モーターボートエンジン

「おっさーん!!」

「おじさま、失礼しますわ」

「おじさん、入るよ」

「にゃあ。おじちゃーん」


 早朝、朝日を浴びながら、ウッドデッキでコーヒーを飲みつつ新聞を読んでいると、異なる呼び方で俺を呼ぶ声がした。

 ドアを開けると、ロッソたち、木箱を背負ったヒコロクと、ヒコロクの頭の上にいるユキちゃんがいた。

 

「おお、朝っぱらからどうした」

「嫌ですわ。素材を届けに来ましたのよ」


 ブランシュがヒコロクが背負っていた木箱を下ろすと、そこには魔獣の素材が入っていた。

 確認すると、銀色に輝く骨……メタルオークの骨が入っている。

 指を滑らせ、コンコン叩いて確認。うん、硬さも申し分ないし、軽さもいい。


「これはいいな。よし、さっそく地下に運ぼう」

「お手伝いしますわ」

「私も」

「アタシも!!」

「にゃー」


 みんな手伝ってくれたので、一回で運び終えた。

 一階に戻り、みんなに果実水を出す。


「ところで、今日は……ユキちゃんがいるってことは、休みか?」

「うん。ユキにも水中スクーターで遊んでもらおうと思ってね。ねーユキ」

「にゃーう」

「ふふ、かわいいですわね」

「……ちなみにスノウさん、別荘のお掃除してから来るって」

「なるほどな。じゃあ、昼飯は……そうだ、俺が作ってもいいか? ちょっと試してみたいことがあるんだ」

「お? おっさんの手料理か。いいね。みんないい?」

「もちろんですわ」

「……楽しみ」

「うにゃ」


 さっそくみんなは空き部屋で水着に着替え、プライベートビーチへ向かった。

 俺ものんびりしたいが、約束を果たさねば。


「さて、モーターボートエンジン、やっちまうか」


 ◇◇◇◇◇◇


 地下室へ移動し、俺はさっそく仕事を始める。


「魔石とかの下準備は終わってるから、素材加工だな」


 エンジンとなる魔石、魔力を伝えるドライブシャフトに、プロペラを回転させるピニオンギア。そしてスクリュー部分……魔石だと、冷却とか考える必要ないから楽でいいし、構造もシンプルだ。

 

「ドライブシャフト……メタルオークの骨は理想的だ。軽いし頑丈……チタン合金くらい硬いかも。でも……俺の魔法なら」


 指先に炎を集中させ、バーナーのようにする。

 シャフトに加工し、設計し、測量もした通りピニオンギアも作成する。土魔法の金属錬成で型を作り、ドロドロに溶かしたメタルオークの骨を注ぎ込んで完成させる。

 俺の火魔法……溶鉱炉をイメージしながら発動させたら、メタルオークの骨も軽々と焼き切れた。魔法ってイメージなんだな。


「……よし。素材加工はこんなもんか。あとは、図面通り組む」


 パーツを組み、魔力操作舵と名付けた舵を取り付ける。

 この舵に魔力を流すことでドライブシャフトが回転し、ピニオンギアと連動してスクリューが回転する仕組みだ。

 魔力操作舵は二本ある。それぞれ前進、後退用だ。

 魔力を流すとドライブシャフトが回転、スクリューも回転する……大めに魔力を流すと回転数も上がり、速度も増すだろう。


「よし、いい感じ……とりあえず、外に運んで始動テストだ」


 試作機を担ぎ、俺は外に出た。


 ◇◇◇◇◇◇


 外に出ると、波打ち際でロッソたちが遊んでいた。

 ユキちゃんを抱っこしているブランシュと、貝殻を見せているアオ、ロッソは……お、浮上してきた。どうやら海に潜ってたみたいだな。


「ゲントクさん」

「ん? おお、スノウさん」


 スノウさんが、パラソルの下で座っていた。

 うーん、水着がまぶしい……正直言うが、メチャクチャ俺の好みドストライクなんだよな。

 

「お疲れ様です。何か、お手伝いしますか?」

「ああいや、大丈夫です。あ、そうだ……あの~、お願いしてもいいですか?」

「ええ、もちろん」


 俺はスノウさんに買い物をお願いすると、スノウさんは「お任せください」と出て行った。あとでしっかり給料支払うか。

 そして、波打ち際にあったボートへ向かい、取り付け作業する。


「おじさん」

「ん? アオ、どうした?」

「ううん、見に来ただけ」

 

 今日の水着はタンクトップビキニだ。俺がしゃがんで作業しているせいか、胸の谷間が見えている。まあ……見てしまうのは男のサガなので許してくれ。

 俺はボートに台座を作り、金槌でカンカン打つ。外れないようにしっかりと固定し、そこにモーターボートエンジンを取り付けた。


「うし、こんなもんか。さて……起動実験だ」

「魔道具?」

「ああ。モーターボートエンジン……船を動かす魔道具だ」

「おおー」


 俺はボートを押し、海へ。

 そして、ボートに乗り込み、魔力操作舵を握ると。


「……おいアオ、なんで乗る?」

「ダメ?」

「まだ実験だし、危ないかもしれないぞ」

「なおさら乗る。私、水魔法大得意。船が転覆しても、魔法でおじさんを助けられる」

「……まあ、確かに。じゃあ、掴まってろ」


 俺は魔力操作舵にゆっくり魔力を流し込む……すると、スクリューが回転し、ゆっくり船が動き出した。いいね、始動は上々だ。


「よし、少しずつ速度を出す……」

「おじさん、プライベートビーチを出て、一般開放されてるビーチに行ったらどうかな」

「そういや、行ったことないな……よし、行ってみるか」


 魔力を少しずつ増やしていくと、スクリューの回転数も上がる。

 そして、ロッソたちが気付いた。


「あー!! なんか楽しそう!!」

「にゃ」

「あらあら、アオってばずるいですわ!!」


 アオはボートの上で手を振り、「おじさん、速度上げて」と言う。

 まあいいか。魔力を多く流すと、時速四十キロくらいまで上がった。


「……うん、これくらい出れば、船の速度としては上々だろう」

「おじさん……綺麗」

「ん? おお……」


 プライベートビーチから出て、一般ビーチを走る。

 水平線が見えた。太陽が輝き、とても美しい。

 そして一般ビーチ。人が多くいるし、出店もあるのかいい匂いがする。

 何人かこっちに気付き、驚いているようにも見え、アオが手を振っていた。

 プライベートビーチからけっこう離れ、俺は舵の操作もする。

 右、左、急カーブ、後退と操作……問題はない。

 だが、最後の問題がある。


「あの、アオ」

「なに?」

「起動試験、最後にやらなくちゃいけないことがあるんだが……」

「なにをするの?」

「……最高速度」


 そう、最高速度に耐えられるかどうかチェックする。

 ボートは木材、そして金属の補強がしてあるのでかなり頑丈だ。メタルオークの骨を使ったエンジンも頑丈だろう。

 だからこそ、最高速度も試さないといけない。


「ちょっと怖いかもしれんが、直線距離で速度を出す……掴まっててくれ」


 目算で、プライベートビーチまで直線距離で三キロくらいある。

 まっすぐ、全速力で戻ってみる。アオは頷いた。


「わくわくする。おじさん、おねがい」

「ああ……しっかり掴まってろ。マジで」

「うん、おねがい」


 俺は深呼吸し、魔力操作舵を強く握り、思い切り魔力を流した。

 すると、スクリューが暴れるように高回転。


「───っ!!」

「おお」


 速度が一気に出た。

 やばい、速すぎる。百キロ以上出てる。まずい。

 ビュィィィィィィン!! と、ウィリーするように、跳ねるようにボートが海面を進む。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「おおおおおー!!」


 ドパン!! と、ボートが跳ねた。 

 俺は魔力操作舵を離しボートに掴まる。ジャンプ台もないのにマジで飛んだ。

 上空十メートル以上、マジで飛んでる。

 

「やべええええええええええええ!!」

「任せて、『水の柱アクアパッション』!!」


 アオが魔法を使うと、海面から水の柱が突き上げ、ボートが着水……そのままゆっくりと水の柱が下がり、別荘前のプライベートビーチに着水した。

 砂浜にボートが上がり、俺は放心。


「……死ぬかと思った」

「楽しかった。まさか飛ぶなんて」

「想定外。波がジャンプ台みたいになって跳ねた……うぉぉ、こ、怖かった」


 船から降りると、ロッソたちが来た。


「ずるい!! おっさん、アタシも乗りたいっ!!」

「すごく楽しそうでしたわ!!」

「にゃうう」

「ふっふっふ。楽しかった」

「……怖かったぜ、マジで」


 ロッソ、ブランシュが俺の腕を掴んで揺らす。


「ずるいー!! ね、ね、もう一回やろ!!」

「だ、ダメだって。今のは起動試験で、これは試作機で渡すやつなんだ」

「むうう、アオばっかりずるいですわ!!」

「ふふふ。おじさんの動きを見てたから乗れた。ごめんね」

「勝ち誇ってるのムカつくぅ!! おっさんー!!」

「だ、ダメだって。製品出たら買ってくれ」


 というか、ロッソもブランシュも胸を押し付けないでくれ!! 子供だから興味ないとか思ってたが、身体は立派な女なんだから!!

 こうして、スノウさんが買い物から戻ってくるまで、俺は二人に追い回されるのだった。


「にゃあ」

「ふっふっふ。私、勝ち組」


 アオは、いつの間にかユキちゃんを抱っこし、勝ち誇っているのだった。

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