5-4 寝取りクソ野郎に年貢の納め時が来たようです

そして1か月ほど経過した。

ボクは生気の失った顔で、ゲームの売上表を見ていた。


「おい。……ボクのゲームの売り上げは何位だ?」

「はい……その……最下位ですね……」


秘書として働いている性奴隷3号ちゃんは、そうつぶやいた。



「なんで失敗したのかは分かるけど……これは……ね……」



なんでこう、この世界はボクに冷たいんだろう。

ボクがようやっと心を入れ替えて真面目に働こうと思っていたのに、この仕打ちはあんまりだと思う。


社長になれた興奮が冷めた後、まざまざと自分の失敗を見せつけられたボクは、何もする気になれずにただ窓の外を眺めていた。



「はあ……今日もいい天気だな……」


それを見ながら、やけ酒をグイ、と飲み干し、もう一杯注ぐ。



「老けたな、ボクも……」


鏡を見ると、自分が若いころに「その辺のおっさん」と見下していた年齢になっていたことに気が付いた。



この歳になるまでボクは何をやっていたんだろう。

そう思いながら手元に催眠アプリを呼び出した。


そんな人生をこの『催眠アプリ』に頼らずに送っていたら、この異世界でもこんな気分にならずに済んだんだろうな。


ふと、ボクは催眠アプリを正しい方向に使っていたら、ありえたかもしれない未来を想像してみた。




「くそお! またボクのシナリオが没になっちゃったよ~?」

「アハハ、リマさんの作品はちょっと時代に追いついてないんですよ。少し前の時代に向けた感じでやると良いんじゃないですか?」

「そうだね、ミケル……よし、次は頑張るぞ!」




「お、シナリオ作り頑張ってんな! そういやさ、来週じゃなかったっけ、デートって?」

「うん! ありがとう、ヨアン! わざわざ女の子を紹介してくれるなんて、嬉しいよ!」

「気にすんなよ。リマにはさ、俺の目を覚まさせてくれた借りがあるんだから。ただ、お前は、モラハラすんなよな?」

「気を付けるよ。ヨアンもアドバイス頼むね?」




「あれ、今日の料理誰か作ってくれたのか?」

「あ、ボクがやったよ。イグニス、最近イラストの仕事で忙しいだろ?」

「助かるよ。ちょっと無茶な依頼を受けちゃってさ。家のこと、全然やれなかったから」

「いつもイグニスのご飯美味しいからさ。ボクも真似してみたんだ!」

「へえ……おお、美味いじゃん! リマもやるもんだな!」




「おい、リマ」

「は、はい、何ですか、ニルセン社長?」

「お前も最近頑張ってるな。営業の成績、ずいぶん伸びたじゃないか」

「うーん……ヨアンの言う通りにしているだけなんですけどね……」

「相手のアドバイスをちゃんと自分のものに出来てるってことだろ? 凄いじゃないか」

「ありがとうございます」




「よーし、イグニス、ミケル、ヨアン、リマ! 今年も頑張ったな!」

「「「「かんぱーい!」」」」

「いや、今年も大変でしたね、ニルセンさん」

「ああ。イグニスも頑張ってくれたな。……なあ、お前たち? 年末だけどさ、ちょっと旅行に行かないか?」

「旅行ですか?」


「ああ。なんか無性に、海の幸を食べたくなってな。妻に聴いたら『たまには羽根を伸ばして来たら?』って言われたんだ。無論私のおごりだ」

「羽根を伸ばすなら、有翼人である僕の得意技です! ぜひ連れてってください!」

「まじですか、奢りとか最高じゃないっすか!」

「俺も、魚は大好きです! ついて行きますよ!」

「ウヒヒ! ボクもご一緒します!」

「よし、じゃあみんな楽しみにしていろよ?」




「ふん……」


そんな人生も悪くはなかったな。

そう思っていたら、隣にいた性奴隷ちゃんたちが落ち込んでいるボクに声をかけてくれた。


「そ、そうだ! セックスしましょうよ、ご主人様!」

「辛いときは私に八つ当たりしてください」

「そうそう! 私はご主人様の性奴隷ですから! ほら、おっぱい触ってください!」



そう言ってボクを誘惑してくれる性奴隷ちゃんたち。

だが、今更気が付いたが、今まで彼女たちは、ボクのことをまともに褒めてくれていなかった。


「すごい」「かっこいい」「たくましい」など、薄っぺらい褒め言葉はいくらでも言ってくれていたが、具体的に「ボクにしか当てはまらない誉め言葉」は一度も言ってくれなかった。


……違う、ボクを褒める言葉が、それくらいしかなかったんだな。

ボクはますます惨めな気持ちになり、もう一度やけ酒をグイ、とあおる。




そうこう考えていると、社長室の向こうから、トントンとノックの音がした。


「ん、なんだ、入れよ?」

「はい、失礼します。社長……いえ、音斗莉麻(おんとりまと読む。リマの本名)」


クーゲルが部屋に来たのだ。





「なんだよ、クーゲル? 社長相手に敬語くらい使えよ?」

「……あんたが社長で居られるならね。……この経理の書類、見てみなよ?」


そう言ってクーゲルは一枚の書類を見せてきた。

だが、その内容はボクには理解できない。……代わりに、元々経理の仕事をしていた、性奴隷3号ちゃんがそれを見る。



「……あ……」



それを見て、顔を真っ青になった。


「そうか、サラは元経理だから分かるんだね。……そうだよ、リマ。あんた、※横領していたろ? 男爵が怪しいって言ってたから調べてたんだ」

「横領……ってなに?」


そう訊ねるリマに、性奴隷3号ちゃんは答える。


(※因みに書類上は『3-2 鳥頭野郎は、BSS状態になるようです』でフリスティナが持ち出した金貨もリマが横領したことになっている)


「すごく簡単に言うと……会社のお金を自分のお金として使っちゃうことです」

「え? ……だってさ、ボクは社長だよ? 社長が誰のお金を使おうと勝手じゃん!」

「何言ってるの!」



そういうと、クーゲルは怒鳴ってきた。


「ひい!」

「会社の金は私たちが頑張って稼いで『みんなや社会のため』に使うものなんだ! あんたひとりが使っていいもんじゃないんだよ!」

「うるさいな! だからなんだよ!」

「あんたがやったのは犯罪なんだ! だから、これから警察に言って話をつけようって話だ!」

「く……なんで言ってくれなかったんだよ、3号ちゃん!」

「え? ……そういうご命令ではないでしたか?」


しまった。

いつもいつも口うるさい母親のことが嫌で、ボクは彼女たちに『ボクのやることに文句を言うな』って催眠をかけていた。



……それがこんな感じで裏目に出てしまうとは思わなかった。



(くそ……なんとかこの状況を抜け出すには……)


催眠アプリが使える相手はあと一人だ。

こんな女さんに使うのはもったいない……が、しょうがない。



「おい、クーゲル! このアプリを見ろ!」

「は?」

「命令だ! 『お前は、ボクが犯した罪を全部背負って、代わりに警察に行け!』」



キイイイン……という音が響く。

よし、これで当面はしのげるはずだから、早いとここの会社を出よう。


……そう思っていたが、


「何ふざけたこと言うの? ……というか、それはなに? ……そうか……リマ、あんた確か、転移者って言ってたよね?」

「え?」


信じられない。


クーゲルには催眠アプリが効かない!

どうして? ……という疑問は、次の一瞬で分かった。



「そうか……前から疑問だったんだ。あんたみたいな屑に、なんでこんな可愛い子たちが隷属しているのかをね……。その妙な機械でこの子たちを操ってたんだね?」

「う……」

「大方そのアプリを見せた相手に効果があるんでしょうけど……」



そして、彼女は勝ち誇るような笑みを向けた。





「私の種族は『バジリスク』! 普段は周りを石化させないように、目を閉じて、魔力や気配だけでものを見てるんだ!」




「なんだって!?」


そんな種族がこの大陸に居たなんて、ボクは知らなかった。

クーゲルはさらに一呼吸して、叫んだ。



「そして私の本名はクーゲル・アルジェント! その由来は『銀の弾丸』! その名の通り、汚い真似する奴は容赦しないよ! さあ、一緒に警察に来るんだ!」



最悪だ。

彼女は『糸目』だったんじゃない。……本当に目を閉じていたんだ。


ボクのスキル『催眠アプリ』は『見せた』相手を意のままに操る力だ。逆に言えばものを見ていない相手には効果が無い。



だが、彼女の誤算はまだある。

ボクを「生け捕り」することに夢中で、ボクを今石化しなかったことだ。



「おい、性奴隷たち! ボクを守れ!」

「「「「はい!」」」」



そういうと、性奴隷ちゃんたちは、ボクを守るように立ちはだかる。


「ご主人様! 今のうちにお逃げください!」

「そこのお金を全部持って逃げれば、また再起できますから!」

「クーゲルさん! すみません、お世話になったのに! ですが、ここは行かせません!」

「何があってもご主人様は私たちが守ります!」


そう健気に言いながらスクラムを組む性奴隷ちゃんたちを見て、クーゲルは怒りに燃える様子でボクの方を向いた。


「くそ……! あんた、本当に最低な奴だな! 少しは自分の人生に責任を取ったらどう?」

「嫌だよ! まったくうるさいな! この状態なら手を出せないだろ? ボクは逃げるから、そいつらを適当に横領犯にでも仕立てればいいだろ?」

「おい、逃げるんじゃない!」


ここは2階で飛び降りるのは難しくない。

ボクは金庫にあった残りのお金を持てるだけ持ち、


「じゃあね~?」


そう言って窓の枠に足をかけた。





……だが、ボクの記憶はそこで途絶えた。


最後に記憶にあるのは、地上で目の据わったエルフの一人が、ボクのいる部屋に向かって、氷魔法を撃ちこんできた姿だった。

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