無表情クール系女子の姫乃姉妹が可憐な女子を目指して甘えたがっている件
遥 かずら
第1話 難攻不落の双子姉妹【姉】
そんな初夏の月曜の朝。
まだそこまで人数が登校して来ていない教室の中で、俺は告白を実行した。
「名川くん、ごめん、無理!!」
「――そ、そんなぁ~ど、どうしてか、せめて理由だけでも~」
「だって……これも演技で本気じゃないでしょ、どうせ。そうじゃないにしても、こんなみんながいる教室で告るとかありえないし!!」
で、ですよね~。ああ……またフラれてしまった。俺としては芝居じゃなくて本気の告白だったんだけど、何で信じてもらえないんだろうな。
そして言われてることはごもっともなことではあるんだけど、どこで告るだとかのシチュエーションを考えてたら誰かに先を越されてしまうって思って、ついつい教室で告白をしちゃうんだよな~。
「恭二。お前、本能のまま動きすぎなんじゃねえの?」
「本気の告白だから本能になるだろ!」
「芝居じゃないにしてもデリカシーが足りなすぎるっつってんだよ!」
いつものごとくフラれた直後に俺に説教してくるのは、同じクラスの
……と言っても、俺は付き合いで名前だけ書いた幽霊部員だから正木を同じ仲間って言うと怒られてしまう。
「それなー。何で
そしてもう一人、あり得ないと言いながら俺の告白劇がいつか成功することを面白おかしく期待してるという、同じ中学だった
「そんなこと言われてもたまたまだって! 同じクラスの女子に告白したら駄目ってことは無いだろ~」
「駄目なんて言ってねえよ。だったらせめて、場所を考えろって言ってんだよ。お前は幽霊部員だけど、サッカーグラウンドくらい貸すぞ?」
それこそサッカー部のみんなにフラれる場面を見せつけるようなもんじゃないか。そんなところで告れないぞ、さすがに。
「え、グラウンドで告るなんて嫌だぞ。俺はなるべく近所っていうか、身近な場所で祝福されたいんだよ」
「アホか!! 誰もいない時に告ればいいだけだ!」
屁理屈ばかり言いやがってなどと呆れながら、正木は自分の席に戻ってしまった。
「修斗はグラウンドで告って彼女出来てるからなー。それを否定は無いわー」
「あっ……し、しまった。正木、怒ったかな?」
席に戻った正木は女子と話をしていて、楽しそうにしている。
相変わらずモテる奴だなぁ。彼女がいる奴は余裕がありすぎるってことなんだろうけど。
「――っていうか、お前中学の時にやってた告白シーンを演劇でやりすぎて現実でも上手くいけるとか勘違いしてるんじゃないだろうな? そんで高校生になったら教室でいきなり告りまくるって、鋼か? メンタルが鋼なのか?」
サッカー部の正木は俺を盛りのついた軟派部員としか見ていないが、同じ中学だった溝江は俺が女子に告りまくっている理由が演劇と現実の区別がつかないものだと思い込んでいる。
溝江には俺と同じ演劇部だった彼女が同じクラスにいて、しかも彼氏彼女の関係。そしてこいつと話をしていると、決まって溝江の彼女が参戦してくる。
「なになに? 貫太ってまだこいつを構ってあげてんの?」
「こいつって言うな~! そして無関係だろ、堀川は!」
「違うし。あんたと同じクラスにいるってだけでも妄想の被害者だっての! ウチもその一人だったし。ねえ、貫太~」
「本当それな。演技なのか本気なのか知らんけど、よりにもよって見境なく同クラの女子に告るのは卒業しろよ」
見境なくなんてことは……いや、う~ん。自信無くなってきたな。
「ど、努力する」
大反省というでもないものの、深いため息をついて頭を下げた俺を堀川と溝江が憐みの表情を浮かべて顔を見合わせた。
「……貫太、こいつに現実の厳しさを教えてやれば?」
ん? 何か有力な女子の情報でも隠し持ってるのか?
「恭二。場所や芝居に関係無く絶対に上手くいきそうにない女子なら二人だけいるけど、聞くか?」
「い、いるの?」
「まぁな。一人はこのクラス、もう一人は隣のB組にいる。二人はある意味有名なんだが……。けど、告白劇にハマっているとはいえお前ちっとも知らないのな」
知らなかった……。まさか同じクラスにいたなんて。もう一人は隣のクラスだから知らないのは当然としても。
「え、だ、誰? どの席の……?」
ついつい自分の席で前後左右の確認をしてしまったじゃないか。真ん中の席にいる以上、周りには必ず誰かが座っているけど。
「考えも無しに告ってすぐに別の子にいくとか、最低な奴~。芝居じゃないならただヤりたいだけなんだろ」
「ちげーし。好きになったから告ってるだけで……とにかく、ほっといてくれよ。俺は貫太に聞いてるんだよ」
溝江の彼女の協力なんて必要無い。必要なのは有力な情報だ。
「絶対に成功しないから勝手にすればいいんじゃないの? 貫太、あとよろ~」
「早く自分の席に戻れよ」
「ふんっだ!」
何て態度だ全く。
「……お前、人の彼女ってか昔から知ってる女子には現実逃避してないのな?」
「現実って意味ならそりゃあそうでしょ。これから告ることもないし」
同じクラスの女子に挑み続けるといっても、かつての仲間に告るわけがないわけで。今は単なるクラスメイトとして見てるだけにすぎない。
「それでそれで、同じクラスの女子はどこに?」
「お前の隣の席にいる」
「――へっ?」
……何だって? 隣の席?
俺の隣というと左の席に常に机に突っ伏している女子がいるけど、もしや?
「顔も見たこと無かったっけか?」
「だっていつも眠ってるみたいだし……話しかけたこともない」
入学してから自分の席順が決まった後でも、実はあまり隣を気にしたことが無かった。それはひとえに、俺の興味が告白する相手だけにいってたからという……。
「まぁ、誰よりも早く登校してその直後から授業が始まるまで超熟睡女子だから仕方ないけど、授業中は起きてるはずだから隣を見るくらい出来ただろ? まさか……いや、お前のことだから告る女子しか目に映って無かったんだろ、どうせ」
そのとおりです。
いや、それにしたって俺!
「起こせば起きると思うが……どうする? もうすぐ
西夏学園は毎週月曜の朝にSHRをやり、木曜の放課後に
いくら隣にいるといっても、話しかけるチャンスはSHRとかの時間じゃないと厳しい。だからといって無理やり起こしたらその時点で何もかも終わる。
その前にもっと確かな情報を訊いておかないとだ。
「そ、その前に名前が知りたい。それとその……」
「有名の一つになってるのが難攻不落の美少女双子姉妹ってやつだ。もう一つ有名なのが、姉妹揃ってかなりクール系って話な。そんで姉の方の名前は、あっ……オ、オレはもう知らん!」
何だ何だ?
溝江の奴、急に青ざめた顔で逃げるようにしていなくなったぞ。
……あれ、何か左肩をトントンと叩かれてるような?
左肩、つまり……隣の席の。怒られるのを覚悟で顔を左に向けてみるしかない。
「あっ、え~と……ど、どうも」
「…………」
隣の席の彼女は、俺のすぐ隣に立って俺をじっと見つめていた。それも無表情のままで。
そんな清楚そうな彼女が俺を無表情で見つめていたなんて。こんなモデル体型な美少女が隣にいたのに、なぜ俺は気づかなかったんだ。
そんな彼女にどういうリアクションを?
「お、俺は隣の席の名川――」
「あなたは名川恭二。知ってる……。合ってた?」
あぁ、声は高くて透き通るような声なんだな。
「正解。正解です、はい」
「…………」
むうぅ。全く感情が分からない。寝起きだからとか関係無しにこんな無表情なんだろうか。
「え~と、その、名前訊いてもいいのかな?」
「……私…………の?」
「そ、そうですそうです。無理はしなくていいんだけど……隣の席のよしみというか~」
って、俺だけ名前知らないとかそれこそあり得ないだろ。
「名前、は……
おぉぉ?
何だか知らないけど教えてくれた。相変わらず表情が変わってないけど、名前だけは教えてくれたぞ。しかもミドルネーム付きの帰国子女か。
「よ、よろしく、姫乃さん!」
「…………?」
え、そこで首傾げ?
あああ……失敗したかも。
無表情な彼女が俺を不思議そうに見つめる中、俺は思いきり頭を抱えてしまった。
「(名川くんが頭抱えてる。今の私の仕草、可愛くなかったの?)」
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