第43話 ヒロインに怯える主人公なんて見たくなかった……

 まあ……ルシアがいいたいこともわからないでもない。


 ルシアが指摘しているようにアリスの力が異常なのは俺のレベリングのやり過ぎに一因がある。


 とはいえ、アリスが闇属性の魔法を習得していたことは俺も最近になって初めて知ったことであり、心当たりはない。


 それに、アリス……というか主人公——ルシア——も含めてプレイヤーキャラのレベルの上限は本来99のはずである。

 

 なぜアリスのレベルが999になっていてあそこまでの力を持ち得ているのか……。


 俺はアリス推しだったから、最後までアリスを使っていたが、他のキャラと比べてもアリスの性能はそこまで高い方ではなかった。


 帝国の侵攻が未だに本格的に起きていないことやルシアが現れたことも含めて、少しずつストーリ上の歴史とずれてきているのかもしれない。


 まあ……それが何が原因かは不明だが……。


 俺は極力目立たないように行動しているが、本来イレギュラーな存在である転生者はそれだけでそもそもこの世界の理を捻じ曲げてしまっているのかもしれない。


 それこそバタフライ・エフェクトのように……。


 しかし、そのことをルシアに説明しても、理解されないだろうし、信じてはくれないだろう。


 ルシアは完全に俺がアリスを奴隷として虐げてきたと考えているようだしな。


 いや……ある意味ではそれも正しい。


 実際、俺は未だにアリスを解放していないのだしな。


 しかし、さすがに主人の立場を利用して、アリスたちに手を出すような下劣な行為はしていないのだが……。


 俺が返答に苦慮して沈黙していると、ルシアは


「とにかく……僕はアリス姫を必ずあなたから救い出す。僕に奴隷紋を刻んだからといって、勝った気になっているようだけれど、僕にはまだ仲間がいる。この国の姫君も僕に協力してくれているんだ。だから、悪いことは言わない。いますぐ僕を……そしてアリス姫を解放しなさい」


 と、さらに詰め寄ってくる。


 この国の姫君って……さっきのナタリアのことか……。


 ナタリアとルシアは知り合い同士なのか……。


 小国とはいえ一国の姫と知古を築いているとはさすが主人公のカリスマといったところか。


 一応はルシアは平民設定だった気がするが……。

 

 いや……何か後付け的に実は古代の王族の血筋を引いていたとかいう設定があったような気が……。


 とはいえ、ますます面倒になったな。


 俺が知人であるルシアを奴隷にしてしまったことをナタリアが知ったら、間違いなく俺は王国のお尋ね者になってしまう。


 ルシアには悪いが、当面ルシアは屋敷の中から極力出ないようにしないとな。


 少なくともナタリアがこの街にいる間は……。


 それにしても……ルシアはアリスがいなくなった途端に俄然主人公っぽい凛々しさを取り戻してきたな。


 先ほどまでは完全におびえているか弱い少女といった印象があったが、今はゲーム内の立派な主人公といった感じである。


 別に俺はそこまでルシア……主人公推しだった訳ではないが、やり込んだゲームだけにどのキャラにもそれなりに思い入れがある。


 あまりにもゲーム上の主人公のキャラと違う姿を見るのはそれはそれで何とも言えぬさびしさがある。


 その意味では今のルシアはまさに俺がイメージしてきた主人公にふさわしい佇まいではあるが……。


 だが……こうなると、ルシアは当然俺の言うことなどに素直に従ってはくれないだろう。


 さて……どうしたものか……。


「ご主人様」


「うお!」

「きゃ!」


 俺とルシアはタイミングよく、驚きの声を上げてしまう。

 

 振り返ると、いつのまにかアリスが部屋の中に立っていた。


 アリスは顔をだいぶこわばらせているように見えた。


「いったい何をなされていたのですか……」


 アリスは眉根をよせて、俺とルシアを交互にじっと見る。


 アリスのその視線でようやく気づいたのだが、俺はルシアに詰め寄られて、

彼女との距離はだいぶ近くなっていた。


 というか……身体が密着していた。


「い、いや……ち、違う。これはただ俺はルシアと話をしていただけで……」


 と、俺はそう弁解して、あわててルシアと距離を取る。


 が……アリスの表情と視線はますます険しくなる。


 アリスのその表情を見るに、完全に俺はルシアに何かよからぬことをしていたと思われているようだ。


「あ、アリス様! ぼ、僕は何もしていません!」


 と、なぜかそこで被害者ポジションであるルシアがアリスにそう必死に弁解をする。


 その様子は、俺に対する態度とはまるで正反対である。


 なんならその場で土下座しそうな勢いですらあった。


「……ルシア、あなたにはまだ躾が足りなかったようですね」


「ひ……そ、そんな……アリス様……」


 ルシアは涙目になり、身体をガクガクと震わせている。


 一度アリスに殺されかけたのだから、ルシアが怯えるのもしかたがないとはいえるが、ルシアのその態度はすこしばかり異常に見えた。


 さっきまではあんなに凛々しくまさに主人公のように見えていたルシアであったが、今は見る影もない。


 そういえば原作でもルシウス……いやルシアはヒロインであるアリスに微妙に尻に敷かれていたという印象があったな。


 ひょっとしたら、二人の関係はもともとこういうものだったのかもしれない。

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