旦那――いや、彼の服を渡せば、あっしらを殺さないでくれるのか?」

「そうだな」


 ロサルは僕を見る。


「悪魔に旦那の服をあげていいですか? それがここで打てる最善手だと思いまっせ」

「わかった。でも体が思うように動かないんだ」

「別に今着ているヤツじゃなくてもいいでしょ?」


 ロサルがそう言うと、悪魔は言った。


「着ている服がいい。お前脱がすの手伝え」

「いや、旦那には触れさせたくない。それならあっしが一人でやる」


 ロサルは僕の傍に来る。メディサは悪魔に威嚇をしていた。


「どうします? 上の服だけでいいですよね?」

「動けないから、それで」

「わっかりやした」


 ロサルが僕の服を脱がしていく。ちなみに悪魔は逃げられないようゼヘトさんを縛っていた。


「旦那、右腕上がります?」

「ちょっと無理かも」


 ロサルは僕の服を脱がし終え、畳んで工房の机に置いた。


「あくまさーん。ここのテーブルに服を置いたんで、よろしく」

「ん? どこだ?」

「ここ、ここ」


 悪魔は机の所へ行き、僕の服を手に取る。


「では、これにて失礼する」


 悪魔はゼヘトさんの首根っこを掴むと、空間が割け、その中へと入っていった。


(あの悪魔、何だったんだろ?)


「レイユ様」


 僕はミムの声に耳を傾ける。


「あの悪魔。確かフォイーンって言ってましたよね?」

「あっ、確かにフォイーンって言ってた」


(ああ、あの子か)


 どうやらあの悪魔はフォイーンと繋がりがありそうだ。そう、ヤツはもしかするとあの恐ろしい六魔将の手下なのかもしれない。


「旦那、フォイーンって、確かあの六魔将の――」

「うん、そう。六魔将の娘」

「そうでっか。六魔将にあの悪魔、きっとフォイーンって子もすごい姿をしているんでしょうね」

「えっ。ロサルはフォイーンを見てないの?」

「ん? 旦那はどこかで見たことあるんですか?」

「うん、城でフォイーンと会った。あっ! ロサル、入院中じゃん」

「ほう、あっしの入院中に会ったと。どんな感じの子でした?」

「黒く長い綺麗な髪だった。あとロサルが好きそうな大きな胸だった」

「おっ! 旦那、それなら早く言ってくださいよ。ボインちゃんでしょ? ボイーン、ボイーンってか」


(ん? ボインって何だ? ああ、サインの代わりに親指の指紋を押し付けるやつか)


「ロサロサ動けるなら助けて」

「姐さん、どうすればいいんですか?」

「麻痺を治す薬を買ってきてよ」


「テレトワ、それならアイテムバックの中にあるはず」


「そうなの?」

「じゃあ、姐御、アイテムバック借りますね」


 ロサルがミムに近づき、ミムは警戒していた。きっとミムは何かされたら嫌だと思っているのだろう。


シャーー!


「メディサちゃん、大丈夫だよぅ。姐御に変なことしないから、噛みつかないでね」


 ロサルはアイテムバックから回復薬を取り出し、僕達に飲ませてくれた。僕は麻痺が治って一安心する。


「そういえばロサルは麻痺しなかったんだね」


 僕がそう言うとロサルは首を傾げた後、自分の足を見た。


「あー! 針が刺さっているじゃん。これが麻痺の原因ですかね? ラッキー、エッチな店のゴールドパス、ここに入れておいて良かった。ツイテるぅ♪」


(なるほど、ゴールドパスが針を止めたのね。パス通過だけど止めたと)


 この後、僕らは工房を見て回り、ケアツァ石がないかどうか探した。それらしい石を見つけては鉱物大全と照らし合わせ、どうにかケアツァ石を見つけることができた。


(よし! ミッションクリア)


 ふとミムを見ると、ミムは人形にされてしまった奴隷の人を悲し気に見ていた。


「ミム、大丈夫?」

「いえ、ちょっと」


 ミムは僕の奴隷だった。誰に買われるかでこの人みたいな不運に見舞われるかもしれない。他人事ひとごとではなく思う所があるのだろう。


「レイユ様の魔法でこの人を助けることはできますか?」

「わからないけど、たぶん厳しい」

「そうですよね」

「あっ、そうだ。もしかしたら姉さんなら、薬を作って助けることができるかもしれない」

「本当ですか?」

「研究大好きだから、喰いつく可能性はある。この状況を伝えるために少し周りを調べてみよう」


 僕はこの状況を事細かく紙に書く。これを姉に送れば助けられるかもしれない。そんな淡い期待を込めて、その紙をケアツァ石と共にツインボックスに入れた。

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