別荘探し

 さて、翌日。

 宿屋で起きた俺は、大きく伸びをしてベランダへ。

 朝日がまぶしく、熱っぽい空気が俺の身体を覚醒させていく。


「さぁ~て、今日は不動産ギルドに別荘探し。力付けるために朝飯いっぱい食うかな」


 この宿、朝食が朝から魚介なんだよね。

 特に海鮮スープは絶品だ。朝からワクワクする。

 そして、絶品朝食を食べに一階へ行くと、ちょうど『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』の三人も起きてきた。

 

「おっさん、おはよー」

「おう。さて、今日は俺の用事に付き合ってもらうんだが……本当にいいのか?」

「え? 何がですか?」

「いや、お前ら冒険者だし、依頼とか……やっぱり俺一人でもいいぞ?」

「……約束は守る」


 律儀な子たちだ。まあ、そう言うなら手を借りるかな。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、朝食後、さっそく不動産ギルドへ。

 

「おっさん、不動産ギルドってどこにあるかわかるの?」

「冒険者ギルド、商業ギルド、金融ギルド、不動産ギルド、飲食ギルドは大抵、町の中央に並んでるもんだ」

「さすがですわね。その通りですわ」

「……さすがおじさん」


 町の中央区までは馬車で一時間以内だ。

 定期バス……じゃなくて、定期馬車に乗って町の中央で降り、周囲を確認すると……あった。

 でかい砦みたいな、長方形の建物。不動産ギルドの看板があった。

 中に入ると、すごいな……受付カウンターに、商談用の席がいっぱいある。二階もあるし、別室での相談とかもやってそうだ。


「アタシ、ここ入るの二回目かな」

「わたくし、初めてですわ」

「……私も」


 とりあえず受付カウンターへ。

 おっさん受付に話をする。


「すみません。海の国ザナドゥで別荘を買いたいんですけど……」

「物件の購入ですね。個別相談となるので、しばらくお待ちください」


 それから少し待つと、きっちりした服を着て髪をお団子にし、眼鏡をかけた二十代後半くらいの女性がやって来た。


「初めまして。不動産ギルド職員、クリスティナと申します」

「ど、どうも。ゲントクです」

「では、ゲントク様。別室にてお話を伺いますので……そちらの方々は?」

「もち一緒!!」

「ふふ、よろしくお願いしますわ」

「……いい別荘にしてね」

「は、はい。ではどうぞこちらへ」


 なんか勘違いされたような気がするが……言っておくが、買うのは俺でこいつら関係ないからな。


 ◇◇◇◇◇◇


 案内されたのは、椅子とテーブルのみのシンプルな部屋。

 クリスティナさんが椅子を促して座ると、大量の資料をテーブルに置いた。


「さて、ゲントク様。物件をご希望とのことですが……」

「えっと……俺はエーデルシュタイン王国で魔道具技師をやってまして。こんな言い方はアレですけど、まあそこそこの稼ぎがあります。で、夏の間はザナドゥで過ごそうと思い、別荘となる物件を買おうと思いまして」

「なるほど。別荘ですね……魔道具技師とのことですが、何か実績はおありですか?」

「一応、アレキサンドライト商会専属の魔道具技師です」

「はいはい!! アタシたち『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』と相互契約もしてる!!」


 ロッソが言うと、クリスティナさんが硬直した。


「あ、アレキサンドライト商会……そして、す、す、『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』ですか……!?」

「え、ええまあ」

「あの、製氷機と新型冷蔵庫、ミスト噴霧器の製作者様でございますか!?」

「え、ええ……はい」

「それに、あの『虹七冒険者アルカンシエル』の三人がいる、あの……」

「「「そうでーす」」」


 三人が揃ってピースすると、クリスティナさんがぶるっと震えた。

 そして咳払いし、眼鏡をクイッと上げる。


「コホン。これは全力で取り組まねばならない案件のようですね……」

「いや、普通でいいんですけど……」

「ではまず、どのような物件をご希望ですか? 妥協せず、望みを全て仰ってください」

「は、はい」

 

 なんかスイッチ入ったかな……まあ、とりあえず相談してみるか。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 繁華街から近く、海沿い、プライベートビーチ欲しい、あと無理ならいいけど魔道具作成部屋。

 こんな感じで希望を出すと、クリスティナさんは難しい顔をした。


「失礼ですが、ご予算は」

「二億セドル。出せても三億……」

「ふむ……まあ、ないことはないですね」


 と、資料を並べた。


「まずこちら、海沿い、プライベートビーチ付きの物件です。ですが繫華街からは徒歩一時間ほど……」

「い、一時間……う~ん」

「こちらは、繁華街から近いのですが、海沿いではなく町中にあり……」

「うーん、海は見たい。あと泳ぐこともあるかもしれんしなあ」

「ではこちら。海沿い、繫華街から近く、プライベートビーチもあるのですが……その、かなり狭い物件でして」

「いや、一部屋だけしかないのはさすがに……」


 ロッソが欠伸し、ブランシュは全く関係のない別荘の資料を見て、アオは俺に寄りかかって今にも寝そうだった。

 悪い条件じゃないんだが、なんというか……高い買い物だし妥協したくないんだよなあ。

 するとクリスティナさんの足元にあるカバンに、一枚の書類があるのをアオが見つけた。


「お姉さん、それは?」

「え? あ、ああこれは……その」

「見たい。見せて」

「……は、はい」


 と、クリスティナさんがアオに書類を渡し、見ずに俺へ渡した。

 確認するとそれは。


「繫華街から近く、二階建て、プライベートビーチあり……値段は、二億セドル? しかも即日入居可能って、メチャクチャいい物件じゃないですか!!」

「あ、あの……実は」

「……悪徳商法?」


 アオがジーっとクリスティナさんを見て、俺の腕にしがみつく。

 まさかと思い見ると、クリスティナさんは首を振った。


「ちち、違います!! その……実はこの物件、事故物件なんです」

「え」

「おじさん、事故物件ってなに?」

「……その、この別荘で人が死んだとか、そういう物件だ」

「は、はい。その通りです……実は、この物件に住んだお方は、呪い殺されるという噂がありまして……冒険者ギルドに確認してもらったところ、ゴースト系の魔獣が住み着いているようで、手が出せないそうです」

「ゴースト、って……幽霊?」


 まさか、幽霊の魔獣いるのかよ。ちょっと怖いんだが。

 すると、アオが言う。


「ブランシュに任せればいいよ。ブランシュ、『光』魔法で怪我や病気を治すだけじゃない。ゴースト系なら軽く浄化できるよ」

「え? 呼びました?」

「ゴースト系を浄化って、できるのか?」

「うん。ゴースト系魔獣は物理攻撃が効かない。でも、光属性の浄化魔法なら倒せる」

「し、しかし……名だたる光魔法師に浄化を依頼しましたが、どなたも浄化ができず……冒険者ギルドの出した結論は『刺激をすることなかれ』というものでして」

「ブランシュなら大丈夫。ね」

「はい。ゴースト系の浄化でしたら大得意ですわ」

「お姉さん、おじさんに別荘売ってあげて。割引もしてね」

「……わかりました。では、二割引き価格でお売りいたしましょう。浄化後、不動産ギルドが契約している清掃員も手配し、別荘を綺麗に掃除いたします。ではこちら、契約書です」

「…………」


 なんか買う流れになってしまった……正直、浄化云々より、人死んだところを別荘にしたくないんだが……なんて、言える雰囲気じゃねぇんだが。

 ま、まあ……うん、いい物件みたいだ。モノを見てもいないが、契約するか。


「じゃあ、契約します……」

「ありがとうございます!! では支払いはいかがなさいますか?」

「カードでお願いします」


 支払いを済ませ、俺は別荘(現時点でゴースト付き)を手に入れた!!

 やったぜ。リゾート地での別荘だ!!


「さて、わたくしの出番ですわね。ゴーストの浄化……フフフ、わたくしを楽しませてくれるゴーストだといいのですが」


 なんかサディスティックな笑みを浮かべるブランシュ……任せて大丈夫、だよな。

 アオはもう平然としてるし、なんか静かと思ったらロッソは爆睡していた。


「では、物件までご案内しますが……浄化の準備は大丈夫ですか?」

「一度、宿に寄っていただけます? 道具を用意しますわ」

「くかぁ~……んんぁ? あれ、おわた?」

「おわった。これから浄化」

「じょうか? ん~……ふぁぁ、わかった」


 とりあえず、これから浄化か……どうやってやんのかな。

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