社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。
第33話 ついにケモノ娘たちが本心があらわになったか……
第33話 ついにケモノ娘たちが本心があらわになったか……
同時に、ミレーヌたちは目にも止まらぬ速さで俺から離れる。
そして、地面にかがみ込むとなにかを警戒するかのように通りの先を睨んでいる。
彼女たちは、その美貌と亜人種ということを除けば、白い布服に長いスカートといった町娘のような普通の格好をしている。
だからという訳ではないが、俺はすっかり当たり前の事実を一瞬忘却していた。
そうここにいる女性たちは今やそのほとんどが歴戦の勇士であるということを……。
そうそのように育てて——レベリングして——しまったのはまさに俺なのだ。
先ほどまでは美しい街娘……いやケモノ娘にしか見えなかった彼女たち……。
だが、今では完全に戦士の顔になっていた。
隠していた爪も文字通りもう隠していない。
ここからでもわかるくらいに鋭利に伸びた爪は人の皮膚など簡単に切り裂きそうである。
いやはっきり言って今の彼女たちならば人はおろかだいぶ皮膚が厚い魔獣の装甲だって、容易に貫通するだろう。
現に俺の皮膚は先ほどわずかに撫でられただけでも、少しばかり出血していた。
……あのまま誘惑に負けて、彼女たちの家に行っていたら、俺は夢心地のまま天に召されていたかもしれないな。
奴隷紋は完璧なものではない。
彼女たちほどの使い手が不意打ちで襲いかかってきたら、奴隷紋が発動する前に俺の首が転がっていてもおかしくはない。
やはり、どの世界も……たとえ異世界であっても、現実は甘くない。
俺は頭をふって、妄想から現実に立ち返る。
そして、リアルを現実をしっかりとその目に見据える。
ミレーヌたちは、「フウ……フウ……」と、荒い息をして、通りの先を睨んでいる。
完全に戦闘モードに入っている。
彼女たちがこんなに怖い顔をしているのを見るのは初めて……いや最初に出会った時以来だ。
そういえば、あの時もこんな調子で思いっきり身体を引っかかれた気がする。
ミレーヌもそうだが、ケモノ娘たちの人族に対する不信感は相当根深い。
そういう分けで、俺はケモノ娘たちと出会う度に様々な種類の爪で体を引っかかれたものである。
俺はふと布服を引っ張り、隙間から自身の肌をのぞき込む。
そこには大小無数の引っかき傷が刻まれている。
はあ……もともと人相が悪い顔で職業が奴隷商人、あげくに身体もこれじゃなあ……。
闘いの古傷……であれば、まだ格好もつくが……。
実際は人間不信の幼いケモノ娘たちに思っきり引っかかれただけである。
これではますます女性との出会いが遠のいてしまう。
転生したらイケメンになるとか若くなるとかが定番なのに……。
前世より状況が悪くなるというのはどうなのだろうか……。
まあ……文句をいってもしかたがない。
それにしても……ミレーヌたちは先程からいったい何を警戒しているんだ。
俺がそんな疑問を抱きながら、彼女たちの視線の先を見る。
一人の身なりのよい若い女性が通りを歩いてくる。
その隣には衛兵が二人……その女性を守るように脇を固めている。
「人族だ……人族が……きた……」
「兵を連れて……人族の奴らが……」
俺の目には、貴族の若い令嬢とその近衛の者がいるようにしか見えない。
令嬢の方まで、なぜか帯剣しているのが気になるが……。
まあ……令嬢とはいえ貴族の嗜みとして剣術くらいは習っていてもおかしくはないか……。
いずれにせよ、この貧民街に人族がましてや貴族がやってくるのは、珍しい光景である。
迷い込んだか……あるいは物見遊山的にこの街区に来たのか……いずれにせよ適当に相手をしてさっさと退散願うだけだ。
余計なトラブルが起きる前に……。
とりあえず、ミレーヌたちが、先程から異様とも思える殺気を身にまとっていた原因がわかった。
ここの住民……というかケモノ娘たちは、人族に対して並々ならぬ憎悪と敵意を有している。
人族の帝国兵に村を焼き討ちされて、家族を殺されて、奴隷にされたのだから、当然なのだが……。
むろん、その憎しみは数年程度で無くなるものではない。
彼女たちが警戒しない人族といえばアリスくらいなものである。
アリスは人族であるが、同じ帝国の犠牲者で、さらに同じく俺の犠牲者——奴隷——だから、おそらく彼女たちの中では例外扱いなのだろう。
が……それでも仲が良いという訳ではないようだ。
アリスはいつからか亜人種の女性たちをなぜか警戒するようになってしまった。
ミレーヌたちもミレーヌたちで表面上はアリスに従っているが、どこかアリスに対して不満があるように見える。
先ほどもアリスに対する不平を言っていたしな……。
昔は、アリスとミレーヌたちは仲良く遊んでいたのだが……。
彼女たちは成長するにつれて、どこか不協和音が奏でられることになってしまった。
その理由は不明だが……心当たりはある。
おそらく、種族を超えて友情を育むのは慣習や文化の違いもあり、存外に難しいのものなのだろう。
前世でも、国際結婚は離婚率が高かった。
やはり、リアルはフィクションのように甘くはない。
ところで、彼女たちのもう一人の人族……俺……に対する態度はどうなのかというと……。
間違いなく憎まれているだろう。
今彼女たちが向けている殺意と同等いやそれ以上に——。
奴隷紋のおかげで表面化しないだけだ。
俺は、肌がひりつくような彼女たちの殺気を前に、現実を否が応でも再認識させられる。
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