竜王山脈で竜退治①

 三日後。

 別荘に集まった『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』とリチア、ヒコロク。

 ヒコロクの牽引するリヤカーにアーマーを乗せると、リチアが言う。


「なにこれ、これがゲントクの武器?」

「ああ。『魔導甲殻Mark01・ウルツァイト・スケイルメイル』だ」


 前のマーク00はオリハルコン製だったけど、こいつの装甲はロッソたちが狩ってきたウルツァイト・メタルドラゴンの外殻を加工して作ったものだ。前は漆黒だったけど、今は灰銀に輝いている。

 その硬さはもうとんでもなかった。というか、加工にメチャクチャ苦労した。

 だって、超高熱でも全く溶けないし、バーナーでも切れない。

 なので考えた……そして、一つの結論に辿り着いた。

 俺は『切断』と刻んだ十ツ星の魔石とナイフを合体させ、なんでも切れるナイフを作った。それで外殻をなんとか加工し、鎧に定着させたってわけだ……『切断』のナイフ、怖いので使い終わったら破壊した。

 ロッソはアーマーを眺めつつ言う。


「おっさん、着ないの?」

「ああ。山の近くで着るよ。今日から四日の旅だしな」


 行きに一日、狩りに一日、帰りは寄り道して二日のスケジュールだ。

 その間、別荘の管理はスノウさん、ユキちゃんにお任せした。リヒターも様子を見に行くって言ってたし任せて大丈夫だろう。大福もいるしな。

 

「あ、そうだ。行く前に孤児院に寄ってくれ。フライングディスクを渡す約束なんだ」


 忘れてた。

 俺が作ったフライングディスク二十枚、孤児院に持っていく約束だった。

 するとアオが言う。


「……おじさん。ロッソとお風呂入ったの?」

「え」

「あー、そうよ。まあおっさんだしアタシは気にしないことにしたわ。おっさん、アタシのこと女として見てないしね」

「……ふーん」

「まったくあなたは……前々から羞恥心が薄いの何とかなさいと言ってるのに」

「いいい、一緒にお風呂って……み、見せたの?」


 ヴェルデが言うと、ロッソが「うん」と頷いた。

 そこに照れはない。異性というより、俺だし別にいいか……みたいな感じだ。

 まあ、俺も「眼福眼福」とは思ったが、それ以上の感想はない。


「とにかく。俺はロッソのこと友人だと思ってるし、それだけだ」

「そうそう。アタシ、おっさんのこと好きだけど、恋愛的な好きじゃないし。まあ裸くらい別にいいかなーって感じの好きだから」

「「「…………」」」

「青春ねえ……年甲斐もなく、ワタシも気分いいわ。さ、行くわよー」

『わう』


 さて、まずは孤児院に行って用事を済ませないとな。


 ◇◇◇◇◇◇


 アズマ郊外にある牧場兼孤児院は、かなり立派で広い作りだった。

 犬用の厩舎、大きな孤児院、庭でありドッグラン。

 俺たちが到着すると、孤児院の責任者の男性が出迎えてくれた。


「ようこそいらっしゃいました。ゲントク様」

「あれ、俺のこと」

「もちろん、存じています。サンドローネ様の協力者様、ですよね。初めまして。私は孤児院責任者のクラントと申します」

「初めまして。ゲントクです」


 ドッグランを見ると、すでにヒコロクがいた。

 そして、アオがヒコロクに何か言うと、ヒコロクが遠吠えする……そして、厩舎から大量の子犬が飛び出し、ヒコロクの前に整列した。

 俺とクラントさんもドッグランに出る。

 ロッソたちは、集まった子犬を撫でまわしていた。みんな首輪が付いており、名前が書かれている。


「犬の名前と、管理者である子供の名前が書かれた首輪です」

「あーなるほど。その、孤児院の子供たちは?」

「今は勉強中です。文字の書き方、計算などを学んでいます。実は、私も妻も元々は教職をやっておりまして」

「なるほど……あ、そうだ」


 俺は荷物からフライングディスクの束を出し、クラントさんに渡す。


「……これは?」

「遊具です。使い方は……」


 俺はフライングディスクの一枚を手にし、子犬たちの前へ。


「わんこたちこれを見ろ。よーし……取ってこーいっ!!」


 ディスクを投げると、けっこうな速度で回転し飛んで行った。

 わんこたちはフライングディスクに向かって一斉に走り出し、甲斐犬みたいな子犬がジャンプすると口に咥えてキャッチする。

 そして、俺の方に戻ってきてお座り。俺はフライングディスクを受けとり、ポケットに入れておいたオヤツ用の乾燥肉小ブロックを二つほど食べさせた。


「と、こんな感じです。投げてキャッチして戻ってきたらご褒美。犬たちの遊びになるし、運動にもなる。二十枚あるんで、子供たちに渡してください」

「これはなんと、面白そうですね……感謝します」

『わうわう!!』


 と、ヒコロクが鳴くと子犬たちが再び整列。


『わるるる、わうわう』

「お前たち、ちゃんと相棒の言うこと聞いてデカくなれよ……だって」

『『『『『わうーん』』』』』

「へい、親分……だって」


 アオが翻訳してくれた。それ、合ってる……まあ合ってるだろうな。

 さて、用事は済んだ。子供たちに会ってみたいけど、勉強しているみたいだし諦めるか。

 俺はクラントさんに挨拶し、孤児院を出るのだった。

 オータムパディードッグの育成孤児院か……将来を見据えつつも、慈善事業として成り立ってる。さすがサンドローネだなあ。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、用事は済んだ。

 俺たちは、のんびり歩きながら『竜王山脈』へ向かっていた。


「そういや、行きは一日、帰りは二日だけど……どこ寄るんだ?」

「ふっふっふ。ちょっと遠回りだけど、寄る価値あるの『寺院』よ。『トクガワ寺院』っていう、アズマを作った人が建てた立派な寺院なんだって。ジインって言葉は最初よくわかんなかったけど、神様とか祀ってるところみたい」

「トクガワ、寺院……へえ、見たいな」

「かなり立派なところよ。最初は建物だけだったけど、その周りに集落ができて、いつの間にかアズマの観光名所の一つになったのよ。あとすごいのは、そこの管理者である『僧侶』たちはみんな、武術の達人なのよ。稽古の訓練とか見る価値ありよ~?」

「面白そう!! アタシ、そういうの好き~」

「……興味あるかも」

「わたくしは……建物には興味ありますわね。異教の建物、見てみたいですわ」

「私はどっちでも。まあ、観光だし楽しめれば」


 僧侶……って、マジか。

 ジュウザブロウさん、故郷である日本のことを忘れないために作ったとか?

 俺も、日本のこと忘れないように何か……って、もうバイクとか作ったっけ。


「さ、夕方までには山のふもとまで行くわよ!! そこで、ゲントクに美味しい料理作ってもらいましょ~!!」

「「「「おーっ!!」」」」

「って、俺が作るのかよ。まあいいけど……ふっふっふ、ザツマイも持ってきたし、男のキャンプ飯を喰らわせてやるぜ!!」


 さて、キャンプ気分でのお出かけだ。

 寺院も気になるし、なんだかんだで冒険を満喫する俺なのであった。

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