エロゲの友人キャラに転生したので推しヒロインを寝取ったら主人公の性癖を拗らせてしまった!?

ナガワ ヒイロ

第1話 友人キャラ、前世を思い出す




 ある日。


 俺は親友のアレンと近くの川に遊びに出掛けて釣りをしていた。


 大して深い川でもないため、大物が釣れることもなく、日が少しずつ傾き始めた頃。

 アレンは突然、真剣な表情と緊張感を感じさせる声音で話しかけてきた。


 何故か嫌な予感がする。



「ルカン。親友の君に、お願いがあるんだ」


「内容次第じゃ聞いてやらんこともない」


「何、大したことじゃないよ」



 アレンがそう言う時は、基本的に大したことだと俺は知っている。



「ルカン。アヴィアを抱いてくれないかな?」


「……嫌な予感が的中した」



 アヴィアとは、アレンの恋人の名前だ。


 卓越した剣の腕前を持ち、流れ星よりも速く剣を振るうことから【剣星】と呼ばれている絶世の美女である。


 ちなみにおっぱいがめちゃくちゃデカイ。


 あろうことかアレンは、そのアヴィアを抱いて欲しいと言ったのだ。


 しかも今回が初めてではない。


 いや、アヴィアを抱いてくれと言ってきたのは今回が初めてだが……。

 アレンが恋仲になった女を俺に抱いて欲しいと言ったのはもう何度目か分からない。



「ルカン。僕はね、好きになった人や愛している人を君に奪われることでしか興奮できなくなってしまったんだ」


「そ、そうか」


「頼むよ。親友を助けると思って、アヴィアを抱いてくれないかな?」


「……アヴィアは納得してるのか?」


「アヴィアなら大丈夫だよ。『それでアレンが興奮するなら、ルカンに抱かれよう』って言ってくれたから」



 アレンの願いなら他の男にも抱かれてもいいとアヴィアは決意したらしい。


 まじですかい。



「その、可能ならいつも通り、本気で僕から彼女を奪い取って欲しい。そのためなら何をしても構わない。本人からも『私はアレン以外の男に身体を許しても、決して心は許さない』って許可は貰ったし」


「それは、許可なのか?」


「で、身も心も堕としたら彼女に僕を罵倒するよう命令してくれ。僕と君を比べさせたり、可能なら彼女に僕を殴らせたり、逆に君を全肯定するような女にしてほしい」



 か、完全に性癖を拗らせてやがる……。



「あー、その、アレン。そろそろお前から寝取った女たちを養うのが大変なんだが。子供も何人か生まれるし」


「ルカンは律儀だなあ」


「女を弄ぶだけ弄んで捨てたらガチモンのクズになっちまうだろうが」


「んはは。そういう真面目なところも、彼女たちから僕より好かれる理由なんだろうね」



 そう言って笑うアレン。


 ゲームの主人公アレンと同じ顔で笑うが、その趣味嗜好は全く違う。

 俺の目の前にいるアレンは、寝取られ性癖を拗らせた生粋のマゾヒストだった。



「なんていうか、あれだ。アレン、いい加減に性癖を我慢するべきじゃないか?」


「君には!! 僕の性癖を拗らせさせた責任を取って僕から女の子を寝取る義務がある!!」


「うお、び、びっくりした。急にデカイ声出すなよ」


「僕が先に好きだったシスタークロエに抜け駆けで告白して!! オッケーしてもらって!! 毎日エッチして!! それを見てしまったせいで!! 僕は生粋の寝取られマゾになってしまったんだ!! 君が責任を取らねばならない!!」



 そう。


 本来は「ハーレム王に僕はなる!!」と豪語する主人公が寝取られ性癖に目覚め、拗らせてしまった原因は俺にある。


 あれは今から三年前、俺とアレンがまだ十二歳だった頃。


 高熱が原因で俺は前世の記憶を取り戻し、この世界が『ブレイブクエスト』なる大人気エロゲの世界だと気付いた日。


 俺が推しているヒロインを主人公アレンに奪われたくなくて告白した時から始まった。

















「ま、まじですかい」



 俺は高熱で倒れ、生死の境を彷徨っていた。


 しかし、今はもう熱が下がり、思考はかつてないほど冴え渡っている


 また同時に混乱していた。


 ひとまず落ち着くために俺は自分の名前と情報を再確認する。



「俺の名前はルカン。十二歳。アメリ王国の辺境にある名前も無い村の子供。ふむ、どこにでもいる普通の子供だ」



 の記憶は何ら問題ない。


 問題があるのはもう一つのの記憶だろう。



「……これ、前世の記憶だよな……」



 俺には二つの記憶があった。


 一つは辺境の田舎で育った少年ルカンの記憶。

 もう一つはあらゆるエロゲーをプレイし、エロをこよなく愛する紳士の記憶である。


 いや、紳士の記憶を取り戻したこと自体は大した問題ではないのだ。


 では何が問題かと言うと……。



「俺、もしかして『ブレイブクエスト』のルカンに転生しちゃった?」



 エロとエロゲーをこよなく愛する紳士の俺は、ある一つのゲームにハマっていた。


 そのゲームというのが『ブレイブクエスト』だ。


 女神に選ばれて勇者となった少年が魔王を倒し、ハーレムを作るという王道ストーリー。


 キャラクターデザインは有名なイラストレーターを採用し、声優はベテランから実力派の新人を使った名作となっている。


 初めてのエロゲーは『ブレイブクエスト』にしろ言われるくらいには界隈で有名な作品だ。


 そして、俺が転生してしまったのは作中にちょくちょく出てくる主人公の親友、ルカンという少年だった。


 ルカンは主人公と同じ村の出身で、度々出てきては主人公に情報やアドバイスを与える。


 世界各地にいるヒロインの情報を持ってきたり、ダンジョン攻略に必要なアイテムを調達してくれる便利な友だち……。


 いわば友人キャラである。


 では何故、俺がエロゲーの友人キャラに転生してしまったと確信したのか。

 もしかしたらゲームの登場人物と同じ名前の別人かもしれないのに。


 ふっ、答えは簡単。


 ルカンが子供ながらに持っていた知識と、俺の持つ『ブレイブクエスト』の知識を照らし合わせたら一致する点が多かったのだ。


 何より……。



「ルカン。熱はもう大丈夫なの?」


「お、おう。もう平気だぜ、アレン」



 俺は風邪の治療を受けるため、治癒魔法の使い手であるシスターさんが暮らす村唯一の教会で寝泊まりしていた。


 そして、ようやく熱が下がって友人がわざわざお見舞いに来たのだ。


 その少年の名前はアレン。


 ちなみに『ブレイブクエスト』の主人公の名前もアレンと言う。


 主人公と名前が一致しているのだ。

 いや、名前どころか容姿までゲームの主人公と完全に一致している。


 もう確定していいだろう。


 俺は本当に『ブレイブクエスト』の友人キャラ、ルカンに転生してしまったらしい。


 アレンは俺の動揺を知りもしないで「水を持ってくるね」と満面の笑みで言い、部屋を出て行ってしまった。


 俺は思わず大きな溜め息を零れる。



「……はあ、まじですかい」



 よりによって友人キャラである。最悪だ。


 え? 何故、最悪なのかだって? そりゃあ君、決まっているじゃないか。


 友人キャラは主人公ではない。


 主人公なら推しを含めた数多くのヒロインとエロいことができる。


 しかし、友人キャラは所詮ただの友人。

 なのでヒロインたちとは絶対にエロい展開にはならない。


 最悪なのは主人公の性格だろう。


 アレンは女の子を好きになったらすぐ告白し、オッケーしてもらえるまでアプローチする。


 そして、相手がオッケーしたらすぐエッチ。


 相手に許嫁がいようと、人妻だろうと主人公たるアレンには関係ない。

 アレンは好きになった女は絶対に抱いてハーレムに加える。


 そういうヤリチンになるのだ。


 まあ、それは村に泊まった冒険者が夜な夜なパーティーメンバーの女性とハーレムエッチしてたのを偶然目撃してしまい、目覚めてしまってから。


 今はまだ純粋無垢な少年だがな。



「……困ったことになったな、どうしよう」



 当然ながら俺にも推しヒロインがいる。


 しかし、アレンが性癖に目覚めてしまったら全てのヒロインはあいつのものになってしまう。


 ゲームでのルカンはヒロインたちの情報を持ってくるキャラだが、別にルカンがいなくてもヒロインとフラグを立てることはできるからな。


 俺が何をしようとヒロインはいつか必ずアレンの女になるのだ。


 ……悔しい。悔しいなあ。



「どうせあいつに取られるなら、今から告白して少しでも美味しい気分を味わっておくか?」



 と、呟いた瞬間。


 部屋の扉を誰かがコンコンと軽くノックして、入ってきた。


 その入ってきた人物を見て、俺は硬直する。



「ルカンくん、お薬の時間ですよー」



 絶世の美女だった。


 艶のある長い黒髪は臀部まで伸びており、黄金の瞳が真っ直ぐ俺を見つめている。


 そして、めちゃくちゃおっぱいがデカかった。


 色白で腰はキュッと細く締まっており、太ももはムッチムチでエロすぎる。

 お尻は肉付きのいい安産型で、脚はモデルのように長かった。


 横に深いスリットの入った純白のシスター服を身にまとっており、どことなく神々しい雰囲気を放っている。


 そのシスターの名前はクロエ。


 アレンとルカンが育った村で唯一の治癒魔法の使い手であり、村の教会を管理する人物。

 アレンの初恋の相手でもあり、ある秘密を抱えるキャラクターだ。


 実は『ブレイブクエスト』のシナリオの根幹を担う重要キャラクターで、その正体は……。


 いや、今はやめておこう。


 俺は彼女の姿を見た瞬間、思わず口が勝手に動いてしまった。



「シスタークロエ、好きだ!! 俺と結婚してくれ!!」


「あら……」



 推しヒロインを見て理性が抑えられず、俺は後先考えずに告白してしまった。


 ええい、ままよ!!


 もしクロエに断られたら旅に出て聖地巡りしようそうしよう。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ちょっとした小話


作者「神聖なものって汚したくなっちゃうよね」


ル「お巡りさん、こいつです」



「斬新な原作主人公で草」「即行動するスタイル嫌いじゃない」「通報されてて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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