第29話 修羅場に直面する
――精霊祭三日目。
最終日は特に俺が参加する行事もなく、朝から自由にお祭りを見てまわれるとのことだった。昨日の出来事は割と大事件だったと思うんだが、祭りは普通に続行するようだ。
メリア先生曰く「帝国は『少しくらい人が死んでも楽しければおっけー!』という考えの元にお祭りを運営しているわ」ということらしい。もしかすると、一般的な帝国の人間はプリシラを更に過激にしたような性格をしているのかもしれない。
……ちなみに、プリシラは最終日もニナと二人で出かけていった。俺だけ蚊帳の外で少し寂しい感じだったのだが、ひょっとすると気を遣ってくれているのかもしれない。
普通、こういう時は将来を約束し合った相手と一緒にお祭りを楽しむべきだろうからな。
問題はちょっとしたすれ違いでその相手が三人になっちゃったことくらいだ。
「うーん、どうしようかなぁ……」
俺は今後について頭を悩ませながら外へ出たのだが、何故か屋敷の門の前に見覚えのある女の子が三人集まっていた。
理由は分からないけれど、みんな俺のことを睨みつけている。
「アーラーンーッ? これはどういうことなのかしらーッ?!」
「わらわから言うことはない。早くこっちに来るのじゃ」
「…………誰を呪うかはアナタに決めさせてあげる」
まるで恋人の浮気でも発覚したかのような感じだ。あの三人の間に渦巻いている空気を一言で言い表すとすれば、まさに修羅場。
実に恐ろしい。
「……うん、なるほど!」
どうやら今日が俺の命日になるみたいだ。
逃げても無意味であることを悟った俺は、大人しく三人に従うことにした。
まさか、朝っぱらから三人が全員一斉に屋敷へ押しかけてくるなんてな……! メインキャラの行動力を見誤っていたぞ!
――と、そんなこんなで。
「私のことっ、弄んだのねッ! 許さないんだからッ!」
「ち、違うよドロシアちゃん!」
「……いっぱいいっぱい呪ってあげる。ひひひひっ」
「ま、待ってナビーラちゃん!」
「少しくらい首が捻じ曲がっても、わらわが治してやろう」
「は、話せば分かるんだフウコちゃん!」
高台の広場へと連れて来られた俺は、女の子三人から取り囲まれて情熱的に迫られることになったのである。
*
「ごめんなさい」
流石に魔力解放なしでは天才三人娘相手に勝てず、地面に両手をついて謝罪することになる俺。
「ふんっ!」
ドロシアは腰に手を当てて大きく威張ると、何故かそのまま俺に腰掛けてくる。
「うぐ……っ」
「あんたは私の椅子になるのがお似合いよっ! ばかっ!」
場合によっては女の子の椅子にされるというのはご褒美になり得るが、アランはプライドがこの上なく高いので屈辱しか感じなかった。
「うぅぅ……!」
地べたに這いつくばって泥水を啜っているような気分だ。
「ほう、随分と大胆なことをするのじゃな」
「……今すぐそこをどきなさい。呪うわよ……」
俺という共通の敵を倒すため一時的に協力していたフウコとナビーラも、少しだけドロシアの行いに引いている様子である。
「あ、あなた達のことだって許してないんだからねっ! 後から来てアランのことを
「確かに、許嫁の存在を確認もせずにお手つきしたのはわらわの落ち度かもしれんのう」
「だったら――」
「じゃがまあ、わらわが見そめた
「何言ってるの……?!」
どうやら、三人の中ではフウコが比較的こちら側に引き込みやすそうだ。そうすれば二対二になって勝機が生まれる!
「フウコちゃん……!」
「だから許した、とは言っていないぞ?」
「…………はい」
やっぱり無理でした。
「ドロシア、本当にわらわの言っていることが理解できぬのか?」
「……いいえ。そうね……そういえば昨日の夜、パパにも言われたわ」
ドロシアは椅子にしていた俺から立ち上がって続ける。
「あの子の――アランの相手は大変だぞって。……魔王としての素質を内に秘めてるとか、小さな所に収まる器ではないとか……」
「十歳の子に対する評価とは思えんのう……。やはり、わらわの見込み通りのようじゃ!」
「今になってやっと意味が分かってきたわ……」
何故か嬉しそうなフウコと、悲しそうな声音のドロシア。
やっていることはただの浮気なのに、すごい話になっているぞ。魔王としての素質とか、ドクズを遠回しに表現しただけなのでは……?
「元々、無理やり婚約を申し込んだのは私の方だし……一度全部なかったことにした方が……良いのかもしれないわね……っ」
ドロシアは涙ぐんだ声で絞り出すように言った。
「ドロシアちゃん……」
「昨日の大会……あなたが出てたのにっ……応援にいけなくてごめんなさい……ぐすっ」
そういう感じで来られるとむしろ罪悪感がすごい。
「敵が一人減るのなら……その方がいい……」
そしてナビーラは相変わらず怖い。
「さようなら……アラン……」
「………………」
俺が何も言えずにいると、フウコが小走りで駆け寄って来てくる。そして、四つん這いになっている俺のことを助けて起こしながら、小さな声で耳打ちした。
「……おい、お前さま。見たところあのお転婆娘は箱入りじゃ。あんまり泣かせると父親が出てきて後が怖いぞ。八つ裂きでは済まん」
自分でも分かるくらいすっと血の気が引いていく。
昨日魔物と対峙した時以上の命の危険を感じ、この状況をどうにかする為に頭が高速回転を始める。
「……待ってよドロシアちゃん!」
そして、答えを出すより先に口が勝手に動いていた。
どうやら、味方をも騙す裏切りキャラの話術を発揮する時が来てしまったようだ……!
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