社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。
第29話 ケモノ娘たちの様子がおかしい……反乱か……
第29話 ケモノ娘たちの様子がおかしい……反乱か……
そう……彼女たちもまたアリスと同じなのだ。
奴隷の身分のまま、いつまでも解放しようとしない俺に対して日々憤りを募らせている。
だから、俺は卑劣とは思いながらも、彼女たちを避けていたのだが……。
「ねえねえみんな……何をしているのかな」
と、呑気そうな女性の声が響き渡る。
俺を取り囲んでいたケモノ娘たちは、一斉に声のする方向に体を向ける。
「み、ミレーヌ!? 戻っていたの!?」
そこにはふわふわの毛並みに覆われた狼の耳と尻尾をなびかせて、腕を組んで立っている美しい少女がいた。
俺にとってはこの世界でアリスについで付き合いが長い人物……狼娘のミレーヌだ。
可愛らしい狼耳とワンピースの下から出ている尻尾にとても美しい顔……。
ミレーヌの年齢はアリスと変わらない……いや少し幼いくらいである。
一見すれば、彼女たちが、この狼耳の美少女……ミレーヌに対して脅威を抱く理由はないように思える。
が……周りにいるケモノ娘たちはミレーヌを前にしてやけにたじろいでいる。
おそらく今やそこらの魔獣……いやドラゴンを前にしても物怖じしないであろうケモノ娘たちが……。
理由は簡単で、ミレーヌの実力が、今や猛者揃いのケモノ娘たちの中でも一番といってよいほどに成長しているからだ。
獣人たちの文化には、年齢を問わず戦士としての力に秀でている者がリーダーに選ばれる。
そういう訳で、ミレーヌはいつの間にか、ケモノ娘たちのリーダー的な存在におさまっていた。
実際のところミレーヌは、帝国に滅ぼされた獣人たちの集落の村長の娘であったらしいから、指導者としての気質をもともと持っていたのかもしれない。
以前初めて会った時にミレーヌから
「わたしは誇り高いダイアウルフ族の族長の娘だ! そのわたしを奴隷にしてただですむと思うなよ! 汚らわしい人族め!」
と言われたことを思い出していた。
記憶とともに、その時に思いっきり引っかかれた古傷も思わず疼いてしまった。
いずれにせよ俺の周囲にいたケモノ娘たちは、一見すれば可愛らしい狼耳の少女に対して、畏れと尊敬の念を抱いているように見えた。
「うん……少し目的の獲物を狩るのに手間取ってしまったけど、ついさっき戻ってきたんだ。それよりこれはどういうことなのかな? わたしがいない間に、ライナス様になにをしようとしていたのかな?」
「こ、これは……ち、違うの。ただ……わたしたちは——」
「ねえ……何をしようとしていたの? 教えてよ?」
ミレーヌはそうニッコリとほほえみながら、ケモノ娘たちにずいっと近づく。
口調もいたって穏やかである。
けれども、ケモノ娘たちはミレーヌの態度を額面通りには受け取らなかったようだ。
ケモノ娘たちは、不自然なくらいに大げさな反応をする。
「……み、ミレーヌ……落ち着いて……つい出来心で……」
そう言って、彼女たちは、両手を広げて、涙目になっている。
ケモノ娘たちのあまりにも怯えている様子を見かねて、
「み、ミレーヌ……俺は別に——」
と、思わず声をかける。
「……ライナス様、ごめんね。少し待っていてもらってもいいかな? 内々の話があ
るから……」
ミレーヌは俺の方を振り返ると、満面の笑みでそういう。
だけど、ミレーヌの黄金色の瞳は笑っていなかった。
俺は情けないことに、それだけで気圧されてしまった。
ミレーヌのことを畏れているのはケモノ娘だけではない。
俺も彼女たち以上にミレーヌのことを畏れている。
幼くて未熟なミレーヌに引っかかれた時ですら、未だに俺の身体に傷が残っているのだ。
今のミレーヌに本気で引っかかれたら……。
考えただけでも空恐ろしい。
そして、俺とミレーヌの関係もまたアリスと大差ないほどに破綻しているのだから……。
俺はミレーヌの後姿を見ながら、背筋を寒くさせていた。
とうのミレーヌは、そのままケモノ娘たちとともに路地の端へと行く。
そして、何やら彼女たちと話をしている。
———
「ねえ……みんなと約束したよね。ライナス様には手を出したらダメだって……ライナス様にはもうツガイがいるんだから……わたしというツガイが……そのために、みんなと力比べをしたんでしょ?」
「そ、それはわかっているけど……ご、ごめんなさい……そのライナス様と会うのが久しぶりで……ついつい興奮してしまって——」
「うんうん。わかるよ。みんなの気持ちは……ライナス様みたいに強くてかっこよくて、優しくて、とてもとても……魅力的なオスが近くにいたら、我慢できないよね。ましてやライナス様はわたしたち全員にとって命の恩人だしね」
「そ、そうよ。わたしたちはただ帝国兵から救って頂いた恩人のライナス様に報いようと——」
「……でもダメだよ……。ライナス様のお相手をするのはわたし……だけなの。わかっているよね?」
「ミレーヌ……あなたが、わたしたちの中で一番強くて、ライナス様のツガイになる権利があるのは認めるけれど……。でも……いくらミレーヌでもライナス様のような偉大な族長となる方を独占するなんて……あんまりよ。人族は一体一のツガイを作るのでしょうが、わたしたち種族はそうではないではないわ。だから、わたしたちも妾
として——」
「そ、それはいずれ考えるけど……でもまずはわたしが——」
「わたしたちよりもまずはアリス様のことをなんとかするのが先よ。ライナス様のような偉大な方の子孫を築き、群れを成すのはわたしたちの種族としての使命なのに……アリス様はライナス様を独占して離そうとしないし」
「そうよ……ミレーヌ。あなたはわたしたちのリーダーなのだから、まずはアリス様からライナス様を取り戻すことが責務よ!」
「そ、それはよくわかっているよ……いつまでもアリスの好きなようにはさせないつもり。だからこその武者修行だったのだし……って……もう! なんか話をはぐらかされた気がするけど……まあいいか……久しぶりにライナス様と……フフ……」
——
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