#39 帰宅後と、久しぶりの配信前

「で、後夜祭はどうする? 出るか?」

「どうしよっかなー。椎菜ちゃんはどうする?」

「うーん……実はさっきお姉ちゃんからLINNがありまして……そのこんなメッセージが」


 僕はスマホを点けて、さっき届いたばかりのお姉ちゃんからのLINNを見せる。

 そこには、


『呪ってやるゥゥゥゥ……あんのクソ会社は呪ってやるからなァァァァァァァァァ……!!! あ、椎菜ちゃん、もう駐車場にいるからいつでも来ていいよ☆』


 と書かれていました。


「「……情緒不安定?」」

「平常運転です……」

「えぇぇ……椎菜ちゃんのお姉さん、怖いねぇ……」

「怨嗟のメッセージと一緒に、妹への愛が滲み出てるメッセージがあるのは普通に恐怖だな……あの人、椎菜がその姿になってから、暴走が前より酷くなってないか?」

「あ、あははは……」


 それは僕も思うかも……。

 けど、もう慣れちゃってるしね。


「まあ、そんなメッセージを見せられたら、後夜祭に行くのはちょっとアレだよな」

「うん。それに……どうせなら、この姿も見せておいた方がいいのかなぁ、って。お姉ちゃん、あとから知ったら後悔しそうだし」

「……むしろ、死のうとするんじゃないか? あの人」

「そこまでするの? あの人」

「するかしないかで言えば間違いなくする」

「はへぇ~……」

「さ、さすがにそうなる前に止めるけど……お姉ちゃんだからなぁ……」


 もしそんなことになっちゃったら、とんでもないことになると思います。

 それに、昨日メイド服姿を見せたら喜んでたし……。


「というか、その姿を見せて果たして大丈夫なのか……?」

「ふえ? 褒めてくれるとは思うよ?」

「いやそう言う意味ではなく……あの人、心臓が止まらないか、と思ってな」

「あ、そう言えば昨日心臓が止まってたみたいだよね」

「そう言えば……け、けど、さすがに冗談……だと思う、から……ね? うん、大丈夫、だと思います……」


 さ、さすがに、妹を見たから心肺停止はない……はず……。

 ……否定するのが難しくなってきちゃったんだけど。


「椎菜ですら否定しきれないレベルか……」

「椎菜ちゃんがねぇ……」

「あ、あはは」


 もう、苦笑いするしかないと思います……。


「しかしま、椎菜が参加しないなら、俺も帰るかな」

「あたしもー! 幸い、部活の方も何もないし! もう、接客や遊びで足がパンパンだよー」

「そうだな……俺も、足が痛い。特に踵」

「あー、わかる。ずっと立ちっぱなしって、踵が痛くなるよねぇ。椎菜ちゃんはならないの?」

「うーん、あんまり困ったことはないかなぁ……それに、今の体は軽いから」

「いや、椎菜は元々軽かっただろ。椎菜の男の時の体重とか、女子が聞いたら嫉妬もんだぞ?」

「え、そうなの? ちなみに、どれくらい?」

「えーっと……四十ちょっとくらい、だったかなぁ」

「軽っ! え、そんなに!? うわぁ……」


 全体的に華奢だったから、健康診断では、もっと食べた方がいいって言われてたけど……そもそも僕、それなりに食べる方だったんだけどなぁ……。


「なるほどねぇ……。ともあれ、じゃああたしたちは帰ろっか!」

「そうだな。あぁ、椎菜。荷物運ぶの手伝うぞ」

「ありがとー! すっごく助かるよ!」

「あたしも手伝う!」

「麗奈ちゃんもありがとう! じゃあ、行こ!」


 二人のありがたい申し出を受けて、僕たちは職員室に寄ってビンゴ大会の景品を受け取りました。

 重い圧力鍋の方は柊君が持ってくれて、麗奈ちゃんはその他の包丁を持ってくれました。

 というか、僕何も持ってない……。


「あの、僕も持つよ?」

「いいよいいよー。椎菜ちゃんのおかげで、お店は大盛況だったし! おかげで、打ち上げもちょっとだけいいお店で出来るし!」

「あ、打ち上げがあったっけ。いつやるのかな?」

「明後日って言ってたよー」

「そっか! じゃあ、空けておかないとだね」


 幸い、配信は明日だし、問題はなさそう。

 打ち上げかぁ、どこへ行くのかなぁ。


 この学園の学園祭では、各お店で出た売り上げの一部を使って、打ち上げをすることが許されています。


 なんでも、学園長先生曰く、


『だって、打ち上げあった方が青春っぽくない? それに、学生のうちにしかできないことをさせてあげたいから』


 とのこと。


 すごい人だと思います。


 とは言っても、無制限というわけじゃなくて、出た売り上げの内の三割が打ち上げに使っていい費用で、残りは学園側の運営資金になるそうです。

 この資金は、設備の投資に使うらしくて、去年は確か……運動部向けのトレーニング施設だったかな?

 本当にすごいことをするよね……。

 進学校というほどの学校ではないけど、それでもかなり通う生徒からするとすっごくありがたい学校です。


 なんて、三人で打ち上げのことを話しながら、お姉ちゃんが待つ場所へ。

 お姉ちゃんが待ってるのは、学園の駐車場。


 一応、学園祭終了後は外部の人は入っちゃいけないことにはなってるんだけど、OBやOGは許可さえされれば問題ないことになってます。

 お姉ちゃんはOGなのでセーフです。


「んーと……あ、あった! あの車だよ!」

「はいはい! じゃあ、ちゃちゃっと運んじゃおう!」

「はぁ……愛菜さん、大丈夫か?」


 麗奈ちゃんは明るいけど、対照的に柊君は溜息一つ吐いて、お姉ちゃんの心配をしていました。


「お姉ちゃーん!」


 と、ちょっとだけ離れた所からお姉ちゃんを呼ぶ。

 ドアは閉まってるし、人によっては聞こえないのかもしれないけど……


 ガチャッ! たたたっ!


「ひゃっふーーー! 生の椎菜ちゃんだーーー☆」


 お姉ちゃんは一瞬で来てくれます。

 お姉ちゃんが言うには……


『私は半径500メートル圏内の弟(この時はまだ男だったので……)君の声を聴き分けることが出来るんだよ!』


 だそうです。


 本当なのかはわからないけど、実際にこうして聴こえてるから、すごく耳がいいんだと思います。

 すごいよね!


「お姉ちゃん、来てくれてありがとうっ!」

「うんうん! 私の天使のためなら、どこへだろうと――」


 にこにこ顔のお姉ちゃんでしたが、目を開くとその表情が固まりました。

 あ、また固まっちゃったかな……?

 と思ったら、口を開いて……


「――我が世は苦難に溢れたりし、されど我を照らす日のごとき妹との行合ゆきあひが、我が世に光与へ、幸福なるほどを与へき。惜しむらくは、最も思ふ妹とえあはざりしためしなり。ごふっ……」


 突然、古文のようなセリフを言い放った後、吐血して鼻血を出して、地面に倒れました。

 ――すごくいい笑顔で。


「お姉ちゃん!?」

「あれ、意味はわからんが、辞世の句か何かだろ……」

「うん……というかあたし、リアルでヤムチャしやがってを見ることになるとは思わなかった」

「あの人もう何でもありだろ……」

「あの人のリアルって、ほとんどあれと変わらなかったんだなぁ……」

「……というか、あの事務所のライバー、全員素でやってると思うぞ……」

「……そう言えば、すごい美人さんが昨日、椎菜ちゃんに抱き着いてたもんね……おおよそ、女性がしちゃいけないタイプの笑顔で」

「椎菜は気づいてなかったがな。あの人は十中八九、某ロリコンだろうなぁ……」

「あの人たちと普通に接することが出来てる椎菜ちゃんも、十分異常だよね。これ」

「……そうだな」



 あの後、なんとかお姉ちゃんを蘇生(お姉ちゃん大好き、と言うと起きました)。


「いやー、ソーリーソーリー! リアルエンジェルなマイシスターをルックしてたらデッドしちゃったから」

「なんでルー語なんだよ、愛菜さん……」

「あ、やべ。まだ戻ってなかった。……ふんっ!」


 どごぉっ! みたいな、そんな効果音が見えるほどの威力のパンチをお姉ちゃんは自分のお腹にしていました。

 え、何やってるの!?


「お姉ちゃん!?」

「ふぅ……よし! 復活! いやぁ、まさかリアルなあの娘を見ることになるとは思わなかったからつい! というか……」

「ふえ?」

「やぁぁぁんっ! 椎菜ちゃん可愛すぎ~~~~~~っ!」

「わぷっ!?」


 目がハートになってる幻が見えるくらいのテンションで、お姉ちゃんは僕を思いっきり抱きしめてきました。

 あぅ~~!


「おー! 姉妹百合! 姉妹百合だー!」

「朝霧、お前結構楽しんでるな?」

「うん、面白いよ?」

「お前なぁ……」

「ハァハァ……! ぎ、銀髪で、狐耳で、尻尾で……! ふはぁ~~~~~っっ! さいっこう! 椎菜ちゃんの椎菜ちゃんたる所以の香りがっ、私の鼻腔から気管を通って私の肺を満たしていくぅ~~~~~! はぁ~~~~~! エクスタシィィィィィ!」

「ふあぁぁ!? お姉ちゃん!? お、落ち着いてぇぇぇぇ!」

「愛菜さんここ外ですって! さすがに色々不味いですよ!?」

「ちょちょちょっ! お姉さんそれはいろいろしちゃいけない顔! しちゃいけない顔になってますよーーーー!!」


 お姉ちゃんが暴走し始めてしまったので、僕と柊君、麗奈ちゃんでなんとかお姉ちゃんを宥めました。


「ふぅ……いやぁ、ごめんごめん。やっぱり可愛いは正義だよね」


 そう言うお姉ちゃんは、なんだかつやつやしている気がしました。

 本当に何でもありな気がします……。


「それでそれで荷物は……って、おや? そっちの女の子は初めましてだね?」

「あ、はい、朝霧麗奈って言います! 椎菜ちゃんの友達です!」

「ほうほう……んー……よし、ギリ合格!」

「何がですか!?」


 麗奈ちゃんを、頭のてっぺんからつま先まで、じっくり見たお姉ちゃんは、にっこりと微笑んでギリ合格と麗奈ちゃんに言って、麗奈ちゃんはわけがわからず大きな声を出す。


「んー、多分というか、麗奈ちゃんって椎菜ちゃんがしてること、知ってるよね?」

「え、なんでわかったんですか!?」

「お姉ちゃんやっぱりエスパー!?」


 まだお姉ちゃんに教えてないのに!


「ふっふっふー! この私の椎菜ちゃんセンサーを舐めてもらっちゃ困るよ! 基本、椎菜ちゃんって柊君と行動していることが多いしねー。なのに、一人増えてたし、何より普通のお友達より距離感が近いから、あ、これは秘密を知ってるな? と」

「愛菜さん、椎菜相手で突然人外になるのやめてくださいよ……」

「私は椎菜ちゃんのためなら悪魔とだって契約するからね!」

「魂を売るどころか、妹愛で契約を踏み倒した挙句、悪魔に椎菜を布教して、最終的に無償で協力させてそうだな……」

「え? 当然だよね?」

「「「えぇぇぇ……」」」


 仮に悪魔さんがいたとしたら、絶対にお姉ちゃんは相手にしちゃいけないタイプだと思います、悪魔さん。

 いないとは思うけど……。


「と、ところでお姉ちゃん、二日目も来るって言ってたけど、あの、そう言えばいなかった、よね? 何かあったの?」


 話題転換をするために、僕は今日学園祭中にお姉ちゃんを見かけなかったことを訊いてみました。


「あー……例のクソ会社がねぇ、ちょ~~っと私の仕事に難癖付けて来たから、格闘してたの。おかげで、こっちは最愛の妹の学園祭が見られなくて、ブチギレよ。あと、色々やらかしも見つかって、その対応もあったの。……あのクソ社員は地獄に落ちてしまえ」


 最後の一言には、かなりの怨嗟が籠っていました。

 なんと言うか……。


「……お家に帰ったら美味しい物を作ってあげるね」

「え、ほんと? じゃあ、ビーフシチュー!」

「うん、わかったよ! じゃあビーフシチューにしよっか」

「やったぜ! ……っと、あ、柊君と麗奈ちゃんも一緒にどう?」

「いいんですか、愛菜さん」

「あたしも?」

「もちろん! 個人的に、今日一日の椎菜ちゃんの様子を訊きたいし、それに、椎菜ちゃんのビンゴ景品を持ってきてくれたみたいだしねー。ちょっとした恩返しってことで。椎菜ちゃんもいいよね?」

「うん! 二人分より四人分の方が助かります!」


 お料理って、二人分となると実はお惣菜を買った方が安かったりするし、四人分だったらとても助かります。

 それに、ここまで運んでもらっちゃったしね。


「そう言う事なら、ご相伴にあずからせてもらうか」

「あたしも! 椎菜ちゃんのビーフシチュー楽しみ!」

「よし! みんな荷物は持ってきてる?」

「ううん、まだクラスに一週間分の着替えとか荷物があるよ」

「じゃあ、取って来るといいよー。ここで待ってるし!」

「うん! じゃあ、取りに行こ!」


 そう言って、僕たちは一度荷物を取りに教室に戻って荷物を回収してから、お姉ちゃんが運転する車に乗って僕のお家に帰りました。



 あの後、僕のお家でみんなと夜ご飯を食べて、二人はお姉ちゃんに送ってもらっていました。

 僕の方はお風呂に入って、髪の毛を乾かして、自室に戻るなりぽふっ、とお布団に寝転んだ。


「ふぅ……疲れたぁ……」


 学園祭中は色々動き回っていたし、楽しいこともたくさんだったせいで感覚が麻痺していたのか、一度お布団に寝転ぶと疲れがどっと出てきました。


「今年の学園祭、楽しかったなぁ……」


 去年はお化け屋敷でナース(本当になんで)をしていたけど、今年はメイドさんの格好でお料理を作って、提供して、お化け屋敷に入って、ミスコンテストに出て、麗奈ちゃんに神薙みたまのことを伝えて、美味しい物を食べて、ビンゴ大会に出て、欲しかった物が手に入って、みんなと夜ご飯を食べて……細かく上げていったらきりがないくらい、今年の学園祭はすごく楽しかった。


 この体になってから、色々な所で不便を感じていたし、何よりストレスもあったんだと思う。

 だけど、今回の学園祭はそう言ったことを気にする余地がないくらい楽しくて、学園祭のことを考えられたからか、なんだかすっきりとした気分です。

 それに……メイド服、ちょっと楽しかったし……。


 こ、今後もやってみよう、かな? コスプレ……。

 今までは女装をさせられることが多かったけど、今ならおかしくない、もんね?


 たしか、冬コミ? でコスプレができるんだっけ?

 考えてみよう。


「……んん~~~っ! はぁ……明日は久しぶりの配信かぁ」


 最後にしたのは……二週間前だっけ。

 ミレーネお姉ちゃんと配信したきり、配信してなかったし、明日は頑張らないとね!


 水曜日にはコラボ配信があるみたいだし……やっぱり僕、コラボ配信ばかりだよね? 大丈夫かな? いろいろ言われちゃわない……?


 そ、それに、寧々お姉ちゃんたちとも個別でする! って決まっちゃってるし……。

 う、うーん、心配。


「だけど……明日は明日で、色々しないとね!」


 この二週間でましゅまろがいっぱい来ちゃってるし、どんどん消化していかないと!


「明日からまた、がんばろうっ!」


 学園祭の頭を配信の方に切り替えて、僕は一人意気込むのでした。



 翌日。

 お姉ちゃんはお仕事に行き、僕は一週間分の家事をしていました。


 お姉ちゃん、あんまり家事が得意じゃないから、お家汚くなってないかなぁって心配だったけど、昨日杞憂だったことが分かったからね。

 ただ、お洗濯物はいっぱいだったので、洗濯機フル稼働です!


 あとは、お掃除したり、お昼ご飯を食べたり、自分のお部屋を片付けたり……そうして溜まりに溜まっていた家事をこなして、夜。


 二週間ぶりの配信前になりました。


「ふぅ~……時間が空いちゃったし、視聴者さんたちに楽しんでもらえるように頑張らないとっ……!」


 そう意気込んだ僕は、配信待機に持っていくと……。


【久しぶりの配信だぁぁぁぁ!】

【二週間は長すぎぃ……】

【みたまちゃんのあの声が聞こえないのとかマジつらたん】

【は、早くぅ……早くみたまちゃんのロリボをぉぉぉぉぉぉ!】

【超楽しみ!】

【早く始まらないかなぁ!】


 だーーー! とコメントがすごい勢いで流れていきました。


「わわわっ! こ、コメントがすごいことに!? って、あれ、よく見たら……じゅ、10万人超えちゃってる!?」


 すごい勢いで流れていくコメントに気を取られていたけど、よくよく見てみたら、チャンネル登録者数が10万人を超えていて、しかももうすぐ15万人に届きそうになっていました。


「うわわわ!? ど、どうしてこんなことに!? に、二週間の間に一体何が……!?」


 あ、あれかな? デレーナお姉ちゃんとコラボしたから……?

 そ、それにしてはかなり増えてるような……?


 と、とりあえず、配信! 配信を頑張らないと!


 かなり増えていたチャンネル登録者数にびっくりしながらも、より一層気合を入れた僕の配信が始まりました。


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 えー、愛菜が突然口にした辞世の句の訳は『私の人生は苦難に溢れていたけど、私を照らす太陽のような妹との出会いが、私の人生に光を与え、幸福な時間を与えてくれた。惜しむらくは、最も愛する妹と結婚できなかったことである』となります。

 ネットに文章を古文風に変換するサイトがありまして、そこを使用してます。

 そして、次回は久々の配信回なので、今日の15時か18時に掲示板回を突っ込んでおきますね!

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