第18話 立花立華視点 美しい花の世界
「見た目だけじゃなく、それ以外も美しい人間になりなさい」
私はちっちゃいころから、両親にそう言われてきた。
私を美しいという人がいるが、それが本当だとしても、それはたぶん、作られた美しさだと思う。
小さいころから、私は厳しく教育されてきた。
勉強に関しては、家庭教師をつけられていた。
問題を少し間違えただけですごく怒る先生で、私はそれが怖くて、間違えないようにと必死に勉強していた。
そのおかげで勉強はよくできるようになったが、あまりうれしいと感じたことはなかった。
勉強以外も、厳しくされてきた。
ピアノとか水泳とか書道とかいろいろな習い事をさせられた。そのおかげでいろいろなことができるようになったけど。
人間性についてもすごく厳しくされて、ホームレスのおじさんを見て「なんであの人、あんなところにいるの?」なんて言った時は、別に悪気があってい言ったわけじゃなかったのに、父と母が激怒して、その日の夕飯は抜きになったくらいだ。
でも、べつに父も母もそんなにひどい人だというわけでは決してない。
むしろ、いい親だったと思う。基本的には優しいし、ちょっと教育に熱心すぎるだけだ。
周りは私をすごいというけど、正直、幼いころからこのようにずっと厳しく教育を受けてきたからってだけだと思う。
「なんでもできてすごいね」てよくうらやましがられたけど、私はそう言ってくる人のほうがうらやましかった。
私は習い事とかで忙しいから、友達と毎日のように遊んでいる人たちを羨望の目で見ていた。
でも、そうやって毎日友達と遊んでいる人はそれが当たり前だって思ってるみたいで、だから私は内心ではそういう人たちにむかついていた。
私は本当は羨ましいと思っているのに、彼らは私がそんな思いを抱いているとは全く思わずに、時には嫉妬もしてきたりして、「なんでもできていいよね」とか「立華は完璧でいいよね、それに比べて私は」とか憎まれ口をたたいてきたりして、正直、うっとうしいと思っていた。
彼らは知らないかもしれないが、できる人はできる人で苦しいこともあるのだ。
周りは私をできて当然という前提で見るし、両親はどんなにいい成績をとっても、私なら当然だと思ってほめてくれないし、少しミスをしただけですごく怒るし、クラスメイト達だって私に何かとすごく期待してくる。
球技大会とか運動会とかだと、私が大活躍するのは間違いないと見られていて、私がすごくプレッシャーに感じていることなんて全然気づいてない風だった。
彼らはそんな私の思いに気づかず、すごいすごいすごいすごいと、馬鹿の一つ覚えみたいに言ってくる。
これだけ持ち上げられると、逆に気味が悪くなってくる。
彼らは私がすごく気味悪がっていることにすら、気づいていない。
そういう人たちと付き合うのは、とても疲れる。
もっと気楽に接することができる人がいてほしいとずっと思っていた。
容姿については、小学生ぐらいからきれいだとよく言われていた。
同級生からも大人たちからも、きれいきれいとしつこいくらいに言われる。
周りはきれいだというが、たぶんそれは見かけだけだ。
利己的な部分もあるし、本当は表面上ほど周りに対して優しい感情を抱いていない。
私は幼いころからずっと厳しく教育されてきたけど、しょせん、上辺だけしか美しくなっていないように思う。
だから私を美しい美しいとやたらとほめてくる人たちが愚かに見えたし、そんなほめ言葉をたくさん言われてもうれしくなかったし、言われすぎていい加減うんざりしていたし、そういう人たちが気持ち悪いと実は思っていた。
この世界は、私にとって気持ち悪いものばかりだった。
特に、中学生くらいになってから、男子たちの私を見る目が、なんていうかこう、粘っこいというか、なんというか、とにかく、男子たちが私を見る目がすごく気持ち悪いものになっていた。男子だけでなく、一部の女子も、なんだか背筋に怖気が走るような目で私を見てくるのだ。
私はあの粘ついた視線が大嫌いだった。
ずっと、そういう人たちを内心では怖いと感じながら、表面上はなるべくその気持ちを出さないように接してきた。
だから、本当はそういう人たちと距離を置きたいと思っていた。
でも、中学でも、高校でも、そういう人ばかりだった。
いい加減嫌気がさしていて、このままだと私は今まで押し殺していた不満が爆発してしまいそうだと感じていた頃だった。
モカちゃんに出会ったのは。
高2のとき、たまたま席が前と後ろで、私が何気なく話しかけたのがきっかけで、仲良くなった。
彼女を見たとき、なんとなく付き合いやすそうだと思った。
ずーっと一人で本を読んでて、人のやることにあまり興味なさそうで、この人は私をあのひとたちのように過剰にほめてきたりしなさそうだなと思った。
私をあの粘っとした目で見てこない気がした。
一緒にいて楽そうだと感じた。
実際、仲良くなって一緒にいると、楽だった。
彼女は、私を他の人たちみたいに、過剰に褒めてこないし、男の人たちや一部の女性みたいに、私を変な目で見てこない。
接していて、優しい人なんだと感じていたし、私はだんだん彼女を信用するようになっていった。
今まで友達と言えるような関係の人はいたけど、正直に言うと私は表面的にしか友達だと思っていなかった。
モカちゃんは、本当に心の底から友達だと思えた、初めての人だったのだ。
彼女が周りから気持ち悪がられているのは知っていた。
ゴキブリと呼ばれているのだって、知ってる。
でも、私にとっては、彼女をそういう風に扱う周りの人たちのほうが気持ち悪かった。
周りから気持ち悪がられているモカちゃんが、私にとってこの世界で唯一、気持ち悪くない人だった。
それなのに……
それなのにそれなのにそれなのに!
彼女は私に……!
汚された体を抱きしめる。
思い出したくもない、おぞましい……。
まさか、彼女があんなことしてくるなんて……。
汚らわしい、汚らわしい汚らわしい! あんなことしてくる人だったなんて……!
あなたは、他の人たちと違うと思っていたのに。
私をそういう目で見てこないと思っていたのに!
裏切られた、裏切られた!
汚らわしい、なんて汚らわしい人なの、あなたは……!
橘茂花、もうあなたは、友達でもなんでもないわ。
私、あなたを絶対に許さないから。
一生、許さないんだから……!
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