大食い大会

 さて、スムージーにハンバーグと料理を作ったが……今日は大食い大会だ!!

 まあ、俺が参加するわけじゃない。

 私服に着替え家を出て、向かった先はウングから聞いた大食い大会の会場だ。

 思った通り……会場には多くの出店が出ている。

 朝飯を食わずに来て正解だったぜ。さっそく俺は出店巡り……と、思ったら。


「……おじさん」

「ん? おお、アオじゃないか。なんだ、大食い大会に出てたんじゃ」

「私、ロッソの付き添い……ブランシュとヴェルデから聞いた。おじさん、二人にオリジナル料理を食べてもらったって……そっちに行きたかった」

「ははは。ハンバーグとスムージーのことか。それならマイルズさんがレシピ持ってるはずだし、すぐに食えるさ」

「……おじさんが作ったの食べたかった」

「そうか? じゃあ今度、職場に来いよ。昼飯で食わせてやる」

「……うん」


 アオは頷いた。

 なんか、親戚のよく懐いた姪っ子って感じがする……そんなのいないけど。

 

「さて、出店いっぱい出てるし行くか。アオ、また後でな」

「私も行く」

「え? でも、ロッソの付き添いじゃ」

「ロッソ、今日は決勝戦だけだから。私、やることない」

「け、決勝……すげぇな。相手は?」

「三人いる。一人はリーンドゥ」


 なんと、一人はリーンドゥだとさ。

 これはぜひとも観戦せなばならん。

 

「じゃあ、一緒に行くか。実はそこでやってる海鮮スープの香りがすごくてな……」

「私も気になってた」


 というわけで……俺とアオは出店巡りを開始。

 ザナドゥ直通の海鮮スープをまずは堪能……すごいな。出汁がたっぷり出てる。旨味もすごい。

 食材を冷凍できるようになったおかげで、新鮮な海鮮がいつでも食えるようになったのデカいな。


「おじさん、お肉の匂いする」

「おお。オーク肉、ミノタウロス肉、グリフォン肉の混合串焼きだって。これは食わねば」


 デカい肉塊が三つ刺さった串焼きだ。

 まあ要するに、豚肉、牛肉、鶏肉が刺さった串焼きだな。

 さっそく買って齧る。


「うっま!! 塩コショウめちゃくちゃ利いてるな」

「おいしい……お肉、おいしいね」

「ああ。酒飲みたく……お、見ろ、エール売ってるぞ」

「行こう」


 出張酒屋だ。樽がいくつも積まれ、蛇口から直接エールを出している。

 酒屋のおじさんはエールを注ぎ、カップを俺たちへ。

 俺は肉を齧り、エールを流し込む。


「っぷはぁぁ!! うめえ!!」

「おいしい。もぐもぐ、ぐびぐび」

「よく冷えてるなあ、樽が入るサイズの冷蔵庫なんてないはずだけど……」


 と、よく見ると樽の傍で、女性が魔法をかけていた。


「……魔法で冷やしてるね」

「なるほどな。酒屋の奥さん、魔法師なのか」


 と、思った。

 

「……デカい冷蔵庫じゃなくて、冷凍倉庫みたいなの建てれば需要あるかもな。なあアオ、この世界に冷凍や冷蔵の倉庫ってあるか?」

「……知らない。倉庫は倉庫街にあるけど。何度か忍び込んだことあるけど、聞いたことない」

「なるほどな。サンドローネに相談してみるか……」


 さて、次の店だ。

 肉、魚、酒ときたら口直し。

 アオが「あっちからいい匂いする」というので行くと……なんと、京都の茶屋みたいなところがあった。

 横長の座椅子、唐傘が差してある。

 椅子に座ると、運ばれてきたのは団子、そしてお茶。

 しかも従業員は、エプロンをしたサスケだった。


「あれ、オッサンにアオじゃん。いらっしゃい」

「サスケ……なんでお前がここに」

「そりゃ、店の手伝いさ。ここ、アズマから来た茶屋の店だしな。ほい、団子にお茶だ」

「おいしい」

 

 出されるなり、アオは食べ始める。

 俺も団子を手に取る……この緑色のってもしかして。


「きな粉じゃん。甘くて美味いな!! こっちは……餡子か!!」

「オッサン、マジで詳しいな。どっちもマメで作ったモンだ。うまいだろ?」

「うまい。なあ、店の場所教えてくれよ」

「もちろんいいぜ」

「私も」

「ああ、へへへ、みんなで来てくれよな」


 アズマの茶屋、ここはたまに行きたくなるような味……休みの日とか行こう。

 すると、会場内にデカい声が響いてきた。


『皆さんこんにちは!! これより、大食い大会最終戦を行います!!』


 お、始まるみたいだな。

 俺とアオは会計を済ませ、会場のメインステージへ向かうのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 大食い大会、決勝戦が始まった。


『それでは決勝進出したイカれた腹の持ち主たちを紹介するぜ!!』


 なんつう紹介だよ……でもまあ、かなり盛り上がってる。


『まずは、あの『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』から!! 赤の~~~ロッソォォォォォ!!』

「いえーいっ!!」


 お、ロッソだ。

 いつものビキニアーマーを着て、両手を上げてジャンプ。立派なお乳がぷるんと揺れ、会場にいた男たちの歓声が上がった。

 気のせいか……なんか、ロッソの胸がデカくなった気がする。成長期なのか?


『続きましてぇ、新生チーム『殲滅の薔薇アナイアレーション』より!! 黄の~~~リーンドゥゥゥゥ!!』

「優勝はウチのモンだからね!!」


 おお、リーンドゥだ。

 拳を高く突き上げると、ファンの連中も同時に突き上げる。

 そして、なんとロッソに向かって勝ち誇ったように拳を突き出すと、ロッソも拳を突き出し合わせた……え、大食い大会だよな? 殴り合いじゃないよな?


『三人目は~!! 前回優勝者、大食いのバスコォォォォォ!!』

「うおおおおおおおー!!」


 三人目は、いかにもな巨漢……でっか、関取じゃん。

 お腹をバシンと叩き、自分食えます!! ってアピールしている。なんかロッソたちの三倍くらい横幅あるんだが……こいつ、優勝じゃね?


『そして最後はなーんと!! あの『リブラ商会』の商会長!! 世界に『フランチャイズ経営』を浸透させた革命商会!! 『天秤座の魔女』ファルザン・リブラアァァァァ!!』

「うむうむ。ワシが始めたイベントは大いに盛り上がっとるのお。最後に出たのは七十年前だったかの……懐かしいわい」


 な、なんと……十二星座の魔女だった。

 フランチャイズ経営の始祖……たぶん、アツコさんが教えたのかな。

 四大商会には入っていないみたいだけど、その辺どう……まあいいや別に。


『それではこれより大食い大会、決勝を始めます!! 食べるのは……こちら!!』


 司会者の前にあるテーブル。そこに掛けられていたシーツをめくる。

 そこにあったのは……なんとまあ、シンプルなステーキだった。


『制限時間内に、このシンプルなオーク肉ステーキを何枚食べられるか!! 味つけは塩コショウのみ、調理も簡単、そして何より美味い!! さあ、席について!!』


 四人が席に着く。

 すると、後ろで二十人ほどの料理人が一斉に肉を焼き始めた。

 一度に二十枚焼けるのか……あれなら大食いでも対応できるだろう。


『さあ、肉の焼ける香りがしてきたぜぇ~?』

「「「「…………」」」」


 おいおい、参加者の四人、めちゃくちゃソワソワしてるぞ。みんなキッチンに釘付けだ。

 そして、肉が焼け、皿が運ばれ、四人の前へ。


『制限時間は十分!! 大食い大会ファイナル……れでぃぃぃぃ~~~~、ファイッ!!』


 こうして、大食い大会決勝が始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


「いや~……ロッソ、惜しかったなあ」


 三十分後、俺はアオと二人で並んで帰路についていた。

 大食い大会は盛り上がった。

 ロッソ、リーンドゥが互角、バスコがやや遅れていたが……その遥か上をいったのがファルザン・リブラだった。

 なんというか、ペースが異次元だった。

 皿に乗せた肉が一瞬で消える。しかも、あの小さな体のどこに入ってんだってくらい、無限に食べていた。バスコが泡を吹いて倒れ、それに巻き込まれてロッソとリーンドゥも倒れてしまった。

 というわけで、優勝はファルザン・リブラ。

 ブランシュが倒れたロッソたちに治療をしているようなので、俺とアオは普通に帰っている。


「楽しかったなあ。美味いモンもたくさん食えたし」

「うん」

「なあ、こういうイベントあったら教えてくれ。また行きたい」

「わかった。それもいいけどおじさん……私、釣りがしたい」

「いいね。じゃあ、今度の休みにでも行くか」

「うん」


 釣り大会とかあれば楽しいかもな。

 デカい湖を舞台にして、制限時間内に誰が一番デカい魚を釣るか……サンドローネに企画してみようかなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る