閑話#15 寧々の話しと、神の話し

 やっぱ神ってクソだよね!

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 ある日の寧々の大学生活にて。


「あー、疲れたー……」


 その日最後の講義を終えるなり、寧々はぐでーっと机に突っ伏した。

 そのせいで、ノートが少しぐちゃっとなったがそんなことを気にする余裕は、今の寧々にはなかった。


「おいっすー、寧々ー」

「あー、優美ちゃん」


 そんなぐでーっとした寧々の所に、高校時代からの友人である川端優美がやって来た。

 大学にいる間、二人はよく一緒に行動しているのである。


「どうしたんどしたん? そんなにぐでーっとして?」

「やー、最近忙しいのと貧血気味でねぇ……」


 やけに疲れた様子の寧々が気になって優美が何かあったのか尋ねると、寧々は苦笑い交じりにそう答える。


「貧血? あ、もしかして重い的な?」

「あ、いやそういうわけじゃないよー。というか、こういうとこでそーゆーのなしでしょー」

「ごめんごめーん。んでー? なんでそんなに疲れてるの? しかも貧血って?」

「詳しくは言えないんだけどさー、ちょっと夏頃から始めたことでねー。やー、今の生活になってから、出血が止まらんですよー」

「出血が止まらないって何してんの? というか、大学生活を送る上で絶対聴かないセリフだねぇ」

「それくらいやばいってわけだぞー」


 そう言いながら寧々は頭の中にこうなっている原因こと、神薙みたまの中身である桜木椎菜のことを思い浮かべる。

 今思い返してみても……。


「あのペアは反則だぞ……」


 寧々が思い返しているのは、突如としてコラボ配信が流れたあの日、通称『ロリピュアショック』と呼ばれる、神薙みたまと魔乃闇リリスによるゲリラコラボ配信だ。

 あの時の配信はかなり話題になった。


 何せ、らいばーほーむの二大ロリである二名がやたら可愛らしいポーズに、日曜日の朝に放映されている女児向けアニメの如き名乗りをしたために、配信を見ていた者たちは軒並み即死。

 しかも、配信が速攻拡散された結果、更に死者は倍々ゲームで増えて行き、結果、あの配信の視聴回数が100万越えをする状況となった。


 当然はつきも視聴していたので、見事に尊死した。

 おかげで、鼻血とか吐血とかそれはもうすごいことになった。


「ペア? あ、もしかして寧々もみたまちゃんとリリスちゃんの配信見た感じ?」

「優美ちゃんも見たの?」

「そりゃあね! というか、VTuber界で一番ホットな箱じゃん? そりゃあ見るってもん!」

「そ、そっかー。そう言えば推しがいるんだっけ?」

「いるいるぅ! みたまちゃんもいいけど、私はやっぱはつきちゃんが好きかな!」

「ぶふっ」

「うわ!? ど、どしたん寧々?」

「あ、い、いや、何でもないぞ……」


 てっきりらいばーほーむの殺戮兵器こと、神薙みたまが好きなのかとばかり思っていた寧々は、まさか自分が推しだと知り思わず噴き出してしまった。


「ち、ちなみに、理由は?」

「んー? そうだねー。やっぱりテンション? あの、どんな時もやたら高いテンションを維持してて、それでいてクソゲー攻略に全力なとことか? ほら、くだらないことでも全力でやる姿って超良くない? 私、それが好きでさー……って、どうしたん? すっごい顔赤いよ?」

「あ、え、いや、ちょ、ちょっとねぇ? あ、あははは! そ、そっか! はつきちゃんが好きなんだね!」


 正体が自分だとは知らないとはいえ、これはすごく照れる……寧々はそう思ったし、何より大事な友人の推しが自分だったことは素直に嬉しいわけで。

 ちょっと泣きそうになっていたりする。


「また、みたまちゃんとコラボしてくんないかなー。というか、いるかちゃんとはつきちゃんの二人はまだみたまちゃんとコラボしてなくない?」

「あ、そういえば……全員とか複数ならあるけど、一対一は無いね」

「でしょー? やっぱ見たくない? 同じ三期生なんだし、是非とも同期との素晴らしい絡みが見たいわけで!」

「ふむふむ、一理あるぞ……!」


 と、そこまで話したところでふと思い出す。

 そう言えば、以前の親睦会として行った居酒屋でコラボしよう! みたいな話があったなぁ、と。

 考えてみれば、あの後ちゃんとコラボしたのはふゆりさんだけだったなー、とも。


(となると……そろそろあたしたちともコラボしてもいいのでは? みたまちゃん、かなり慣れて来てるし……うん! これは是非とも、提案しなければ! そして、一緒にクソゲーをしたいぞ!)


 心の中でそう考える寧々は、早速連絡だー! と、早速とばかりにスマホを取り出す。


「あれ? 寧々ってそんなスマホ持ってたっけ?」


(あ。そ、そう言えばここ大学だよ!? と、とりあえず、誤魔化し!)


「こ、これはね、ちょっと趣味で使うために新しく契約したスマホ!」

「へー、二台持ちとか結構お金あんだねー。羨ましい!」

「あ、あはははー」


 羨ましそうに言ってくる優美に、寧々は苦笑いを零す。

 実際、はつきもかなり稼いでいる。


 というか、らいばーほーむ全員、かなり稼げている。

 少なくとも、普通にアルバイトをするよりも圧倒的な金額だし、それどころか平均月収以上に稼げているライバーもいるくらいだ。


 尚、はつきはそれに近いくらいには稼げていたりする。

 今もちゃくちゃくと登録者は増えているし、それは他のライバーにも言えることだ。


 ……もっとも、らいばーほーむに所属しているライバーたちで、学生組じゃないメンバーは、全員が本職を持っていてそっちでもかなり稼げている上に、


『なんでライバーしてんの?』


 みたいな奴らがほとんどでもある。


 というか、シスコンとか、ロリコンとか、コミュ障とか、おぎゃる常識人とか、常識人とか、女版山寺○一とか、委員長キャラスキーギャルとか、本当になんでライバーしてんの? みたいな奴らばかりであり、そもそもライバーをしなくとも稼げるし、稼ごうと思えば稼げる。


 じゃあ、なぜこんなことをするかと言えば、ひとえに……ただやりたいから、それだけなのだ。

 ちなみに、らいばーほーむがライバーを募集した際の選考基準はこうである。


『1.自分のやりたいことがあるかどうか』

『2.お金目当てじゃないかどうか』

『3.イカレた何かがあるかどうか』


 この三つだ。


 特に重視されているのは二つ目で、お金のために配信をやるような人たちは基本落とされている。

 もちろん、多少なら許される。

 具体的には、おまけ感覚で。

 もしくは、その稼いだお金でもっと人を楽しませたい! とか思っていれば例外的に許される。

 逆に、お金を稼ぐことが目的だと普通に落とされる。


 ちなみに、三つ目に関してだが、別に頭がおかしければいいというわけではなく、その人物に個性があるかどうか、という部分が問われる。

 その結果が今のらいばーほーむの魔境っぷりなのだから、人を見る目があるにはあるのだろう、らいばーほーむ人事部。


 尚、たつなが採用されているのは、あの魔境に突っ込まれても好きだからで居続けるその謎メンタルが理由である。

 みたまの場合は……絶対に大成する! というか、可愛いからよくない!? という謎の理由からである。

 結果はご覧の通りだが。


(とりあえず、早速椎菜ちゃんに連絡を!)


 と、寧々はトトト! と椎菜宛にLINNでコラボしたい! という旨の連絡を送ると、すぐに、


『うん、いいよ! いつやろっか?』


 了承する旨のメッセージが飛んで来た。

 寧々、今にも小躍りしそうなくらい嬉しい。


『次の土曜日とかどうかな?』

『じゃあその日で! 楽しみにしてるね!』

『やったぜ!』


 すぐに次のコラボの約束を取り付けた寧々は、にまにまと嬉しそうな笑みを浮かべる。


「寧々、なんかいいことでもあったん? すごいニヤニヤしてるよ?」

「うん、いいことがあったぞ!」

「そっか、よくわからないけど、よかったね!」

「うん!」


(次の土曜日が楽しみだぞ……!)


 次の土曜日を楽しみにしながら、はつきはどんなクソゲーをやろうか、と頭の中で考えていくのだった。



 ところ変わってこの世ではない場所にて。


「…………んゅ?」


 その日、新たな神が誕生した。

 何もない空間に光の粒子が集まって行き、それが形を成すと、白い髪に蒼い瞳を持ったとても可愛らしい巫女服姿の幼女がそこに現れていた。

 幼女はぺたんと足を伸ばして座っており、可愛らしい声を出しながらこてんと小首をかしげていた。


「こ、これは……いやはや、近頃妾に人の子らからの信仰が流れ込んできておったが……まさか、新たな神が誕生するとは、いつぶりじゃろうか」


 楽しそうに呟きながら一人の女性が姿を現した。

 どこか神々しさを感じさせる美貌を持っており、一度見たら思わず誰も彼もが一目惚れしてしそうなほどに、美しい女性であった。

 この女性、名を宇迦之御魂大神、広く知られた名前で言えばお稲荷さんである。


「かかっ! まさか、我が分け御霊が加護を授けた存在が、新たな神を生み出すまでの信仰を集めるとは……しかも、短期間で。ふふ、やはり人の子の世は面白いのう」


 目の前の幼女を見ながら、楽しそうに笑う宇迦之御魂大神。


「……ここ、どこ?」

「おっと、すまぬな、新しき神よ。ここは、そうじゃな……ありていに言えば神の世界。まあ、神界でよい」

「……よく、わからない」

「ふむぅ? これはまた、かなり未熟じゃな……見た所、年の頃は七つ程か。うぅむ、かなり幼いのう……」


 ふむ、と宇迦之御魂大神は口元に手を当てて考え込む。

 目の前にいる幼女神は、どうやらかなり精神が幼いらしい。

 理由は何かと考えると……ふと、一つの可能性に行きついた。


「なるほど、つまるところ、短期間で生まれてしまったことが問題、というわけじゃな」


 ということである。


 神は生まれながらにしてある程度の知性を有している。

 全知全能とまではいかないが、それでも人よりも遥かに優れた存在だ。

 なので、本来は生まれたばかりの神と言えど、精神はある程度発達しているはずなのだが……目の前の幼女神の場合、かなりの短期間であることが問題だった。


 本来であれば、かなりの年月をかけて生まれる神だが、目の前の幼女神は、たった数ヶ月で生まれてしまい、結果として未熟なままで生まれてしまったのだ。

 それ故に心も体も幼いのである。


「そも、まさかあの神子があそこまで信仰を集めるほどに大きな存在になるとは予想もしておらんかったからのう……なるほど、蓄積する時間が足りなかったか。それに……妾たちですら吸収しきれないほどの莫大で強い信仰心が吸収しきれなかったもので生まれた神じゃからのう……うぅむ、これは困った。このようなこと、一度もなかったんじゃが……」

「…………おかーさんは……?」


 どうしようかと宇迦之御魂大神が迷っていると、目の前の幼女神は、きょろきょろと辺りを見回しながら、寂しそうにそう呟いた。


「む? 母とな? おぬし、母親がわかるのか?」

「……おかーさんに、あいたい……おかーさん、どこ……? みたま、おかーさん……」

「むっ、みたま、とな? ……おぬし、名はあるか?」

「…………みま。神薙、みま……です……」

「ふむ、神薙……しかもその名前は……なるほどのう。この娘はあの神子のもう一つの姿が神となった存在か……しかし、名前が一字抜けとな。未熟というのもあるじゃろうが……おそらくこれは、みま自身が望んだ名前、じゃろうな……無意識じゃろうが」

「……おかーさん……」


 と、目の前の幼女神――みまは、今にも泣きそうな顔をしながら、おかーさんと呟いた。


「やはり、精神がかなり幼いか……うぅむ、これは困った、どうしたものか……………………いや待て? これはかなり良いのではないか?」


 母親を求め、今にも泣きだしてしまいそうな幼子の神を見て、宇迦之御魂大神困ったような表情を浮かべていたが、これはチャンスだと考え出す。


「そうじゃ……この娘はまだ幼く、更には母親を求めておる……そして、今や日ノ本の神の間で、あの神子はかなりの人気者……仕事そっちのけで配信なる物を視る物が多いと聞く……というか、妾も見とるしな。大好きじゃし」


 日本の神様界の間で今一番ホットなのは、神薙みたまこと、桜木椎菜である。

 元々、美月市を守護する美月が加護を付与していたこと自体はある程度知られていたが、その神子がVTuberになると、それを美月が他の神々に布教し始めたのだ。

 結果、沼に嵌る神々が続出。

 今では、神薙みたまの配信を楽しみにしている者が多く、その延長としてらいばーほーむを見始める神が増える始末。


「……しかも、この娘はあの神子から生まれた存在と言っても過言ではない……なるほど。そう言えば、美月から報告があったか……なんでも、我が領域に来るとか……ならば、その時がちょうどよかろう。みまよ」

「ぐすっ…………なぁに……?」

「おぬし、母に会いたいじゃろ?」

「……おかーさん、あいたい……いっしょにいたい……」


 宇迦之御魂大神の問いかけに、みまは泣きながら訴える。

 その様はとても神には見えず、ただの親を求める幼子にしか見えなかった。

 宇迦之御魂大神の心が僅かに痛む。


「であるならば、妾がそなたを母に会わせてやろうぞ!」

「……ほんと?」

「うむ! なんでも、近々おぬしの母が我が領域にやって来るらしい。その際におぬしは下界に降り、おぬしの母に会いに行くのじゃ。さすれば、おぬしは母と一緒にいられるじゃろう」

「……ほんと? みま、おかーさんといっしょ……?」

「うむ、一緒じゃ」


 断られるかもしれない、そんな未来を一切考慮せずに断言する宇迦之御魂大神。

 普通だったら、可能性も考えるべきなのだろうが、相手は椎菜である。

 とても心優しい少女(少年?)であり、これほどの幼い少女且つ、狐耳と尻尾もあり、自分の分身とも言える存在に似た姿をした少女から、『おかーさん』と呼ばれようものなら、間違いなく……落ちるな、とそこまで見通している。

 まあ、結果は本当に連れ帰ることになったが。


「じゃが、今すぐは不可能。故に、しばしここで待たねばならぬ。我慢できるか?」

「……おかーさんにあえる、なら……みま、がまん、する……!」

「そうかそうか、良い子じゃ。ならば、妾と共に待とう。なに、時間などあっという間じゃ。それまでは、おぬしの母の様子でも見よう」

「……うん」


 というわけで、宇迦之御魂大神は早速とばかりに、椎菜の様子を見るべく、下界の様子を映し出し、みまと一緒に見始めた。

 そして時間はあっという間に進み、遂にみまを下界に降ろす日になった。


「良いか? おぬしはあの神子の娘じゃ。素直にそれを告げればよい。さすれば、おぬしの母も受け止めてくれるじゃろう」

「……うん、ありがとう……」

「では、行くのじゃ! みまよ! 安心するがよい。もしもの時はすぐにこちらの世界に帰って来られるようにはしておくでな。安心して、ぶつかってくるのじゃぞ!」

「……うん、いってきます……!」


 みまは決意に満ちた表情で下界へと降りて行った。

 それから、最初は狐の姿だったために、上手く話すことが出来なかったが、翌日接触に成功し、見事一緒に暮らす約束を取り付けることに成功し、すぐに仲良くなっていた。

 みまの表情はとても幸せそうであり、それを見る椎菜の表情もとても母性に満ち溢れていた。


「うむ、やはり母娘は一緒ではなくてはな……」


 その様子を見て、宇迦之御魂大神は微笑まし気な表情を浮かべる。

 そして、その表情は次第に愉悦的な物へと変わり……


「ふ、ふふ……ふふふふ! これで! これで尊い母娘の仲睦まじい光景が見られるッ……! やはり、あの神子は素晴らしい! そして、なんたる可愛らしい存在か、みまよ! おぬし、最高じゃぞ! ただでさえ魅力的な神子が、さらに魅力を増しおった! うぅむ! さすがじゃぁぁぁぁ! さすがじゃぞ美月よ! よくやった! そして、みまを生み出した人の子たちよ、おぬしたちに感謝を! そして喜ぶのじゃ! おぬしらの活躍により、魅力が増した神子が見られるぞーーーーーーーーー!」


 と、一人神界で叫ぶのだった。


 尚、今回は色々やりすぎ、ということで、宇迦之御魂大神は怒られました。

 主に、天照大御神から。

 まあ、そちらの方も神薙みたまの配信を見ていたことと、椎菜のことは気に入っていたので、普通に許されたが……。

 神様方は椎菜とらいばーほーむにご執心のようである。


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 はい、はつきの話しと神の話しでしたー。

 やっぱ神ってクソだよね!(二回目)。

 とはいえ、母親に会わせたいし、一緒にいさせてあげたいと思ったのは本心です。母娘と一緒が一番いのはそれはそうだしね。それはそれとして、尊い姿が見られるヒャッホー! してるのも事実だけど。

 結局一番すごいのは椎菜だと思います。

 普通見ず知らずの女の子を連れ帰るとかしないよ? やっぱらいばーほーむだわー……。

 というか、三期生と絡ませてぇ……あと、男共とも……話が進まんからハロウィンの話に行かない……早く、あの時のアンケートの結果を反映させた話を書きたいのにね!

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