第八章 雷とクライン魔導商会
バイクキャンパー・玄徳
さて、バイク完成から数日が経過。
俺は現在、綺麗な湖のほとりにいる。
折り畳み椅子に座り、サイドテーブルに灰皿、飲み物などを置き、釣竿を手に煙草を吸っていた。
ウキに反応はまだない。煙を吐き出し、竿置きに竿を置いて椅子にもたれかかる。
「っはぁぁぁ~……スローライフ、最高」
そう、俺はバイクに乗ってキャンプに来ていた。
湖の近くではロッソたちがバトミントンのトーナメントをやっている。俺はのんびり釣りをしながら、町で買った本を読みつつ、煙草を吸い、酒を飲みながらの休日を満喫していた。
「……ん? おお」
ウキが沈んだので竿を掴み、リールを巻く。
なかなか強い引き……でも、俺に勝てると思うなよ!!
「よし!! こいつは……レッダイか」
なかなかでかい、赤いタイみたいな魚が釣れた。
俺はエラを切って血抜きをして、クーラーボックスに入れる。
そろそろ昼も近いし、自分のテントに戻り、さっそく釣った魚を調理する。
「さーて、どうすっかな」
レッダイの鱗を落とし、頭、内臓を除去。三枚におろす。
城下町で買った野菜の下準備をして、異世界トマト、異世界ニンニクや、冷凍庫の発展により産地直送されるようになったザナドゥの海産物を出す。
魚を焼き、野菜を入れ、酒や調味料……そして、俺が作ったオリーブオイルを入れ、少し煮込む。
蓋を開けると、そこに現れたのは。
「完成、レッダイのアクアパッツァ~!!」
「「「「おお~!!」」」」
「って、お前らいつの間に」
「おいしそう!! おっさん、食べさせて~!!」
「待てマテ」
後ろにロッソたちがいて、俺のフライパンをのぞき込んでいた。
さすがに四人に分けるには足りない。
「バドミントン、誰が優勝したんだ?」
「……私」
「じゃあ。アオにやる。小皿もってこい」
「はい」
すでに小皿を用意していたアオ。
俺はレッダイの切り身、野菜、貝類、スープを少し入れると、アオはその場で食べ始める。
「……おいしい!! こんな調理法、はじめて」
「だろだろ? ふふん、俺の自信作だ」
「ずるい!! おっさん、アタシも~」
「わたくしも」
「私も!!」
「ダメだって。優勝者の特権だ」
「ふふん。私の勝ち」
アオは完食。ほっこりしていた。
ロッソたちは悔しがっていた……最近、俺もわかるようになってきた。
欲しいと言われたらついあげてしまう。でも、勝負の商品として一人だけにやればロッソたちは納得する……こういうやり方であげることにしよう。
「くっそ~!! アオ、お昼食べたらもう一回ね!!」
「ふふん、返り討ち」
「わたくしだって負けませんわ!!」
「私もよ。おのれ~!!」
ロッソたちはギャアギャア騒ぎながら、自分たちのテントに戻って食事を作り始める。
俺は自分のアクアパッツァを食べ、町で買ったパンを出して食べながら呟く。
「……平和だなあ」
ここ最近、デカいイベントや事件もない。
仕事も順調だ。バイクを完成させてから、訪問修理や持ち込み修理を再開……メチャクチャ忙しいってほどではないが、そこそこ仕事は入ってくる。
ロイヤリティも入ってきたし、金は山ほどある。熱心に仕事しなくても別にいい。
「ふぁぁ~あ……メシ食ったら昼寝するかな」
これぞ、理想の異世界生活。
何も起きず、ただひたすら平和な時間が流れる……美少女ばかりピンチになって助けてハーレム化するような生活なんて俺は嫌だし、ざまあとかも俺の生活では必要ない。
何もない、金はあり、平穏な時間。
それこそ、俺が求める異世界生活……ふん、つまらないとか言うのナシな!!
◇◇◇◇◇◇
翌日、バイク、自転車と五人で湖から撤収。
職場の前に集まり、俺は感謝を伝えた。
「今回も護衛ありがとな。おかげで、楽しいキャンプだった」
「アタシたちも面白かったよ!! このバドミントンだっけ。メチャクチャ燃えるね!!」
「……私が最強だけど」
「あら、次は負けませんわ」
「キャンプ。野営とは違った面白さがあるわね。次回もあるなら参加するわ!!」
四人は仲良く自転車で帰った。
そして俺はバイクを車庫に戻し、カギを掛ける。
「さ~て、大福にエサやって帰るかな……ん?」
ふと、誰かがこっちに来た。
パリッとしたスーツ、杖を付き、なかなかワイルドな髭顔だ。
帽子を取ると、オールバックだ……やべえ、古都の紳士って感じ。
紳士は俺に向かって微笑みかけた。
「やあ、ゲントク」
「……はい? え、誰」
「嫌だな。ボクだよ」
「…………あ!! おま、バリオンか!?」
なんと、紳士はバリオンだった。
以前とはまるで違う。
初期はゴージャスなイケメン。中期は酔いどれの死にかけ、そして後期である今は、身なりの整った渋めのイケメンだった。
もともと体格も良かったので、死にかけ状態から復活すると身長もガタイも再びよくなり、柔らかめのオールバックで、前髪が少し垂れているのがいいアクセントになっている。
スーツは高級品だが、前みたいにゴテゴテしたキラキラではなく、シンプルだがいい素材を使っているのがすぐわかった。
他には、スーツと同じ色の帽子、黒の革手袋に革靴、ステッキ……すげえ、紳士って感じだ。
「ど、どうしたんだお前……なんかすげえカッコよくなってるな」
「ははは……まあ、商会長として身なりは大事って、秘書に散々言われてね」
「お、おう。正直、マジでカッコいいぞお前」
「あ、ありがとう。その……いきなり来て悪かったね。アポなしで申し訳ないんだが、キミにはちゃんと言わなきゃと思ってね。今の、アメジスト清掃について……時間をもらえないだろうか」
「いいぞ。今日はどうせ帰るだけだったしな。それに、俺もお前を誘って飲んでみたかったんだよ」
「の、飲むのかい? まだ昼過ぎだけど……」
「つれないこと言うなって。ささ、行こうぜ」
「あ、ああ」
バリオン……かなり丸くなったな。
俺はバリオンと並んで歩きだし、行きつけの個室居酒屋へ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
向かったのはオシャレなバー……ではなく、イェランとよく行く大衆個室居酒屋。
今の紳士っぽいバリオンには似合わない……が!! あえて連れてきた。
というか。
「うわ~……変わるモンだねぇ。なんかリヒターっぽくない?」
「いえ。着ている物の値段で言えば、バリオンさんのが上ですよ」
イェラン、リヒター……やっぱり会った。
飲み屋の前に到着すると、偶然この二人が来た。というわけで個室へ。
酒、つまみを注文し乾杯。最初の一杯をグイグイ飲み干す。
「っぷは、昼飲み最高!!」
「同感っ!!」
イェランと俺でグラスを掲げ、おかわりを注文。
リヒター、バリオンは半分ほど飲んだ……おいおい、最初の一杯は飲み干すもんだ。
「ふう……こうして誰かと飲むのは久しぶりだ」
「お前、仕事漬けって聞いたけど、休みあんのか?」
「あるよ。とはいっても、昔と違って何をすればいいのか……」
「あんた、美容品関係でいろいろやってたじゃん。今はしないのー?」
「もうそっち方面からは手を引いたよ。今は獣人たちとの共同事業で手いっぱいさ。正直、休む時間も仕事に当てたい……」
「それは、お嬢から禁止されています。バリオンさん、援助の条件は『あなたの健康』ですよ。食事、睡眠、休息はしっかり取る。それが援助の条件です。返済期間は五十年設定ですので、あと五十年は規則正しい生活をお願いしますね」
「ははは……サンドローネには頭が上がらない」
そんな契約だったのか……サンドローネなりに、バリオンのこと気にしてたのかね。
すると、イェランがバリオンの肩をバシバシ叩く。
「あんた。かなり事業を拡大させて、大儲けしてるらしいじゃん。獣人たちが毎日ひっきりなしに面接に来るって聞いたよ~?」
「まあ、面接は毎日やってるよ。この世界、どうしても獣人には生き辛い地域があるからね。そんな人たちの受け皿になればと、住居や孤児の支援などもしている。手元には僅かな金額しか残らないよ」
聞けば、バリオン個人の資産はほとんどないそうだ。
アメジスト清掃の離れに住み、稼いだ金で獣人たちの雇用や仕事の斡旋、孤児院や獣人用アパートメントの建設などしているらしい。
「ボクは、罪を償わないといけない」
「でもさ、バリオン。あんた、獣人たちからすっごく慕われてるって聞いたよ? 嬉しくないの?」
「嬉しいさ。本当に……その言葉が、何よりの報酬だ」
うおお……せ、聖人みたいだな。
達観したような顔つきだし、なんかマジで別人……『元ざまあキャラ』とは思えん。
「改めて。ゲントク……キミには感謝しかない。本当に、ありがとう」
「いいって。ああじゃあ、その代わり……たまには飲みに付き合え。俺、イェラン、リヒターはよくここで飲んでるからさ、お前も来いよ」
「お、それいいね。なんか今のバリオン、付き合いやすいし」
「わ、私は少し微妙な立場ですが……友人としてお付き合いするのは問題ありません」
「……ははっ」
バリオンは笑い、ジョッキを掲げた。
俺、リヒター、イェランもジョッキを掲げ、バリオンのジョッキに合わせる。
「じゃ、今日は飲むか!! ところでバリオン、門限あるのか?」
「そ、そこまで管理されてはいないけど……秘書がなんていうか」
「あっはっは!! 気にしなくていいじゃん。あ、おかわりおねがーい!!」
「……お嬢には、一応報告しておきますか」
こうして、俺たちの飲み会グループに、バリオンが加わるのだった。
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