第六章 雪景色と温泉
季節は秋
さて、今日は休日だ。
俺は新聞を読み、コーヒーを飲みながら煙草を吸っていた。
すると、『秋に向けての新製品。足元から暖かい『コタツ』』という記事があった。テーブル式のコタツ、そし季節は秋て電気毛布を早くも製品化したようだ。
夏は完全に終わり、少しずつ肌寒い……エアコンの魔石を『温風』に変えておく日も近いな。
「さて、今日は買い物だな。冒険者ギルドで地図買わないと」
俺はコーヒーを飲み干し、至福に着替えて家を出た。
向かうは冒険者ギルド、そして商業ギルド。
何をしに行くかと言うと、北方の地図と情報を買いに行くのだ。
◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルドに到着。
俺にはあまり縁のない建物だが、素材などを買うためけっこう来る。
受付にいたのは、馴染みの受付だ。
「よう、ヘクセン」
「ん? おお、ゲントクじゃねぇか。お前、独立してからめっきり来なくなりやがって」
「ははは。本当に必要なモン以外は、業者に手配することにしてるからな。それに魔石も質のいいモンが入ってくるし」
ロッソたちが土産で持ってくる魔石、最低でも四つ星相当のモンなんだよな……しかも、一度に十個とかニ十個とか持ってくるから、大量にある。
なので、ギルドに来ることがめっきり減った。
ヘクセンは肩をすくめていう。
「ったく、つれねぇな。稼いでんなら飲みに誘ってくれや」
「ははは。じゃあ、今夜どうだ? 商業ギルドのグロリアも呼んでよ」
「ほ、いいね。じゃあ屋台でどうだ?」
「おう。じゃあ、今夜な」
「おう、じゃあな」
さて、帰る……じゃねぇし!! 飲む約束しにギルド来たわけじゃない。
踵を返して歩き出してしまったので、慌てて急ブレーキ。
「って!! 飲む約束しに来たわけじゃねぇし!!」
「ああそうか。で、なんか用事か?」
「ああ、地図あるか? 冒険者ギルド御用達の」
「あるぜ。地域ごとで買うか? 全体地図ならチト高いぞ」
「地域のやつでいい。北方の地図あるか?」
「北方~? 山岳地帯にでも行くのか?」
「それはまだわからん。ほれほれ、くれ」
冒険者ギルドの世界地図は、正確で細かく書かれているから信頼できる。そのぶん、値段は高いけど……まあ、今の俺にとっては微々たる金額だ。
ヘクセンは、一冊の本を俺に渡す。
「ほれ、北方の地図」
「おう、ありがとよ」
金を払い、さっそく開く。
異世界の地図は丸めた羊皮紙っぽいイメージだったが、冒険者ギルドの地図はノートだった。
全体図に、細かい道、町や村、国などが書かれている。普通に地図帳みたいなものだ。
本をめくりながら、俺は見つけた。
「──……あった!! 鉱山の町ドドファド」
「……お前、鉱山で働くのか?」
「違う違う。温泉があるって聞いてな」
「温泉……ああ、それならグロリアに聞いたらどうだ? あいつ、若いころは北方に住んでたこともあるみたいだぞ」
「マジか。よし……じゃあヘクセン、またな」
「おう」
俺はヘクセンと別れ、隣にある商業ギルドへ向かった。
◇◇◇◇◇◇
商業ギルドの受付には、恰幅のいいママさん受付ことグロリアが座っていた。
この時間は人がいないのか、少し暇そうにしている。
「おや、ゲントクじゃないか。バカンスから戻ったのかい?」
「まあな。っと、グロリア、調子はどうだ?」
「まあまあだね。あんたは……少し日焼けしたかい?」
「おう。そうだ、今日ヘクセンと飲むんだけど、お前もどうだ? 旦那がうるさいんなら、別にいいけどよ」
「ははは、亭主だって仕事場の子と飲んで帰ることもあるし、問題ないよ。それに相手は独身で結婚する気のないおっさんと、カカアに尻敷かれてるギルド職員だ。問題なんてないさ」
「確かにな。と……少し聞きたいことあるんだが、いいか?」
「なんだい?」
俺はカウンターへ近付き、地図帳を開く。
「お前さん、北方に住んでたって聞いてな。ここ、鉱山の町ドドファドに温泉あるって聞いたが、おススメの場所とかあるか?」
「温泉。ははは!! アンタも通だねぇ。まさか、温泉入るために北方に行く気かい?」
「ああ。秋の終わりくらいに行って、冬の一か月を温泉で過ごすのも悪くないかなーと。もしかしたら、別荘も買うかも」
「ほほ~、稼いでるねえ」
と、地図帳を見せた時だった。
「すみませーん!! 素材卸しに……って、おっさんじゃん!!」
「あら、本当ですわね」
「珍し……くもない。おじさん、素材買いに来た?」
なんと、『
俺は軽く手を振ると、三人は別の職員と話始める。
そして、素材を置くとすぐにこっちへ来た。
「おっさん!! なーにしてんの?」
「いや、グロリアにちょっと話をな。で……どこだ?」
三人は俺の手もとにある地図をのぞき込む。
まあ、別にみてもいい。グロリアはニヤリと笑い、鉱山の町ドドファドを指差す。
「ゲントク。鉱山の町ドドファドに目を付けたのはいいね。でも……」
すると、グロリアは指をスライドさせ、ドドファドから少し離れた南方にある小さな町を指差した。
「一冬、過ごすなら断然ここだね。ふふん、なんだかわかるかい?」
「……町? なんの町だ?」
「ここは『温泉の町レレドレ』っていう、温泉を売りにしている町さ。町の至るところに温泉があり、さらに隠れた別荘地帯でもある……ふふふ、実はアタシの故郷でもある」
「マジか。温泉の町……!!」
「ちなみに。アタシの弟が不動産ギルドで働いてるよ。もし別荘買うなら、紹介状くらい書いてやるけど?」
「頼む!! 今夜は俺の奢りで好きなだけ飲んでいい!!」
渡りに船とはこのことか。まさか、グロリアにこんな伝手があったとは。
すると、ロッソが言う。
「温泉……おっさん、温泉行くの?」
「ああ。別荘買って、一冬温泉で過ごすのもいいかなと」
「温泉。そういえば、美肌効果があると聞いたことも……」
「……いいなー」
三人が興味津々になっている。
するとグロリアが。
「ふふふ、お嬢ちゃんたちもどうだい? 温泉の町レレドレは、観光にも力を入れてるから、きっと楽しいと思うよ?」
「「「…………」」」
「おいグロリア。この三人は王国最強の七人、そのうちの三人だぞ。忙しいに決まってる」
「そうかい? でもゲントク、道中は鉱山地帯だし、魔獣も出るし、アンタが行くなら護衛は必要だよ? それにここからだと一週間はかかる距離さね」
「あ~……」
護衛か……さて、どうしたもんか。
すると、ロッソたちが顔を見合わせ、ウンウン頷いていた。
「おっさん!! 温泉行くならアタシたちが護衛してあげる!!」
「ふふ。美肌の湯……あるなら試してみたいですわ~。それに、別荘……安い物件があるなら、今度はわたくしが買ってもいいですわ」
「……おじさん、温泉行こう」
「え」
なんか乗り気だ。
こうして、再びロッソたちと共に、北方の温泉へ向かうことになるのだった。
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