第三章 妖精の指輪

第36話 錬金術師イリシア

(ようやく着いたな)


 僕はバルサード家の庭先にある門を見て、実家に帰ってきた実感が湧いた。父は何と言うのだろう。王都にいるときに連絡したとはいえ、きっと怒られるだろうな。そう思いながら、玄関の扉を開けた。


「ただいま~!」


 玄関に入ると兄が現れて、僕達を見る。


「おかえり。おっ、テレーザにミムちゃん、こんにちは。馬鹿レイユ、お前どこ行ってたんだ? みんな心配していたんだぞ」

「ごめん兄さん」

「まあ、いいや。親父が書斎にいるから、挨拶してこい」

「わかった。姉さんは?」

「相変わらずだよ。何かロストテクノロジーに興味を持ったみたいだぞ」

「ふーん。そうなんだ」

「まあ、時間を見て挨拶してこい」

「わかった、ありがとう兄さん」


 父のいる書斎へ向かう途中、何やらブツブツと言っている姉に出会う。


――ブツブツブツトカゲは手に入るんだけど、賢い蛇は難しいのよね……」


(賢い蛇? メディサがそうだよな)


「姉さん、ただいま」

「あっ、レイユ。帰ってきたのね」

「ごめん心配かけて」

「大丈夫よ。研究に没頭していて、そんなところじゃなかったから。それよりレイユ、どこかに賢い蛇がいるか知らない?」

「うーん。わからないな(絶対に言わない)」

「そう――じゃあ、見かけたら捕まえておいてね。実験に使うから」


 ◇◆◇◆


ぶるぶるぶる


「ん? メディサちゃんどうした? 寒いなら、あっしの懐に入るか?」


 ◇◆◇◆


「わかったよ、姉さん」


 姉と会話をした後、僕は書斎へ向かう。


コンコンコン


「父さん、レイユです」

「レイユか――入れ」


 書斎に入り、久しぶりに父に会う。父の表情は真剣な顔をしていた。


「どこをほっつき歩いていたんだ、レイユ」

「ごめん。隣のザビンツ帝国に行っていた」

「そうか――まあ、いい。無事で何よりだ」

「うん。あっ、父さん。借りていたお金、全部じゃないけど返すね」


 僕は亜空間魔法でお金を取り出し、父に渡す。


「これじゃ、全然足りんな」


 父からそう言われ「やっぱりそうだよな」と思っていると、父は溜息をついて言った。


「実は困ったことがあってな。イリシアにルルミア王立研究所から研究員のスカウトの手紙が来たんだよ」

「えっ、姉さんに?」

「そうだ。イリシアにはルルミア王国へ行って欲しくないのだが」


(父さん。やっぱり姉さんが大好きなのね)


「『錬金術の素材が集められれば、どこで研究してもいい』とイリシアは言っていてな。どうにか研究に必要な素材をかき集めることができれば――。なあ、レイユ。レイユに頼みがある」

「素材を集めてきてくれってことでしょ? いいよ」

「そうか! それじゃ、イリシアを呼んできてくれ」


 ◇


「イリシア、レイユ、来たか」


 僕は姉を呼んできた。二人とも父の前に立つ。


「イリシア。レイユが世界中を旅して、錬金術に必要な素材を集めてくれるそうだ」


(えっ! 世界中? 素材を探す旅に出るってこと?)


「レイユ! それホント?」


 僕は苦笑いしながら答える。


「まあ、そんなところ」

「やったー! 欲しい素材、たくさんあるのよね。じゃ、レイユここで待っていて」


 姉は部屋を出る。きっと欲しい素材のリストを持ってくるのだろう。しばらく待つと姉が戻ってきた。


「じゃーん!」


 姉が箱を二つ取り出す。


「何これ?」

「これ? これ自信作。ツインボックスって名付けたんだけど、見て」


 姉は箱の中身が無いことを僕に見せて一つの箱の蓋を閉め、書斎にあったペンを蓋の開いている方の箱に入れた。


「ほい」


 姉がペンの入れた箱の蓋を閉めると、今度はもう一つの箱の蓋を開ける。


(ペンが移動している!)


「これね。片方にアイテムを入れると、もう片方へ転送されるの。この箱片方あげるから、素材が手に入ったらここに入れてちょうだい」

「なるほど」

「その都度、欲しい素材を書いた紙を入れるから、毎日一度はチェックしてね」

「わかった」

「それと中には生きているヤツは入れないでね」


(生きているヤツは実験が上手くいかなかったのね)


 姉はご機嫌で部屋を出ていく。僕は疑問に思っていたことを父に話した。


「父さん、学園はどうすればいい?」

「まあ、学園はどうとでもなるだろう。それよりもイリシアだ」


(優先順位は姉さんの方が上なのね)


「そうだ、レイユ。そろそろトワールが来る時間だ」


 どうやら父は僕とテレーザが戻ってくることを知って、トワール子爵に来るよう連絡した様だ。


 ◇


 テレーザにも声をかけて、応接室へ行く。トワール子爵はもう既に応接室に通されていて、僕達を待っていた。僕とテレーザの婚約についての話し合い。僕が今回あったカインの策謀のことを話し終えると、父が口を開いた。


「トワールよ」

「はい、バルサード伯爵」

「テレーザ嬢は息子の後を追いかけて行ったそうじゃないか。なかなかそこまで出来るヤツはいない。また、レイユと婚約を結んでもらえるか?」

「はい! もちろんです。いいよな? テレーザ」


 テレーザは嬉しそうな笑みを浮かべる。婚約についての話し合いの後、父はテレーザに「今晩は泊っていきなさい」と明るく言い、それを受けてトワール子爵はテレーザを残して帰っていった。


 僕は一週間、実家に滞在する。テレーザも一緒だ。その間に素材集めの旅の準備を整え、僕はミムとテレーザと共に王都へと向かった。


 ◇


「王都にとうちゃーーく! レイユ君、ロサロサに会いに行く?」

「そうだね。たぶんギルドの簡易宿泊所にいるんじゃないかな?」

「そうだよね」


「レイユ様、行きましょう」


 王都に着き、早速ギルドへ向かう。


「馬車の警護の依頼があるといいんだけど」

「ん? レイユ君何で?」

「素材集めでいろいろな所を旅するでしょ? 警護しつつ移動できたらいいかなって」

「おお! グッドアイディア! レイユ君流石!」


「レイユ様。まさかエロ猿を連れていくつもりですか? 警護ならあたし一人で大丈夫です」

「うーん、どうしようかな。ロサルを連れていかなくても、メディサを連れていきたいかな」

「じゃああたし、エロ猿をぶっ倒してメディサを奪います」


 そんな話をしているうちにギルドに到着。中へ入り、早速ロサルを探してみるがロサルは見当たらない。


(いないか)


「ロサロサどこにいるかな?」

「見当たらないから、クエストボードを見に行かない?」


 僕は気になるクエストがないか確かめるため、クエストボードを見に行く。三人でクエストボードを見ていると、見覚えのある名前、知り合いのクエスト依頼があった。


(ポルコさん?)


「ミム」

「何ですか?」

「この依頼、ポルコさんだよね?」


 僕が指を差すと、ミムはそれをじっと見て、


「あっ、ユル君の名前もある」


 内容を見ると、デトニアまでの馬車の護衛をする追加メンバーの募集だった。僕はこれは何かの縁だと思い、二人に言う。


「ミム、テレトワ、このクエスト受けない?」


「あっ、旦那じゃないですか」


 声がしたので振り向くと、笑顔のロサルがやってきた。メディサはロサルの肩に乗っている。


「やっと来ましたか。待ちわびてましたよ」

「ごめんごめん。実家でゆっくりしてた」

「これからどうします? メシでも食べに行きますか? 何ならクエストでもいいでっせ」

「うん。それなんだけど、また旅に出ようと思っているんだ」

「おっ! いいですね。どこへ行くんですか?」

「素材集めの旅だから、いろいろな場所を見て回ろうと思っている」

「素材集め?」

「姉さんが錬金術師でさ。錬金術で必要な素材を集めてほしいって、父さんに頼まれたんだよ」

「そうでっか。それじゃ、旦那達は世界中を見て回るんですかね?」

「たぶんそうなる」

「それじゃ、あっしもついて行きますよ。まだ恩返しができていませんし」


「レイユ様、このクエスト受けるんですよね? あたしはOKです」


 ロサルと話をしていると、ミムが割り込んできた。


「うちもOK!」

「じゃあ、決まりだね。ミム、ロサルも一緒にいいかな?」


 ミムは渋い顔をしている。


「姐御。そんな顔しないでくださいな。旦那も言っていることですし、お願いしますよ」


 ミムは僕の顔を見て、諦めたように呟く。


「わかりました。クエストを受けに、受付へ行きますね」


 ミムはクエストボードにあったクエスト依頼の紙を持って受付へ行った。


 ◇


「ご用件は何でしょうか?」

「この追加メンバー募集の依頼を受けに来ました」

「そうなんですね。拝見いたします――馬車の護衛ですね。では、この紙にある必要事項を書いてください」


 ◇


「確認いたします――、えーっとミムさんですかね? このジョブの欄を書き忘れていますよ」

「あっ、すみません。書き忘れていました」

「ではこちらで記入いたしますね。ミムさんのジョブは何ですか?」


「あたしはランサー槍騎兵です」

「そうですか。レイユさんのジョブは?」


魔法剣士ウィザードソードマンでお願いします」

「わかりました。では、テレーザさんは?」


「魔法使いです」

「了解しました。ロサルさんは――」


「はい。変態です」

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