第31話 怒髪衝天

「えっ。旦那って貴族だったんですか?」

「あれ? 知らなかったの? テレトワもそうだよ。あとミムも元貴族」

「はっ? それマジで言っているんですか?」

「うん。マジ」

「あっし、とんでもない人とパーティーを組んでいたんですね。漆黒の戦乙女に雷撃の天女。いやー、参りました」


「レイユ君、王都に着いたよ。うち、やっとセラフィーロに戻ってきたなって感じがする」

「よく知っているみやこだからね。僕もそう感じるよ」


 王都に着いてからすぐに、冒険者ギルドへと向かった。マチルダさんには大変お世話になったので顔を出し、戻ってきたことを伝えようと。


「いらっしゃいませ」


「おい、あのダークエルフって、もしかして」

「噂の漆黒の戦乙女か」

「えっ、そうなの?」

「じゃあ、隣にいるのが雷撃の天女なのか?」

「そうだろ。かわいいし、間違っていないと思うぞ」


(ミム達の二つ名は王都まで知れ渡っているのか)


 ギルドの中に入ると、早速ミム達が注目される。僕は自分の二つ名が知られていないことを願いつつ、受付へ行った。


「すみません」

「ん? おや、あんたかい」

「お久しぶりです。マチルダさん」

「久しぶり。元気だったかい?」

「はい、体調もバッチリです」

「おや? 隣のダークエルフは見たこと無いけど」

「ああ、彼女はミムです。訳があって人間の姿でいたんですよ」

「へぇー、そうかい。まあ、別嬪さんであることに変わりないね」


 ミムを見ると、嬉しそうな表情を浮かべていた。


「それで、今日は何の用だい?」

「特に何も。今日はセラフィーロに戻ってきたんで挨拶に来たんですよ」

「そうかい。じゃあ――」


 マチルダさんはそう言い、奥の棚から書類を手に取る。


「あんた、時間があるときに王城へ行っておくれ。これ、その書類」


 僕はその書類を受け取り、中身を見る。


(魔法学園除籍に関しての説明――理事長絡みかな)


「レイユ君、それ何?」

「学園における退学処分について何かあるみたい。担当者が王城にいるから、来いって」

「ふーん、そうなんだ。何で今さら」

「王城で説明するってことは、よっぽどなことなんだろうね。処分が取り消され、学園に戻れるかもしれない」

「あっ、うちはどうなっているんだろ? 除籍かな」

「たぶん休学扱いじゃないかな」


「旦那。用が済んだら宿屋を確保しに行きません?」

「そうだね。でも、これから僕王城へ行かないといけないから、宿屋の確保お願いできる?」

「そうでっか。わかりやしたぜ、旦那」


「あたしは警護でレイユ様と一緒に城へついて行きます」

「じゃあ、うちも行くからミムミムに警護してもらおう」


 ◇


 ロサルと別れ、僕はミム達を引き連れて王城に来た。入口にいる警備兵に用件を伝えしばらく待つと、城の中から騎士が現れ、僕達は応接室へ通された。


「ここでしばらくお待ちください。今、担当の者を呼んでまいります」


「うち、この部屋初めて入った」

「僕も」

「広いね」

「そうだね」


 紅茶を飲みながら、担当者を待つ。一時間ほど待つと担当者が現れ、そしてもう一人、


「えっ、陛下?」


「お待たせしました、レイユ殿。では、陛下はそちらにお座りください」


 ミム達を見ると、二人とも驚いて固まっている。


「早速ですが、今回のレイユ殿の除籍についての説明をいたします」


 担当者の話はこうだ。第二王子であるカイン王子が、部下に命じ、理事長に僕を退学にするよう指示をしたのだ。指名手配の件も王子の仕業。カイン王子の僕への嫌がらせが原因だと。


「説明は以上です。では、陛下から一言お願いします」


 僕が陛下を見ると、いつも見ている毅然とした陛下ではなく、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「レイユ、すまない。愚息がしでかしたことを父親として謝る」

「そんな、頭を下げないでください。僕は平気ですから」

「いや。個人的な嫌がらせで、一人の人生を変えてしまうことは重大ことだ」

「あの陛下。僕は退学になったお陰で、ミムを奴隷から救うことができたんです」

「ミム?」

「はい、ミム・リヴェール令嬢です。家の借金で奴隷になり、オークションで売られているところを買って救うことができたのです」

「そうか」

「それに指名手配の件も、ここにいるテレーザ・トワール令嬢と共に国外へ旅をして、いろいろな勉強が出来ましたから、もうカイン王子のことは気にしないでいただけると」

「わかった――、愚息は廃嫡した」

「えっ、カイン王子が廃嫡ですか?」



「陛下! 大変です!」


 国王陛下と話をしていると、一人の騎士が慌てて応接室に入ってきた。


「何事だ」

「はっ! また、六魔将と名乗る魔族が現れました。アベル殿下が対応しています」

「わかった、すぐ行こう。すまない、レイユ」


「六魔将……」


 陛下に続き、僕は応接室を出て六魔将のいるところへ行く。きっとあの時の魔族だ。現場に着くとアベル王子が六魔将と対峙していて、六魔将の傍には一人の少女がいた。きっとあの子がフォイーンなのだろう。


「来たか。人間の王よ」

「この間、そこの娘を返しただろう。何の用だ?」

「我が娘を嬲り、人間になる呪いをかけた男がどこにいるか知りたい」


 六魔将の怒りがひしひしと伝わる。その圧で僕は足を動かすことすらできなかった。


「人間にした――呪術師か。その男の特徴を知りたい」

「顔の目の上の部分に大きなアザがある男だ。娘を置いていく。その男が分かったら我に教えろ」


 陛下と六魔将のやりとりを見ていると、アベル王子の眉が動いたのが見えた。


「わかった。伝える方法は?」

「この使い魔を預ける。見つけたらこいつを寄越せ」


 そう六魔将が言うと、ふくろうのような使い魔が六魔将の頭上から姿を現し、陛下の足元へ行った。


「一週間だけ、待ってやろう。期限を過ぎたらわかるな?」

「わかっておる」


 六魔将は消え、娘とおぼしき少女は残る。張りつめた空気は消えたが、陛下とアベル王子は浮かない顔をしていた。


「アベル」

「はい」

「この件はお前に任せる」

「わかりました、陛下」

「頼んだぞ」

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