第12話 言葉にはしないけれども

(柔らかくて温かい)


 僕は目覚めると知らない天井があった。ああ。ポルコさんの家に泊まったのだと気づき、ベッドから起き上がる。


「むにゃむにゃ――れいゆくん、もうたべられない。むにゃむにゃ」

「――ゆさま……、あーん――むにゃむにゃ」


 二人ともまだ夢の中のようだ。


(やっぱり二人とも美人さんなんだよなぁ。あっ、よだれが垂れてる)


 二人の寝顔を見た後にテーブルの上にある水を見つけ、その水を飲んだ。それから部屋を出て、容態を診にユルのいる部屋へ行く。部屋の扉の前では、真剣な表情をしているポルコさんがいた。


「ポルコさん、おはようございます」

「おはよう。もしかして、ユルのことを診にきてくれたのかい?」

「はい。部屋の中に入っても――」

「どうぞどうぞ、さっ、中へ」


 ベッドの上ではユルがすやすやと眠っている。彼の顔色はだいぶ良くなって「これなら大丈夫だな」と思った。いちおう念のため、彼に手をかざしアクアヒールをかける。


「だいぶ良くなりましたね」

「ああ、一安心だよ。本当にありがとう」

「いえ。取りあえず一命を取りとめたみたいでよかったです」

「君がいなかったら、ユルがどうなったか――そうだ、報酬はギルドで受け取る形になる」

「わかりました。借りていたお金の分は報酬から引いてください」

「いや、そのまま受け取ってくれ。ユルの命は金には代えられん」


 そんなことをポルコさんと話していると、ユルが目覚めた。


「ユル!」

「父さん――もしかして、ボク生きている?」

「ああ、生きている。本当に心配したぞ。ユルがいなくなったら父さんも母さんもどんなに辛かったか」

「ごめん。ボク、もう学校がイヤで」

「ユル、学校から逃げてもいい。お前が騎士になって家を守ろうとしてくれたのは有難いが、俺は前から家業を継いでくれたらいいと思っている」


 どうやらユルは騎士学校へ行くのが辛かったみたいだ。授業、実技が辛かったのか、それとも人間関係的なものなのか。


「ポルコさん。彼は体が弱っているので、食事とポーションで回復させてください。最低でも三日間は安静でお願いします」

「わかった。本当にありがとう、そうさせてもらう」

「お昼前にはここを出てギルドへ行きますね」

「そんな慌てなくてもいいんだよ。是非ともゆっくりしていって」

「そうですか。じゃあ、ミム達と相談して決めますね」

「うむ」


 ◇


 ミムとテレーザが起きたあと、彼女達と一緒に朝食を摂る。クエストの話をするとポルコさんから「武具に使ってくれ」とお金を渡され、有難くいただくことにした。それからポルコさんの家を出発し、ギルドへと向かう途中、僕らは武器屋に寄る。


「テレトワはいいロッド見つけた?」

「うーん、まだ迷っている。レイユ君は?」

「僕はこの剣にしようと思う」

「えっ。ロッドじゃないの?」

「まあ、ロッドが無くても攻撃魔法は打てるからね。敵に間合いを詰められたときに剣の方がいいかなって」

「ふーん、そっかぁ」


「ミムは見つかった?」

「はい。この槍にします」

「じゃあ、あとは防具だね。多少高くなってもいいから良い防具を買おう」


 僕らは買い物をし終えたあと、ギルドへと向かう。ギルドの中に入るとマチルダさんと目が合い。マチルダさんに呼ばれた。


「あんた達、ちょっといい?」

「僕達ですか?」

「そうだよ。他に誰がいるのさ」


 受付に行くと、マチルダさんはポケットから取り出した紙を、僕らに見せてきた。


(指名手配?)


「今日は報酬の受け取りでよかったよね?」


 マチルダさんは紙に書いてある指名手配のことには触れずに、報酬のことを話し始めた。


「ギルドカードに入れるのと、銀貨で受け取るのはどっちにする?」


 そう言いながら、マチルダさんは用意していただろう銀貨を受付のテーブルの上に置いた。おそらく銀貨で持っていけという意味なのだろう。


「銀貨でお願いします」

「あいよ。じゃあ、これね」


 マチルダさんは銀貨の他にも麻袋を用意してくれていた。


「ありがとうございます」

「じゃあね。あたしはからね」


 マチルダさんはそう言って受付の奥へと行ってしまった。


(指名手配されているから、気をつけろってことか。銀貨で渡したのも足がつかないためか)


 そんなことを思っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「旦那」

「ロサル」

「今日はクエストでも受けに来たんですか?」

「最初はそのつもりだったけど、報酬が入ったし王都から出ようと思っている」

「そうですか――旦那。旦那さえよければ、あっしもついて行っていいですか? 囮の件もあってここに居づらいし、旦那に少しでも恩返しがしたいんですよ」


 急にそんなことを言われ、僕は思わずミムとテレーザを見る。


「レイユ様。あたしはこんなエロ猿は連れていかなくていいと思います」

「そんなこと言わないでくださいな、姐御あねご。ねえ、旦那?」


「テレトワはどう?」

「うーん。前衛ならいいかな……うちが後衛で、ミムミムが前衛でしょ? レイユ君が前衛から遊撃に回ってくれた方が、うちとしてはいいかな」


(なるほど。パーティーで考えるとバランスが良いのか)


「旦那。あっし、双剣でっせ。ぱぱぱーんっと、前で活躍できますよ!」


 僕は少し悩んだが、ミムを説得してロサルを連れていくことにした。


「ミム、彼を連れていこうと思う」

「……そうですか」

「その代わりに何か願い事があるなら言ってよ、力になるからさ」

「それなら、レイユ様の夜のお世話をした――」


「ちょっと、ちょっと! ミムミム。勝手に抜け駆けしないでよ!」


「旦那はモテモテですね。せっかくだから姐御に旦那のち××もうまくさばいてもらったらいいじゃないですか」


(やっぱり連れていくの、止めようかな)


 そんなこともありつつ結局のところ、僕らの旅にロサルも同行してもらうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る