#63 二人に相談、配信前
色々あってなぜか僕が主人公のゲームが作られることになった日から数日。
その日は金曜日で、今日の夜から100万人突破記念の配信をする予定です。
さすがに100万人を超えてからは伸びは緩やかになったみたいだけど、それとは別に他のらいばーほーむのみなさんは伸び続けてるそうです。
すごいけど、順調すぎて怖いよぉ……。
「はぁ……」
「どうしたんだ? 椎菜。溜息なんか吐いて」
「何か悩み事?」
お昼休み。
屋上でいつもの三人でお昼ご飯を食べている途中、僕が溜息を吐くと、二人が心配してきました。
「うん……今日の配信、大丈夫か心配で……」
「あー、今日は記念配信だもんな。しかも、100万人……改めて考えるとやっぱおかしくないか?」
「うん、二ヶ月も経たないで100万人ってすごいよね……奇跡じゃない?」
「というか、100万人ってたしか金の盾がもらえるんじゃなかったか?」
「あ、そういえば! 椎菜ちゃん貰ったの?」
柊君の言葉に、麗奈ちゃんがどこかうきうきとした様子でそう訊いて来ました。
あ、気になるよね……。
「ううん、貰ってないよ」
「えー、どうしてどうして?」
「んっと……あれって申請をしないといけないみたいで、申請をして審査して、受理されてから二週間から三週間くらいで届くの。僕はなんというか、実感が湧かなくて……あ、お姉ちゃんはすぐに申請してたよ~」
「そっかー。でも、愛菜さんは申請したんだね」
「うん、これで大人気VTuberの仲間入り☆ って言ってました」
「仲間入り以前に、既に大人気だったと思うが……」
「あ、あははは……」
それはそうだよね……。
だけど、実感が湧かないのは本当です。
というより、すぐに100万人も行くとは思ってなかったからね……。
どんなに頑張っても数年はかかるかな? というより、そもそも100万人もいかないよね、なんて思っていただけに、本当にこう、寝耳に水でした……。
「それはそれとして、割と早い段階で10万人突破してたんだし、銀の盾は申請できたんだよな? それはしたのか?」
「そっちもしてない、かなぁ……」
「そうなの?」
「……そもそも僕、自分からやりたい! って言って始めたわけじゃないからね」
「そういえばそうか。だが、楽しいんだろう?」
「それは、うん。みんないい人だし、楽しいよ? いつも騒がしくて、優しいし……」
楽しくなかったら続けないもん。
「そっかそっかー。ちなみに、椎菜ちゃん的に恋愛的にいいなぁ、って思う人とかいないの?」
「ふぇ!?」
「おい朝霧……」
突然の麗奈ちゃんの言葉に、僕はびっくりして、柊君は呆れた顔を麗奈ちゃんに向けていました。
れ、れれれ、恋愛的!?
「あ、あのっ、え、えと……」
「いやほら、椎菜ちゃんって体は女の子だけど、一応元男の子でしょ?」
「一応は余計だよぉ……」
ちゃんと男だったのに……女の子に間違われてばかりだったけど……。
昔、知らないおばあちゃんから飴を貰ったことがあるしね……。
「だから、椎菜ちゃん的にはこう、恋人になりたい、って思うことはないのかなーって」
「そ、そそそ、そんなこと言われ、ても……あの、ぼ、僕なんかを好きになってくれるとは思わないし……」
((いや、告白したら間違いなく受け入れると思う……))
「そ、それに、みなさん綺麗だし、可愛いし……つ、釣り合わないと思うんだけど……」
((むしろ、向こうが釣り合わないとかありそうなんだが(だけど)……))
「まあまあ、そう言うのはあくまでももしもでいいんだから! ねね、どうなのどうなの?」
「も、もしも……」
麗奈ちゃんに言われて、ちょっと考えてみる。
…………………………はわわわわわ~~~~~!?
「ぷしゅ~~~……」
「おい椎菜なんでそんなに真っ赤になる!?」
「何を想像したの!?」
「……ふぇ、ぁ、そ、その…………き、きしゅ……」
肝心なところで噛んじゃったけど、僕は恥ずかしがりつつ、考えていたことを言いました。
うぅ、キスをするところを想像したら恥ずかしくなっちゃったよぉ~~~~~!
「……キスでそこまで真っ赤になれる時点で、相当ピュアだよな……」
「だ、ね……ねぇ、高宮君。今の椎菜ちゃんを見たら、すっごいきゅんきゅんしちゃったんだけど、どう思う?」
「どう思うって……言っちゃなんだが、椎菜は男の時からこんな感じだしなぁ……」
「え、そうなの!?」
「あぁ、ラブコメ系のマンガでキスシーンを見ると、顔を真っ赤にして思わず顔を手で覆う感じだな。で、ちらちら見る」
「え、何その可愛い生き物……」
「ピュア、だからな……ほれ、椎菜。顔を赤くするのはいいが、いい加減戻ってこーい」
ぺちっ、と軽くほっぺを叩かれて正気に戻りました。
「あっ、ご、ごめんね、その、つい……」
「いやいやいいっていいって! でも、そうやって想像するっていうことは、恋人になれたらいいなぁ、って思ってたり?」
「…………そ、その、と、年上の女性が好み、なので……あの、その……はぅぅ……」
「うぐふっ!」
「麗奈ちゃん!?」
「あー、今のはそうなるわな……」
突然麗奈ちゃんが血を吐きました。
どうして突然!?
「はぁ、はぁ……ふ、不意打ちだぜぇ……」
「だ、大丈夫……?」
「あ、うん、大丈夫大丈夫! でも、そっかー。椎菜ちゃんでもそう考えるんだね?」
「あぅ……こ、これでも、心は男のままなんだよ……? その、ほんのちょっとくらい考えちゃうよ……」
でも、すごく申し訳ない気持ちにもなるけど……。
その、そう言う目で見られたくないと思うし……。
「……そう言う目を向けられてるとわかったら、軒並み暴走しそうだけどな」
「わかる。三期生のあの人とか、二期生のあの人とかは特に……」
「俺としては、椎菜には是非とも恋人を作ってもらって、俺は安心したいが……その前に抑えきれなくなったらいばーほーむの女性陣が椎菜を襲わないか心配でな……そう言う意味で安心できるのは、一期生のリリスさんくらいじゃないか?」
「たしかに。椎菜ちゃんと同じでちっちゃくて、ピュアって話だよね?」
「あ、その話と言えば……椎菜」
「なぁに?」
「一つ訊きたいことがあったんだ。たしかお前、日曜日に出かけたー、って言ってたよな?」
「あ、うん。リリスお姉ちゃんと一緒に。たつなお姉ちゃんも合流して」
「何気にすごいことになってない? 椎菜ちゃん」
「本当にね……」
気が付けば、三人でお出かけしてたし、ナンパもされたし、なぜかモデルもしたし……一日でいっぱいあったなぁ……。
「その日の夜、愛菜さんから連絡があってな……」
「高宮君、なんでそんなに遠い目をしてるの?」
「お、お姉ちゃんが何かしたの……?」
お姉ちゃん、柊君に色々と教えてるー、ってお話だけど……大丈夫なのかな……?
なんだか心配です。
「いや、なんか……『椎菜ちゃんが都会でナンパされたので、今後はその危険性を考慮して更なる訓練をしようね☆』って送られてきてな……」
「え、椎菜ちゃんナンパされたの!?」
「……実は、その、はい……」
「え、大丈夫だった!?」
僕がナンパされたとわかると、麗奈ちゃんが慌てたようにそう言って来ました。
心配されるのってすっごく嬉しいんだけど……元男としては複雑な心境です……。
「だ、大丈夫。腕を掴まれそうになったけど、その前にたつなお姉ちゃんが助けに入ってくれて、背負い投げで倒しちゃったから」
「え、たつなさんって柔道か何かやってたの?」
「んっと、護身術でちょっと、って言ってたよ? 昔色々あったみたい」
「……あー、そう言えば恋愛ゲームの雑談で言ってたな」
「そう言えば……というより、らいばーほーむの人たちって普通の恋愛をしてない気がするなぁ」
「普通じゃないからああなるんだろう」
「納得です」
「???」
「っと、それはいいとして、だ。たしか、元々はリリスさんと出かけるんだったよな? なんでたつなさんが?」
と、柊君は疑問顔でどうして一緒にいたのか訊いて来ました。
まあ、そうだよね……ちなみに、柊君には一緒にお出掛けしていたことは伝えてあります。
皐月お姉ちゃんのことは言ってなかったけど。
あと、当然本名は言えないので、ちゃんとライバーの名前です!
「その……二人には色々と助けてほしいので言うんだけど……実は、新宿でスカウトされまして……」
「ちょっと待て。スカウトってなんだ!?」
「アイドル? アイドル!?」
「う、ううん、モデルさんのスカウトでした」
「「えぇぇ!?」」
スカウトされたことを言うと、二人は大き目な声で驚いていました。
だ、だよね……。
「その、『small&cute』っていうブラントでして……」
「あっ、それってあれだよね? 背が低い人向けのブランド! へぇ、あそこから! まあ、椎菜ちゃんぴったりだもんね」
「朝霧は知ってるのか?」
「これでも華の女子高生なので! まあ、あたしには縁のないブランドだけど……椎菜ちゃんみたいに、背が低い女性向けのブランドでね? 年齢層的には、高校生から二十代くらい?」
「なるほど、そう言う感じか。たしかに、椎菜ならぴったりというか……男の時でもスカウトされてそうだな……」
「たしかに」
「二人とも酷くないかなぁ!?」
さすがに男の時だったらスカウトされてないと思いますっ!
絶対に! きっと! 多分……!
「だが、なぜスカウト?」
「あ、んっと、その、その日撮影をするはずだったモデルさんが一週間前に大怪我をしちゃったみたいで……それで、広報のお姉さんがモデルになりそうな人を一週間ずっと探してたらしいの。それで、撮影当日になっちゃって……新宿を歩いていたら僕とリリスお姉ちゃんを見つけてスカウトに……」
「な、なるほど……って、待て。話が読めて来た」
「え、ほんと? 高宮君?」
「あぁ。概ね、色々あってモデルをすることになって、本職がモデルらしいたつなさんと遭遇。そのまま一緒に遊んだ、っていう経緯だろ?」
「せ、正解です」
「おー! さっすが高宮君! 椎菜ちゃんのこととなると探偵さんだね!」
「付き合いが長いからな」
それでそこまでわかるのは普通にすごいと思うし、反対の立場だったら多分わからなかったと思うので……多分、柊君が凄いだけだと思います。
「しかし、それで俺たちに助けを求める理由、は………………なぁ、椎菜。まさかとは思うんだが……いや、十中八九そうだろうが……その撮影は何の撮影だ?」
すごく苦々しい表情を浮かべた柊君が、眉間をもみほぐしながら僕に向かってそう尋ねてきました。
僕は視線を横にずらしてから……
「……ファッション雑誌の撮影、デス……」
そう言いました。
「……やっぱりかっ……!」
「え、高宮君。もしかして……」
「あぁ。つまり、だ。どこかのタイミングで発売される雑誌に、椎菜が堂々と写ってる。しかも、今の話しぶりからして、間違いなくリリスさんも一緒という特大の爆弾を抱えてな」
「えぇ!? そ、それ大丈夫なの!?」
「その、リリスお姉ちゃん的には、バレても問題ない! らしくて……あと、僕が高校生で色々と協力してくれる二人のことは、らいばーほーむのみなさんには知っていて……」
「認知されてるのかよ!?」
「ほんとに!?」
「は、はい……なので、一応、その、こういう場面に遭遇した場合は、巻き込んでいいよ! ってお姉ちゃんを経由して知らされてまして……だから、あの、その雑誌が発売されたら、守ってほしいなぁ、って……」
「「な、なるほど……」」
実際の所、僕はまだ未成年だし、何より高校生。
大学生よりも自由度はないし、出来ることにも限界があるので、柊君と麗奈ちゃんが協力者のような形でいるわけで……もちろん、大事なお友達だから、そっちがメインじゃないです!
あと、らいばーほーむのみなさんに言われたんだけど、
『色々と心配だから、ある程度は話してもいいよー』
って、みなさんから言われてまして……その、僕が信用してる人なら安心! とのことです。
すんなり信じられるのもすごいけど、本心の四割はバレても別にいい、かららしいです。
皐月お姉ちゃんは関連性を出してないだけで、顔出しはしちゃってるからね。
あとお姉ちゃんも。
「まあ、わかった。その時は色々と助けるが……しばらく騒がれるだろうなぁ……」
「だねぇ……だって、モデルをした人が同じ学園から出た! ってだけで大騒ぎだもんね」
「更には、そのモデルをした当人は100万人越えのVTuberだしな……おかしくね?」
「うん。おかしいねぇ。やっぱり椎菜ちゃんって、女の子になる運命だったし、そうやってすっごく目立つ運命だったんじゃないかな?」
「その運命はちょっと遠慮したいです……」
あはは、と笑い合って、お昼休みは過ぎていきました。
◇
お家に帰ってからは、いつも通りに夜ご飯を作って、お姉ちゃんと二人で食べて、お風呂に入りました。
そうして、髪の毛を乾かして(お姉ちゃんや麗奈ちゃんにやるようにって言われました)、僕のお部屋で配信が始まるまで待ちました。
「うぅ、緊張するよぉ……」
「大丈夫大丈夫! 視聴者数がちょっととんでもないことになってるけど、へーきだって!」
「だ、だって、あの企画はさすがに……」
「そうかな? 私は楽しそうだったけどね! なので、事前に椎菜ちゃんに言ってレバニラを作ってもらってるわけですが」
「まさか配信で使うから! っていう理由で、レバニラ炒めを作ることになるとは思わなかったです……」
今日の配信で行う一つの企画のためにレバニラ炒めを作ることになったからね。
けど、お姉ちゃんが喜んでくれるので、全然苦じゃないです!
「さてと、そろそろ時間だね。椎菜ちゃん、準備はOK?」
「う、うん! 頑張りますっ!」
「よーし! じゃあ、配信開始☆」
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次回は配信回!
というか、レバニラ炒めがシスコンの回復になってやがる……!
あ、ちなみにですが、柊と麗奈の両名の存在と立ち位置は椎菜が話したように、シスコンを通してらいばーほーむ全員に知らされております。
特に柊に対しては『漢で勇者!』とそれはもう高評価をもらっており、まず美少女になっても態度を変えなかったこと、未だに男扱いをしている事、そして絶対に惚れないと言う鋼のメンタルをしており、更には日常生活では椎菜を護ることをしているために、かなり信頼されています。そんな柊と一緒なんだから、麗奈も大丈夫だよね! みたいな、そんな感じ。
……こうして見ると、柊って本当にVTuber系ラブコメの主人公みたいな立ち位置だなぁ……。
柊が主人公だったら、間違いなく何人かのライバーが柊に惚れる展開になってた気がする。まあ、この作品の主人公は椎菜なので、みんなロリコンみたいなもんですがね!
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