第5話 麗華の推理

青木麗華の書斎は、まるで事件現場の再現のように資料や写真で埋め尽くされていた。麗華はホワイトボードの前に立ち、加藤健が送ってきた詳細な現場写真と村上志穂の報告を見比べていた。


「まずは、氷のナイフの可能性から考えましょう。」麗華は自らに語りかけるように呟いた。彼女の頭の中では、氷のナイフがどのようにして使用されたのか、その手口が次々と浮かび上がってきた。


デスクに残された溶けかけた氷の水滴。書斎の鍵は内側からかかっており、窓は全て閉ざされている。麗華はホワイトボードに図を描き、事件の全体像を整理し始めた。


「氷のナイフを使用するためには、犯行時間とナイフの溶ける時間を計算する必要があります。」麗華は氷のナイフがどのくらいの時間で溶けるのかを検討し、犯行時刻を推測し始めた。


その時、麗華の携帯電話が鳴った。画面には加藤健の名前が表示されている。麗華は電話に出た。「加藤さん、何か新しい情報が入りましたか?」


「麗華さん、現場でいくつか興味深い発見がありました。まず、デスクの周囲に水滴が残っていました。これが氷のナイフの証拠になるかもしれません。そして、書斎のドアには微かな傷がありましたが、これは外部からの侵入を示すものではないようです。」


「分かりました。ありがとうございます。水滴の位置とドアの傷については、もっと詳しく調べる必要がありますね。」麗華はホワイトボードに新しい情報を書き加えた。


電話を切ると、麗華は再び推理を進めた。「氷のナイフが使用されたとして、その後にどのように密室が形成されたのか…」


麗華はデスクの上にあった書類に目を向けた。「鈴木陽一の新作小説。この中に何か重要な手掛かりが隠されているかもしれない。」彼女は書類を一つ一つ丁寧に読み進め、物語の中に描かれた密室トリックに着目した。


「この小説の中のトリック…まさか、犯人はこれをヒントに犯行を行ったのでは?」麗華の目が鋭く光った。彼女は小説の内容をホワイトボードに書き出し、実際の事件と照らし合わせて推理を進めた。


その時、村上志穂からの電話が鳴った。「麗華さん、高橋英二について新しい情報が入りました。彼の過去の不正取引に関する証拠が見つかりました。これが動機の裏付けになると思います。」


「ありがとう、志穂さん。これで動機が確定しましたね。次は彼の行動を確認し、犯行の証拠を掴む必要があります。」麗華は志穂の報告をホワイトボードに書き加えた。


麗華は深呼吸をしてから、再びホワイトボードに向き直った。「全てのピースが揃い始めたわ。犯人は高橋英二。氷のナイフを使って鈴木陽一を殺害し、その後に密室を作り上げた。次は、この推理を証拠で裏付けるだけ。」


麗華は電話を手に取り、夏川遼警部に連絡を取った。「夏川さん、事件の全貌が見えてきました。次に必要なのは、高橋英二のアリバイを崩すための具体的な証拠です。彼の行動を詳しく調べる必要があります。」


「了解しました。すぐに動きます。」夏川の力強い返事が返ってきた。


麗華は電話を切り、デスクに戻った。彼女の頭の中には、次々と浮かび上がる推理の糸口が絡み合い、事件の真相が徐々に形を成していた。犯人を追い詰めるための最後のステップが、目前に迫っていた。

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