帳の巫女

amada

第一部 夏闇異譚編

序 境界

 そこについては、多くの人が知っていた。


 藤花台とうかだい市北東部に位置する白鷺山しらさぎやま麓にある古戦場跡。


 そこは現在森になっているが、近年SNSやネット掲示板などで心霊スポットとして取り上げられ、多くの若者の関心を惹いていた。曰く、一度森に入ったら帰ってこられなくなるとか、帰ってきてもそれは別の何かだったとか、そういう類のものだ。


 では年寄りはどうかというと、その多くが古戦場の逸話を事実として信じていた。その内容はこうだ。さる武将同士が戦い、多くの兵の命が失われ、山から市の東端に向かって流れる御徒川みとがわは赤く染まった――。


 だがあくまでそれは伝説。実際にそのような合戦があったかどうかは定かではなかったし、長い歴史の中で幾重にも尾ひれがついた結果が今の話なのだろう。事実、歴史学や民俗学の研究者たちの間では、合戦は確かにあったものの、そこまでの激戦ではなかったというのが統一的な見解らしい。




 車内では大音量で流行りのJロックが掛かっていた。


 夜の街を抜け、白鷺山に向かう一台の車には、二人の大学生が乗っている。一人は吉村。この車の持ち主であり、ほとんど坊主に近い髪を金髪に染めた長身の青年。


 助手席に座るもう一人は正木。吉村よりは背が低いが、その分がっしりとした体型をしており、中高はバレーボール部に所属していた。


 二人とも中学時代からの友人であり、高校と大学は違ってもこうして時折出かけるくらいの仲の良い友人同士なのだ。


 アスファルトの道路を抜け、未舗装の道に出た車は小刻みに揺れ始める。カーナビとスマートフォンを交互に見て正木が言った。


「この先に展望デッキがあるらしいから、そこまでだな」


「あー、停める場所あるといいんだけど」


 しばらくしてポン、という音とともにナビの機械音声が目的地周辺に着いたことを知らせる。車は右折し、街が見下ろせる高台に出た。正木が言った通り、ヘッドライトが照らす先に展望デッキと思われる東屋が浮か上がる。

 周囲は舗装こそされていないものの、テニスコート三、四面分くらいの広さの空間があり、吉村は自分の心配が杞憂だったと内心胸を撫で下ろしながら車を停めた。


「さて、行こうかね」


 吉村がエンジンを切ってシートベルトを外しながら言う。


「とりあえずトランク開けてくれ。道具出したい」


「あいよ」


 正木の言葉に吉村はハンドル横のボタンを押して、トランクのロックを外す。

 車を降りた二人はそのまま後ろに回り、正木が後部のハッチを開け放った。そこには懐中電灯が二本、一メートル程の細い鉄筋、そして塩の袋が置かれている。吉村は懐中電灯を一本取ると言った。


「その塩はわかるけどさ、鉄の棒なんか要るわけ?」


「幽霊は鉄に弱いんだ。サムとディーンもこれで撃退してた」


 そう言いながら正木はボディバッグに食卓塩の袋を詰め、懐中電灯と鉄筋をそれぞれの手に持った。吉村は少し呆れ気味に笑う。


「お前、海外ドラマ好きなのはわかるけど、ちょっと影響されすぎ」


「……備えあれば憂いなしだって」


「まあそれでいいんなら俺はいいけどさ」


 バックハッチを閉めながら吉村が言う。

 二人は懐中電灯のスイッチを入れると、振り向いた。そこには鬱然とした森が黒々と広がっている。

 明かりをあちこち向けると、すぐにそれが浮かび上がった。


『古戦場跡』と掘られた二メートルくらいの石碑。

 隣には史跡を解説する立て看板もある。


 明かりを頼りにそこへ近づいていった二人を言いしれぬ緊張感が包んだ。彼らはこれまでいくつもの心霊スポットを巡ってきたが、ここは特別雰囲気がある。殺人があったという場所とか、自殺があったという場所とか、そういうところは何度も経験してきたが、それとはまた異質な何かを感じていた。


 周囲に明かりらしい明かりはない。そのおかげで晴れ渡った空に満天の星が望めた。だが二人の意識はそんなところには向かない。梅雨明けの纏わり付くような夜の空気に包まれながら、懐中電灯の明かりを辿って石碑の前まで進んでいった二人は、周囲を探った。

 どこもかしこも笹薮だらけで、簡単に中に入れそうにない。一応長ズボンを履いてきているから強引に藪の中を進むことも出来なくはないが、可能なら道を見つけたかった。


 正木と吉村は石碑を挟むように二手に分かれると、それぞれ侵入できそうな道を探し始める。すると探索し始めて五分かそこらで吉村が見つけた。


「おい、ここ。獣道か? 狭いけど通れそうだぞ」


 石碑の向こう側で探索をしていた正木は、吉村の声に慌てて走り寄る。走るのに合わせて胸のあたりで塩の袋の入ったボディバッグが跳ねた。

 吉村の照らす場所を見ると、確かに一人がギリギリ通れそうなくらいの細い道がある。


「お前、先頭頼むな」


「なんでだよ」


「だって後ろで鉄の棒振り回されちゃたまんないだろ」


「……わかったよ」


 結局『武器』を持つ正木が先頭を行くことになった。吉村が後に続く。正木は前を、吉村は自分と正木の足元を照らしながら後に続き、二人は森の中に入っていった。


 森の中は虫の声がうるさいくらいに響き渡っている。それ以外には自分たちが藪を掻き分ける音だけ。他に音も気配もなかった。しかし空気だけはどこかピンと張り詰めた感じがしている。


「吉村、思ったんだけどさ」


 鉄の棒で笹薮を振り払いながら正木が声を掛けた。


「帰ってこられないって噂。あれが本当ならなんで噂になるんだ? 噂って普通そこから帰ってきたやつとかが広めるもんだろ。なのに帰ってこられないのに噂になるって変じゃないか?」


「確かに。でも禁足地とかもそうじゃん? 『八幡の藪知らず』とか。あそこも入ったら出てこられない系でしょ。ああいうのって実際に入って帰ってこなかったやつは広めようがない話だろ。結局その場所を知っているやつらが面白おかしく脚色しただけじゃないのってこと」


 正木の足元を照らしてやりながら吉村が答える。

 実際、心霊スポットの中には帰ってこられないと言われる場所は多々あるが、大体はそう言われているだけ、つまりはそこを知っているだけの誰かがそう言いだして、それに尾ひれがついて噂や都市伝説として定着したものが多かったりもする。禁足地については禁足地たる現実的な由来や理由が他にあって、人を立ち入らせないためにカバーストーリーとして『入ったら帰ってこられない』という伝説が残されている場合もあるのだ。


「そういやこの前行った逆板さかいたの廃ラブホはなかなかだったな。結局なんも出てこなかったけどさ」


「落書きばっかの廃墟だった。雰囲気はそれなりだったけど」


 二人は少し前に行った隣市の心霊スポットを思い返す。そこは女性が無理やり連れ込まれて殺されたという逸話の残るホテルで、県内でも有数の知名度を誇る心霊スポットとして知られていて、肝試しに訪れる者も多かった。

 実際は二人の語る通り、行く者が多い分荒らされており、肝心の幽霊よりもアスベストや不良グループの心配をしなければならないくらいの状態で、あまり長く探索は出来なかった。だから今日はその分もしっかり見てやろうという魂胆なのだ。


 藪を掻き分けながらさらに進んでいく。

 吉村はふと後ろを照らしてみるが、自分たちが入ってきた石碑横の入口はもう見えなかった。完全に森の中だ。


 獣道は真っ直ぐ森の奥に向かって続いている。何かの動物が外から出入りしているのか、それとも誰かが頻繁に出入りしているのか。

 そういえば動物に出くわす可能性を考えていなかった。吉村は今更ながらに周囲に気を張り巡らせる。熊か猪でもいたら大変だ。


 その時、前を歩いていた正木が急に立ち止まった。懐中電灯を上下左右に振り、何かを探しているような素振りをしている。


「どうした」


「声……人の声、しないか?」


 その言葉に吉村は耳を澄ませてみるが、虫の大合唱と時折風が木々を撫でる音以外、何も聞こえない。


「聞こえないけど。どこからした?」


「よくわかんね。なんとなく奥の方っぽい気がする」


 二人ともいわゆる霊感はないと自負していたが、正木のほうは昔から勘が鋭いというか、感受性が高いというか、そういうところがあった。吉村に気づかない何かに気づいたのかもしれない。


「うし、先進むか」


 吉村の言葉に、前を向いたまま正木は頷いた。二人は再び歩き始める。

 森は鬱蒼としていて、木々の枝が天蓋となって空を覆い隠していた。先程までの満天の星空は、ここではもう見えない。




 それからまたしばらく獣道を歩いていくと、ついに開けた場所に出た。二人が懐中電灯で辺りを照らすと、そこは木々が覆うドーム状の空間のようだった。周囲は木が隙間なく取り囲んでいて、それ以上奥に進むことは出来そうもない。


「なんだここ……」


「さあな。とりあえず調べてみようぜ」


 枯れ葉が積もっているその空間は、車が三、四台は余裕で入りそうなくらいの広さがあった。正木は先程の声のことが気になるのか、辺りを照らしている。そんな正木を横目に吉村は地面を照らしながら調べ始めた。


 するとドーム状の空間の隅にボロボロに朽ちかけた寝袋やゴミが無造作に置かれた一角がある。どうやらホームレスか誰かが入り込んで寝泊まりをしていたらしい。もしかしたらさっき自分たちが通ってきた道もそうやって作られたのかもしれない。そんなことを思いながらその一角に近づく。

 寝袋もゴミもカサカサになっていて、随分前に捨てられたもののようだった。


(ん……?)


 ふと、視線が寝袋の手前に引き寄せられる。落ち葉に埋もれるようにして、何かが落ちていた。懐中電灯で照らしながら、慎重に拾い上げる。


 写真だ。


 男女二人がどこかの川辺で並んでピースをしている。背景は青空、一面に菜の花が咲いた川辺。だがおかしい。顔の部分だけが真っ黒く染みになっている。


 懐中電灯を持った手で写真を持ち、空いた手で表面をなぞってみた。焦げた感触がないから、焼いたわけではなさそうだし、懐中電灯の反射の加減から、マジックで塗りつぶしたものでもなさそうだ。


 いや、染みというより、そこだけ影が掛かっていると言ったほうが正しいか。光を当てて目で見ているのに、なぜかそこだけ影になっている。明らかに不自然だが、そうとしか形容しようがなかった。

 さすがの吉村でも言いしれぬ不気味さを覚え、写真を再び地面に戻す。


「正木、変な写真があったんだけどさー」


「んー」


 どうもリアクションが薄い。正木は相変わらず四方八方に懐中電灯を振り、周囲の様子を確かめているようだった。


「正木、大丈夫か?」


 正木の懐中電灯の動きがどこか不安げに思えて、吉村はそう声を掛ける。すると正木から返ってきたのは、先程よりも気味の悪い返答だった。


「なんか、声が増えてるんだよね。大勢」


 二人はこれまでいくつも心霊スポットを巡ってきたが、自称霊感なしの彼らが『本物』に出会うことはなかった。だが長年の付き合いから、正木が突飛な嘘を言うとも思えない。それになにより、正木は獣道を進んでいたときにも声を聞いているし、あの写真のことも頭をよぎった。


 この場所は何かおかしい。明らかにこれまでの心霊スポットとは何かが違う。


「……なんか出たらすぐ引き返すからな」


 鳥肌が立つのを感じながら、再び寝袋付近を調べ始める吉村。

 今度は思い切って寝袋をめくってみると、そこには一枚の黄ばんだ紙があった。おそるおそる拾い上げて見ると、メモ帳を破いて何かを走り書きしたもののようだ。インクが滲んでいてところどころ判読が難しいが、概ね以下のような文章だった。




 ■空が見■た。■がやって■る。俺を■■■た。もう■■■■■■。■う■■場所が■■。■■帰れない。最後■家族に■■たかった。そ■も■■■かなわない。さ■うな■。




(なんだこれ。『帰れない』? 遺書か何かか?)

 文章からとても嫌な感触を受けた吉村は、もとあった場所にそっとメモを戻す。



 そこではたと気づいた。



 今の今までうるさいくらいに響いていた虫の声がぱたりと止んでいる。あたり一帯は耳鳴りがするくらいの静寂に包まれていた。まるでこのドーム状の空間だけがぽつんと世界から取り残されたかのような感覚。


「正木!」


 慌てて振り向いて声を掛けるが、返事がない。懐中電灯を振り回してそこら中を照らし出してみるが、姿もなかった。


「おい正木! どこだよ! 危ないから出てこいって!」


 耳の痛くなるような静寂の中、吉村の焦る声だけが虚しく響く。


 急激に心拍数が上がっていくのを感じた。背中を、顔を伝う汗はきっと湿気のせいだけではないだろう。耳の奥で自分の心臓の音がバクバクとうるさい。


 何かが起こっている。


 吉村は震える手でポケットからスマートフォンを取り出すと、メッセージアプリを開いて正木のアカウントに発信した。軽快な発信音が吉村の焦燥感を一層煽る。


(出てくれ……頼む……)


 緊張感で喉が締まって、息が苦しい。


 そして十秒ほど経って、ようやく通話が繋がった。


「正木! 今どこに……」


 電話口からはホワイトノイズが聞こえている。それ以外は何も聞こえない。確かに正木の電話に繋がったはずなのに、当の本人の声が聞こえてこないのだ。


「正木! 大丈夫か!?」



「―――――――ぁ」



 ホワイトノイズに乗って、かすかに正木の声らしきものが聞こえた。



 しかし、それは。



「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

 まるで、首を締められているかのようなうめき声で。



「ひぃっ!」


 戦慄した吉村はスマートフォンを耳から話して地面に放り投げた。手にも滴るくらい汗をかいていたから、スマートフォンは滑るように飛んでいき、とさ、と落ち葉の上に着地した。



 逃げないと。逃げなきゃ。だめだ。


 正木がどうとか、もうそんなことは考えられなかった。今の吉村の中にあるのは、危機に瀕した生物として当たり前の生存本能だけ。闘争か逃走かの選択肢の中で、吉村の脳は逃走を選択する。


 獣道のほうに懐中電灯を向け、走り出そうとした。



 その時だった。



「うしろにいるよ」



 すぐ耳元で、誰のものかもわからない、低い声がした。





 ◇





「伝承より現代の体験談のほうが信憑性が高いというのは皮肉なものですね」


 和蝋燭の薄明かりの中、一際白く映える着物が浮かぶ。銀糸で菊の刺繍が施されたその布は、仄かに艶めいていた。それを纏う妙齢の女性が、風貌にそぐわぬスマートフォンを見つめ、呟く。


 彼女は知っていた。複数ある古戦場跡の噂話の中で現実に起こっている現象が一つだけあることを。それが『自分たち』の領分であり、その手で解決すべき問題であることも。


 彼女はスマートフォンを何箇所かタップする。すぐに障子の向こう側に人の気配が現れた。


「サクヤ様、御用でしょうか」


 男の声はそう言った。サクヤと呼ばれた女性は姿勢を変えることもなく、視線を動かすこともなく、静かに言う。


「古戦場跡の森の境界。破れ目が視えます。予備人員の確保を。とばりの巫女への連絡は私が行います」


 彼女には只人には見えざるものをその眼で捉えることのできる力があった。その視野はこの藤花台市全域を覆うほど広い。


「承知しました。すぐに対応します」


 障子の向こうがで男が頭を下げる気配があった。命を受けた男は速やかにそれを遂行するだろう。スマートフォンを片手に、指先で画面をスワイプする。心霊スポット、行方不明、そんな情報を見ていた。


 それらは彼女たちの『領分』に深く関係するものだった。

 ただ幽霊や怪異が出るなら除霊師や退魔師に任せておけばいい。


 だが『境界』となれば話は別だ。魔を祓う者たちでは対処ができない。

 ゆえに自分たちがいる。


 和蝋燭の光に照らされて、濡れたような美しい黒髪が光っていた。





 ◇





 七月の初旬、雨も落ち着いていよいよ本格的に夏を迎えるかという頃。高校ではちょうど中間テストの時期だ。


 常磐ときわソラもその他大勢の生徒たちとともに、立て続けのテストに苦戦していた。


 苦手科目の方が得意科目よりも多い。そんな風だから両親から塾通いを打診されていたりもしたのだが、何かと理由を付けてのらりくらりとそれを躱していたのだった。

 今日はそんなテスト期間が終わる日。最後の科目が終わった瞬間、教室全体からは溜息やら歓声やらが上がる。

 無理もない。高校に入って最初の定期テスト、去年までの中学のそれとはレベルが違う。


「終わったあ。もう無理。頭働かないよ……」


「ソラ、数学苦手だったもんね」


 思い切り机に突っ伏すソラに、斜め後ろの席の桜庭さくらばユリが苦笑する。中学からの同級生で家も近く、よく遊んでいる仲の良い友人だった。


 ソラは顔だけユリのほうに向けると、甘えたような声で言う。


「ユリー。遊びに行こうよう。今日部活ないでしょー」


「ないけど、大丈夫? そんなんで遊ぶ体力ある?」


「ある! 遊ぶとなれば力は湧いてくる!」


 ソラは勢いよく身を起こし、小さく拳を握ってみせた。

 ユリはそんな彼女の様子にまた苦笑しながらも、帰り支度を進めている。文房具を筆箱に入れ、スクールバッグに仕舞う。その様子を見て、ソラも慌てて学用品を詰め込み始めた。

 準備の出来た二人は他の友人たちに声を掛けながら、揃って教室を後にする。廊下を曲がって昇降口に向かった。


「それで、どこ行く?」


 ユリが下駄箱からローファーを取り出しながら訊く。


「駅前のカフェ! 新作出たらしいし!」


「おっけー。じゃあそうしよっか」


 二人はそんな会話を交わしながら靴を履き替え、自転車で学校を出た。目的地である藤花台駅周辺まではおよそ十五分ほど。初夏の陽気の中、二人は時折会話をしつつ、駅前に向かった。




「んー! おいしー!」


 クリームがこれでもかと乗ってカロリー爆弾と化した桃のドリンクを飲みながら、ソラが幸せそうに言った。ユリも同じものを注文して飲んでいる。

 ユリにとってはテニス部で限界まで体力を使っている自分と違って、何もしないのにスレンダーな体形を維持できるソラが心底羨ましかった。

 それはそれとして、美味しい。


「やっぱ疲れた時は甘いものだね」


 小さく笑って言うと、ソラはストローから口を離して何度も頷いた。


「そうそう。私達は疲れ切ってる。だから体が求めてるんだよ」


 そう言って再びストローを咥えるソラは、初めて会った時のクールな印象が嘘のようだった。こんな風に肩の力を抜いて笑う彼女を見るのは、少しだけ嬉しい。


 そうしているうちに、テーブルの上に置いてあったソラのスマートフォンが震え始めた。着信のようだ。


「ソラ、電話じゃない?」


「あ、ほんとだ。……え?」


 着信元を見たソラの表情が一変する。ドリンクをテーブルに置くと両手でスマートフォンを持ち上げ、通話ボタンを押して耳に当てた。


「常磐です」


「常磐さん。鏡見かがみです」


 デジタル信号に変換されてもなお、透き通るような女性の声がスピーカーから耳に流れ込む。


 鏡見。


 その名は瞬時にソラを日常から切り離した。ユリに聞こえないように左手で持ったスマートフォンの口元に右手を当てて、声を潜める。


「何かあったんですか?」


「白鷺山古戦場跡、ご存知ですか?」


「えっと、確かその、心霊スポットの……」


「はい。あそこはもともと境界が揺らぎやすい場所で、心霊スポットの噂話もそれが影響しているのでしょう。それが広域霊視をしたところ、揺らいでいた境界に侵度三程度の破れ目が発生しているのが見つかりました。すぐに対処していただけますか?」


「ええーっと、私一人で、ですか?」


「もちろんです。現状市内で手の空いている帳の巫女はあなた一人なのですから」


「わ、わかりました。対応します」


「よろしくお願いします。それでは」


 それで電話は切れてしまう。まずいことになった。今すぐにでも行かなければならない。呑気にドリンクを飲んでいる場合ではなくなってしまった。


「ソラ? どうしたの? 何か大事な連絡?」


「そ、そうなんだ。家の手伝いですぐ帰ってこいって」


「ああ、ソラの家、神社だもんね。詳しくないけど、そういうことなら行ってきなよ」


 理解のある友人で助かった。ソラは心底そう思う。残っていたドリンクを一気に飲むと、立ち上がった。


「それじゃあ私、行くね。ごめん。また今度遊ぼう」


「うん、気をつけてね」


 店内のゴミ箱に空の容器を入れると、急いで外に停めてあった自転車に跨がり、漕ぎ出す。ここから古戦場跡までは三十分は掛かる。周囲の人払いはしておいてくれているだろうが、急ぐに越したことはない。




 ◇




 境界。


 それは生者の住む現世と、死者の世界である幽世かくりよを隔てる境であり、緩衝地帯。壁、緞帳どんちょう、あるいは衝立ついたてのように、生死二界が交わらぬよう、存在している。


 しかしそれは絶対不変の防壁ではなく、ときに綻び、破れてしまうことがある。


 破れ目からは幽世の存在が漏れ出し、祟りや霊障、さらにはそれを超える災厄をもたらす。

 そうした現象が局所的に現れる場所、それが俗に心霊スポットと呼ばれている。境界が綻び、現世と幽世が交わりかけている地点だ。


 二つの世界は分かたれていなければならない。これは神話の時代から定められているルールだ。それゆえ境界は常に監視され、管理され、守護されている。



 そしてその役目を担っているのが、『帳の巫女』と呼ばれる存在。


 六家ろっかという六つの家から始まった役職であり、綻び破れた境界を修復し、現世と幽世の衝突を防ぐ守人もりびととしての任を背負っている。その力は血筋によって受け継がれてきた。時を経て六家の血脈は全国へ広がり、帳の巫女たちもまた、各地に点在している。


 ソラの生まれた常磐家も、その分家筋にあたる家だった。彼女は今代の帳の巫女であり、先代は祖母。母と妹は力を持たなかったが、強い霊能力を持っている。血筋にあたる女性はたとえ力を発現しなくとも、何らかの霊能力を持って生まれるのだった。



 六家のうちの一つ、鏡見家の当主である鏡見サクヤは、ソラとの電話を切ってから少し息をついた。彼女自身に帳の巫女としての力はない。その代わりにこの強大な霊視能力を授かったのだ。少なくともこの藤花台の街で起きる事象であれば、何であれ彼女の視界に入らないものはない。


 境界の揺らいでいる場所はまだいくつかあった。それにこれから本格的に夏になる。夏は現世と幽世が一年のうちでもっとも近づき、衝突の危険が高まる時期だ。

 眼の前の書き物机に置かれているノートパソコンには、藤花台の帳の巫女の名簿と地図が表示されていた。

 大規模な儀式が必要になる。それはなにもこの街に限ったことではない。そのために六家では粛々と水面下で準備が進められていた。




 ◇




 駅前から三十分、市の北東に位置する白鷺山に向かうなだらかな坂道を自転車で登り続けたソラは、ようやく現地付近に辿り着いた。


 さすがに体力には自信があるとはいえ、登り坂を三十分も漕ぎ続けるのは堪える。大粒の汗が頬を伝い、首筋も蒸れて気持ち悪い。スカートのポケットからヘアゴムを出して、背中にかかるブラウンの髪を手早くポニーテールに結んだ。


 ここから先は未舗装の道路で、雨でぬかるんだ地面が乾いて固まり、凹凸おうとつが激しく自転車ではスムーズに通れない。迂回できる道もないから、この先は歩いていくしかない。ソラはスクールバッグを肩に掛けると自転車の鍵を掛け、歩き始めた。


 地図アプリを開いて現在地を確認する。史跡として登録されているから、地図には『古戦場跡』と表示されていた。


 徐々に坂道の傾斜は険しくなっていく。ローファーでここを登るのは無謀と言わざるを得ないが、他に選択肢もない。


 真っ直ぐ登っていくと展望デッキと思われる東屋が見えた。心霊スポット探訪の目印とされている場所だ。あれが見えたらもうすぐそこ。


 ソラは気配を探るように目を細めた。

 視覚を切り替える。それは、帳の巫女としての力。

 彼女は『巫女の眼』を開いた。


 仏教では浄眼じょうがんとも呼ばれるその眼は、帳の巫女に授けられる固有の能力であり、境界や霊的存在などの概念を可視化する力があった。周囲の境界は安定している。修復の必要も、怪異の兆しもなさそうだった。


 だが帳の巫女としての直感が危機を伝えている。この先は危険だと。ソラは周囲への警戒を解かずに先へ進んでいく。進んでいくごとに嫌な予感が増していくのを皮膚感覚として感じていた。




 展望デッキを横目に石碑の前まで進んでいくと、それが的中しているとわかる。境界が激しく歪んでおり、森の奥から黒い塵のような穢れが漏れ出してきているのを『眼』が捉えていた。


 ソラは石碑の横にスクールバッグを置くと、両手を勢いよく合わせた。

 祖母直伝の結界術だ。術者の周囲を完全に覆うこの結界は、穢れや呪詛をかなりのレベルまで防御することができる。


(よし)


 合わせた両手を解いて気合を入れ直すと、石碑の横に見つけた獣道に足を踏み入れていった。スカートから露出した脚を笹薮が引っ掻くが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 結界が弾いているから直接影響はないが、森を進むごとに穢れの密度は高まっていく。間違いなく境界の破れ目はこの奥にある。


 やがて視界は大きく開け、木々が作るドーム状の空間に出た。


 そしてソラが入ってきたのとちょうど反対側、空間が抉られたように歪に裂けている。



 ――境界の破れ目だ。



 その向こうに垣間見えるのは、星空の広がる闇夜の草原。


 あの光景こそが幽世。一見美しい風景だが、あれは死者の世界。決して生者が立ち入ってはならない死の領域。


 ふと、破れ目の手前にうずくまる人影が目に入った。

半袖のセーラー服を着た、少女の姿。思わず怪異を疑うが、『巫女の眼』で視る限り、どうやら現世の人間らしい。


 地面に手をつき、膝を折ったまま微動だにせずそこにいる。

 ソラは慌てて駆け寄り、少女に声を掛けた。


「ねえ、あなた、大丈夫?」


「……ぁ、巫女、様、ですか?」


 巫女様? こここに帳の巫女が来ることを知っているということは、六家の関係者だろうか。だがともかく今はこの子を助けなければ。この子は幽世の近くにいすぎた。


 すると少女はかすかに顔を上げ、震える声で言った。


「巫女、様。大丈夫、です。私は『くさび』。この場を安定、させます」


 言っている意味はよくわからなかったが、確かに幽世に直結しているはずのこの場所は、不思議なほどに清浄で安定している。

 それに、ここに至る道中に充満していた瘴気は、明らかにこの破れ目が発生源のはずだった。それなのに、周囲には穢れはおろかその痕跡すらない。まるで何かが、それを寄せ付けていないように。


 この子に訊きたいことは山程あるが、状況はどうあれ今は境界を閉じるのが先だ。


 ソラは立ち上がると、真っ直ぐに境界の割れ目を見据えた。


 どこまでも広がる星空と草原。死の世界。一体何人がこの向こうに消えてしまったのだろう。



 両手を破れ目に向かってかざし、大きく深呼吸をした。



「――現世幽世うつしよかくりよを分かち給いし大神おおかみよ」



 とばり祝詞のりと

 それは現世と幽世の間に文字通り『帳』を下ろすための、祈りの言葉。


「黒き光出でし境にて、今一度そのかんぬきを掛け」


 その言葉に呼応するように周囲に金色の光の粒子が浮き上がり、蛍のように宙を飛び交う。森の中に渦巻いていた穢れは次第に破れ目に吸い寄せられていき、空間の亀裂にも変化が現れ始めた。まるで傷口を塞ぐ皮膚のように、周囲の境界面が盛り上がりながら亀裂を覆っていく。


「帳を下ろし給え 畏み畏みもうす」


 祝詞の奏上が終わると同時に穢れは急速に破れ目へと収束し、幽世へと消えていった。境界は静かに、しかし確かに閉じ、その向こうには薄暗い森だけが残された。星空も、草原も、そこにはない。


 ソラは大きく息をつくと、その場にへたり込んだ。


「巫女様。ご無事ですか」


 セーラー服の少女が寄り添ってきた。

 その顔をよく見る。不思議な見た目だ。頭頂部が黒で、毛先に行くほどに銀髪になっていくボブヘア。整った顔立ち。歳は自分とほとんど同じくらいに見える。その制服から藤花台二中の生徒であることがわかった。


「ちょっと気が抜けただけ。あなたは大丈夫?」


「ご心配には及びません。私は平気です」


『眼』を使って彼女を視る。変わった霊力の循環の仕方をしているが、それ以外に目立った損傷は見られないようだ。しかし帳の巫女でもない人間があれだけ幽世の傍にいてなんともないなんてことは普通では考えにくい。


 それに『空間を安定させる』という彼女の言葉。分家筋の人間に発現する特殊能力だろうか。少女の正体が気になるが、今はひとまず。


「とりあえず、ここ出よう」


「はい」


 二人は笹薮を抜けて森を出た。もうここで行方不明だの幽霊騒ぎだのが起きることはない。とはいえ、一度染み付いてしまった心霊スポットという烙印は、そう簡単に払拭できるものではないが。




 ソラは自転車を押して、少女は歩きながら、二人は話をした。


「単刀直入に訊くけど、あなた六家の関係者?」


「六家の関係者だなんて畏れ多いです。私はただの分家筋の者。巫女様にお仕えする使命を帯びた者です」


 分家筋の人間であることは正しかった。しかし巫女に仕えるとはどういうことなのか。本来帳の巫女に補佐役などいないはずだ。


「私は過去を視る『眼』を賜った者であり、先程のように巫女様の儀式場を整える『楔』となるべく生まれた者です」


 過去視に空間浄化。能力だけ見れば一線級の霊能者と言っても過言ではない。しかし『楔』とは何だ? そんな話は両親からも祖母からも、サクヤからも聞いたことはなかった。


「巫女様?」


 考え込んでいたソラに少女が声を掛ける。


「あ、えっと、その『巫女様』っていうの、止めない?なんかやりづらい」


「失礼しました! えと、では、その、何とお呼びすれば……?」


 少女は心底困ったような表情を浮かべてこちらを窺う。ソラは溜息をつくと言った。


「私は常磐ソラ。ソラでいいよ」


「ではソラ様」


「せめてさん付けにしてくれる?」


「はい、ではソラさん、と」


 思わず苦笑する。巫女に仕えるという使命はよほど深くこの少女に刻まれているのだろう。今の遣り取りでそれがよく伝わってきた。


「あなたの名前は?」


千司せんじナユタと申します」


「ナユタ、か。その制服、藤花台二中の?」


「はい。中学三年生です」


 歩きながら話していた二人は、いつの間に中心市街地へ入っていた。車の通りが増えたことに、どこか安心感を覚える。人間の気配がすることが安心材料だった。


「ナユタはどこに住んでるの?」


「ちょうどこの先のアパートに一人暮らしをしています」


「中学生なのに!?」


「はい。修練にはちょうどいいからです」


『楔』の修練がどういうものかはわからないが、中学生に一人暮らしをさせるあたり、両親もそれなりの事情や覚悟があるのだろう。ソラには到底理解しがたい世界だった。


「あ、一応連絡先、交換しとこっか。これからも会うかもしれないし」


「光栄です」


 二人はスマートフォンを取り出して、メッセージアプリの連絡先を交換する。程なくしてナユタが一人暮らしをしているというアパートの前に着いた。念の為霊視してみるが、特に異常はないし、土地にも悪いものはない。至って普通の二階建てアパートだ。


「ソラさん、ここまでで結構です。私はこれで」


「あ、ああ。うん。またね。あんまり無茶しないようにね」


 ナユタは自転車に跨って去っていくソラに深く礼をすると、アパートの部屋に入っていった。




 ◇




 夢を、見た。


 自分の体の中、ちょうど肺や心臓の入っている辺りから何かが出てこようと蠢いている夢。


 それは手を両の肋骨に掛け、ぎりぎりと隙間を開いていく。痛みは感じない。ただ自分が別の何かに置き換わってしまうような、そんな感覚を覚える。


 ばぎ、と肋骨がまとめて割られる。自由になったそれは内側から思い切り胸を突き破って外に飛び出した。血の代わりに緑色の光が飛び散る。中から出てきたのは血まみれの腕。その先端には鋭利な爪。


 それとほとんど同時に、周りの異変に気づく。


 寝室は廃墟のように朽ち果て、崩れ落ちた天井からのっぺりとした黒い空が見える。


 その空から蜜が垂れるように黒い腕が何本も伸びてきて、今しがた自分の胸を突き破った腕を掴んだ。ずるずると赤い腕が引きずり出される。


 肘、肩、頭、そして――。


「はあッ……」


 ソラはそこで目が覚めた。ひゅうひゅうと荒い呼吸音が自分のものだと気づくのに、一瞬時間がかかった。


 咄嗟に自分の内側に意識を向ける。霊力の流れは乱れていない。むしろいつもより穏やかに循環していると言っていいくらいだ。


 だがあの夢は普通ではない。祖母に相談すべきだろうか。同じ帳の巫女の力を持つ祖母であれば、何か知っているかもしれない。

 枕の隣に置いてあったスマートフォンを見る。午前三時。こんな時間に連絡して話し相手になってくれる人物に心当たりはなかった。当然、祖母も寝ている。


 すぐに寝る気になれなかったソラは、キッチンに向かった。真っ暗な中をスマートフォンの明かりを頼りに進み、グラスに水を注いで飲む。それを二回繰り返した。それで少し落ち着きを取り戻して、自室に戻って、ベッドに入った。


 しばらくSNSを見たり、ゲームをしたりして眠気を紛らわす。今寝るとあの夢の続きを見てしまう気がしたからだ。そうこうして抵抗すること一時間、空も白み始めた頃、ついに眠気に勝てなくなったソラは、再び眠りに落ちていった。今度は夢を見ることなく、朝、遅刻ギリギリの時間に母親に叩き起こされるまでぐっすりと眠ったのだった。




 ◇




「サクヤ様。楔の少女と帳の巫女が接触をしたようです」


 和蝋燭が照らす部屋の外、障子越しに男が話しかける。鏡見サクヤは表情を変えることなく、部屋の雰囲気に不釣り合いなノートパソコンを操作しながら答えた。


「そうですか。悪くないタイミングですね」


 作業を終えたサクヤは室内の祭壇に向かう。


「古戦場跡の心霊スポットの噂には対抗神話の流布を」


「承知しました」


 対抗神話とは、平たく言えばある伝承や民話、都市伝説などを否定するための伝承だ。特に有名なもので言えば、口裂け女に対抗するためのおまじないとして『ポマードと三回唱える』というものがある。


 一度境界が破れた心霊スポットは、噂がそのままの形で口承され続ける限り、いつまた境界が破れ、幽世への通路が開くかわからない。ゆえに六家はその諜報網を使って心霊スポットのいわれを否定、上書きする新たな噂話を流布し、都市伝説を無力化してきた。今全国にある怪談や都市伝説、心霊スポットの噂話のうち、人知れず六家の手が加わっているものは数知れない。


「それから、もうあまり時間がありません。『大門の儀』の段取りも決めておかなければなりませんね」


 刻限は夏。特に八月の中旬辺り。もっとも現世と幽世が接近する時期。夏祭りやお盆のシーズンだ。それらはもともと神や祖霊に祈りを捧げる儀式だったものの名残。今でも一定の効果はあるが、信仰心が薄れた現代では境界を支えるほどの力は期待できない。


 だからこそ帳の巫女が必要になる。各地で綻ぶであろう境界の修復、そして、祖霊が帰ってくるタイミングに乗じて、幽世から侵攻してくるかもしれない存在の阻止。

 帳の巫女に戦うための能力はない。彼女たちにあるのはあくまでも守る力。


 現世と幽世。その二つの世界が近づく八月中旬、帳の巫女たちは現世を幽世から守る番人としての責務を果たすことになる。決して公に知られることなく、あくまで裏の存在として。



 それはここ藤花台とて例外ではない。このタイミングで楔の少女、つまりナユタがソラが出会ったのは偶然だが、サクヤにとっては僥倖だった。楔の一族は空間を祓い清め、その強度と安定性を上げる能力者であり、その名の通り存在自体が現世の楔となる者。それは昼間にナユタがソラに説明した通り、儀式の場を整え、円滑に帳の儀を執り行うために役立つのだ。


 サクヤは視覚を切り替えて霊視を始める。次の綻びはすぐに見つかった。部屋の外に控えている男に指示を出し、現地に一番近い帳の巫女を向かわせる。藤花台市は広い。全域をソラ一人でカバーすることはできない。


(あの楔の少女……存在が役立つのは間違いないとしても、しかし……)


 サクヤの霊視をもってしても、その行く末まで探ることはできなかった。楔は貴重な存在であるのは事実だが、もし六家にとって、そしてソラにとって不都合なことがあれば、するほかない。


 ともあれ、今は二人の関係を静観することしか出来なかった。

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