第3話
「リョウタ、早く来て!また新しい本を見つけたよ!」と、佐藤ユメは夢見堂書店の奥からリョウタに叫んだ。
「もう少し静かにしてよ、ユメ。お客さんがびっくりするよ」と、リョウタは苦笑しながら本棚の間を抜けてユメの元に駆け寄った。「それで、今度はどんな本?」
ユメは、埃にまみれた厚い本を大事そうに抱え、「シャーロック・ホームズだよ!」「あの有名な探偵が登場する物語なんだ」と目を輝かせた。
「ホームズか…それは楽しそうだね」とリョウタは興味津々の表情で本を見つめた。「早速、例の栞を使ってみようよ!」
ユメは頷き、本の中に不思議な栞を挟んだ。瞬間、二人は鮮やかな光に包まれ、目を開けると見知らぬロンドンの街角に立っていた。霧が漂う街並みと、遠くから聞こえる馬車の音が、まさに19世紀のロンドンそのものだった。
「ここがシャーロック・ホームズの世界か…」と、リョウタは周りを見渡しながら呟いた。
「確かにそうみたいね。でも、どこから始めればいいのかしら?」とユメが言うと、その時、背後から急に声がした。
「君たち、何をしているんだ?」振り返ると、そこには長身の男が立っていた。黒いコートと帽子、そして鋭い目つきからして、すぐに彼が誰か分かった。
「もしかして…シャーロック・ホームズさん?」ユメが恐る恐る尋ねると、男は微笑みながら頷いた。
「その通り。君たちはこの事件に巻き込まれたようだね」とホームズは言った。「実は、最近ロンドンで奇妙な事件が相次いでいるんだ。本の中のキャラクターが現実に現れたり、逆に現実の人物が本の中に迷い込んだりしている。」
「まさか、物語泥棒の仕業?」リョウタが心配そうに言うと、ホームズは鋭い眼差しで頷いた。
「そうだ。君たちも物語を守る使命を持っていると聞いたが、今回は私たちと協力してこの謎を解決しようではないか。」
こうして、ユメとリョウタはシャーロック・ホームズと共に、ロンドンの街で新たな冒険に挑むことになった。物語泥棒の陰謀を阻止するために、彼らは数々の謎を解き明かし、物語と現実のバランスを取り戻す旅に出るのだった。
ユメとリョウタはホームズに導かれ、ベーカー街221B号のアパートに到着した。そこで彼らはワトソン博士と出会い、事件の詳細を聞くことになった。
「最近、様々な本からキャラクターが抜け出し、街中を徘徊しているんです」とワトソンは説明した。「昨日はアリスが不思議の国から現れ、一昨日はジキルとハイドが同時に目撃されました」
ホームズは思案顔で言った。「物語の世界と現実が混ざり合っているようだ。これは単なる偶然ではない」
その時、窓の外から騒ぎ声が聞こえてきた。四人が急いで外に出ると、通りには巨人が立っていた。
「ジャックと豆の木の巨人だ!」ユメが叫んだ。
巨人は混乱した様子で周りを見回していた。ホームズが落ち着いた声で巨人に話しかけると、巨人は少し落ち着いたようだった。
「物語泥棒の仕業に違いない」リョウタが言った。「でも、どうやって元の世界に戻せばいいんだろう?」
ユメは栞を取り出し、「この栞の力を使えば…」と言いかけたが、突然強い風が吹き、栞が空中に舞い上がった。
「栞を追え!」ホームズが叫び、一行は栞を追いかけて街中を駆け回った。栞は最終的にロンドン塔に向かって飛んでいった。
ロンドン塔に到着すると、そこには黒いマントを着た怪しげな人物が立っていた。その人物の手には、ユメたちの栞と同じような栞がいくつも握られていた。
「やはり君が物語泥棒か」ホームズが言った。
物語泥棒は高笑いをし、「物語の世界と現実世界を混ぜ合わせ、新たな物語を創造するのだ!」と叫んだ。
ユメは勇気を出して一歩前に出た。「でも、それは間違っています。物語には物語の世界があり、現実には現実の世界がある。それぞれの世界の良さがあるんです」
リョウタも続いた。「物語は人々に夢と希望を与えるもの。現実と混ぜてしまっては、その魔法が失われてしまう」
ホームズとワトソンも頷き、四人の言葉に物語泥棒は動揺した様子を見せた。
そのとき、ユメのポケットから光が漏れ出た。取り出してみると、それは以前物語の中で出会った「物語の守護者」から贈られた特別な万年筆だった。
ユメは直感的にその万年筆を使い、空中に文字を書き始めた。「全ての物語が、正しい場所に戻りますように」
文字が輝き、あたり一面が光に包まれた。光が収まると、街にいた物語のキャラクターたちの姿が消え、物語泥棒も姿を消していた。
ホームズは感心した様子で言った。「見事だ。君たちは本当の意味で物語を守る力を持っているようだね」
ユメとリョウタは喜びを分かち合い、この冒険で学んだことを胸に刻んだ。彼らは現実世界に戻る前に、ホームズとワトソンに別れを告げた。
「また会えるかな?」リョウタが尋ねると、ホームズは微笑んで答えた。「物語の世界はいつでも君たちを待っているよ」
こうして、ユメとリョウタは無事に夢見堂書店に戻った。二人は今回の冒険を振り返りながら、これからも物語を守る使命を果たしていくことを誓い合った。そして、次はどんな物語の世界が彼らを待っているのか、その期待に胸を膨らませるのだった。
夢見堂書店に戻ったユメとリョウタは、興奮冷めやらぬ様子で今回の冒険を振り返っていた。
「ホームズさんたちと一緒に事件を解決できて本当に良かったね」とユメが言った。
リョウタも頷いて「うん、でも物語泥棒の正体はまだ分からないままだったね」と少し心配そうに答えた。
その時、店の入り口のベルが鳴り、一人の少年が入ってきた。黒髪にやや赤みがかった瞳を持つその少年は、年齢はユメたちと同じくらいに見えた。
「こんにちは」と少年は静かに挨拶した。「この本屋さんに、珍しい本があると聞いて来たんだ」
ユメは親切に応対しようと前に出た。「何か探している本はあるの?」
少年は少し考え込むような仕草をして「うーん、タイトルは覚えてないんだけど...物語の世界を旅する話だったと思うんだ」と答えた。
その言葉を聞いて、ユメとリョウタは顔を見合わせた。まさか、この少年が...?
「あの、君の名前は?」リョウタが尋ねた。
「僕?ヒカルだよ」少年は答えた。「佐々木ヒカル」
その瞬間、店内の本棚から一冊の本が落ちた。三人が驚いて振り返ると、そこには見覚えのある栞が挟まれていた。
ユメが恐る恐るその本を手に取ると、タイトルには『失われた物語の守護者』と書かれていた。
「これは...」ユメが言いかけたとき、栞が光り始め、三人は突然強い光に包まれた。
目を開けると、そこは幻想的な図書館のような空間だった。無限に続く本棚、空中を漂う文字、そして遠くに見える不思議な塔。
「ここは...物語の世界の中心?」リョウタが呟いた。
そこへ、老紳士のような姿をした人物が現れた。「よく来たな、若き守護者たちよ」
「守護者...ですか?」ユメが尋ねる。
老紳士は微笑んで答えた。「そうだ。君たちは物語を守る力を持っている。そして」と言って彼はヒカルの方を向いた。「君もまた、特別な力を持っているのだよ」
ヒカルは困惑した表情を浮かべた。「僕が...?でも僕は...」
老紳士は優しく続けた。「君は物語を創造する力を持っている。しかし、その力の使い方を間違えると、物語泥棒になってしまう危険性もあるのだ」
三人は驚きの表情を浮かべた。ヒカルは物語泥棒になる可能性があったのか。しかし、ユメとリョウタに出会ったことで、その運命は変わったのかもしれない。
「君たち三人で力を合わせれば、失われた物語を救い、新たな物語を紡ぎ出すことができる」老紳士は言った。「これからの君たちの冒険が、全ての物語の世界を守ることにつながるのだ」
そう言うと、老紳士の姿が徐々に透明になっていった。「さあ、新たな冒険の幕開けだ。頑張るのだ、若き守護者たちよ」
光が消え、三人は再び夢見堂書店に戻っていた。しかし、確かに何かが変わっていた。彼らの冒険は、まだ始まったばかりなのだ。
ユメはリョウタとヒカルを見て、決意を込めて言った。「私たち、一緒に物語を守っていこう」
二人も頷き、新たな絆で結ばれた三人の目は、希望に満ちて輝いていた。彼らの前には、無限の物語が広がっている。そして、その一つ一つを守り、紡いでいく冒険が、今まさに始まろうとしていたのだった。
三人が決意を新たにした瞬間、店の古い柱時計が12回鳴り響いた。その音が止むと同時に、『失われた物語の守護者』の本から不思議な光が漏れ始めた。
「また何か起こるみたいだよ」とリョウタが声を上げた。
本を開くと、ページの間から一枚の地図が現れた。それは「物語の地図」と呼ばれるもので、様々な物語の世界がどのようにつながっているかを示していた。
「見て!」ユメが地図の一角を指さした。「ここに赤い印がついてる」
その場所には「人魚姫の海」と書かれていた。
ヒカルが眉をひそめて言った。「人魚姫の物語に何か問題があるのかもしれない」
三人は顔を見合わせ、栞を使って人魚姫の世界に飛び込むことにした。
光に包まれた後、彼らの目の前に広がったのは美しい海底の風景だった。しかし、何かがおかしい。海の色が濁り、魚たちも元気がない。
「これは一体...」ユメが言いかけたとき、一匹の小さなカニが近づいてきた。
「お願い、助けて!」カニは必死の様子で訴えた。「人魚姫様の声が消えてしまったんです!」
三人は驚いて顔を見合わせた。人魚姫の声が消えた?それでは物語が進まなくなってしまう。
リョウタが決意を込めて言った。「よし、人魚姫を探そう」
海の中を泳ぎながら探していると、悲しげな表情で岩場に座る人魚姫を見つけた。彼女は口を動かしているものの、声が出ていない。
ヒカルが慎重に近づき、「僕たちは物語の守護者です。どうしてこんなことになったんですか?」と尋ねた。
人魚姫は悲しそうに首を振り、海の魔女の住処を指さした。
「きっと海の魔女が声を奪ったんだ」とユメが言った。「でも、どうやって取り返せばいいんだろう?」
その時、ヒカルがひらめいたように言った。「僕に考えがある。物語を少し書き換えてみよう」
ヒカルは目を閉じ、集中し始めた。すると、海の中に金色の文字が浮かび上がり始めた。
『人魚姫の純粋な心と、友人たちの勇気が結びつき、新たな力を生み出した』
その言葉と同時に、人魚姫の首元から小さな光が生まれた。それは彼女の声だった。
人魚姫は喜びの表情を浮かべ、「ありがとう」と言った。その声は海全体に響き渡り、濁っていた海の色が元の美しい青に戻っていった。
しかし、喜びもつかの間、突如として暗い影が彼らを包み込んだ。
「あら、あら。私の邪魔をする者が現れたようね」
振り返ると、そこには海の魔女が立っていた。彼女の手には、きらめく栞のようなものが握られていた。
「その栞は...」リョウタが驚いて声を上げた。
海の魔女は冷たく笑った。「そう、これは物語を書き換える力を持つ栞。これで全ての物語を私の思い通りにしてやるわ!」
ユメ、リョウタ、ヒカル、そして人魚姫。彼らは海の魔女に立ち向かう決意を固めた。物語の行方を左右する大きな戦いが、今まさに始まろうとしていた。
人魚姫が勇気を振り絞って前に出た。「私たちの物語は、私たち自身のもの。あなたには書き換える権利はありません」
その言葉に力を得て、ユメたちも前に進み出た。海の魔女との戦いが始まり、物語の世界の運命が、彼らの手に委ねられたのだった。海の魔女は高らかに笑うと、栞を掲げた。「さあ、この物語を私の思い通りにしてやる!」
栞が光り、周囲の景色が歪み始めた。海底の宮殿が崩れ、魚たちが姿を消していく。
「みんな、力を合わせるんだ!」ユメが叫んだ。
ヒカルは目を閉じ、集中した。「僕たちの物語は、僕たちで守る」
彼の言葉とともに、金色の文字が海中に現れ始めた。
『守護者たちの想いが一つになり、物語を守る盾となった』
その瞬間、三人の体が光に包まれ、人魚姫の声と一体化した。四人の力が混ざり合い、巨大な光の渦となって海の魔女に向かって進んでいく。
「な、何!?」海の魔女は驚いて後ずさった。
リョウタが叫ぶ。「物語は、みんなのもの。一人で勝手に変えていいものじゃない!」
光の渦は魔女の栞に当たり、栞はバラバラに砕け散った。
「い、いやああぁぁ!」海の魔女の悲鳴とともに、彼女の姿が泡となって消えていった。
静寂が訪れ、海の中が元の美しい姿を取り戻していく。魚たちが戻り、宮殿も元通りになった。
人魚姫は喜びの涙を流した。「ありがとう、みんな。私たちの物語を守ってくれて」
ユメたちは互いを見合わせ、安堵の表情を浮かべた。しかし、それも束の間のことだった。
突如、水面から大きな影が差し、巨大な海賊船が現れたのだ。
「おやおや、こりゃあ面白そうだねぇ」甲高い声が響き渡る。
甲板には、長い口髭を蓄えた海賊船長が立っていた。彼の手には、海の魔女が持っていたものとよく似た栞が握られていた。
「キャプテン・フック!」リョウタが驚いて叫んだ。
フックは不敵な笑みを浮かべた。「物語を自由に操れる力か。それはまさに、私の求めていたものだ」
ヒカルが眉をひそめて言った。「まさか、あなたも物語泥棒なの?」
「泥棒だと?」フックは高笑いした。「私は海賊だ。欲しいものは奪うのさ。今度は、全ての物語の世界を我がものにしてやる!」
そう言うと、フックは栞を掲げ、空に向かって振り上げた。するとたちまち、空が裂け、そこから様々な物語の世界が見えた。おとぎ話や冒険物語、SF小説など、ありとあらゆる世界が混ざり合い、カオスな光景が広がる。
「大変だ!」ユメが叫んだ。「このままじゃ、全ての物語が壊れちゃう!」
人魚姫が真剣な表情で言った。「私たちの世界だけじゃない。全ての物語の世界が危険にさらされているのね」
リョウタが決意を込めて言う。「僕たちが、全ての物語を守らなきゃ」
ヒカルもうなずいた。「うん、僕たちにしかできないんだ」
ユメは海面に浮かぶ『失われた物語の守護者』の本を手に取った。「この本を使えば、他の物語の世界にも行けるはず」
四人は顔を見合わせ、頷き合った。彼らの前には、壮大な冒険が待っていた。全ての物語を守るため、彼らはフックに立ち向かい、そして様々な世界を巡る旅に出ることになる。
物語は、まだまだ続いていく——ユメは『失われた物語の守護者』の本を開き、みんなで手を取り合った。「行くよ、みんな!」
光に包まれた四人は、次の瞬間、新たな世界に飛び込んでいた。
目を開けると、そこは巨大な豆の木が空高くそびえ立つ世界だった。
「ここは…『ジャックと豆の木』の世界?」リョウタが周りを見回しながら言った。
突然、地面が揺れ始め、巨人の足音が近づいてきた。
「隠れて!」ヒカルが叫び、みんなで近くの茂みに身を潜めた。
巨大な足が目の前を通り過ぎていく。しかし、その巨人はどこか様子がおかしかった。
人魚姫が小声で言った。「あの巨人、まるで操り人形みたい…」
ユメがハッとした表情で言う。「きっとフックの仕業よ。物語を勝手に操っているんだわ」
その時、遠くから叫び声が聞こえてきた。
「たすけてー!」
振り向くと、小柄な少年が巨人から必死に逃げている姿が見えた。
「あれはジャックだわ!」ユメが叫んだ。
リョウタが決意を込めて言う。「助けに行こう!」
四人はジャックのもとへ駆け寄った。
「僕たちが助けるよ!」ヒカルがジャックに声をかけた。
ジャックは驚いた様子で立ち止まった。「君たち、誰?」
「説明している時間はないわ」ユメが急いで言った。「とにかく、この世界を元に戻さなきゃ」
人魚姫が提案した。「私の歌で巨人を落ち着かせられるかもしれない」
みんなで頷き、人魚姫は美しい歌声を響かせ始めた。その歌声は巨人の耳に届き、巨人の動きが鈍くなっていく。
その隙に、ヒカルが目を閉じ、集中し始めた。
『本来の物語の力が目覚め、歪みを正す』
金色の文字が空中に浮かび、巨人を包み込む。すると、巨人の目つきが和らぎ、操り人形のような動きが消えていった。
「やった!」リョウタが喜びの声を上げた。
しかし、その喜びもつかの間、空が突然暗くなり、フックの声が響き渡った。
「こんなことで終わると思うなよ、小僧たち!」
空に巨大な海賊船が現れ、フックが甲板から彼らを見下ろしていた。
「次は簡単にはいかんぞ。お前たちの大切な現実世界でも、物語の力が暴れ始めているからな!」
フックの言葉に、ユメたちは顔を見合わせた。
「夢見堂書店が…!」ユメが心配そうに叫んだ。
リョウタが決意を込めて言う。「急いで戻らなきゃ。でも、この世界はどうする?」
ジャックが前に出て、「僕がこの世界を守るよ。君たちは急いで戻ってくれ」と言った。
人魚姫も「私も自分の世界に戻って、そこを守ります」と告げた。
ユメたちは感謝の言葉を伝え、再び『失われた物語の守護者』の本を開いた。
「行くよ、みんな。私たちの世界を守るんだ!」
光に包まれ、ユメ、リョウタ、ヒカルの三人は現実世界へと戻っていく。彼らを待っているのは、物語の力が暴走する夢見堂書店。そして、そこで繰り広げられる、さらなる冒険と戦いだった。
ユメ、リョウタ、ヒカルの三人が目を開けると、そこは確かに夢見堂書店だった。しかし、彼らが知っている書店とは全く違う光景が広がっていた。
本棚から本が飛び出し、空中を舞っている。物語の登場人物たちが次々と本から抜け出し、店内を歩き回っていた。赤ずきんちゃんが狼と追いかけっこをし、シンデレラがガラスの靴を探し回っている。
「なんてことだ…」リョウタが呆然と周りを見回した。
ヒカルが眉をひそめて言った。「フックの言った通りだ。物語の力が暴走している」
その時、奥の部屋からユメの両親の声が聞こえてきた。
「ユメ!リョウタ君!どこにいるの?」
三人は急いで声のする方へ向かった。奥の部屋に入ると、ユメの両親が本の山に埋もれそうになっていた。
「お父さん!お母さん!」ユメが駆け寄る。
「ユメ、よかった。無事だったのね」母親が安堵の表情を浮かべた。
父親が困惑した様子で言う。「一体何が起こっているんだ?本が勝手に動き出すし、物語の人物が現れるし…」
ヒカルが前に出て、「すみません、説明する時間がありません。僕たちに任せてください」と言った。
突然、店の外から大きな物音が聞こえてきた。窓の外を見ると、巨大な海賊船が空中に浮かんでいた。
「フックだ!」リョウタが叫んだ。
フックの声が響き渡る。「さあ、物語の力を全て吸収してやる。この現実世界もろとも、私のものになるのだ!」
海賊船から不思議な光線が放たれ、街中の本や物語のキャラクターたちがその光に吸い込まれていく。
「このままじゃ、全ての物語が消えてしまう!」ユメが焦った様子で言った。
ヒカルが決意を込めて言う。「僕たちにしか止められない。さあ、行こう!」
三人は急いで店の外に飛び出した。街は物語のキャラクターと現実の人々が入り混じり、大混乱に陥っていた。
「どうすれば…」リョウタが途方に暮れた様子で呟いた時、ユメがハッとした表情を浮かべた。
「そうだ!私たちには物語を守る力がある。みんなの想像力を集めれば、きっと…」
ユメは大きな声で叫び始めた。「みんな!物語を信じて!想像力を解き放って!」
リョウタとヒカルも同じように叫び始める。その声に呼応するように、街の人々や物語のキャラクターたちが次々と反応し始めた。
徐々に、人々の周りに淡い光が現れ始める。その光は次第に強くなり、フックの放つ光線と拮抗し始めた。
「な、何だと!?」フックが驚いた様子で叫ぶ。
ヒカルが目を閉じ、集中する。
『全ての人の想像力が一つになり、物語の世界と現実世界の調和を取り戻す』
金色の文字が空中に現れ、街全体を包み込んでいく。フックの光線が弱まり、吸収されていた本や物語のキャラクターたちが解放されていく。
「や、やられた…」フックの声が消えていき、海賊船も姿を消した。
街に平穏が戻り始める。物語のキャラクターたちは元の本の中へと戻っていき、飛び回っていた本も棚に収まっていく。
三人は安堵の表情を浮かべた。しかし、それも束の間のことだった。
突如、空に大きな亀裂が走り、そこから強烈な光が漏れ出してきた。
「まだ終わっていないようね」謎の声が響き渡る。
三人の前に、光り輝く人影が現れた。それは老紳士の姿をしていたが、どこか神々しい雰囲気を放っていた。
「私は物語の神。お前たちの活躍を見守ってきた」老紳士が言う。「しかし、物語の世界と現実世界のバランスは、まだ完全には取り戻されていない」
ユメたちは息を呑んだ。さらなる試練が彼らを待ち受けているようだった。
物語の神の言葉に、ユメ、リョウタ、ヒカルの三人は身を引き締めた。
「バランスを取り戻すには、どうすればいいんですか?」ユメが尋ねた。
老紳士は微笑んで答えた。「その答えは、君たち自身の中にある。これまでの冒険で学んだことを思い出すんだ」
三人は顔を見合わせ、これまでの経験を振り返った。物語を守ることの大切さ、想像力の力、そして何より、協力することの重要性。
ヒカルが口を開いた。「僕たちには、物語を創り出す力がある。その力で、新たな物語を紡ぎ出せば…」
リョウタが続けた。「そう、新しい物語で、現実と物語の世界をつなぐんだ!」
ユメも頷いた。「みんなで一緒に物語を作り上げれば、きっとバランスを取り戻せるはず!」
物語の神は満足げに頷いた。「その通りだ。さあ、始めるがいい」
三人は円陣を組み、手を取り合った。ヒカルが目を閉じ、集中し始める。
『三人の守護者が紡ぎ出す新たな物語。それは現実と幻想の架け橋となる』
金色の文字が空中に浮かび、光の糸となって三人を包み込んでいく。
ユメが語り始めた。「はるか昔、物語の世界と現実世界は密接につながっていました」
リョウタが続ける。「しかし、人々が想像力を失っていくにつれ、その絆は薄れていきました」
ヒカルが加える。「そこで、三人の若者が選ばれたのです。物語と現実の橋渡しをする守護者として」
三人の声が重なり、物語が紡ぎ出されていく。その言葉が生み出す光は、街全体を包み込み、さらには空の亀裂にも達していった。
物語が進むにつれ、不思議な現象が起き始める。街の人々の目が輝き始め、子供たちは本を手に取り、大人たちも懐かしそうに昔話を思い出し始めた。
書店や図書館に人々が集まり、本の読み聞かせが始まる。公園では即興の演劇が行われ、カフェでは物語について語り合う人々の姿が見られた。
街全体が物語で溢れ、しかしそれは現実世界に溶け込み、調和していった。
物語の最後に差し掛かったとき、三人は同時に叫んだ。
「物語は、私たちの中に生き続ける!」
その瞬間、まばゆい光が街を覆い、空の亀裂が塞がっていく。光が収まると、街は元の姿に戻っていたが、どこか温かな雰囲気に包まれていた。
物語の神が満足げに微笑んだ。「よくやった。君たちは見事に任務を果たした」
リョウタが尋ねた。「これで全て終わったんですか?」
神は首を振った。「いや、これは始まりに過ぎない。君たちの本当の仕事は、これからだ」
ユメが不思議そうに聞いた。「これからって?」
「物語と現実のバランスを保ち続けること。そして、人々の心に物語の素晴らしさを伝え続けること。それが君たちの使命だ」神は答えた。
ヒカルが決意を込めて言った。「分かりました。僕たち、頑張ります」
神は満足げに頷き、光となって消えていった。
その後、夢見堂書店は以前にも増して賑わうようになった。ユメの両親は驚きながらも、娘たちの活躍を誇りに思っていた。
三人は日々の生活を送りながら、時折栞を使って様々な物語の世界を訪れては、トラブルを解決したり、新たな物語の種を蒔いたりしていった。
ある日、ユメが書店で本を整理していると、見知らぬ少女が訪ねてきた。
「あの、この本屋さんには不思議な本があるって聞いたんですけど…」
ユメは微笑んで答えた。「ええ、たくさんありますよ。どんな本をお探しですか?」
少女の目が輝いた。「冒険の物語が読みたいんです!」
ユメはリョウタとヒカルに目配せし、三人は顔を見合わせて頷いた。新たな冒険の始まりを予感させるその瞬間だった。
書店の奥から、栞が柔らかな光を放った。新たな物語が、今まさに始まろうとしていた。
夢見堂書店を中心に、物語と現実が調和した世界。そこでは、想像力が人々の心を豊かにし、日々新たな物語が生まれ続けている。
ユメ、リョウタ、ヒカルの三人は、これからも物語の守護者として、そしてまた新たな物語の紡ぎ手として、その使命を果たしていく。
彼らの冒険は終わらない。なぜなら、物語もまた、終わることのない冒険だからだ。
本棚に並ぶ一冊一冊の本が、まるで生き物のように息づいているかのよう。夢見堂書店に集う人々の心の中で、無限の物語が花開いていく。
そして、どこかで新たな栞が輝きを放ち、次なる冒険への扉が開かれるのを待っている。
物語は、これからも永遠に続いていく——。
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