ニュー・別荘

 さっそく、俺は物件の話を聞く。

 俺の出した条件はかなり多いけど……ダンキチさんは俺の条件に合う物件に関する書類を並べる。

 意外にも数が多い。俺は一枚の書類を手に取った。


「……なるほど。そういうことか」


 元、宿屋みたいな物件ばかりだ。

 アレだ。マンションを買い取って宿泊者向けのウィークリーマンションに改築するみたいな感じなのかな。部屋数も多く、元が宿屋なので設備も悪くない。

 不動産ギルドが買い取って改築して販売するには、潰れた宿屋っていうのはアリなのかも。

 というか……どれも五億セドル以上する。

 書類を見ていると、サスケが言う。


「ダンキチさん、ここぞとばかりに、塩漬け物件出してきたね」

「さ、サスケくん。そういうことを言うのは……コホン。ですが、不動産ギルドが自信をもってお出しする物件です!! お風呂もありますし、地下室もありますよ!!」

「ふむふむ……」


 ダンキチさんは、アズマの地図を出し、それぞれの物件の位置をマークする。


「静かな場所がお好みでしたらこちらですね。少々、繁華街からは遠くなりますが」

「こっちは?」

「住宅街の近くですね。この辺り、夜はとても静かですが……逆に、それが嫌というお客様もいます」

「お、ここは?」

「ここは繫華街からも近く、物件の周囲が林に囲まれていますよ。季節によっては虫の鳴き声などがありますが……」

「ふむふむ……この林の物件、飲み屋街は近い?」

「ええ。『酩酊横丁』という、酒飲みにとっては最高の飲み屋街がありますよ」

「……あれ」


 酩酊横丁。最近、どっかで聞いたような。

 まあいいか。飲み屋街が近いなら、飲んでも別荘まですぐ帰れるし。


「よし。この物件、見せてくれ」

「わかりました。少々、ご足労いただきます。馬車を用意しますので!!」


 ダンキチさんは部屋を出た。

 するとアオ、一億セドル以下の物件資料を眺めて言う。


「……私、ここにする」

「え? って……俺が今選んだ物件の近くか?」

「うん。おじさんが近いと遊びに行きやすいし」

「ははは。嬉しいこと言うな。で、広さは大丈夫なのか?」

「うん。ここも元宿屋……」


 と、ダンキチさんが戻り、アオが書類を見せる。


「……ここ、見たい」

「こちらですね。では、ゲントク様の物件と一緒に見に行きましょうか」


 こうして俺たちは、別荘の下見へ。


 ◇◇◇◇◇◇


 馬車に乗って到着したのは、小さな林に囲まれた二階建ての物件だ。

 なんというか……京都とかにある古い建物みたいだ。

 正門を抜け、玉砂利の道を進んでいくと、やけに広い木造のドアがある。

 そこを開けると、広い玄関があった。


「アズマの文化では靴を脱いで入ることになっています」

「……おじさんの家と同じだね」

「ああ。さすがアズマの文化」


 靴を脱いで上がる。

 まず一階は広い畳敷きのリビングルーム。トイレに、庭へ続く渡り廊下だ。

 渡り廊下は分岐しており、襖を開けると宴会場みたいな広い部屋がある。

 分岐の先には暖簾があり、男女別の風呂が付いていた。


「風呂は最上級のキノッヒを使っています。いい香りでしょう?」

「……確かに」


 脱衣所を抜けて風呂のドアを開けると、いい香りがした。

 洗い場は三つ、でかい浴槽が一つ……おや?

 外に通じるドアがあり、開けるとそこには。


「おお、露天風呂もあるのか」


 なんと、岩風呂。

 少々小さいが、一人で入るには十分な大きさの風呂があった。

 よく見ると、女風呂のドアからも行ける……ってことは。


「こちら、混浴でして……」

「問題ない。入るの俺だけだしな」


 サウナは残念ながらなかった。まあいいや。

 渡り廊下の先は客間になっており、六畳間が二つある。

 そして二階へ行くと、客間が三つ、広い客間が一つの四部屋ある。

 ここまで見ると、一般的な宿屋って感じだ。

 地下へ進む階段を降りると、リネン室っぽい部屋が一つに、物置みたいな部屋が一つある。


「いいな。素材置き場、作業部屋にちょうどいい……窓が欲しいけど無理だな」


 一応、換気扇みたいな空気穴は付いている。

 ここまで見て、もう気になることはない……むしろ、最高だわ。


「以上になります。ゲントク様、何か気になることなどあれば」

「問題ないっすね。むしろ最高……契約します!!」

「ありがとうございます!!」


 ダンキチさんは深々とお辞儀。

 総額七億セドル。いやーいい買い物したぜ。

 これまでは即入居だったが、今回は違った。


「ゲントク様。こちら、屋敷の見取り図と家具のカタログです。欲しい家具、設置して欲しい家具などあれば、こちらにご記入を。金額は二割ほどサービスさせていただきます」


 カタログを見ると、アズマの木材を使った高級な箪笥、布団、ベッドや椅子テーブルの項目がある。コタツ……はないな。

 見取り図の部屋に、カタログにある家具の番号を記入すると、その位置に家具を設置してくれるという。これはありがたいな。


「家具の設置、掃除などありますので、提出後から二日ほどお時間を置いてのご入居となります」

「わかりました。じゃあ、帰ったら記入したら持っていきますんで」

「ありがとうございます」


 ちょっとワクワクするな……お、家具だけじゃなくて食器とかもあるのか。

 アオもカタログを見て目をキラキラさせているし。


「では、次はアオ様の別荘へ」

「……お願いします」


 さて、アオの別荘はどんなところかね。


 ◇◇◇◇◇◇


 アオの別荘も、俺の別荘よりは小さいがなかなかよかった。

 ちゃんと風呂もあるし、部屋も狭いけど多い。

 宿屋というか、民宿みたいなところかな。でも『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』で使うならちょうどいい。シュバンとマイルズさん、スノウさんとユキちゃんも一緒に行けそうだし。

 アオも正式に契約……やや予算オーバーだったが、サスケが交渉して割引してくれた。

 帰り道。俺はサスケとアオの二人に言う。


「いやー、いい買い物した。サスケ、ありがとな」

「気にすんなって。アオも気にしなくていいぜ」

「……うん。でも、ありがと」


 アオはにっこり笑うと、サスケが照れたようにほほ笑んだ。

 ほうほう……同い年同士、ラブロマンスが始まるかもしれんな。


「さて、メシでも食うか。サスケ、いい店あったら教えてくれ」

「そうだな……『煮込みうどん』でも食うか? 濃厚な『ミソ』のスープは絶品だぜ」

「…………待て、今なんて」

「あ? ミソ」

「味噌あるのか!?!?」


 思わずデカい声を出してしまった。驚くサスケ、そしてアオ。

 サスケはウンウン頷く。


「あ、あるぜ。『ショウズ』っていう豆を加工した調味料でな。大昔、アズマ最初の殿様が『ミソ職人』だったとかで有名なんだ。他の国では流行ってないけど、アズマじゃザツマイと並ぶ食材の一つだぜ」

「土産で買う。サスケ、エーデルシュタイン王国でも買える店あったら教えてくれ」

「お、おう。すげえ興奮してるな」

「せっかくだ。お前の知ってるアズマの調味料とか全部教えてくれ!! 礼はする!!」

「……おじさん、興奮してる」


 そりゃするだろ。味噌だぞ味噌!!

 異世界あるある……醤油、味噌、マヨネーズという神器!! 


「味噌あれば料理の幅広がるな。味噌煮、みそ炒め……ワクワクが止まらん!!」

「……美味しそうな響き。おじさん、私も食べたい」

「おう!!」

「と、とりあえず……メシ食おうぜ」


 こうして俺は別荘をゲット!! そして味噌の存在を知るのだった。

 アズマの祖先、日本人の味噌職人さん、マジでありがとうございます!!

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