1.これって『合コン』!?

私は、同じ営業部の後輩、松本さんに連れられて合コンに来ていた。


決して喜んでこの場にいるわけではない!断じて、ない!!



私が元彼と別れたことを知った後輩が「飲み会をしましょう!」と誘ってくれたのだ。

松本さんは、私が晴久と付き合いだしたことを知らない。

「いっぱい飲んで食べて話しましょう!」

と誘われた。

その席で晴久と付き合いだしたことを告げようと思っていた。



で。

到着してびっくり!

これって合コンじゃん!



女子6人男子5人に空席1つ、、、。

これって誰がどう見ても、飲み会じゃなくて、やっぱりこれって合コンじゃん!?





そう。私は彼氏がいる分際で合コンに参加しているのだ。




しかも。




真横に座っているのは今彼だ。




さあ、これはどういうことかな?

彼氏の前野晴久くん?




どうして私という彼女がいる晴久が合コンに参加しているんだい?






ここは、最近オープンしたばかりの多国籍料理のダイニングバー。

定番ビール3種類と6種類のクラフトビールが合って、時期によってその種類が代わる。

オレンジ色の照明に、軽い音楽。

カウンターの背後に見える大型のビールサーバーが、ビールの味を期待させる。

呑みに来たのであれば、ものすごくわくわくする空間だ。



私たちの席は木目調の楕円形のテーブル。その周りにぐるっと椅子が置かれている。

まだ来ていない人らいるらしく、開いている椅子がある。



「倖さん倖さん」

左隣に座る松本さんが服を引っ張る。

「今日の合コンは大当たりですよ」

と小声で話しかけてきた。


「やっぱり!合コンだったんだね。今日って飲み会って言ってたなかった?」

「飲み会も合コンも似たようなものですよ」


松本さんは、全く悪びれる様子もなくにこにこして答えた。

「違うでしょ?」

「同じですよ!

だって、ここのビール9種類もあるんですよ。飲み比べとかもできるんですって。しっかり飲めますよ。

しかもご飯もおいしいんですって」


「同じ・・・」

右隣に座るイケメンに、

「なんだってさ」

と伝える。


すると、スーツの上着を椅子にかけ、テーブルに右肘をついたイケメンと目があう。


イケメン、前野晴久が怒りを帯びた目でにっこりとほほ笑んだ。

いやいや。目が笑ってないから。


だからさ、なんで付き合いたての彼氏が真横にいるのよ?!


ん?

これって合コンに参加した私が悪いヤツ?

それとも、私という彼女かいながらも合コンに参加するは晴久を怒るべき?なのでは?




「倖さんの彼氏は合コンとか行っても怒らないんですか?」

晴久は私の目を食い入るように見つめたまま尋ねた。


動揺して答えられないでいると、隣から松本さんが

「倖さん別れたんだよ。前野君知ってなかったっけ?」

「へえええええええ」

晴久は松本さんを見ることなく、私を見据えたままで返事をする。

目、目が恐いから!!!!


震えあがるような目で見られる。

切れ長の綺麗な瞳は時として凶器になることを知る。


「それに倖さんには『合コン』って言わなかったから、今驚いてるみたいです」

そう言う松本さんの手を両手で掴み、

「そうだよね!?私知らなかったよね!?」

と訴えた。


「へえええええ。倖さんは合コンだと知らずに来たんですかあ?」

晴久が目を細めた。

語尾を伸ばすんじゃない、語尾を!

と言えるわけもなく。


「う、うん。知らなかった!

前野君はどうなのよ?合コンって知ってたの?」

「もちろん知ってましたよ」

「はあああああ?!知っていて来たの?!」


けろりとした顔で言ってのける、付き合い始めたばかりの彼氏。私は眉間に皺を寄せる。


「はい。倖さんが来るって松本さんから聞いて、慌てて急遽参加決定ですよ」

「へ?」

予想外の返答が来た。

がばっと松本さんに顔を向け、目だけでどういうこと?と問う。


「前野君は倖さんが来るの知って参加するって言ってきたんですよ」

「へ?」

今度は晴久を見る。


「私が最初に誘っとき、前野君は『苦手だから』って断ったんですよ。

それなのに今日の合コン、倖さんが来るって聞いたらコロッと態度変えちゃって」

「そうなの?」

晴久と目が合うが、返事がない。


松本さんがにこにこしながら。

「でも、みんなうちの会社の人たちだし、同じ営業の人もいるし、合コンだけど、まあ飲み会みたいなもんですよね」


「まあ、そうか」

「倖さんも彼氏と別れたんだったら、こういう飲み会に参加しても問題ないでしょう?

たまにはいいじゃないですか。部署間交流会も」


「そう・・・かなあ」


ちらりと晴久に目を向ける。


「今回の合コンはただの美男美女じゃないですからね。

噂によると肉食系ぞろいらしいんで。

前野君も頑張んないと、取られちゃうわよ」

にやりと笑う松本さんに、肘をついて顎を乗せた晴久もニヤッと笑った。


「それは困るな。

倖さん、ひょいひょいついてっちゃ駄目ですよ?」

「誰がひょいひょい行くのよ?

前野君こそ先輩美女に気を付けてよね」

「ははは。その先輩美女って倖さんのこと?」

「は?私を美女仲間にいれたら、あちら側にいる本物の美女たちに怒られるわよ」


松本さんの向こうに座る他の部署の女性陣のことだと目で合図する。


晴久はそちらをしっかりと見た後で、

「やっぱり倖さんが断トツで美人さんですね」

とにっこりとほほ笑んだ。


悔しいかな、この男が一番整った顔立ちをしている。

とはいえ、褒められるのは悪い気がしない。むしろ嬉しい。


「倖さんなら俺、いつでもひょいひょいついてっちゃいますよ。

むしろ今すぐに抜けちゃいますか?」


な、何、言ってんの?

ドキドキさせられて、動揺してしまうではないか。


「て、適当なこと言ってるわね」

「まさか。本気ですよ」


色気駄々洩れの晴久に見つめられて、ドキドキしてしまう。


「見過ぎ!」


顔が熱い。絶対顔赤い。

視線に耐え切れず、頬に両手を当てて、顔を隠す。


晴久は嬉しそうに、手を伸ばしてきて、熱くなっている耳をツンツンと指でつついた。

私は後ろに体と逸らして、晴久の手をパシパシと軽く叩いた。


晴久は

「ははは」

と楽しそうに笑って手を引っ込めた。


「ええ?!」

横で松本さんが驚いた声を上げていた。

「二人ってそんなに仲良かったですか?」


「えっと」

何て言えばいいんだろう?私は返事に困ってしまう。


晴久と付き合いだしたことは言っていなかったし、これから始まるコンパの前にそんなことを言うとこの空気が悪くなることは必須だろうから。


「最近仲良くなったんです。ね?」

と晴久は全く動揺する様子もなく答えた。


「うん」

と頷くと、晴久はやっぱり嬉しそうに笑った。

そして、

「倖さん、酔ったら俺が送っていくから大丈夫だけどさ、飲み過ぎないようにね」

と言われた。



その目はもう怒ってなくて、ただこの飲み会を楽しもうねって言っているように見えた。

彼氏の許可がでた・・・と信じて飲もう。

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