ストーリーテラーは登場人物に含まれますか?

淡雪蓬

第1話

※この物語はフィクションです。

 登場人物及び施設等の名称は全て読者の世界の実在の事物とは関係がありません。

 物語の舞台は作家による架空の世界に実在する国であり、

 登場人物はその世界に実在する住民です。

 なお、登場人物の台詞の中に散見される誤字と誤用については、

 彼らの人間性を表現する一つの手段とみなし、あえて訂正しておりません。

 (ただし傍点あり)

 なにとぞ筆者の恥ずべき間違い、あるいは怠慢と誤解されませんよう、

 よろしくお願い致します。


 この国の名は、ホーリレニア。

地、炎、風、水と言う四つの力と、それぞれを支配する四人の女王が互いに協力し合って治めている神秘の連合国だ。

北に位置するのは《水の国》フルーレンシア。《水の女王》ルーテリアが統治する、水と氷に閉ざされた冬の象徴。

西に位置するのは、《風の国》ヒュアレー。《風の女王》フェリシアが統べる、爽やかな風に包まれた秋の象徴。

南に位置するのは、《炎の国》ヘイリオン。《炎の女王》メラネミアが君臨する、熱気に満ちた夏の象徴。

東に位置するのは、《地の国》グランビス。《地の女王》カリスペイアが守護する、花咲く春の象徴。

これら四ヶ国に取り囲まれた中心地には《不可侵の聖地》が設けられており、四女王は年に一度その地に会してその年一年の豊穣と平和を祈念する式典を開くのが常となっていた。

四女王の協調とそれによる繁栄を祝すその大祭 《ホーリレニア祭》が今年も間近に迫っていたある日、誰もが予期せぬ事件が起きた。《地の女王》カリスペイアが、何者かによって暗殺されたのである。残る三人の女王は、この凶報を受けるや否や即刻 《地の女王》の居城へ集い、この一件に関する議論の場を設けることに決めた。


 「それで、事件現場の詳細は?」

三人の女王とその三人の騎士が円卓に着いて顔を合わせると、まず《炎の女王》メラネミアがそう言って、証言の為に同席していた《地の国》の宰相を睨みつけた。哀れな老人は女王の鋭い眼差しに一層恐縮して肩をすぼめると、おどおどしながらぼそぼそと語り始めた。

「私が見付けた時、カリスペイア様はダイニングの床に倒れておられました。テーブルの上には、食べかけのお食事が残されたままになっておりましたが、カリスペイア様のお体に外傷は何処にも見当たりませんでした。女王陛下は右手にナイフを握り締められたまま俯せに伏せった状態で、その傍らには何やら見たことも無い、奇妙なくろがねの種のような物が一粒転がっていたと言う次第にございます」

この話を聞き終えると、渋い顔をした《水の騎士》ウォルトが「毒殺でしょうか?」と物騒な推理を披露して重苦しい沈黙を深めた。

「でも、どうしてカリスなの?カリスはいつも誰にでも優しくて、みんなカリスのことが大好きだったのに……」

悲しげにこう言って俯いたのは、《風の女王》フェリシアだ。今にも泣き出しそうな彼女を気遣って、隣に座った《風の騎士》アエルスが慰めるように肩を叩く。そんな彼の方も主につられて涙目になっている。

「カリスの側に落ちていたと言う謎の物体の正体も気掛かりですね」

再びウォルトが口を開いて、難しい顔で指摘する。

「それより、ジェネスはどこで何をやってるの?女王を守るのは騎士の役目でしょ?」

苛ついたようにメラネミアがそう叫ぶと、これまで沈黙を守ってきた《水の女王》ルーテリアが静かに言った。

「わたくし達女王と騎士の間には、誓約がある事をお忘れですか?騎士は女王に命を捧げ、女王は騎士に命を託しているのです。一方が倒れれば、必然的に他方も命を失う定めです」

メラネミアが心底不満げに「ふん」とそっぽを向いた隣で、「なんだ、じゃあアイツが犯人じゃねぇのかよ」とつまらなそうに《炎の騎士》フレインが溜め息を零した。

「とにかく、あたしはこの事件の犯人を必ず暴いて捕まえてやるわ!今からあんた達全員がカリス暗殺の容疑者よ!もう誰も信用なんて出来ないんだから!」

《炎の女王》はいきり立ってそう宣言すると、手始めに長年の宿敵にその矛先を向けた。

「《水の女王》ルーテリア!あんたはこんな時でもすまし顔の無表情でちっとも悲しそうじゃないわね?あんたが犯人なんじゃないの?カリスが治める《地の国》は連合国の中でも一番豊かで、やあんたの国にあるのは雪と氷だけ。カリスを殺してこの国を乗っ取ろうと企んだって何も不思議はないじゃない!」

この短絡的で無礼な発言を耳にして、すかさずウォルトが「とんだ言い掛かりです!」と机を叩いて立ち上がった。彼の隣に腰を落ち着けた《水の女王》は冷静に黙ったまま熱くなりかけた騎士を制すると、淡々とこう言葉を返した。

「カリス暗殺の目的がこの豊かな地への侵略なら、わたくしだけではなく他の女王にも同様の嫌疑が掛けられるでしょう。第一、犯人捜しを宣言すると同時に当然の如く自分を容疑者から除外しているあなたこそ、一番信用に欠けるのではないでしょうか?」

「うるさいわね!あたしが犯人のわけないから犯人を出してとっちめてやるって言ってるに決まってるでしょ?あんたバカなんじゃない?」

「本題に無関係な侮辱は聞き捨てなりません!今すぐ撤回していただきたい!」

「まぁそう熱くなんなよ、ウォルト。水だけにその内蒸発しちまうぜ?」

徐々にただの暴言合戦になっていく浅ましい光景を目の当たりにしながら、フェリシアは悲しそうにアエルスを振り返った。

「こんな風にみんなでけんかしてたってしかたないのに……。カリスがいたら、きっとみんなで仲良くしないとだめだって叱られちゃうよ……」

アエルスは「そうだよね」と言ってフェリシアの言葉に頷くと、「ちょっと注目!」と呼び掛けて乱闘中の炎と水の注意を引きつけた。

「メラが犯人を出したい気持ちは僕にもよくわかるよ。だけど、今はそのことでお互いを疑ったり、責めたりしていちゃだめだと思うんだ。カリスはいつだって、みんなが仲良くいられるように気を配ってた。だから、カリスのためにも、今は争いごとはなしにしようよ!」

普段はお調子者でお気楽な彼が放ったこの言葉は、瞬く間に荒れ狂った炎を吹き消し、怒濤を凪に変えて鎮めた。メラネミアはばつが悪そうな顔で目を逸らし、フレインは白けた表情で黙り込み、ルーテリアは心なしか安堵したように目を閉じ、ウォルトは行き過ぎた罵声を恥じて俯いた。こうして一同が再び静まり返ると、すっかり存在を忘れ去られていた《地の宰相》がもごもごと話し出した。

「皆様のお気持ちはよく解ります。ですが、我が《地の国》は、この一件で統治者である女王と守護者である騎士を一度に失ったのです。下手人を捕まえて罰する事も重要ではありますが、まずはこの国をどう立て直していくのかを真剣に議論しなければならないかと存じます。平和の祭典である《ホーリレニア祭》も近いことから、《地の国》の民は皆この晴れの舞台を心待ちにして胸を躍らせているのです。そんな彼らの無邪気な楽しみを、女王陛下崩御と言う陰鬱極まりない突然の悲報でもって台無しにしてしまいたくはないのです。その為にも、どうか皆様のお知恵とお力をお貸しいただけないでしょうか?」

悲愴感漂うしゃがれ声のスピーチに反論出来る者などいるはずもなく、一同は沈黙の内に彼の懇願を承諾した。紛糾した会合はここで一旦お開きになり、三人の女王と三人の騎士はそれぞれの長旅の疲れを癒す為に逗留先の部屋へと散っていった。


 こうして滞在先である城の一室に戻ってからも、《炎の女王》の心に点いた火は消えることなくくすぶり続けていた。

「あたしは絶対残りの女王か騎士の中に犯人がいると思う」

細い顎に手を添えて、ステレオタイプな探偵さながらに顔をしかめながら、メラネミアは言ってフレインの方を振り返った。

「オレとしては、実は全然関係なさそうな外部の人間のしわざってのもアリだと思ってるぜ」

フレインは自信たっぷりにそう答えると、自分の意見を否定されてむっとしている女王様にウインクして見せた。

「普通に考えたら女王か騎士でしょ?や国民の誰かがカリスの命を狙うなんてありえないわ!カリスは誰からも愛されて慕われていたんだもの!」

「ほんとに誰からも好かれてたんなら、こんな形で突然死ぬと思うか?オレ達が知らないだけで、カリスを思ってるヤツがどっかにいたんだよ」

「そんなヤツいない!」

「あいかわらず頑固だなぁ、お前。じゃあアレだ!ひそかにカリスを好きだったヤツがフラれて逆上したとか?この線はありそうじゃね?カリスは優しくて天然で放っておけないタイプのドジっ子だったから、実際かなり人気だったしな。オレだって一度くらいはあのでっかいおっぱいに―……」

余計な事を口走り始めたフレインの口が、光速で真横から飛んできた鉄拳によって強制的に閉じられる。メラネミアはさも汚い物を見るような冷たい目で彼を睨んだかと思うと、今度は一転して脱力したみたいな溜め息を吐いて項垂れた。

「……なんで……カリスなのよ……」

口をついて零れ出した心の声は、涙に震えていた。


 炎の一行がそんな一幕を演じていた頃、水の化身達は中庭に出ていた。《地の女王》がこよなく愛した庭園を埋め尽くす色とりどりの花々は、主亡き後も変わらぬ美しさを湛えて同じ場所に咲き誇っている。目にする度に心が洗われるようだと感嘆した究極の花園の景色が、今夜は切なく儚げに見えて仕方がない。

「《地の宰相》は、せめて《ホーリレニア祭》が無事に終わるまでは、カリスの死を隠蔽したい考えのようです」

「この国の民の気持ちを思えばこそのお考えでしょう。ですが、何事も永遠に隠し通すことなど不可能です。いずれ真実は皆に知られねばなりません」

ルーテリアは落ち着き払った態度でそう断言すると、健気に顔を上げている花の一つに顔を近付けた。ここに咲く花達がこうして元気に育ち、鮮やかな色彩で目を楽しませてくれるのは、隣国が供給してくれている清らかな水のおかげだと彼女は言った。《地の国》のような華も無く、《炎の国》のような活気も無く、《風の国》のような心地よさも無い、果てしなく凍てつく大地が荒涼と広がっているだけのルーテリアの故国を、決して馬鹿にしなかったのはカリスペイアだけだった。初めて彼女を《水の国》に招待した時、彼女は雪と氷に覆われた景色を眺めてとても綺麗だと笑ってくれた。まるで彼女自身が、見る者を笑顔に変える花のようだった。そんなカリスペイアを殺したいほど憎んでいた者がいたなんて、ルーテリアには俄かに信じられなかった。

「《ホーリレニア祭》には、カリスの代役を立てることになるでしょう。その後どうするのかは、僕にもまだ分かりません」

ウォルトが目を伏せながらそう言うと、ルーテリアは花から離れて姿勢を正した。

「カリスの代わりなど、果たしてこの世界に存在するのでしょうか?」

凛とした背中越しに響いた答えられない問い掛けに、ウォルトはただ静かに目を瞑った。


 二人の女王が本心を押し殺していたのとは対照的に、無邪気な風は自分の気持ちに正直だった。

「アエルス。カリスに会いに行こう」

フェリシアはそう言うなり勢いよく窓を開け放つと、風に乗ってふわりと外へ飛び出した。アエルスは彼女に続いて自分も風を巻き起こすと、二人揃って手を繋いで夜空の下を吹き抜けていった。

「さいしょうのおじいさんが、カリスは地下で眠ってるって言ってたんだ。きっとこの下だよ。ほんの少しだけど、カリスのお花の匂いがするんだ」

フェリシアはそう言いながらふわりと地面へ降り立つと、地下へと通じる通路の鍵を鋭い風の刃の一薙ぎで破壊した。

「こんな薄暗い所に閉じ込めるなんて、ひどいね」

錆び付いた門を押し開けながら、不服そうにアエルスが言う。

「お葬式ができるようになるまで、ここに隠しておくつもりだったんじゃないのかな?」

フェリシアは言うと、目の前に口を開けた真っ黒な道を見て、少し怯んだ。侵入するのは簡単だったが、肝心の灯りが手元に無い。

「メラに火を借りてくればよかったね」

暗闇を怖がって怖気づいたフェリシアの手をしっかりと握って、アエルスはゆっくりと一歩を踏み出した。このまま下へ降りて行っても、何が待っているのかは分からない。本当に《地の女王》が眠っていたとしても、これでは暗くて何も見えないかも知れない。それでも、彼はこの冒険を諦めなかった。フェリシアも逃げようとはしなかった。ただ懐かしい友人の姿を一目見る為だけに、二人は死者が眠る闇の奥を目指して大地の下へと下っていった。


 炎、水、風、三者三様の一夜が明けた翌日の朝、一同は再び前日と同じ部屋で同じ座席に腰を下ろした。仕切りたがりの《炎の女王》が場を牛耳ると話が脱線する恐れがあるので、今回は中立な《地の宰相》が司会進行役を務めることになった。

「それではまず、本日の議題について私から説明させていただきます。今日皆様と話し合いたいと存じております事柄は、次の二点になります。第一に、女王亡き後のこの国の統治についてです。そして第二に、来る《ホーリレニア祭》についてでございます」

老宰相が原稿でも読み上げるように簡潔に今回の話し合いの流れを説明し終えると、早速 《炎の女王》が第一声を上げた。

「ホーリレニアは四女王全員がそろって初めて成立する国。どうにかして新しい《地の女王》を戴冠させるしかないでしょ。それまでは隣国であるうちと《水の国》がいろいろ支援するってことでどう?」

この突拍子もない提案に異議を申し立てたのは、当然ながら無視された《風の国》の元首。

「なんでぼくの所だけ仲間はずれなの?」

「隣り合ってないからよ。何かあったら近所で助け合うのは常識でしょ?」

「支援とは具体的にどのような事を意図しているのか、詳しく説明してもらえますか」

「こまけぇこと聞くな、ウォルト。この国の人間が困らねぇように助けてやるってだけだ」

「両国による支援が実質的な共同統治と言う形になるのなら、わたくしは断固として反対です。この国はカリスの国。カリス亡き後であっても、この国を治める権利があるのはこの国の民だけのはずです」

「ルール―の言うだよ!だいたい、次の《地の女王》なんてどうやって選ぶの?」

アエルスがこう言ったところで、やっぱり存在感が薄すぎる司会進行役が精一杯の咳払いで一同の視線をどうにか集めた。だが、勢い余って咳き込みすぎてしまったせいで、一同から本気で心配された。

「ええとですね……。皆様もご存知の通り、新女王の選定には特別な儀式を執り行う必要がございます。しかし、我々だけで内密に行えるものではございませんので、儀式を行うとなれば外部に知られるのは必至です。それ故、このまま《ホーリレニア祭》明けまで女王陛下崩御の真実を秘匿しようと考えますと、どうしてもしばらくは女王と騎士が不在の状態でこの国を統治せざるを得ないのです。隣国である《水の国》と《炎の国》が力を貸してくださること自体は大変有り難いのですが、これが元で覇権争いなどが勃発しては元も子もありません」

老人がそう言うと、「じゃあどうすんだよ?」とフレインが脅すような口調で迫った。宰相はその言葉を待っていたかのようにしたり顔になると、堂々と胸を張ってこう告げた。

「いや、私事で大変恐縮なのですが……私の娘が、それはそれは面差しも体付きもカリスペイア様によく似ておりまして。並んで歩けば双子かと間違われたほどでございまして。ですから、新女王即位までの間、女王陛下の代役としてうちの娘を―……」

「却下」

即答で一蹴したのは《炎の女王》。だがどうやらこの場の一同は皆彼女の意見に賛成らしい。当てが外れた宰相は困惑。

「カリスにそっくりな身代わりを立てるところまでは賛成だけど、あんたの娘ってのはどうかしら?なんかそのままちゃっかり新女王として戴冠させそうじゃない?」

メラネミアの眼差しが鋭さを増す。野心家の老宰相も、完全に新たな容疑者として彼女にロックオンされたようだ。宰相はあわよくば娘に束の間でも女王生活を味わわせてやろうと思っただけのようだったが、予想以上の激しい反対にあって企みを断念すると、しょんぼりと萎れて口を閉ざした。

「どの道 《ホーリレニア祭》でカリスの役を演じる代役を選出しておく必要があるのは確かですから、宰相殿のご息女もその候補の一人としておくことには問題無いでしょう。国政に関しては、宰相殿にはこれまで通りの政務継続をお願いするとして、女王権限の事案に限り、現在ここに居る三ヶ国の女王と騎士による総会の決議を要すると言う形式とするのはどうでしょうか」

ルーテリアが滔々と述べ終えると、「さっすがルールー!」と叫んで風の二人組が諸手を挙げて賛成した。メラネミアは少し考えた後、観念したように息を吐き、「まぁ、それしかないか」と諦めの境地で渋々同意した。我が強い主が折れたのを横目に見ていたフレインも、「じゃあオレも異議なし」と投げやりに総意に従った。こうしてようやく国の舵取りが決定したのを見て、老宰相も安堵の笑みを浮かべている。皆はこれで全ての難題が片付いたものだと気を緩めていたのだが、メラネミアにとってはむしろこれから満を持して切り出す議題こそが最大にして最重要の課題だった。

「じゃあこれで宰相の会議はお終いね。次はあたしからみんなに言っておくことがあるの」

宰相が消え入るような声で「まだ《ホーリレニア祭》に関してのお話が……」と零したが、《炎の女王》に有無を言わさぬ眼差しを向けられると口を閉じて下を向いた。メラネミアは他にも自分の話を妨げる輩がいないか注意深く一同の顔色をうかがってみたが、皆彼女が強情なのを知っているので誰も異論を唱えなかった。そうして全員が自分の前に平伏したと知ると、女王陛下は大変満足し、上機嫌な様子で語り出した。

「昨日も言った通り、あたしはカリスを暗殺した犯人を絶対に捕まえないと気が済まない。みんなはどうなの?」

案の定暗い話題が蒸し返されて皆が閉口する中、ぼそりと一言を呟いたのはフェリシアだった。

「ぼくだって……犯人、許せないよ……」

遣る瀬無く握り締められた両の拳と震える肩に、一同の同情が集まる。

「きっとみんな思いは同じですよ。でも、犯人捜しをするのなら、憶測と思い込みは捨てて論理的に突き詰めないといけません」

ウォルトが冷静に助言する。

「まずは各人のアリバイを確認してみてはどうでしょう?」

この件には無関心そうに見えたルーテリアも、どうやら捜査に協力的だ。

「そうね。じゃあ早速、みんな事件当日にどこにいたのか教えなさい!」

メラネミアは威勢良く一同に呼び掛けると、そう言う自分は《炎の国》の居城に居たと主張した。これに続いてフレインも同様だと口にしたが、二人は一緒に居たわけではないらしい。メラネミアが疑って具体的な場所を吐かせようと詰め寄るも、フレインははぐらかしてばかりで一向に口を割らない。かなり怪しい。

「ちなみに、僕は《風の国》の市場を散歩してたよ。フェルは?」

信頼関係が危機に瀕している炎の二人などどこ吹く風と言わんばかりに、マイペースなアエルスが勝手に話を進める。

「ぼくは……ちょっと、おでかけ」

明らかにうろたえた様子のフェリシアの口から零れ出したのは、非常に曖昧な返答。この疑わしい発言を耳ざとく聞き取ったメラネミアがすかさず彼女を問い詰めると、フェリシアは「友達と会う約束があったんだ」と言い逃れをしたが、その友達が誰かは明かさなかった。彼女も変だ。

「フェルが友達と会っていたのが本当なら、その友達が彼女の無実を証明してくれるでしょう。僕は公務の一環で《風の国》を訪れていました。ルーテリア様はずっとフルーレンシアの王城内でお過ごしだったはずです」

「そうですね。わたくしは元より外出は好みません。その日は侍女のアドレイアとチェスに興じていたと記憶しています」

こう聞いて、堅実そうな水の二人だけは安全かと思われたのも束の間、ルーテリアはウォルトが《風の国》へ公務に出掛けていた話など寝耳に水だと付け加えて一同を震撼させた。この二人の間にも水に流せない事情がありそうだ。

「要するに、どいつもこいつもうさんくさいってことね」

メラネミアは決めつけたようにそう言うと、だがまだ一人話を聞いていない人物がいると言って静かに立ち上がった。

「そこのお前!お前は一体何者だ!」

メラネミアがそう叫んで指を差した先には……誰も、居ない。

「あんただよ!物書き!あんたは一体全体何をそんなに熱心に書いてんのよ?」

書記係は宰相の隣、従って彼女の右隣に居る。遂に錯乱でもしたのかと皆が思ったであろうまさにその時、業を煮やしたメラネミアが鬼のような形相でこちらに向かってきて書きかけのノートをひったくった。

……え?

「だから!あんたは一体何者かってさっきから聞いてんでしょうがこのタコ!耳聞こえないの?」

嘘だ。そんなこと有り得るはずがない。

何故、登場人物キャラクターストーリーテラーに話し掛けている?


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