#3 デビューが決まってしまったTSっ娘、初配信前にガッチガチになる
あれよあれよという間に、僕のVTuberデビューが決まってしまった。
とはいえ、決まってしまった以上、今更辞退なんてできないししたくない。
元々、興味はあったんだから、あの時のひかりさんの言葉通りに、チャレンジしてみればいいんだもんね。
うん……それでいいんだけど……。
「このキャラはっ、どういうことっ……!」
PCのモニターに映る僕のVTuberとしてのキャラクターと設定を見て、ダンッ! と机を叩きながら僕は叫んだ。
目の前にあるのは、銀髪蒼眼にあどけない顔立ちでふんわりとした笑みを浮かべ、狐耳とふさふさの狐尻尾を生やして、巫女服のような衣装を着た、小さな可愛らしい女の子。
名前は『神薙みたま』。
設定としては、神の国から一人前の神様になるために修行として人間界に降りて来た、時におどおどしつつも健気に頑張る妹系お狐様。
この時点で色々と詰め込まれているような気がするんだけど……問題はここじゃないんです。
VTuberには、人には寄ると思うけど、所謂ファンの呼び方という物がそれぞれにあるわけで、当然僕が演じることになる『神薙みたま』にもそれがある。
それと言うのが……『おにぃたま』『おねぇたま』です……。
……僕のこと、男って知ってるんだよね!? なのに、なにこの呼び方!?
あの、すっごく痛い人みたいになってるんだけど!
中身高校二年生の男子で、『おにぃたま』『おねぇたま』呼びはちょっと……というか、どうしてこうなったの!?
「うぅっ……直談判したらこれで行きます、ってゴリ押しされちゃったし……」
今のこの体の声だって普通に可愛いとは思うけど……さすがに、引かれそうなんだけど……僕、痛い人って思われないかなぁ……?
はぁ……。
とりあえず、決まってしまったものは仕方がないし、今後はこれで頑張ることになるんだから……うん、頑張ろう。
正直、TS病とVTuberという、板挟み状態になっちゃったけど、頑張ろう……それに、幸いなことに僕にも同期という人たちがいるんだもん。頑張らなきゃ!
……聞いたところによると、全員歳上らしいけどね……。
しかも、全員女性。
……あの、すみません。元男で、女の子になってから僅か三週間ほどの人を、普通女性しかいないコミュニティに入れますか……?
一応、事務所の先輩さんたちには、各期男性が一人か二人はいるらしいんだけど……これ、もしかして僕がその男性枠になってない? 大丈夫? 僕、男だよ? ちゃんと、女の子が好きな女の子だよ(錯乱)? 元々男の娘、って言われてはいたけど男だよ?
緊張しすぎて、とんでもないことをやらかさないか心配だよぉ……。
と、一人で頭を抱えていると、ブー! ブー! とスマホが鳴り出した。
スマホを覗いてみると、そこにはコミュニケーションツールとして入れたディスコードが。
『らいばーほーむ』では、各期のライバーたちがひとまとまりになって開設するグループがあるみたいで、僕は三期生のグループ。
今日は、事前確認についてそれぞれにお話があるそうで、今通話をかけて来てるのは多分事務所の人だと思う……。
少し緊張しながら、僕は通話に出る。
『もしもし、桜木椎菜さんですか?』
「は、はいっ、さ、桜木椎菜ですっ……」
あ、こ、声が上ずっちゃった……。
『ありがとうございます。この度、桜木椎菜さんを含む、三期生のマネージャーをすることになりました、
「わ、わかりました、マネージャーさんっ」
『……』
「あ、あの……?」
返事をしたら、なぜかマネージャーさんからの反応が無くなった。
ど、どうしたんだろう?
『……ハッ! す、すみません。想像以上に可愛い声過ぎて、思考が停止してました……』
「あ、あはは、お世辞が上手ですね」
『お世辞じゃないですが……まあいいです。桜木椎菜さんの手元に、資料はちゃんと届いていますでしょうか?』
「あ、はい。……ただ、その……本当にこれでやるんですか……?」
手元の資料を改めて見ながら、僕は不安が混じった声で聞き返す。
『当然ですよね?』
と、当然ですかー……。
『まずは初配信の日程ですね。現在、今回『らいばーほーむ』に新規で入ってきた人数は、桜木椎菜さんを含めて四名。その内、高校生は桜木椎菜さんだけで、他は社会人、もしくは大学生です』
「……あの、すごく場違い感があるんですけど」
大学生と社会人の中に、一人だけ高校生って……。
浮いてない? 僕、浮いてないかな? 大丈夫……?
『大丈夫です。妹キャラで売り出していくんですから、むしろ年上だらけはありがたい話ですので』
「えぇぇ……」
『初配信の日だけ、うちの事務所ですることになりますが……そこは大丈夫ですか?』
「は、はい。その、機材もありませんし……」
そもそも、成り行きでデビューが決まっちゃったからね……機材無いのに。
『ご安心ください。後日、桜木椎菜さん専用のスマホと配信機材一式をお送りしますので。今後はそれでやっていただくことになりますから』
「は、はい」
う、うぅ、高価な物が普通に送られてくる恐怖……。
僕、ごくごく普通の男子高校生だったのに、どうしてこうなったんだろう……。
◇
あの後、細かい打ち合わせを終え、トワッターのアカウントやチャンネル開設などをしているうちに、あっという間に初配信の日になってしまった。
相変わらず、白のTシャツに短パンという、ラフすぎる格好だけど……。
事務所に入り、受付で初配信のために来たことを告げ、自身のアバターである『神薙みたま』であると話すと、すんなりと奥に通された。
通されたのは配信部屋と呼ばれるお部屋で、オフコラボや初配信の時に使うお部屋だそうです。
配信部屋は合計で八つあり、現在僕以外の三期生もそこで配信待機中みたいです。
最後に来たのが僕らしいから、どんな人たちなのかわからないけど……。
「う、うぅ……き、緊張するよぉっ……!」
室内には僕とスタッフさん(女性)だけで、僕はモデルを動かすためのトラッキングアイテムを身に付け、モニターの前でガッチガチに緊張していました。
その間、僕は同期の人たちの初配信を見つつ、こうしなきゃいけないのかな、なんて思う……余裕なんてあるわけがなく、ひたすら緊張で震える手を止めようと頑張ったり、今から逃げ出せないかなぁ、と現実逃避をしたり……散々な状態。
本当は、同期の人たち――
うぅ、配信内で謝ろう……。
「神薙みたまさん、そろそろ時間ですので、準備をお願いします!」
「は、はひゃいっ!」
「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫です。リラックスリラックス」
「は、はひっ、り、リラックしゅ、しまひゅっ……!」
「……くっ、か、可愛いっ……!」
り、リラックスしなきゃ……で、でも、どうやって……?
そもそも、リラックスって何? 脱力……? あれ、脱力ってなんだっけ……ち、力を抜くことで……力を抜くって……(以下エンドレス)。
あああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!
き、緊張しすぎて手汗がすごいことにっ!
「ふぅーっ……ふぅ~っ……」
ど、どうしよう……し、しんどいくらい、辛い!
心臓がまるでマラソンを全力で走り切った後みたいにバクバクするし、呼吸も荒くなる。
お、落ち着こう、落ち着こう、僕……!
「神薙みたまさん、配信まで残り五分ですよ!」
「はっ! わ、わわわっ、わかりました! す、すぐに準備しまひゅっ!」
「ぐふっ……や、やばい、身がもたないかも……!」
「すぅー……はぁー……」
バクバクする心臓をこの際放置して、胸に手を当てて大きく深呼吸。
目の前のモニターには、僕のアバターである『神薙みたま』が映っていて、横にはコメント欄が。
三期生のトリということで、かなり注目されているようで、既に一万人以上の人たちが待機中になっている。
まだ時間を……時間をっ! くだっ!! さいっ……!!! とひたすら念じても、時間は無情にも進んで行き……遂に、配信開始一分前になった。
僕は震える手でマウスを操作し、配信開始のボタンをクリックすると、初回配信限定のオープニングムービーが流れ始めた。
======================================
中途半端な長さになったので、掲示板回を15時頃に突っ込んでおきますが、見なくてもOKです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます