玄徳のロマン
試走を終え、職場に戻ってくると、みんながいた。
ロッソ、ブランシュ、サンドローネとリヒター、バレン、ウング、リーンドゥ。そしてさっきはいなかったユキちゃん、クロハちゃん、リーサちゃんに、その母親三人、父親であるティガーさんだ。
俺はバイクから降り、メットを外す。
「っぷは……ふう、最高だったぜ」
「おじさん、すごかった……」
「本当に、こんな魔道具を作るなんて」
アオ、ヴェルデがヒコロクから降り、バイクを眺める。
俺は近づいてきたヒコロクを撫でる。なんか前より懐かれていると思ったら、どうやら自分をスピードで負かせた俺を認めたとか。
すると、サンドローネとリヒターが近づいてきた。
「すごいわね、これ」
「だろ?」
「……仕様書」
「悪い。まだ見せられん。しばらくは俺だけで楽しみたいからな」
「……はあ、まあいいわ。今は工場が自転車の生産で忙しいし、イェランも仕事が溜まってるから、ここで新しい魔道具の改良なんて任せられないしね」
「そういうこった。まあ、今は自転車がこの世を走る光景だけで満足してくれ」
「ええ。とにかく、面白い物を見せてもらったわ。ふふ……あなたにはまだまだ期待してるから」
サンドローネはウインクし去って行った。
リヒターも一礼し、その後を追う。
そして今度はロッソたちが来た。
「すっごく速かった!! おっさん、アタシも乗りたいな」
「ダメダメ。これは今のところ俺専用だ」
「うー、まあいいや。ね、ね、これ乗ってさ、アタシたちと冒険行けるよね」
「まあな。今度、みんなでキャンプするか」
「するする!! ね、みんな」
「……する。おじさん、キャンプ」
「ええ。ふふ、今から楽しみですわ」
「そうね。というか、私もキャンプってしたことないわ。ってかキャンプって何?」
ロッソたちは「面白いもの見たし帰る」と言って去って行った。
さて、残ったのは。
「えーっと、皆さんお揃いで」
「ど、どうもゲントクさん。お久しぶりでございます」
虎獣人のティガーさん……外見は超ガタイのいい身長二メートル超えの獣人。鋭い爪、生肉を噛み千切りそうな牙、そしてギョロっとした虎の眼光……正直、何も知らないとメチャクチャ怖い。
だが、実際は温厚、で少し気弱な人だ。
さて、何の用事だろうか。
「す、すみません。子供たちに遊具を作っていただき、お礼に参りました」
「え? ああ、そんな別に、気にしなくていいんですよ。それに、この乗り物を作るのに必要な物だったので、むしろ感謝しています」
「にゃー」
「がうう」
「きゅるる」
子供たちが俺の足にじゃれついてきたので、順番に撫でる。
おお、ユキちゃんの頭の上に白玉がいる。懐いているようで何より。
ティガーさんは、俺に菓子折りを差し出した。
「こちら、つまらない物ですが……」
「ああどうも、気を遣ってもらって」
「にゃあ、おかし」
「ユキ、だめよ」
スノウさんがユキちゃんを抱っこ、リュコスさん、ルナールさんも子供たちを抱っこする。
せっかくだ。誘ってみるか。
「あのティガーさん。今日はもう仕事おしまいですか?」
「え、ええ。あとは帰るだけですが……」
「じゃあ、せっかくだしメシでもどうです? 俺もバイク完成の祝いをしようと思ってまして。奥さんたち、子供たち、スノウさんとユキちゃんも一緒に」
「……そうですね。では、ささやかながら、私が御馳走します。おすすめの焼肉屋があるんですが、どうですか?」
「いいっすね。ティガーさんはいけるクチですか?」
「ええ、もちろん」
というわけで、今日はバイク完成のお祝いをティガーさんたちとすることになった。
◇◇◇◇◇◇
やってきました焼肉屋。
個室に案内され、デカいテーブルには大量の肉。
そして、大きな鉄板には肉がジュウジュウと焼けている。
俺、ティガーさんはジョッキを合わせ乾杯……したのだが。
「あっはっは!! いやー、おめでたいね。ゲントクのロマン、できたんだって?」
「まあな。というかお前、よく会うな……」
イェランがいる。
焼肉屋の前で会い、ティガーさんが誘ったのだ。
そしてもう一人。
「どうぞ、リヒターさん」
「あ、ありがとうございます」
リヒター、スノウさんから焼いた肉を皿に乗せてもらい、笑顔を向けられ照れている。
いつもの飲みメンバーが混ざり、大所帯での焼肉となっていた。
「にゃう、おにく」
「ユキ、ゆっくり食べなさい」
「がるる、うまいー」
「クロハ、よく噛んで食べなさい」
「きゅう、お野菜」
「リーサ、ちゃんと野菜も食べるように」
奥さんたちは子供に付きっ切りだ。俺、ティガーさん、イェランは飲む……リヒターはなんかスノウさんと仲良くやってるから放っておくか。
俺はエールを飲みつつ、ティガーさんに聞く。
「そういやティガーさん、仕事の方はどうです?」
「ええ、従業員が十倍に増え、毎日忙しいですよ。ですが、バリオンさんの方針で、交代制、七日に一度の休日、有給制度を取り入れていますので、家族の時間もきちんと取れます」
「へー、バリオンねえ。あの美容美容でキラキラしてたやつも変わるもんねー」
イェランがエールを飲みながら言う。
ティガーさんは苦笑する。
「ははは……アメジスト清掃は事業を拡大させまして、今では国内で一番の獣人専門事業です。これまでは獣人というだけで仕事に付けないこともありましたが……今ではバリオンさんが、行き場のない獣人たちの受け皿のようになっていますよ」
バリオンは、孤児院や獣人用のアパートメントの建設などもしているらしい。従業員用のアパートメント……まあ、俺の発想だけどな。
支店も増え続け、アメジスト清掃はもはや清掃だけじゃない……あ、そういえば。
「そういや、スノウデーン王国で仕事してる獣人たちはどうしてます?」
「ええ、街道の整備は七割終わり、スーパー銭湯の建築も基礎工事を終えて建物の建築に入るそうです。いやあ、私も視察に参りましたが……温泉っていいですねえ」
ティガーさん、ニコニコしている。
スーパー銭湯が完成したら、家族旅行をするらしい。いいパパじゃないか。
そして、思い出したように言う。
「そういえば先日、クライン魔導商会から、作業手伝いの依頼が入りましたね」
「クライン魔導商会?」
「マジ!? 国内最高の商会から手伝いってすごいじゃん」
驚くイェラン。イェランはミカエラとサンドローネの因縁を知らないのかね。
ティガーさんはほぼ生焼けの肉を噛み千切り咀嚼……ちょっと怖い。
「ええ。なんでも、大規模な魔道具工場を作るので、建設員としてお借りしたいと」
「……大規模な魔道具工場?」
「なんでも、魔石加工のための工場だとか」
「……ふーん」
そういや、近日中に七属性めの『雷』が発表されるんだっけ……それに関係しているのかな。
魔道具工場、魔石加工のため、そして新属性。
なんだか嫌な予感するなあ……まあ、俺には関係ないけど。
「にゃあ。おじちゃん、おにくー」
「ん? ははは、俺に肉をくれるのか。ありがとな~ユキちゃん」
「にゃああ」
「こ、こらユキ。ゲントクさんのお邪魔しちゃダメでしょう?」
「いやいや、気になさらず。な、リヒター」
「な、なぜ私に……」
まあ、リヒターがスノウさんを気にしてるような気がした……なんてな。
ユキちゃんが椅子を降り、俺の太ももによじ登って座ったので頭を撫でる。
部屋の隅っこにいる白玉は、肉を食べて満足したのかスヤスヤ寝ている。
「がるる、あたいもー」
「きゅるる、ぱぱー」
「おっと。ははは、さあさあ、パパの足に座りなさい」
ティガーさんもクロハちゃん、リーサちゃんを抱っこし、頭を撫でる。
母親たち、今のうちに飯をたくさん食うといいぞ。
「はぁ~……ねえティガーさん。手先の器用な獣人さんっていない? アタシ専属のお手伝いさんが欲しいわ~」
「手先が器用……そうですね、アライグマ獣人の新人が、魔道具技師の手伝いをしたことがあると言っていました」
「お、いいね。お姉様に相談してみよっと。ゲントクはお手伝いいらないの? 会社、ずっと一人じゃん」
「俺は一人で間に合ってる。それに大福もいるしな」
こうして、楽しい飲み会は過ぎていく。
バイクの完成……これからはバイクに乗って、ロッソたちとキャンプに行きますかね。
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