『緑』のヴェルデ

「で、アンタここで何してんの?」


 ロッソがエールを飲みながら言うと、ヴェルデは胸を張って言う。


「冒険あるところに我はあり!! 決まっているじゃない、冒険をしに来たのよ!! おーっほっほっほ!!」


 う、うるせえなこいつ……ブランシュが清楚系令嬢なら、こいつは高飛車ざまあ系お嬢様って感じだな。ヒロインをいじめて追放したり、そのまま舞い戻ってきたヒロインにざまあされそう。

 ヴェルデは、縦ロールを揺らし、ロッソとタメを張るデカい胸を揺らして言う。


「というのはまあ冗談。実は、鉱山内に『ロックドラゴン』が現れまして、その討伐に来たのよ。で、討伐を終えて食事に行こうとしていたら、あなたが見えたってわけ」

「ふーん」

「た、倒したあとなのか?」


 俺が言うと、ヴェルデは縦ロールを揺らしながら言う。


「ええ!! ふふん、瞬殺でしたわ」

「そ、そうか……」


 展開的には、これから討伐ってところで問題発生し、ロッソたち『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』が討伐に協力、魔獣戦を挟んで仲を深め、ヒロインとして出番が増える……っていうのがラノベ的なストーリーだ……が、まさかの討伐帰りかよ。

 まあ、余計なバトルに巻き込まれることはないから安心した。ラノベ的な展開だと、俺も巻き込まれる気がするし。


「せっかくここまで来たし、温泉の町レレドレで汗を流そうと思っていたら……ふふん、ロッソ、まさか目的地が同じとはねぇ?」

「知らんし。行くなら好きにしたら? アタシら、おっさんの護衛任務で忙しいのよ。しっし」

「い、犬を追い払うような言い方しないでよ!! ね、ねえ……せっかくだし、一緒に行かない?」

「やだ」

「即答!?」


 ああ、この子……寂しいのかな。


「ああ、この子……寂しいのかな。みたいな顔をしているあなた、どうです? 私の同行を許可していただけないかしら?」

「こ、心読まれた!! え~と……まあ、一緒に行くくらいならいいんじゃないか? ロッソたちの友達なんだし」

「と、友達……!! えへへ、友達」

「友達じゃないし。ヴェルデ、『深緑の舞踏姫アンサンブル』に入れ入れやかましいのよ。アタシら三人は『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』だって言ってんのに」

「うぐぅ……だ、だって、同い年の女の子同士でチーム組みたいんですもの」

「だったらアンタが入ればいい……ああ、アンタ、ブランシュと喧嘩したんだっけ。アオからも敵認定されてるし」

「ううう……引き抜きしようと思っただけなのにぃ」


 ヴェルデは落ち込んだ……ちょっと可哀想かわいいと思ってしまった。

 俺はエールを飲み、彫像のように控えている二人の従者を見る。


「そっちの二人は飲まないのか?」

「お構いなく。私たちはお嬢様をお守りする従者ですので」

「お気遣い、感謝するぜ」


 一人は初老、もう一人は二十代前半くらいの男性二人だ。

 お嬢様……なんか貴族みたいだな。


「とりあえず、明日は観光する予定だから、みんな一緒にどうだ?」

「あ、おっさん馬鹿!!」

「いいの!? ふふん……お~っほっほっほ!! なら、私の従者として同行を許可します。あなた、名前は?」

「玄徳だけど……」

「ゲントク!! 明日、私の宿で待っているから迎えに来なさい。いいわね!!」

「お、おう」

「では、ごきげんよう!! お~っほっほっほ!!」


 ヴェルデは行ってしまった。

 その背中を見ていると、ロッソがため息を吐く。


「めんどくさいことしたわねー……あいつ、あんな性格だから婚約者を寝取られるし、実家も追放されんのよ」

「え、なんだその話」

「けっこう有名よ。あいつ貴族令嬢で婚約者いたんだけどさ……どっかの下級貴族の令嬢が「真実の愛」とかホザいてヴェルデの婚約者を寝取ったのよ。で、公衆の面前で「真実の愛に目覚めた。婚約破棄する!!」とか宣言されて、あいつは婚約破棄……しかも、恥晒しって言われて実家から追放されて冒険者になったのよ。でもまあ、見ての通り才能あったのか、『七虹冒険者アルカンシエル』にまで上り詰めたけどね」

「…………」


 マジの『ざまあ悪役令嬢』だった。

 やばい。ああいうのけっこう好きかもしれん。


「とりあえず、明日は一緒に観光しようぜ」

「まあ、いいけど……」


 食事を終え、宿に戻ってアオとブランシュにヴェルデと出会ったことを報告。二人は嫌そうな顔をしたが、明日の観光に付き合ってくれることになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 俺たちはヴェルデのいる宿へ向かうと、すでに宿の前にいた。


「遅い!!」

「いや時間前だが……」

「ふん。約束の三十分前に来るのは常識!! 次、気を付けなさいな」

「次何てないわよ。めんどくさいなー」

「……ヴェルデ。本当にいたのですね」

「……めんどくさい」


 ロッソ、ブランシュ、アオはめんどくさそうに欠伸をする。

 するとヴェルデ。こほんと咳払い。


「こほん。ロッソは昨日会ったけど……ブランシュ、アオ、久しぶりね」

「ふふ、そうですわね」

「別に会いたくなかった」

 

 ブランシュは能面みたいな笑み、アオはマジでめんどくさそうだ。

 ヴェルデは、長い髪をフワっとなびかせ、俺に言う。


「さて。ゲントク、今日は観光するということで、私がプランを用意してきたわ」

「え、そうなのか?」

「ええ!! んふふ、まずは鉱山の見学して、鉱石屋でお買い物して、お昼は岩盤ステーキを食べて~」

「ほうほう。なかなかそそられるプランだな」

「でしょう!? あなた、なかなか話せるじゃない」


 ヴェルデはにこっと微笑んだ。なんだ、可愛いじゃないか。

 と、視線を感じた……宿屋の影に、お付きの二人が隠れていた。


「そういや、お前の従者は?」

「シュバンとマイルズ? あの二人なら、その辺にいるわよ。従者だから邪魔しないのよ」

「へえ……まあいい。じゃあ行くか」

「ええ!! ふふん、ロッソ、ブランシュ、アオ、今日はよろしくね!!」

「「「……」」」


 三人は、なぜかジト目でヴェルデを見るだけだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、ヴェルデのプランだが……正直、メチャクチャ楽しかった。

 鉱山見学ではトロッコに乗って鉱山内を一周。ドワーフや獣人たちが穴掘りする光景などを見た。全員ムッキムキですごかったぜ。

 そして、鉱石ショップでの買い物……すごかった。宝石の原石とか、魔石とは違う美しさを感じたぜ。さらに加工された宝石とか、職人の技を感じた。

 そしてお昼。鉱山で発掘された岩を焼いて、そのうえで焼くステーキ……死ぬほどうまい。

 まさか、二枚もおかわりするなんて思わなかった。

 遊びを終え、俺は上機嫌だった。


「いや~!! 楽しかった。なあロッソ」

「まあ、うん。ヴェルデにしては上出来じゃん」

「ふふふん!! そうでしょ!!」

「確かに、楽しかったですわ」

「ステーキ、おいしかった」


 最初は微妙なロッソたちだったが、トロッコでの鉱山一周あたりから普通にヴェルデと会話したり、笑っていた。

 めんどくさいお嬢様ざまあ令嬢って感じだったけど、普通に遊べるんだな。

 すると、ヴェルデが言う。


「そ、その……今日は、その」

「ヴェルデ、今日は楽しかったわ。アンタ、普段はやかましいしウザイけど、まあよかったわよ」

「ええ。普段のウザ絡みがないと、こうも楽しいんですわね」

「ウザくないヴェルデ。まあいいかも」


 どんだけウザがられてんねん……ヴェルデも顔を赤くして震えてるし。


「う、ウザくない!! 私はウザくないし!!」

「「「えー?」」」

「むぅぅぅ!! ゲントク!! あなた、私はウザい!?」

「いや、昨日であったばかりだし、ウザいも何も……まあ、今日はすっごく楽しかったぞ」

「ふ、ふん!! 当然!!」

「ははは。さすがロッソたちの友達だな、いろいろ楽しかったぜ」

「と、友達……」

「別に友達じゃないけど」

「ええ、同業者ですわ」

「商売敵」


 ロッソたちが言うと、ヴェルデは少ししょぼんとした……素直になれないんだなあ。

 まあ、楽しかったし手助けしてやるか。


「そういやヴェルデ、温泉の町に行くんだよな。俺らも行くんだが、一緒に行くか?」

「!!」

「えー? おっさん、べつに一緒じゃなくても」

「行きます!! 一緒に行きますわ。出発は明日?」

「ああ、そのつもりだ」

「シュバン、マイルズ!! 旅支度!! では明日お会いしましょう!!」


 ヴェルデはダッシュで宿に戻って行った。

 ロッソはやや面白くなさそうに言う。


「おっさん、ヴェルデに随分優しいけど~……なんで?」

「なんというか、ああいう子を知ってるんだ」


 悪役令嬢ざまあ追放キャラ……正直、俺は悪役令嬢にも幸せになってもらいたい派だ。度を越した悪役令嬢は嫌だけど……ヴェルデくらいなら救いを与えたい。


「ロッソたち、ヴェルデに当たり強いけど……なんかあったのか?」

「別に。同業者だし、依頼の取り合いとか、功績を奪ったり奪われたりとかでモメたことあるのよ。憎み合うとかじゃないけど、仲良しこよしではない感じね」

「ふーん。でもまあ、ひと冬くらいは仲良くしてやってくれ。俺、ああいう子嫌いじゃないんだ」

「まあ、おっさんが言うならいいけどー」


 こうして、俺たちは鉱山の町を観光し、温泉の町へ行く用意を整えるのだった。

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