第37話 護衛任務にて

 馬車護衛の依頼を受けた翌日。僕らは指定された場所に行くと、そこには一台の馬車があり、荷台にはユルがいた。ユルは荷物から目を離すと僕達に気づき、声をかけてきた。


「レイユさん。今日はよろしくお願いします」

「おはよう。ユル、あれから元気だった?」

「はい、お陰様で。後遺症も無く、この通り元気に働けています」

「そうか、それなら良かった。今日、ポルコさんは?」

「父は別の仕事があり、来ません」

「じゃあ、これはユルが担当なんだ」

「はい。あっ、そうだ。一緒に護衛をしてくれる人を紹介しますね」


 ユルはガタイの良い男の所へ行き声をかける。するとその男が僕らを見て、こちらにやってきた。


「お前さん方が追加の助っ人か?」

「はい、レイユといいます」

「オレはアーサーだ。師匠って呼んでくれ。先生でもいいぞ」


「大将じゃないですか? こんな所で何しているんですか?」

「何だエロ侍がいるのか――お前も馬車を護衛するのか?」

「そうでっせ」


「ロサル知り合い?」


「知り合いも何も、王都ギルドのAランクパーティーのメンバーですよ」

「元な、元。そのAランクのパーティーからは追放された」

「またまたぁ、大将そんなこと言っちゃって。冗談でしょ?」

「いや。本当だ」

「はっ? アイツら切れ者の大将を追い出すなんて馬鹿なんですかね」

「知らん。ところで残りのメンバーは?」


 アーサーさんにそう言われ、僕はテレーザとミムを紹介した。


「あっ、すみません。彼女はテレーザって言います。雷の魔法が使えます」

「お師匠さん。よろしくお願いします!」

「おう、よろしく」


「それで、このダークエルフの彼女はミムと言います」

「よろしくお願いします」

「おう。槍使いか」

「はい」


 僕がミムを紹介しているとユルが驚いた声を上げた。


「えっ? ミム? ひょっとしてミムさん?」

「ああ、ユルは知らなかったね。実はミム、ダークエルフだったんだよ」

「そうなんですね。驚きました」


 一通り自己紹介が終わり、馬車に乗り込み出発。目的地はデトニアだ。


 ◇


「ユル、この仕事どう?」

「そうですね――アイテムバックを使わせてもらえれば少しは楽になるのでしょうけど、父が許してくれなくて」

「そうなんだ」

「はい。『アイテムバックを使いたくても値段が高すぎて使えない同業者がいる。その人達の立場も考えながら商売の基本を覚えなさい』と」


(そうかぁ、大変だなぁ……。あっ、そうだ)


 僕は姉から連絡が来ていないか確認するため、ツインボックスを開ける。


(ケアツァ石を追加か――ケアツァ石って売っているのかな?)


「うーん」

「レイユさん、どうしたんですか?」

「姉さんから、連絡が来てね。ケアツァ石を送らないといけないんだ」

「ケアツァ石ですか。うちでは取り扱っていないですね。ケアツァ石ならデトニアの店に売っているかもしれません」

「ホント!」

「はい。あのレイユさん、その箱は?」

「ああ、これ。姉さんが作ったアイテムなんだ。一対になっていて、中に物を入れるともう片方に転送されるんだよ」

「それって凄いですね。商品の輸送をしなくても物を転送できるなんて」

「言われてみればそうか。これがあれば馬車を用意しなくて済むかも」

「レイユさん、そのお姉さんに会えませんかね」

「うーん、一応言ってみるよ。連絡先教えておく?」

「はい、お願いします」

「わかった」

「あっ。レイユさん、何か必要な物があったら、そのアイテムを使って送りましょうか?」

「それはありがたい。でもお金は?」

「高価な物でなければ、父と相談しますよ。勉強させてもらいます」


 ◇


「今日の行程のちょうど半分過ぎた所ですね」


 ユルが僕にそう言い、馬車の旅は順調――と言いたいところだが、やはり魔獣が現れる。


「右斜め前方にワータイガーが複数体。エロ侍とミムっちは行ってくれ」

「師匠、僕は?」

「すこし後ろで前衛の援護だ。オレはテレっちと馬車を守る」

「わかりました」


 僕はミムとロサルと共にワータイガーを倒しに行く。最初にファイヤーアローで先制攻撃。ロサルがヘイトを買いながら戦い、ミムは縦横無尽に敵をなぎ倒す。三人で連携してワータイガー達を殲滅した。


「ふー。旦那がいると楽勝っすね」

「そんなことないよ」

「いえ。援護射撃でワータイガーが混乱していましたから」


 僕たちが馬車に戻ると、師匠は馬車から降りてミムに声をかけた。


「ミムっち、ちょっと」

「はい」


 ミムが師匠のところに行く。


「槍貸してみ」

「はい」


 ミムは師匠に槍を預ける。


「身体能力任せで、槍の使い方が雑だ。こうねじって筋肉にかかる負荷を分散させるんだ。こんな感じ」


 ミムは師匠の動きをよく観察していた。


「やってみ。ほれ」


 師匠から槍を受け取ったミムは、師匠の真似をして槍の使い方を確認。


「先生、どうですか?」

「そうそう、そんな感じ。今日の宿で、型を練習しようか」

「はい、先生」


 一日目の行程は無事に終了。夜、ミムが型を練習している間、僕は師匠に剣を習うことにした。


「師匠、どうですか?」

「悪くないね」


 師匠は頭の後ろを掻き、


「たぶんオレのやり方を教えても、お前には合わないと思う。脇を締めた方がいいヤツと、そうじゃないヤツがいるからな。まあ何回も振ってみろ、気になったところを指摘する」

「わかりました」


 僕は師匠の近くで剣を振る。テレーザは見学。師匠は僕とミムを観察していた。ちなみにロサルはこの場にいない。メディサと一緒に馬車の荷物番をしている。


「よし。二人とも今日はここまでにしよう」


 ◆


「旦那、時間になったら来てくださいね」


 僕は馬車にいるロサルの様子を見に行くと、ロサルから荷物番の交代のことについて言われた。


「うん。そういえばロサル、部屋とっていなかったよね? どうするの?」

「あっしは旦那が来たら、ここで寝ます」

「そうなの?」

「夜は叫んでも人が来ませんからね。何かあったら起こしてください」

「わかった。じゃあ、仮眠をしてくるね」


 そして僕は宿の部屋へ行き、早めに就寝した。


 ◇◇


「おい、レイユ、時間だ」


 師匠の声が聞こえ、眠りから覚める。自分で起きられなかった。体を起こすが、まだ頭がぼーっとしている。


「ありがとうごさいます」

「エロ侍が待っている。先に行っているぞ」


 着替えをして、持ち物を確認する。忘れ物が無いか調べ、亜空間魔法で荷物を入れた。


 ◇


「旦那、お疲れっす」

「お疲れ様。状況は?」

「異常なし! じゃあ、あっしは寝ますわ」

「うん、休んで。おやすみ」


 馬車の荷台でロサルは横になる。僕は師匠と共に外で見張りをした。


「ユルから聞いたんですけど、師匠って、アベル王子とパーティーを組んでいたんですよね?」

「ああ、間違いない、その通りだ」

「師匠は王子とはどうやって知り合ったんですか?」

「前のパーティーを追放されてね。マチルダさん――ギルドの人とそのことを話していたら、成り行きで組むことになった」

「そうなんですね」

「全部マチルダさんのせいだよ。王子が死んだとなれば、大変なことだからな。マジでプレッシャー半端なかったよ」

「そうなんですね。アベル王子と組んでいたら他のパーティーメンバーもプレッシャーがかかっていたんでしょうね」

「うーん、どうだろ? 天然のヤツは王子だって気づいていなかったし、エルフの王子とその幼馴染は普通にしていたからな」

「えっ。エルフの王子とも組んでいたんですか?」

「ああ。ホントまいっちゃうよ。エルフの王子が死んだら、それこそ国が滅びる」

「うわぁ。大変だったんですね」

「五人中、王子二人だぜ。ある意味引きが強い」

「エルフの王子とはどうやって知り合ったんですか?」

「捕まっていたんだよ。奴隷会館で幼馴染と一緒に」

「えっ!」

「たまたま、天然のヤツが豪運でな。富くじ当てて、買うことができたんだよ。買うって言ったら失礼か」

「そんなことがあったんですね」

「まあ、王子は速攻奴隷解放したけどな」

「幼馴染の方は?」

「とりあえず王子の奴隷として契約した。奴隷を主人から奪うことは法に引っかかるからな。王子が彼女を守る力をつけたら解放するという感じだ」

「いろいろ考えないといけないんですね。エルフへの配慮も含めて」

「そうだな。エルフもそうだが、魔族を奴隷にしたときはヒヤヒヤしたよ」

「えっ! 魔族もですか?」

「天然のヤツが買いたいって言ってな。六魔将に引き渡すことができて、国が助かった。結果的にアイツの超ファインプレー」

「六魔将? ひょっとして、その魔族はフォイーンって名前ですか?」

「そうだ。よく知っているな」

「僕ら、六魔将と遭っているんですよ。娘のフォイーンを知らないかって、物凄い圧でしたよ。戦ったら十中八九この世にいないと思います」

「はあ? お前、六魔将と遭ったの? オレ、アベルの話を聞いてビビッたんだけど」

「師匠は遭っていないんですか?」

「アベルが仲介したからな。オレはアベルに彼女を引き渡して終わり。そこから先は王家に任せた」

「そうなんですね」

「ホント、奇妙な縁だな」


 このあとも僕は師匠と話し合い、師匠の冒険者として死線を潜り抜け経験したこと。楽しかった思い出や辛かったことなど、たくさんの興味深い話を聞きながら、馬車の傍で夜明けを迎えた。

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