社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。
第1話 いくらなんでも奴隷商人はないだろう……
社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。
kaizi
第1話 いくらなんでも奴隷商人はないだろう……
それにしても、いくらなんでも、もっとマトモな転生先があったのではないかと思う。
チート能力を持った勇者になってハーレム生活とか……そこまでは高望みはしない。
今流行りの悪役貴族とかでもいい。
もう前世で散々働いたから、しばらくはあくせくと仕事をしたくないしな。
まあ……でも、そもそも俺は目立つのが嫌いだし、人見知りもする。
だから、何の能力がなくてもよい。
それに、貴族でなくともよい。
ただまったりとスローライフを送れる田舎の村の農家とかでもよかった。
そこで、幼馴染の気立ての良い子と、仲良くなって……それで、成長するにつれて、両思いになって……。
でも、なかなか互いに一歩を踏み出すことができずにいて……。
だけど、ついに二人は一線を超えて、俺はその可愛い幼馴染と家庭を持って、質素だけど静かな生活を——。
「ここから出せぇ!! このクズがぁぁ!!」
「この卑怯者がぁ!!!」
俺は前世と同じように到底叶わぬ夢想をしていた。
ただし、そこはボロアパートの古びたベッドの上ではなく、自分の店の中で………。
そして、俺の妄想はいつものように打ち切られた。
毎度のことながら、人々の叫び声が俺の店の中で響き渡ったからだ。
入荷したばかりだと、いつもこんな感じである。
最初に聞いた時は、トラウマものだったけれど、今では俺はこんな声にもすっかり慣れてしまった。
人というのはどんな環境にも馴染むものだ。
そう……5年という月日は人をあらゆることに慣れされるのに十分な時間である。
ところで、店の中には当然商品が並んでいる。
俺の店の商品は、武器、防具、食べ物……とかではない。
生きた人だ。
みな大小それぞれのケージの中に入れられている。
そして、ある者は、俺のことを虚ろな目で、ある者は、非常な殺意を持って俺を睨んでいる。
俺の目の前には唯一店の中でケージに入っていない人間がいる。
メイド服を身に纏った少女。
いや……美少女といってよいだろう。
彼女の白いエプロンの胸元にはフリルがあしらわれ、彼女のグラマラスな胸がさらに強調されている。
そして、だいぶ短めの丈のドレスからは、とても綺麗で滑らかな脚が大胆に見え隠れする。
これだけ煽情的な服装をしておきながら、清楚さが醸し出されているのは彼女の美貌とその上品な佇まいがなせるわざだろう。
彼女は、一つにゆった長く輝く金髪をふわりとなびかせながら、
「……お呼びでしょうか。ご主人様……」
と、一礼をして、いつものようにそう静かに言う。
俺は彼女の顔をチラリと見る。
と、彼女の大きくて澄んだ美しい青色の瞳がこちらを見返してくる。
俺は、思わずその瞳に吸い込まれそうになってしまう。
男ならば……いや誰でも思わず目を離すことができないほどの美しい少女。
毎日会っているのにも関わらず俺は未だに彼女の美しさには慣れることができない。
この美少女の名は、アリス・ルーンホルド……と言う。
俺はアリスのことを非常によく知っている。
アリスとはかれこれもう5年の付き合いになる。
だけど、俺はその前から彼女のことをよく知っていた。
というのも俺が転生したこの世界は、俺にとっては非常に馴染み深い世界だったからだ。
そう……この世界は、25年前に一斉を風靡したカルト的人気のあるRPG「ルナティック戦記」なのである。
そして、アリスは、そのゲームの中のヒロインである。
俺はこのゲームを中高生時代に青春——リアル——を棒に振るくらいにやりこんだ。
だから、アリスは俺にとって初恋の人といっても過言ではない。
ドット絵でしか見ることができなかった憧れのアリス。
そんなアリスがリアルに……8Kの画質で……俺の隣にいる。
さらに甲斐甲斐しく俺のメイドをしてくれている。
まさに夢のような状態だ。
そう……一見すれば転生バンザイとなるはずなのだが……。
ご存知のとおり、現実はそう甘くない。
たとえゲームの世界であっても……。
まずもって、俺はこのゲームの主人公ではない。
むしろ主人公とは真逆の存在といってよいだろう。
まどろっこしい説明をしてもしかたがない。
俺が置かれた状況を一言で説明しよう。
俺は「ルナティック戦記」に出てくるモブ悪役に転生してしまった。
そう……何の因果か俺が転生したのは『奴隷商人』だったのだ。
つまり、ケージの中の人々は、俺の商品であり、俺の奴隷という訳だ。
彼らが俺を殺意満々で睨むのも当然という訳だ。
ちなみに、モブのため俺——奴隷商人——にはゲーム上では固有名は与えられていない。
とはいえ一応名乗っておこう。
この世界での俺の名前は、ライナスという。
そして……転生前の名前は……いや誰も興味はないだろうから、そこはいいだろう。
話を戻そう。
奴隷商人には固有名すら与えられていなかったが、幸か不幸かイベントについては与えられている。
そう……物語序盤に、アリスに無様に倒される——殺される——という大事なロールが与えられているのだ。
ストーリーはこうだ。
ヒロインのアリスは、ルーンホルド王国の姫である。
が、ルーンホルド王国は、大陸に覇を唱える強大な帝国——ガルーン帝国——に滅ぼされてしまった。
アリスは、なんとか逃げ延びたのだが、途中で野盗たちに捕まり、奴隷として売られてしまう。
そう……そしてアリスを買った卑劣な『奴隷商人』が俺という訳だ。
物語序盤で、主人公たちは、『奴隷商人』を打倒し、アリスを救出する。
その後、アリスは主人公たちの仲間になり、ヒロインポジションとして、活躍する。
そして、アリスたちは、ストーリー上で終始敵となる強大なガルーン帝国と闘いを繰り広げていく……。
その序盤のイベント——俺がアリスに殺される時——はもう間近に迫っている……。
俺はその前になんとしてもここから逃げ出さなければならない。
もう転生してから、かなりの時間……そう5年もの月日が流れてしまったのだから……。
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