第7話


「そろそろ騎士になってもいいだろう」


長く感じる2週間だった。



「デバイスにアバターの健康状態が載っている。そこに騎士の役職が追加されたはずだ」


本当だ。役職に騎士がついて…?


「どうした?俺の顔なんかじっと見て」


なんと称号にルーファスの弟子とルーファスの理解者が記載されていた。弟子は分かるが…掲示板に理解者なんて書かれていたか?



どちらの称号もNPCの好感度上昇の効果があるな。



「師匠!騎士道のご教授ありがとうございました」

「おう。お前の根性も見上げたものだ」

そう言いながら、師匠はガラクタ入れた箱の中身を漁りながら言う。



「これでもない…あったこれだ」

師匠がガラクタ箱から取り出したのは、水晶玉に科学的文字が浮かび上がったものだった。



「お前が掃除したお陰でいらんガラクタが出てきちまった」

「それは」


おめぇが俺にやれって言ったんだろ!と顔には出さず笑顔で返す。



「俺が現役だった時、育てた相棒だ」


俺は師匠の体を見る。師匠は【Cain】との戦いで機体を潰され体に痺れを残す後遺症を残した。まさか頭にも後遺症が残るとは。



「おい、まるで俺に妄想癖があるような目つきで見てくるな!」

「違うのか?」

「違うわ!」


師匠は何かを操作するために自分のデバイスをいじる。




数分後


【ルーファスからサポートAIイリスの譲渡を受け付けますか?】とディスプレイが俺の前に現れた。



・・・。



「これは受け取れない」


目の前の文字を見てすぐに相棒が嘘でないこと知ったからその選択を俺は取った。他のプレイヤーが見たら「何やってんだ!」と言われてしまうがガラクタと言ったAIイリスに向ける眼差しがあまりにも…



「お前ならそう言うと思った」

俺はNoを選択しようとしたが、その手は師匠に止められる。


「俺の話を聞いて欲しい」

「...承知した」


俺が返事をするとホッとした表情に変わる。俺が聞くまでそこを動かない意思を感じたので聞くことにしたまでなんだが。



師匠は

「これは元は今は亡き友人のものだ。何でも戦闘用に育成して欲しいとか」

懐かしそうに話す。



「だがな!これがなんてもんじゃないくらいのジャンク品の部類で、体を用意したのにもかかわらず動き方をしらねぇ赤ちゃんだった」

すごく嫌そうに言うな。



「面倒で、面倒で、しょうがなかったが育てていくうちにこいつとどこまで強くなれるか試したたくなったが、このざまだ」

師匠は今、木剣を杖代わりに使って立っている。



「この体を見るからに俺はそんなに長くはねぇ。こいつにいろんな景色を見せてやってやることはもうできない」



…そんな卑怯な言い方しないでくれ。


「貴殿の思い理解した…」


【ルーファスからサポートAIイリスの譲渡を受け付けますか?】


俺はもう一度、そこにある文字を見直しyesと回答した。




「ありがとな」




数日後、師匠は息を引き取った。それは未練もない安らかな死に顔だったと聞いた。


…それを聞いて師匠が急いでいた理由が分かった。



セイは思う

『師匠、私はルーファス師匠を満足させることはできたのか?』と






⭐︎


俺はVRギアを外しトイレに駆けこんだ。ふぅー。



長い時間集中しているとトイレも忘れがちだな。あの世界に4時間も接続していてしまった…気をつけなければ。


ジャー

俺が洗面台で手を洗って、リビングに出ると小雪がアイスを食べて寛いでいた。


「お兄様」

「小雪どうした?」


リビングに飲み物を取りに来ただけなので、すぐ部屋に戻ろうとしたら小雪に呼び止められた。



「あちらでのわたくしの用事を片付けましたので、王都を案内したいと思っています」

あー。なんか用事が終わったら都市を案内したいとか言っていたような。



「まだファーストで役職についたばかりだから王都にはいけないぞ」

「…わたくしが招待コードをお渡して1ヶ月は経っていると思うのですが?」

困惑気味だな。



俺がアバター制作で時間をかけて【セイ】を作ったことを一から説明すると納得したように「お兄様は無駄に凝り性ですからね」と納得された。


「お前はファーストに来ないのか?」

「わたくしの生活圏がPvPですから、王都を離れると個人ランキングが落ちてしまうのです」


あぁ。確か王都でしかPvPができる施設が存在せず、遺跡や森な【Cain】が出る場所では意図的なプレイヤー攻撃は出来なくなっているらしい。何でもゲーム内の治安維持のためとか。


(意図的なプレイヤー攻撃は出来ないがフレンドリーファイターはあるとのこと)



「何位なんだ?」

「今は17位です」


!?うちの妹は想像していたより、バトルジャンキーに変貌してやがる。



「ですがこの順位も変動しなくなってきたところですし、遺跡調査も久しぶりにやるべきでしょうか?」


小雪は何やら王都を離れるか悩んでいるようだ。



「俺のために無理することでもないぞ?」


「勘違いしないでください。ファーストは、遺跡の聖地と呼ばれている場所ですからわたくしの機体に取り付けられる部品が発見するかもしれません」


妹の背後にブリザードが見えるぜ。


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