転生したら主人公を裏切ってパーティを離脱する味方ヅラ悪役貴族だった~破滅回避のために強くなりすぎた結果、シナリオが完全崩壊しました~
おさない
第1話 ラスボスに転生しました
「どうしてだよ……アラン! 俺たち仲間じゃなかったのかよッ!」
玉座の間に、金髪の青年――リオ・シューメイカーの声が響き渡る。
「ああ、そうさ」
「だったらどうして――」
「大変だったよ。貴様らの
そう答えたのは、玉座にて悠然と構える黒髪の青年――アラン・ディンロードだ。
彼は先ほど、かつて仲間だった者たちの前で仮面を外し、自身の正体を明かしたのである。
「………………!」
「お前たちが本当に固い絆とやらで繋がっていたのであれば、この僕の裏切りにも気付けたのではないかな」
「違う! 俺は――俺たちは、アランのことを大切な仲間だと思って信頼していたんだ!」
「実に愚かだ。哀れみすら覚えるよ」
リオが必死に訴えかけても、アランは一切聞く耳を持たない。
「もう貴様らと話すのも疲れた」
アランはそう言って玉座から立ち上がり、謎の宝玉を掲げる。
「そ、それは……ッ?!」
「魔石だよ。この力を使って、僕は神になるッ!」
「やめろーーーーーーッ!」
「うぐっ、ぐあああああああああ!」
次の瞬間、アランは黒い光に包まれ、全身を悍ましい化け物の姿へと変化させていく。
「グオオオオォォ……!」
「くそ……! やるしか……ないのか……っ!」
「スベテ……ハカイ……スル……!」
「来るぞ、みんなッ!」
そしてラストバトルが始まったのだった。
*
数分後、玉座の間にて。
「タスケ……テ……」
もはやただの肉塊と成り果てたそれは、手のような形をした何かを伸ばしながら懇願する。
「くっ……!」
その姿を見て、リオ達は顔を歪めた。
「コロ……シテ……」
「この……馬鹿野郎が……っ!」
「………………」
肉塊は何も言わずに蠢いている。
それは、かつてアラン・ディンロードだったもの。
強大な力によってその身を滅ぼした哀れな存在。
その最期を目の当たりにした俺は、思わずこう呟いた。
「よっっっわ」
かくして、先日発売した大作RPG『ラストファンタジア』はエンディングを迎えたのである。
~happy end~
「おい!」
無事にエンドロールを見終えた後、勢いよく机を叩く。
「ふざけるなよお前……ラスボスのくせに弱すぎんだろ!」
俺がキレているのは勿論、ストーリー序盤で主人公パーティの仲間になり、中盤で離脱、そして最後の最後で仲間を裏切ってラスボスになる帝国出身の天才魔法剣士――アラン・ディンロードに対してだ。
「強そうなのは設定だけか貴様!」
ラスボス戦に向けて散々準備したのに、とんでもない肩透かしを食らった気分である。
「こんなことって……!」
魔術と剣術の天才が闇の力に手を出して到達する境地があれとは。
思えば、仲間だった時も器用貧乏といった感じの性能で弱かったし。
「…………マジで設定だけだな」
よく考えたら『ラストファンタジア』は全体的に鬱展開が多く、せっかくボスを倒してもすっきりしない展開になったり、育てたキャラが肝心なところで離脱するイベントがいくつかあったりして、いまいち達成感がなかった気がする。
ストーリーには力が入っていたが、その分ゲーム性が疎かになっていたのだ。
ラスボス戦なんて、正直ボタンを連打しているだけでも勝てたぞ。
これではあまりにもやりきれない。
「…………寝よ」
急激にやる気を削がれた俺は、クリア後のストーリーを放り投げてそのまま床で寝た。
少し心臓の辺りが痛い気がするが、おそらく寝れば治るだろう。
エナジードリンクをがぶ飲みして徹夜でゲームをクリアした後、気絶するように眠る。――勢いでそのまま天国へ逝ってしまいそうになるくらい気持ちが良い行為だ。この上ない背徳感を覚える。
「………………」
それにしても弱いラスボスだったな。
最近は、「ふとした拍子に死んでしまった主人公が直近でプレイしていたゲームの悪役キャラに転生する」なんて話が流行っているらしいが、もし死んで転生するとしてもアランみたいな奴にだけはなりたくないものだ。
設定だけ強そうな雑魚とか最悪だからな。おまけに、最期も惨めで苦しそうだったし。
「……なに馬鹿みたいなこと考えてるんだ、俺は」
ゲームで肩透かしを食らったせいで、つまらない妄想をしてしまった。
――そもそも、極めて健康であるこの俺がちょっと夜更かししたくらいで死ぬはずないよな!
*
「うぐっ……かはっ…………むにゃむにゃ……」
「アラン様……起きてください……」
生と死の狭間で反復横跳びしながら心地よく眠っていたその時、突然知らない少女のか細い声が聞こえてきた。
「う……ん……?」
もしかしたら、ギリギリを攻め過ぎたせいでお迎えが来てしまったのかもしれない。俺は少しだけ困惑しながら目を覚ます。
「え……?」
するとそこは、見覚えのない洋風の部屋だった。天井にはシャンデリアが吊り下がっていて、床には高そうな青い絨毯が敷かれている。
そして、いつの間にか俺が寝かされていたベッド脇には、メイド服を着た長い金髪に碧眼の少女が立っていた。
ここは……一体どこだ?
「お、おはようございます……アラン様……」
動揺しながら周囲を見回していると、やたらと幸薄そうな少女が怯えながら俺に挨拶してきた。
しかし驚きだな。どう見ても日本人には見えないが、一応日本語を話すようだ。……いや、日本語に聞こえるだけか? 頭がぼんやりとしていてよく分からないな。
……まあいい。それはさておき。
「あらん……?」
その名前にはすごく聞き覚えがある。さっきまで俺がキレていた忌まわしき雑魚ラスボスの名前だからな。
「ど、どうかなさいましたか? お気に障ることを言ってしまったのであれば……も、申し訳ございませんっ!」
「……アランって、俺のこと?」
「お、俺っ?!」
なぜか驚いた様子で目をぱちくりさせる少女。
そういえば、猫かぶってる時のアランの一人称は「僕」だったな。
「……僕のこと?」
「えっ? あ、は、はひぃ……アラン様はアラン様です……っ!」
俺が一人称を訂正して再び問いかけると、少女はブンブンと首を縦に振った。大丈夫かこいつ。
「……うーん」
目覚めると見知らぬ西洋風の部屋。先ほどまでプレイしていたゲームのキャラと同じ名前で呼ばれる。これはつまり……そういうことなのだろうか。
「あの……わ、私の顔に何か付いていますか……?」
「いや……」
自分が今どういう状況に置かれているのか何となく勘付き始めた俺は、目の前にいるメイドの少女をじっくりと観察する。
「……似てる」
「ひぃっ、ご、ごめんなさいっ!」
「ニナ」
「えっ?! い、今、私のことを……な、名前で呼んでくださったのですか……?」
「ニナ・ラムリ」
「はい、アラン様……! ニナはニナです……っ!」
目を潤ませながら、少女はそう答えた。
――やはりそうだ。
目の前に居るこのメイドの名は、ニナ・ラムリ。
物語中盤でアランと一緒にパーティを離脱した後、何故か一切言及されることなく存在が消える悲しきサブキャラである。
おそらく、何らかの事情で彼女に関するエピソードが全部カットされてしまったのだと思われるが……詳しいことは不明だ。
もしかしたら、単純にシナリオライターが存在を忘れていただけかもしれない。……いや、それはないか。
ともかく、ゲーム本編に登場するニナはもっと成長した大人の女性だったので、気づくのが遅れてしまった。
「……なるほど」
これはもう間違いないな。
どうやら俺は『ラストファンタジア』のラスボス、アラン・ディンロードの少年時代に転生してしまったらしい。
まあ、実によくある展開だ。フィクションの世界ではそれほど珍しいことじゃない。
問題なのは、これが実際に起こったノンフィクションであるということくらいだ。
寝る前の最悪な想像が現実となってしまったな。
……うん。
「えーーーーーーーっ!」
「アラン様っ?!」
現状を理解した俺は、驚愕のあまり絶叫して気絶した。
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