第19話イベント②
時計塔ダンジョンの中は、真ん中にコンクリートが材質なレンガ状の円柱壁があり、そこに古い木製のエレベーターが埋まっていた。
エレベータはガラス張りの鉄扉から中が一部見えており、床の赤い絨毯が特徴的だ。このエレベータ、数字のボタンを押してもうんともすんとも動かないな。
バン
バン
「お姉様…叩いてもエレベーターは直らないと思いますけど」
「一応だ。古いテレビとかはこれで直ると聞いたことがある」
コツコツ
そんな音に釣られたんだろう…建物の影になっていた所から灰色髪の少年が出てきた。
「お姉さんたちはここで何をしているの?」
「!?君こそ、ここで何をしているんだ?ずぶ濡れじゃないか…」
俺は慌てて、何か拭くものがないかとアイテムボックスの中を見るが特にアイテムボックスに拭くものはなかった。
「わたくしもハンカチくらいしか持っておりません」
そう言って雪花は少年に許可を取って、ハンカチで少年の髪や顔についた水滴を拭いていく。
あ、そうだ。
「私の古着にはなるが、初心者服があるから着るといい」
そう言ってアイテムボックスから初心者服を取り出し、少年に譲渡した。
「だぼだぼですね」
「しょうがない。私と少年の身長の差は結構あるからな」
俺は少年のズボンの紐を縛りながら、レオに少年の服を乾かすように指示を出す。
それにしても今気づいたが、この少年NPCだ。
この少年、ダンジョンにいるということはイベント進行するため必要となる人物か?そう思い名前を聞いてみる。
「私はセイという。君の名前は何というのだ?」
「僕はスバル。ここで雨を止むのを待っているんだ」
「雨を止むのを待っている?…アメルは雨期が終わらない街だと聞いたが」
俺はイベント概要に書かれていた内容を思いだしながらその言葉を口に出してしまったゆえ、「ぐすっ」と少年は泣き出してしまった。
「5歳になる日まで太陽がみえていたんだよ…」
なんでもスバルの誕生日、6月15日の朝から雨が止まなくなったらしい。
雨が止まなくなった原因にも心当たりがあるらしく、この時計塔の逸話を聞かせてくれた。
古びた時計塔は夕方の4時ごろに最屋上にある鐘を鳴らすと、一回だけどんな願いも叶えてくれる不思議な逸話がこの街に存在する。
「僕のパパはいつもお仕事が忙しくて帰ってくるのが僕が寝た後なんだ。ぐすっ…だから忙しいパパと一日だけでもいいからご飯を一緒に食べたい、一緒に遊びたかったんだ」
俺は静かに少年の話を聞く。
「どんな願いも叶えてくれる塔さんなら、僕の誕生日の日に大雨を降らしてパパを仕事にいかせないでくれると思ったから…」
俺は素直に同情したが、雪花とレオは違かった。
「そんな理由で家族のために働いているお父さんの邪魔したんですね」
「!?レオ何を…」
俺はレオが言いたいことが分かったため、声で遮ろうとしたがその前に雪花が俺の口を抑えつける。
「お姉さまは静かにしていてください」
「そんな理由…」
スバルは純粋な気持ちを罵倒されたのが、初めてだったのかショックをすごく受けて固まっていた。
だが次の瞬間、「お前に僕の何が分かるんだよ」というような目つきで俺達を見ながらスバルは言葉を発する。
「僕はパパと一度だって誕生日の日に一緒にいられたことなんてない!だからだから…僕は」
スバルは言葉を止めた。
何か言葉に迷っているようで落ち着きがなく、一歩づつエレベータに近づいていく行動に俺はスバルを止めようと思い、動けと念じ体を動かそうとするが…
「みんなに迷惑がかかったお願いなんて…」
俺は動けなかった。少年がエレベータに走り乗る行動を止めることが出来なかったのだ。
「最初からなければよかったのに」
ガコッ
エレベーターが上がっていった。
そのことに誰も言葉を発せられなかった。
行動の制限が解かれたのはエレベーターがチーンと戻ってきた時だった。
俺はスバルを追いかけるために戻ってきたエレベータにすぐさま乗り込んみ、
「雪花、レオ追いかけるぞ」と行動に移した。
「は、はい」「…はい。今行きますお姉様」
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イベント進行ストーリー
【自暴自棄となったスバルを追いかけろ!】
あなたち来訪者はこのダンジョンを害をなすものとして排除対処となりました。
そのためダンジョンを一階層ごとクリアしないとエレベーターが上がれない仕組みとなっています。
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