アレキサンドライト商会の新事業

 さて、ロッソたちは「スノウさんが食事作ってるから帰る」と帰った。

 今度、スノウさんの食事を御馳走になる約束もした。スノウさん、すごく料理上手らしく、開業できるレベルだとか……ワクワクするね。

 なので、今日は一人でメシを食いに行こうとした時だった。


「ゲントク、やったわよ」

「いきなりだな……なんだよ」


 サンドローネが来た。

 暑いのにきっちりした服装で、いかにも仕事帰りだ。

 リヒターも同じ。汗を拭っているので暑いのだろう。


「海の国ザナドゥの再開発に、アレキサンドライト商会が噛むことになったわ。これもあなたのおかげね」

「そりゃようござんした……俺、これからメシなんだけど」

「私が奢るわ。ふふ、ザナドゥに着いてすぐ、こんな大事業に関われるなんて!!」


 珍しくテンションが高い。

 とりあえず、今日はサンドローネの奢りで焼き鳥屋へ。

 屋台風だが、ちゃんと店舗となっており、俺の知っている焼き鳥屋みたいに、客の前で焼くスタイルだ……またこんな名店を紹介しやがって、リヒターめ!!

 席に案内され、さっそく盛り合わせと雑酒を注文。


「今日、ラスラヌフ様があなたのところに行ったけど」

「ああ、あいつの渡した木箱の修理が終わったから渡したんだ」

「……ほかに、何か聞いた?」


 俺は首を振り、焼き鳥を齧って雑酒を飲む……う、うめえ。

 焼き加減は最高。味付けは塩だけだがこのしょっぱさがいい。雑酒も合うわ~……最高。


「何も聞いてない。今日は帰るって、修理したオルゴール抱えて帰ったよ」

「オルゴール?」

「あの木箱だよ。ま、気になるならラスラヌフに聞いてくれ」

「……そう。まあいいわ。それより、あなたのアイデアが採用されたわ」

「あ? 俺のアイデア?」


 なんのこっちゃ。アイデアって、魔道具か?


「なんのことだ?」

「あなた、ラスラヌフ様に言ったじゃない。『国内全域に河川を作って、そこを船で移動できるようになったら面白い』って」

「……え」

「その案が採用されたわ。『ザナドゥ運海整備計画』……総指揮はラスラヌフ様、アレキサンドライト商会はその補佐を務めることになったの。ふふ、支店を作って早々の大仕事ね」

「……待て。まさか本当に、俺の考えた夢物語を採用したのか!?」

「ええ」


 いやいやいやいや!! マテまて待て!! 

 再開発するからって、俺が思いついたのは水の都ベネチアのゴンドラだ。国中に水の道があり、船で移動すれば楽しいかな~って言っただけ。

 まさか、現実にやるつもりなのか。


「おいおいおい、冗談だろ!?」

「ラスラヌフ様はできると確信しているわ。川じゃなく海を引っ張り、国中に『水の道』を通すみたいね。今ある国内の主要街道はそのままで、船の道を作るみたい……最初は城下町を開発し、国外、領地全体と伸ばすみたいよ」

「……何年、何十年かかるんだよ」

「壮大よね。アレキサンドライト商会のザナドゥ支店は、魔道具販売は副業で、街道ならぬ『海道』開発がメインとなりそうね」

「……俺に許可って言ってたけど」

「たぶん、あなたのアイデアだから、使用許可を取りに来たんじゃない? 明日、同じ説明をすると思うわ」

「マジか……」

「アイデア料金の支払いがあると思うわ。期待したら?」

「……だな。ところで、報酬なんだけど」


 と、俺はサンドローネの胸を見た。

 サンドローネは自分の胸を見てハッとなり、顔を赤らめてそっぽ向いた。


「や、約束は守るわ。す、好きにしていいから。あなたの家に行けばいいの?」

「だっはっは!! いやいや、お前のその顔見れただけでいいわ。それに、協力関係にあるお前とそんな関係になるつもり欠片もないしな」

「む……」

「安心したか? はっはっは!! いや~、いい顔見れたぜ。なあリヒター」

「え、ええ……私は何も」

「……覚えてらっしゃい」


 サンドローネは恥ずかしそうに俺を睨むのだった……可愛いところあるんだなあ。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 俺はキッチンで米を炊く。

 土鍋で炊きたかったが、残念ながらない。魔導炊飯器で米を炊く……実はこの魔導炊飯器、熱の加減の調整が難しく、何度か失敗した。

 製氷機よりも難しかったぜ。


「ふんふんふ~ん……米、焼き魚に目玉焼き、海苔……あれば最高。味噌……あれば最高、ないので野菜汁だ」


 繫華街から少し離れたところに市場があると、スノウさんから教えてもらった。

 行ってみると、新鮮な魚がいっぱい売っていた。

 もしやと思い探したが、海苔はなかった。魚醤っぽい調味料はあったので大量に購入した。

 驚いたのは、海藻が大きな木箱に大量に捨ててあったことか。

 聞くと、網漁をするとくっついてくる厄介者で、そのまま捨てるのが当たり前。

 とりあえずもらい、別荘の前に紐を吊るし、そこで干して乾燥させている。


「いい出汁取れるかもな。味噌があればなあ……」


 刺身や魚醬の発祥地であるアズマなら、何かヒントがあるかもしれん。

 まあ、いつか行くつもりだし、焦らないでおこう。


「よし完成。異世界の和食だ」


 ご飯、魚の骨で出汁を取った野菜汁、赤身の焼き魚、目玉焼きだ。

 どれもご飯に合いそうだ。ふふふ、いただきます。


「うん、やっぱ日本の朝は和食だな。異世界だけど……」


 当然だが美味い。

 完食し、食器を水に浸け、コーヒーを淹れる。

 ソファに座り、朝刊を読み、煙草を吸いながらコーヒーを飲む。

 

「ゲントク、入るわよ」


 と、サンドローネが入ってきた……おかしいな、カギ……あ、新聞取りに行った時明けっ放しだ。

 サンドローネ、リヒター、そしてラスラヌフが入ってきた。

 三人はソファに座る……まだ俺、何も言ってなんだけどな。


「サンドローネから聞いたようじゃな」

「ああ、海道を作るんだろ」

「うむ。お主のアイデア、使わせてもらう許可を取りに来た」

「いいぞ。だが、一つ条件がある」


 俺がそう言うと、サンドローネとリヒターが驚いていた。まあ、昨日は言わなかった条件だ。

 俺はピンと指を立てる。


「俺は、海の国ザナドゥにバカンスに来てる。これ以上、仕事を持ち込まないこと。やるなら好きにやってくれ」

「……うーむ。そうしたいのは山々じゃが、一つ頼みがあっての」

「…………」

「わかった。これを最後にする。ゲントク、ワシの頼みを聞いてくれんか」

「……わーったよ。で、何だ?」

「乗り物じゃ」


 ラスラヌフは足を組み替える。

 今更だが……水着みたいな恰好で、パレオみたいなの巻いてるとはいえ、足を組み替えると際どいところまで見えそうなんだよな。胸の前で腕組みしてるからデカい胸が持ち上げられてるし。


「ん? ふふ、こんなババアの身体に欲情するとはの」

「んなわけあるか」


 ってか、どこがババアやねん。二十代半ばの極上ボディじゃねぇか……じゃない!!

 俺は強引に話すを進める。


「乗り物って?」

「うむ。海道を開き、水の道ができれば、必要なのは船になる。だが、帆船では大掛かりになるし、今の技術では疑似的な風を発生させ、船の速度を上げることしかできん。できれば、小型の船が欲しい……ゲントク、何か案はあるか?」

「モーターボートだな。小舟に、取り付け式のスクリューを付ければいいと思う」

「……そのスクリュー、というのはわからんが。それを作ってほしい」

「……まあ、そのくらいなら」


 取り付け式のモーターボートエンジンなら、たぶん作れる。

 というか、魔道具技術はそこそこ発達しているけど、海に関する魔道具って全然発達してないのな。スクリューとか、すぐに思い付きそうなんだが。

 まあ、いずれは誰か考えてたか。それが俺ってだけで。


「じゃあ頼みがある。うちのプライベートビーチに、四人乗りくらいの小舟を用意してくれ。それをベースに作ってみる」

「それは私が用意するわ。リヒター」

「はっ、手配します」


 さすがリヒター、頼りになるね。

 ラスラヌフは満足したように微笑み、立ち上がる。


「では任せた。サンドローネよ、これから忙しくなるぞ」

「はい。お任せください」

「ああ、それと……ゲントク」

「ん?」


 ラスラヌフは、やや言いにくそうにだった。


「魔女会のメンバーは十二人。それぞれ、アツコの思い出の品を持っている……どれも、用途がわからなかったり、どうしていいのかわからない物ばかりじゃ。ワシがお主の手で魔道具を復元したと報告したら、ぜひ我も……と言っておる。近い将来、魔女会のメンバーが、お主を訪ねるやもしれん」

「…………マジか」


 こうして俺は、モーターボートを作ることになるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る