ギル・エリカールは生まれながらにして才能があった。人殺しの才能だ。大人を圧倒する剣術の腕。相手の動きの予測や、事前に罠を張り巡らせる狡猾さ。そして何より、躊躇無く人を殺せる才能。

 父親はルザック・エリカール。貧民街出身の男だ。母親は不明。彼の父親もまた人殺しだった。いくら才能があるといってもそれだけでは屈強な男たちには勝てない。ギルの剣術の腕前や幼くてもグロテスクな光景に動じない精神は父親の教育の賜物だろう。

 ギルとルザックはウォドルグ大陸の北側に位置する大陸最大の国、北カルム帝国の中でも北側の貧民街で殺人や機密文書の運び屋として働いて得た金で暮らしていた。

 二人が暮らしていた貧民街は北半球の最北端で、その辺りは世界的な魔力の流れの溜まり場になっていたので、必然的に出現する魔物や魔力災害は強大なものになる。


帝国歴1875年8月3日 怪魔海氷の大寒波

 それは突然起こった。北極点に溜まった魔力による巨大な魔力災害だとか、海の底に住む巨大な海洋生物、もしくは魔物が起こしただとか言われているが結局真相は分からないまま。その頃の帝国の北側は地獄だった。毎日気温は-20度は必ず下回り水は凍り、パンは氷のように固くなった。二人が住んでいた貧民街などは国は見捨て、餓死や凍死などの様々理由で亡くなった人々の死体があちらこちらで見られるようになった。

 ルザックはとてつもなく強い男で、気温操作系統の魔術で自分と息子のギルだけは大寒波から守っていたが、最北端の貧困街から大寒波の影響を受けてない地域に移動するには最低でも三か月はかかる。その移動の最中にルザック達は食糧困難に陥り餓死した。


 共に旅をしていたギルは大寒波の影響を受けてない場所にたどり着くのは無理だと思い外気の影響をほとんど受けないダンジョンで生活することにした。ルザックから教わった剣術や考え方、基本的な魔術を駆使して生き延びていった。


帝国歴1878年2月20日 

ダンジョンで暮らしてから2年6か月17日後、大寒波は収まり北半球の三分の二を覆っていた氷は徐々に解けていき、ある程度は元に戻った。

 そこでギルは再び外の世界に出た。


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