アレキサンドライト丼屋

 さて、今日は仕事休み。

 家でコーヒーを飲んでいると、リヒターとイェランが迎えに来た。


「あれ、リヒターはともかく、イェランは?」

「アタシ、今日はお休みなんだ。で、ゲントクが美味い料理いっぱい作るって聞いたから、ご相伴に預かろうと思ってね」

「ちゃっかりしてんな……よし、じゃあ行くか」

「はい。場所は、アレキサンドライト商会が買った空き家の一つです。ゲントクさんの家から近いところにあるので、歩きで行きましょうか」

「ああ、ロッソたちも……」

「すでに、場所を伝えましたので現地で」


 俺は、丼レシピノートをカバンに入れ、イェラン、リヒターと歩き出す。

 俺の家から十五分ほど歩いたところ。飲食店が多く並ぶストリートの一角に、そこそこ大きな空き家があった。改築工事をしているのか、外では獣人の大工たちが作業をしている。

 中に入ると……うん、いいね、俺の指示した通りだ。


「あ、おっさん!!」

「……おじさん」

「おじさま、おはようございます」

「ゲントク、来たわね」

「ゲントクさん。お疲れ様です」

「にゃうー」


 ロッソたち四人、そしてスノウさんとユキちゃんだ。

 スノウさんたち、ロッソたちに「都合会うなら来てもいい」って言ったんだよな。来てくれてよかったぜ。

 俺はみんなに挨拶をし、キッチンへ。

 キッチン、カウンター席には合わせて二十人くらいの獣人たちがいた。

 ティガーさんみたいな『純血』の獣人が半分、スノウさんみたいな『混血』の獣人が半分くらいかな。男女も半々でバランスいいかもしれん。

 すると、キッチンの奥からサンドローネが来た。


「来たわね。さっそく始めましょうか……リヒター、説明」

「はい」


 リヒターが咳払いをして、説明を始めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 まず、アレキサンドライト商会の新事業である飲食店。いきなり全てを『ザツマイ専門店』にするのではなく、普通の食堂やカフェ営業などを半分、もう半分をザツマイ専門店にするそうだ。


 で、ここに集まった二十名は、俺の『男の一人暮らし丼飯』のレシピを見て興味を持った獣人たち。

 現在は、アレキサンドライト商会が紹介した飲食店で修業中。

 まあ、もともとみんな飲食に関わっていた人たちなので、修業といっても腕が鈍らないようにしているだけみたいだ。

 

 俺のレシピ、一度サンドローネが持ち帰ったけど、すぐに戻って来た。

 まあ……ミカエラの件とかあったし、飲食店どころじゃなかったし。

 で、ここにいる獣人料理人たちに、男の一人暮らし丼飯を見せるのは、今日が初めてだ。

 すると、サンドローネが若い女性獣人を俺の前へ。


「彼女はトレセーナ。ここの料理長を任せる予定。腕のいい料理人だから、よろしくね」

「ああ、よろしくな」


 若い。二十代前半くらいの、やや褐色肌の女性だ。

 ヒョウ柄っぽい耳、やや太いヒョウ柄尻尾。というか、すんげえスタイル……タンクトップから巨乳がこぼれそうなんだが。スノウさんといい勝負だぞ。

 金髪ブロンド、モデル並みのスタイル、そして巨乳、ヒョウ柄……とんでもねえお姉さんだぜ。


「ふふ。オジサン、なーに見てんの?」

「え? あ、いや」

「アタシ、トレセーナ。元々はお嬢の専属料理人だったけど、妹に任せられるようになったらか、アタシは外で腕ふるうことにしたの。オジサン、家近いんだって? 常連になってね」

「あ、ああ」

「ちなみにアタシ、ヒョウじゃなくてオセロットの獣人だから」


 やべえな、この店メチャクチャ流行するんじゃないか? エロカッコいいお姉さんだ。

 なんかサンドローネがジト目で見ていたので、咳払い。

 他の獣人たちにも挨拶し……俺は気合いを入れた。


「よし、じゃあ始めるか!! 俺の、男の一人暮らし丼飯をお前たちに伝授しよう!!」

「その名前、今から言うの禁止」

「な、何ぃぃ!?」


 サンドローネに睨まれ……俺は『ドンブリ飯』を作ることにしたのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 俺は、指示出しをしながら料理人たちに調理法を教えた。


「そうそう、卵とじは固すぎず、とろみがいい感じになるまでだ」

「ステーキはレア、ミディアムと好みがあるから、注文が入ったら確認するといい」

「あ!! 牛丼はつゆだくがいい。まあ好みあるけど……あと、卵入れるともっと美味いぞ」

「あと、店の窓は開けておく。わかると思うけど、いい匂いするだろ? この匂いで客を寄せるんだよ」

「酒は……出さない方がいいかもな。客の回転率を上げるために。ああ、夜は居酒屋とかもいいんじゃないか? トレセーナ、サンドローネのところでいろいろ作ってたんだろ? 居酒屋メニューとか俺のおススメ教えてやるよ」


 こんな感じで、俺の丼飯を料理人たちが作っていく。

 ザツマイの炊き方も指導した。土鍋で炊くこともできるが、今はアズマから『炊飯器』を取り寄せたらしいけど、うちの炊飯器と違って、アズマの炊飯器ってふっくら炊き上がらないんだよな。

 熱の通し方が少し甘い。素材の問題だろう……近く、俺の炊飯器をいくつか作って持っていくか。

 そして、カウンターに並ぶ大量の丼飯。


「ロッソたち、好きなだけ食ってくれ。ああリヒター、外で作業している獣人たちも呼んでくれよ。ここは俺の奢りだぜ」

「わかりました」


 料理人たちは、味見をして味を覚えていく。

 けっこうな丼飯が完成していく。まあ二十人いるんだ……一人一つ作っても二十個の丼ができる。

 外で作業をしていた獣人たちが店へ入ってくると、俺は言う。


「よく来てくれた!! みんな、今日は俺の奢りだから、好きなだけ食ってくれ!!」

「い、いいんですかい? 旦那」

「ああ、どのみち、余らせるともったいないしな」


 獣人の作業員たちは喜んで食べ始めた。

 ロッソは早くも三杯目。アオ、ブランシュは二杯目でギブアップし、ヴェルデは三杯目でギブアップ。獣人の作業員たちに期待するしかない。

 料理人たちは、料理をしながらあーだこーだ話し始めた。意見交換をしているのか、みんな真剣だ。

 すると、トレセーナが俺の元へ。


「オジサン、味見てくれる?」

「おう……ん、いいなこれ。魚醤を増やしたのか?」

「うん。分量を変えると、面白い味付けになるね。これ、レシピにいろいろ加えてもいい?」

「任せる。ここの責任者はお前だしな」

「ありがと……あら」


 と、ユキちゃんが美味しそうに親子丼を食べていた。

 スノウさんもニコニコしている。

 トレセーナは、ユキちゃんにカウンター越しに話しかけた。


「ふふ、美味しいかな?」

「にゃあ。おいしいー」

「ありがと、かわいいネコちゃん。アタシ、ここでお料理するから、いつでも来てね」

「にゃう。おねえさんも、ねこ?」

「アタシはネコでもあるし、ヒョウでもあるかな。ネコちゃんのお友達だよ」

「にゃ……わたし、ユキ」

「ユキね。ふふ、よろしく。アタシはトレセーナよ」


 うーん、オセロットもネコ科だっけ……なんかいいね。

 トレセーナはスノウさんにも挨拶した。


「スノウ、暇なときは遊びに来てよ。ユキも連れて」

「ええ。お友達も連れてきます」

「にゃあ。あのね、オオカミと、キツネのお友達もいるの」

「へえ、会ってみたいね」


 なんか楽しそうだ。

 周りを見ると……ロッソたちは獣人の作業員たちとワイワイしながら食べてるし、料理人たちは味変したり、料理に対し意見交換をしてる。

 すると、サンドローネが俺の隣へ。


「料理人たち、どう?」

「みんな筋がいいし、俺のレシピを改良して、さらに美味い丼飯を作るかもな。こりゃ期待できる」

「そうね。ね……ゲントク、あなた、ここの店のオーナーにならない?」

「え?」

「トレセーナは腕利きの料理人。あなたの考えるレシピ、まだあるんでしょ? そのレシピをここで公開してみるつもりある? もちろん、オーナー権限で、売り上げの一部はあなたのものよ」

「俺が、オーナーって……俺は魔道具技師だぞ」

「だから、普段はトレセーナに任せて、あなたが思いついたときに、店に顔を出して、あなたの考える料理を作るのよ。評判がよければ、他の支店でも出せるしね」

「…………」


 悪くないかもしれん。

 俺の男の一人暮らし料理はまだある。麺類、デザートもある。

 

「わかった。オーナーの件、引き受ける。でも本当に思いついた時にしかやらんぞ?」

「それでいいわ。ふふ、楽しみね」


 こうして、アレキサンドライト商会の新事亭業、飲食店の準備は終わった。

 店の名前は『アレキサンドライト丼飯』に決まった。めちゃくちゃ言いにくいな。

 俺の家の近くにオープン予定の『アレキサンドライト丼屋・第一支店』……さてさて、どうなることやら。

 まあ、俺は通うつもりだけどな!!

 そういや、ロッソたちに甘いの作るって言ったけど······あいつら、丼飯で満足してるみたいだし、別にいいか。

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