死んだ子の爪

タナトス

第1話 私は変態

私は女の子を恋愛対象にしている。私も女の子なのにだ。


LGBTとかよばれるやつで、まあ社会から変な目で見られる個性だ。


自分の個性を自覚したのは中学一年生くらいだった。思春期真っ盛りだったこともあり、それなりに悩んだ。私が男の子であったなら、何の問題もなかったのに、と。


しかし、高校生になった頃から、悩むことは無くなった。私が女の子であることは、男の子であった場合には得られない、大きなメリットがある、と気づいたからだ。


具体的には、好きな子を気軽に私の家へ誘い、好きな子の無防備な姿を堪能できる点だ。男の子が近くにいたら、恥じらって絶対に見せない好きな子の様子を、すぐ近くで堂々と観察できる。


例えば、暑い夏の日にキャミソール一枚で部屋の床に横たわり、脇をさらす姿を観察、とかね。


眼福だ。と思う。好きな子のそんな姿を見られるのは、これ以上ないメリットだった。私にとってこのメリットは、好きな子に愛の告白ができないデメリットを補って余りあるほど、強い幸福感をもたらしてくれる。


変態かな? そうかもしれない。でも、これくらいは許されてもいいよね。だって私は、どれだけ好きな子ができても、愛の告白をするわけにはいかないという、辛い運命を背負わされているのだから。


そして今日も、私は高校からの帰り道で、あの子を誘った。生徒会長で才色兼備といわれる同級生のあの子。一目惚れだった。私が高校に入学し、教室の隣の席に座って私に声をかけてくれた、あの時に、私のハートはピンク色に染まった。


以来、一年と半年にわたる片思いが続いている。


この想いを彼女に告げるつもりはないけれど、かと言って気持ちを抑えることも難しい。放っておくと、私はあの子に対してとんでもない行為に及び、嫌われることもありえる。それを防ぐためにも、適度に発散させる必要があった。


私の変態行為は、つまり愛の告白ができないことへの、代償行為といえる。


私の汚らしい目的については、もちろん相手に知られないように隠すので、あの子は私のお誘いに対して、特に警戒心を見せる様子もなく、承諾してくれた。


「誘ってくれてありがとう。私も貴方に愚痴を聞いて欲しかったから、ちょうどよかったわ」


あの子は屈託のない笑顔を浮かべ、肩に落ちた長い髪を手の指で背中に流す。綺麗な所作だ。私は見惚れてしまった。


「どうしたの? 早く行きましょうよ」


あの子は私の手をとって、走り出す。あの子は私の家に何度も来ているので、家の場所は知っている。私が案内しなくても、問題ないのだった。


私はあの子に引っ張られるようにして、走り出す。走ったおかげで呼吸が荒くなったので、私が今、興奮している事実をうまく隠すことができた。


隠せて良かったと思う。私の心境を見破られるわけにはいかない。もしあの子に知られれば、きっと嫌われる。


少なくとも、私があの子の立場なら、不気味だと思うはずだ。


だって、そうでしょう?


私の手を握る、あのこの細い指。私の肌に食い込む、あの子の白い爪。それらの感触を味わいながら、私はこう思ったのだ。


食べちゃいたいな、と。


そうすれば、この子を私の物にできるのに、と。







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