第28話 同時攻略!?
「うーん……?」
次に目覚めた時、俺は見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。おそらく、ここは闘技場に併設された治療所なのだろう。
――他の参加者も運び込まれているのだろうか?
ふとそう思って周囲を見回すと、視界の端に人影を捉えた。
「………………起きたのね」
俺のベッドから少し離れた場所に立ち、じっとこちらを見つめていたのはナビーラである。どうやら、この部屋には俺と彼女以外の人間はいないようだ。
ナビーラも特に怪我をしている様子はないし、被害は最小限に抑えられたと言っていいだろう。主に俺の活躍でな。
「それで、アランちゃんは大丈夫なのっ?!」
「アラン様にもしものことがあったら……ニナはもう生きていけません……っ!」
ひとまず安堵していると、部屋の外からメリア先生とニナの声が響いてきた。
どうやら、外で俺の看病をしていた誰かと会話しているらしい。
「この場所じゃ……ゆっくり話せない……」
すると、若干うっとうしそうに顔をしかめながらそんなことを呟くナビーラ。
「夜になったら……街を見下ろせる高台に一人で来て……。大切な話があるから……ずっとずっと……待っているわ……」
それから彼女は俺のベッドまで音もなく歩み寄ってきて、一方的に耳打ちすると治療所から出て行く。
「……行かなかったら呪い殺されそう」
実に恐ろしかった。
その後メリア先生やニナ達……そしてフウコがお見舞いに来てくれたのが、それどころではない。
気が気でない時間を過ごしているうちに、メリア先生とダリア先生が事件の後始末をするため居なくなり、俺の側でしばらく泣いていたプリシラが疲れ果てて眠ってしまう。
俺はニナにプリシラの面倒を見て貰うために二人を家へ帰し、その場には自ら名乗り出て看病をしてくれていたフウコだけが残ることとなった。
「ええと……フウコちゃんもわざわざありがとう」
「と、当然のことをしたまでじゃっ!」
俺が礼をすると、何故か顔を赤らめながら返事をするフウコ。よく考えたら、この時点で俺は身の危険を察知するべきだったのである。
「僕はもう何ともないから、好きにして良いよ。……あんなことがあったけど外のお祭りは続いてるみたいだし、遊んで来たら?」
「……アラン。お前さまが誰一人死なせずにあの魔物を討伐したからこそ、お祭りを続けられているのじゃ。……そんな英雄を一人で放っておくほど、わらわが薄情で見る目のない女に見えるかの……?」
「え」
ここでようやく不穏な空気を感じ取ったのだが、もう遅かった。
「つ、つまりじゃなっ!」
「フウコちゃん……? あの、僕――」
「いいから黙って聞くのじゃっ! 一度しか言わないぞっ!」
「――――はい」
俺はすでに婚約者がいると言い出すタイミングを完全に逃してしまったのである。
「……お、お前さまは……わらわの命の恩人じゃ。お前さまにだったら……わらわの全てを捧げても良いと思っておる……っ! だ、だからそのっ……どうかわらわと、
フウコはたたみかけるようにして、俺に告白して来た。
「いや、あの……」
「わらわでは……ダメか……?」
目を潤ませながら問いかけてくるフウコ。
「……うーん、いいよ!」
こうなってしまうと、アランはクズなので他に許嫁が居ようと反射で受け入れてしまう。心の中の葛藤を全て無視してスラスラと言葉が出てくるのだ。
もちろん俺はいけないことだと理解しているが、この口が勝手に……! 悪いのはぼくじゃないんです! ぼくはただ……目の前の女の子を泣かせたくなかっただけなんだっ!
「ほ、本当かえ……?」
「うん! じゃあお祭りは一緒に見てまわろうか! フウコちゃんみたいな綺麗な子とデート出来るなんて、僕うれしいな!」
「でっ、でーと……っ!? じゃが、まだお前さまは休んでおった方が……!」
「平気だよ。もう動いても何ともないしね!」
……かくして、俺は二人目の女の子を
「見てよフウコちゃん。あの狐の耳、フウコちゃんが付けたら可愛いんじゃないかな?」
「お、お前さまがそう言うのなら……今日一日は、あれを付けて過ごしてやる……っ!」
「ほんと!? 嬉しいな!」
なんか似たようなやり取りを昨日したような気がするけど、フウコとお祭りをまわるのは初めてなんだからそんなはずないよな!
「……そういえば、僕もフウコちゃんもどこか
「あ、相性ぴったりということじゃな……っ!」
「じゃあ僕も一緒に付けてあげるよ。フウコちゃんだけじゃ公平じゃないからね」
「おっ、お揃いっ?!」
――そんなこんなで人として大事なものを失いつつフウコと別れた後は、そのまま家へは帰らずナビーラと約束した場所へ向かった。
「呪い合いでもするのかな……?」
……この期に及んで直前まで何が起きるのか察せない所が俺のやばさである。
「ええと……ナビーラちゃんは――」
頭に付けていた狐耳のカチューシャを外し、軽く髪を整えて夜の高台へと登る俺。
「アナタの……後ろ……」
その時、姿は見えないが背後からはっきりとナビーラの声が聞こえた。
「……び、びっくりしたよ。声も出ないくらい」
「ごめんなさい……。ヒトの顔を見て話すのが苦手なの……」
「気持ちは分かるよ。僕もこう見えて、結構人見知りするタイプだからね」
「ぜったいウソ……」
「嘘じゃないさ。そのせいで、お祭りを一緒に見てまわる友達もいなかったし」
「………………」
同情を引くことで呪う気を削ぐという俺の完璧な作戦が功を奏し、しばらくの間ナビーラは何も言わなかった。
しかし、ずっと待っていると俺の目の前に姿を現してくれる。
「やっと出て来てくれた」
「…………っ」
俯いたまま返事をしないナビーラ。どんな表情をしているのかは読み取れない。
「一目見た時から……アナタのことが嫌いだった……」
彼女が俺の前に姿を晒してから最初にしたことは、予想外の告白だった。
「何もかも持ってそうで……恨めしかったから……呪いで奪ってやりたくなったの」
「………………」
怖すぎるだろ。何もしてない相手を一方的に恨むのは良くないぞ。
「でも……アナタの中にある真っ黒な魔力を見せられてから……ずっと胸の高鳴りが止まらなくて……アタシは自分のことが分からなくなってしまったわ……」
「ふーん……?」
おそらく闘技場でやった魔力解放の話をしているのだろう。いまいち理解できないが、あれに共鳴してしまったらしい。
「……たぶん、アナタのことが好きなの。……自分じゃどうしようもないくらいに」
「………………」
「アタシ……アナタになら全部奪われてもいいわ……。もし嫌われても、ボロボロに使い潰されても……一生側に居てあげる……」
「…………え」
ここに来てようやく向こうの言わんとしていることを理解し始めるが、すでに遅かった。
「大好き……あ、愛してるっ……!」
俺はナビーラからも告白されてしまったのである。
「ま、待ってよ。僕にはすでに二人も――」
「あなたに近づく他の女は……アタシが呪って始末する……」
「………………!」
それはもはや脅迫だった。
「……えーっと。……こ、これからはちゃんと、僕の見えるところに居てねっ!」
「どういう意味……?」
「せっかく美人さんなんだから、隠れてたらもったいないでしょ?」
「あ、アラン……っ!」
ナビーラは、俯いていても分かるくらい顔を真っ赤にして俺に抱き着いてきた。色々とおかしいよこの子。
「アタシを受け入れるなんて……後悔しても知らないんだから……」
「あ、あはは……」
受け入れさせたの間違いでは……?
――ともかく、こうして俺はたったの二日で三キャラを同時攻略するというクズの偉業を達成してしまったのである。
そして、全ては翌日の朝にバレることとなった。
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