社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。
第17話 番外編——ルナティック戦記の隠しデータ——
第17話 番外編——ルナティック戦記の隠しデータ——
この物語の主人公——ルナティック戦記の主人公ではない——こと転生したライナスは、あるゲーム上の重大な事実を見逃している。
ルナティック戦記を遊びつくしたはずの転生ライナスがその事実を知らないのも無理はない。
それはあくまでも隠しファイル——開発上のデータに過ぎないからだ。
そして、それはゲームが発売されてから四半世紀後にひっそりとギークたちによって見つかり、最近記事にされたばかりであった。
社畜であった転生ライナスはその事実を知ることなく、不運……いやある意味で幸運にも予期せぬ死により今生を全うし、転生してしまったのだ。
——————
『カルト的人気を誇った懐かしのRPG「ルナティック戦記」に今更新事実が判明!?』
四半世紀前に発売されて人気を博したRPG「ルナティック戦記」。
古参のゲーマーならば覚えている人も多いかもしれない。
当時としては斬新なリアル重視のストーリー展開、世界観、ヒロインの描き方……。
そうした王道から外れた展開がユーザーを引き付けて、一部ファンからは今も熱狂的に支持されている懐かしのRPGだ。
そんな「ルナティック戦記」についてこの度、あるニュースが飛び込んできた。
「ついにリメイクか!?」と期待したファンがいたとしたら、謝りたい。
残念ながらそうではない。
「ルナティック戦記」を制作した会社は既に消滅している。
そして、複雑な権利関係を巡って、ファンからの要望が強いにも関わらず、リメイクは絶望視されている。
今日、紹介したいニュースは別である。
「ルナティック戦記」のデータを解析していたファンの一人が、この度、新たなデータを発見したのだという。
そのデータは、ゲーム上では登場しない「ボス」であり、そのステータスの値から考えると、本来であればラスボスとして設定されていたのではないかというのだ。
しかもその「ボス」の名称は「アリス姫」となっているというのだ。
ファンならば、この名前ですぐにピンときたかもしれない。
※ファンではない方に説明すると、ルナティック戦記のヒロインの名前はアリスであり、彼女は姫という設定なのである。
つまり、このデータが本当だとしたら、ヒロインのアリスが実は——
——————
ルナティック戦記での正規のデータでは確かにヒロインたる「アリス・ルーンホールド」は闇属性を使えない。
だが、このデータ上では、アリスはあらゆる闇属性を使える。
さらには、ヒロインであり仲間である「アリス・ルーンホールド」ではなく、「アリス姫」という名称の敵として設定されている。
そして、その「アリス姫」のステータス値は、正規ルートのラスボスをはるかに凌ぐものとなっている。
そうちょうど皮肉なことに転生ライナスが目のあたりにして、恐れおののいているような強さなのだ——。
ルナティック戦記の正規のストーリー上で、アリスは一応ヒロインであった。
だが、当時のユーザーが一般的にイメージするRPGのヒロイン像とアリスの人物描写はだいぶ乖離があった。
アリスは登場してからずっとどこか影があった。
5年間も奴隷にされていたという設定からしてヒロインとしては異質である。
まず、アリスはヒロインであったが、主人公ルシウスとの関係は最後までそこまで深まらなかった。
終始アリスとルシウスの関係はどこか壁があった。
それだけではなく、アリスはヒロインとは思えぬ皮肉で冷笑的な発言、帝国への底しれぬ怒りを隠そうとせず、奥歯に物がはさまったような意味深な物言いを物語上で連発していく。
そうした数々の設定により、ルナティック戦記は王道とは言えぬ扱いになり、大ヒットはしなかった。
逆にそうしたスレた設定が、ある意味で中二病心をくすぐり、カルト的な人気を得ることになったのだ。
ちなみに、アリスの数々の発言の伏線は結局回収されずに、物語はエンディングを迎えることになる。
終盤に唐突に現れたラスボス——帝国に封印されていた太古の魔獣——との闘い、勝利でルナティック戦記の物語は幕を閉じる。
当時から、その唐突さに疑問を抱くユーザーは多かった。
中盤までの展開に比べて、あまりにも取ってつけたような最後だったからだ。
エンディングでも帝国やアリスたちの運命はほとんど触れられずにあっさりと終わりを迎える。
だから、アリスの設定に何か裏があるのでは……とするファンの声はあった。
その答えが、ギークたちが見つけ出したデータにあった。
彼らは敵と設定されていたアリス姫とその隠しデータからある一つの結論を導き出した。
アリスこそが、真なるラスボスとして設定されていたのではないかと……。
物語上で、帝国は主人公たちの活躍で、徐々に勢力を減衰する。
だが、それでも帝国の力は未だに健在であった。
そこに、古の魔獣たちが封印から目覚めて、帝国領内を荒らし回り帝国は大混乱に陥る。
しかし、いったいなぜ封印が解けたのか、誰が解いたのかは言及されることがなかった。
主人公たちは物語上でその封印の場所を訪れてわざわざ守護するイベントを描いているのにも関わらず……。
アリスがその黒幕ならば……すべての説明はつく。
何よりもラストダンジョンの致命的なバグも説明がつく。
ラストダンジョンでは、モブの敵もラスボスも何故かアリスに対して攻撃してこない。
まるでアリスは本来ならばそこに存在しないかのようだ。
データを見つけたギークたちが導き出した開発者の真意……ルナティック戦記の真のストーリーはこうだ。
アリスはパーティー加入時——奴隷商人から救出された時に既に闇落ちしていた。
王国を滅ばされた後の5年間の過酷な奴隷生活によってアリスの心身は蝕まれてしまった。
アリスは主人公の仲間として活動しつつ、各地の封印を解いて周り、帝国への復讐を果たそうとしていた。
そして、終盤で離脱し、ラスボスとして現れるはずであった。
だが、その設定では多くのユーザーから受け入れないという判断のもとで、最終的にボツになったのだろう……と。
このギークの分析が正しいかどうかはわからない。
ルナティック戦記の制作会社は紆余曲折を経て、いまは解散している。
それに、開発者の名前も知られていない。
いずれにせよ今さら正規ルートのアリスの運命を議論しても意味はない。
なぜなら、既に転生ライナスの目の間にいるアリスも完全に闇堕ちしているのだから……。
だからこそ闇魔法を自由自在に使えるのだ。
転生ライナスとの5年間は、アリスの本来の奴隷生活とは全く違うものになった。
それにもかかわらず……なぜアリスは闇堕ちしてしまったのか……。
闇には二種類ある。
憎しみと愛……。
それは表裏一体だ。
帝国に向けられるはずだったアリスの底しれぬ漆黒の憎悪……。
それが満たされない愛の渇望へと転換した時、やはり人は同じくらい深い闇に落ちるのかもしれない。
そして、ヤンデレ化して、ラスボス以上の力……いや本来のデータすらもはるかに超越する力を持つに至ったアリスがどういう選択をするのか……それはまだ誰にもわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます