緊急特別VTuberラジオ

赤城ハル

第1話 これ、なーんだ?

メテオ:「VTuber桜町メテオと星空みはりによる緊急特別ラジオはじめまーす」


 メテオがパチパチと拍手する。


みはり:「えー。全然聞いてません。連絡どうなっているんですかー?」


 みはりは気分が乗らないといった感じで拍手も頼りない。


メテオ:「私も聞いてません。いきなり枠ができたとのことで、マネージャーから急にラジオに出てくれと言われました」


みはり:「なんか次の番組が遅れているとかだっけ?」


メテオ:「そうらしいですね。それで今日だけ奇跡的に枠が出来たとか」


みはり:「奇跡じゃないよ。ただのヒューマンミスだよ!」


 みはりはスタッフ側の窓を指差す。


メテオ:「なんでも、まったくラジオに出ないみはりにも出てもらおうとお声をかけたらしいですよ」


みはり:「私はVTuberだからね。ラジオMCじゃないから。ラジオって、何すればいいのさ?」


メテオ:「雑談みたいな感じかな。あとコーナーがあるのでそれにそって進行ですね。ちなみにみはりはラジオとか聞かない?」


みはり:「聞かない。というかラジオ持ってない」


メテオ:「まさに現代っ子だね」


みはり:「逆にメテオはあるの?」


メテオ:「私は……キクヨー」


みはり:「おい! カタコトだぞ。あと、カンペが出たよ」


メテオ:「コーナーに進めですね。では、行きましょう。初めのコーナーは『令和っ子は知らない? これ、なーんだ?』です」


  ◯


みはり:「スタッフが何か持ってきましたね。これが何かを当てろってことだよね?」


 スタッフがテーブルに手のひらサイズの薄いクリア仕様の箱をいくつか置く。中には小型のCDらしきものが。

 紫、ピンク、グリーン、イエローと色は様々。そしてその全てがクリア仕様。


メテオ:「そのようで。ちなみに私も一緒に考える側です」


みはり:「透明な箱が……おっ! これは簡単じゃない? フロッピーでしょ?」


メテオ:「……私はこれ知ってる」


みはり:「てことはフロッピーで正解よね?」


メテオ:「いやいや、これはフロッピーではないよ。フロッピーはもっと薄くて、大きい」


みはり:「違うの? なら何だろ? 中にCDが入ってるよね?」


 みはりは薄い箱を掲げて、透けて見える中のCDを見る。


メテオ:「ヒント。昔は音楽を聴くのに必要だった物です」


みはり:「CD! 昔のCDは小さいって言ってた。これはCD!?」


メテオ:「惜しい。他に何か知ってません?」


みはり:「レコードは違うよね。DVDでも違う」


メテオ:「30代から40代が使ってましたね」


みはり:「そうなると……テープ。いや、テープではないよね。私もテープは見たことあるけどこんなのではなかった」


メテオ:「テープは見たことあるんだ」


みはり:「本当に分からない。メテオは知っているんでしょ? 使ったことあるの?」


メテオ:「使ったことがある。……なんかジェネレーションギャップがあって苦しい。そろそろ答えを言ってもいいかな?」


みはり:「カンペで答えをどうぞと出たね」


 スタッフが『答えを!』と書いた画用紙を向けている。


メテオ:「答えはMD!」


みはり:「MD? M……D?」


 みはりは初めて聞いたみたいな顔をする。


メテオ:「ええ!? MDを知らない? え? 嘘?」


みはり:「ごめん。まじで知らない。聞いたことない。マイナーなやつなの?」


 その問いにメテオは『いやいやいや』と手を振る。そしてみはりが知らないことに落胆する。


メテオ:「マイナーではない。メジャー。皆、持ってた」


みはり:「そんなにショックを受けないでよ。おっ! 次の品が来たよ」


 スタッフがぬいぐるみをテーブルに置く。そしてMDは回収して部屋を出る。


メテオ:「ぬいぐるみだね。えーと、モデルとなった犬の犬種を当てろってことだね」


 スタッフが『犬種当て』と書いたカンペを見て、メテオが答える。


みはり:「なんかすごい犬。人間だったらエアロビとかやってそう。もっこりしてるとこがバンドみたいな感じでさ」


 ぬいぐるみの犬は一部分がごっそりと毛を剃られ、毛がある部分がまるで手足にはめるバンドのように見える。


メテオ:「分かる。そんなイメージだよね。……ちなみにこれも、私……分かる」


みはり:「なんかずるくない? 私だけ知らないやつばっかりなんて!」


メテオ:「ずるくないです。むしろなんで私の知っている物ばかりが……」


みはり:「おかしいね。令和っ子なのに。まあ、令和っ子といっても小中学生時代は平成だったもんね」


メテオ:「……うん。平成」


みはり:「もしかして高校以降も平成? 生まれは昭和」


メテオ:「ち、違いますぅー。昭和生まれではありませーん。平成生まれでーす」


 メテオは手を振って、強く否定する。


みはり:「ふーん」


メテオ:「なんですかその目は。やめてくださーい。本当に平成ですからね。昭和生まれなら30代後半ですからね」


みはり:「確かに30代後半には見えない……ね」


メテオ:「なぜ溜めた?」


みはり:「なんでもないよ」


メテオ:「さ、問題にいきますよ。えー、この犬の犬種は何でしょうね」


みはり:「初めてみるから……昔に流行った犬種かな?」


メテオ:「違うよ。今も流行ってる。ただ、カットが違うの」


みはり:「カット!? えっ!? カットが違うだけで私も知って犬なの!?」


 みはりは驚き、犬のぬいぐるみをまじまじと見る。


メテオ:「有名です。一部毛がもこもこしてますよね。それはつまり元々がもこもこした犬ということです」


みはり:「もこもこ…………あっ! 分かったかも!」


メテオ:「分かればお答えをどうぞ!」


みはり:「トイプードル!」


メテオ:「正解!」


みはり:「おお! 昔ってこんなカットが流行ってたの? ダサくない? 昭和のセンスやべー」


メテオ:「オイ!」


 みはりの失礼発言にメテオが低い声で突っ込む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る