海の国ザナドゥ

 それから数日、街道を走りながら海の国ザナドゥへ。

 本来なら一週間必要な道のりだが、ヒコロクが夜も休まず走っていたので四日で到着した……道中、魔獣とか会わなかったけど、荷車内にいる間とかフツーに出てたらしい……ブランシュが「ふふ、ヒコロクってばおやつに夢中ですわ」なんて意味不明なこと言ってたけど、あれって襲ってきた魔獣返り討ちにして、そのまま食ったって意味だった……ちょっと怖かった。

 とまあ、そんな感じで四日後。


「ん? おお……」


 窓を開けて外を眺めていると、潮の香りがした。

 森の街道を抜けるとそこは……絶景かな、絶景かな。


「あ、見えた!! アオ、ブランシュ、見えてきた!!」

「うおっ、おま、乗るな乗るな」


 ロッソが俺に乗りかかり、窓から景色を見ている……でっかいしやわっこいお乳が俺の頭をグニグニ押す。ごちそうさまです。

 街道沿いに見えるのは海。綺麗なアクアブルーの海が太陽の光でキラキラ輝いている。

 そして、遠くに見えたのは大きな城だった。


「あれが、海の国ザナドゥか?」

「そうですわ。観光、リゾートの国ザナドゥ。国王が大の遊び人でして……税金の大半を国の開発に投資し、国民たちに還元していることから、かなり慕われていますわ」

「なるほどね。異世界モノにありがちな悪徳王ってやつじゃないのか」

「おじさん、釣りできる?」

「もちろん。ふふふ、この日のために竿も遠投用のを作ったし、釣り針やラインもいっぱい持って来た。アオ、仕事が休みの日はいつでも釣りできるぞ」

「……おじさん、大好き」


 アオは笑顔を見せ、俺の腕にしがみつく。

 もちろん勘違いしない。姪っ子がお小遣いくれる叔父さんのことを「好き」って思う感情だな。ってか俺も子供の想いを勘違いするほどアホじゃないし。

 ブランシュが言う。


「今日中には入国できそうですわね。ロッソ……別荘はどうせほったらかしなんでしょう? 今日は城下町の宿に泊まって、明日はお掃除ですわね」

「はぁ~い……あーあ、お手伝いさんとかいればなあ」

「……私たちの拠点にも欲しい、お手伝いさん」

「わかっていますけど、わたくしたちのお手伝いさんとなるとねえ……下心がある方々が多くて、そう簡単には見つからないのですよねえ」


 そういや、以前エアコン設置に行った時、三人の拠点はけっこうな豪邸だったのに、メイドとか使用人とかいなかった。

 なるほどなあ……有名人なりの面倒くささってのがあるのか。


「俺も同じ宿に泊まる。で、明日は不動産ギルドに行って、別荘探しに行くかな」

「あ、おっさん一人で大丈夫? カモられたりしたら大変じゃない? アタシも行こっか?」

「ロッソ。あなた、お掃除したくないだけでしょ。おじさまの迷惑になりますわ」

「うぐ……」

「……ね、おじさん。どんな別荘買うの?」

「いちおう、予算は二億セドル。海沿いで、そこそこ広くて、ビーチが近いところがいいな」


 ロイヤリティ入ったし、アイデア料もしこたま入った。

 まあ三億セドルくらいが上限だな。貯金すっからかんになっちまう。


「ね、おっさん。提案あるんだけど~」

「な、なんだよ」

「あのね、アタシの別荘のお掃除手伝わない? そのあと、一緒に不動産ギルドに行こ。若い子の意見とかあった方がいいでしょ?」

「いや別に……」

「それにそれに、金持ちおっさんはカモにされるかもしれないし。アオなら、嘘ついてる人の声色とかで嘘見抜けるから便利だよ!!」

「マジか、すげえな」

「じゃあ私が一緒に行く。ロッソは掃除」

「はあ!? それずるいし!!」

「こら二人とも!! おじさまの迷惑になるでしょうが!!」

「「えー」」


 ああもう、騒がしいなこいつら!!

 まあ、掃除くらいはいい。それに、ロッソの別荘もちょっと気になるし……俺が別荘買う参考になるかもしれん。


「わかったわかった。じゃあ、ロッソの別荘掃除手伝うよ。で、みんなで俺の別荘探し、手伝ってくれ」

「そうこなくっちゃ!!」

「……うん、任せて」

「全くもう……おじさま、ご迷惑をおかけしますわ」


 こうして、俺たちは『海の国ザナドゥ』に到着するのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ザナドゥの正門に近づくにつれて、ヤシの木みたいな木が街道沿いにズラッと並び始めた。

 税金を国の整備に使うか……今気づいたけど、街道も石畳だし揺れが全くない。多くの馬車が行き来しており、冒険者っぽい連中や、人力車みたいなのに乗る観光客っぽいのともすれ違う。

 ザナドゥの正門はどこか流線型で丸っこい。レンガ積みの砦みたいな威圧感がなく、観光地っぽくていいな。

 

「正門に到着ですわ。おじさま、わたくしたちの冒険者ライセンスなら、待ち時間なしで入国できますわよ」

「そりゃありがたいな」


 正門前にはいくつも検問所があるが、どこも混雑していた。

 アオがヒコロクに指示を出し、数人しか並んでいない検問所へ。

 薄着の兵士が近づくと、アオは冒険者ライセンスを出す。


「──!! す、『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』でしたか!! 今年もよろしくお願いします!!」

「ん」

「おい、門を開けろ!!」


 正門が開き、ヒコロクが歩き出す。

 俺はロッソに聞いてみた。


「なあ、今年もよろしくお願いします、ってなんだ?」

「んー、高難易度の討伐依頼とかけっこう溜まっててね、そういうの全部処理してんのよ。それでギルドから感謝されててねー」

「……新規のダンジョンとかも調査してる」

「実は、ザナドゥではけっこう忙しいんです。まあ、仕事半分、遊びが半分ですけどね」

「ほお……若いのに大したもんだな。高難易度の依頼ってことは、けっこう稼いでるんだろ?」

「まあね。でもアタシ、故郷の村に仕送りしてるからそんなに残らないなー」

「……私、孤児院の維持」

「わたくしも、教会の寄付でほとんど消えますわね」


 ……なんか俺、恥ずかしくなってきたわ。

 ま、まあ……日本人だし、感覚違うってことで。


 ◇◇◇◇◇◇


 それにしても、街並みを見て思った。


「すごい整備されてるな……地面は綺麗な石畳だし、建物は大きくて機能的、外観もいい。街灯も、これ全部魔道具か? 均等に配置されてるし……」


 建物は白系が多く、外観も綺麗な造りをしている。

 商店や飲食店も多い。だが、道端にゴミなんて落ちていないし、綺麗そのものだ。

 

「おじさま、ザナドゥではポイ捨てするだけで警備員が飛んできますわよ」

「ま、マジか……捨てはしないけど、気を付ける」

「……あと煙草。決められた場所じゃないと吸えない」

「き、喫煙所な。うん、わかった」

「それと、町は水着で歩けるから。あんな風に」

「おお!!」


 外の景色を見ると、水着のお姉さんが並んで談笑していた。

 すっげ、ビキニだビキニ。胸でかいし腰も細い。

 しかも、片方のお姉さん……。


「獣人か」


 獣人。

 異世界でありがちな種族だ。狐っぽい耳に尻尾の生えたスタイル抜群の水着お姉さん。俺を見ると微笑み、手を振ってくれた……もちろん俺も振り返したぜ。

 この世界の獣人は二種類ある。まんま二足歩行のケモノみたいな獣人と、人間ベースの獣人だ。異種族と結ばれた獣人は、『ハーフ』っていう人間ベースの獣人になるみたいだ。

 獣人同士で生まれ、二足歩行の獣人を『純血』って言って、獣人の貴族みたいな存在らしい。

 まあ、ハーフだからって差別とかそういうのがあるわけじゃないのでご安心。


「……おじさん、水着の女性好き?」

「まあ男だしな。嫌いじゃない」

「私の水着、見たい?」

「ははは。そりゃ見たいさ。きっと可愛いんだろうな」

「……おじさんのえっち」

「え、なんで」


 親戚の姪っ子に接するように返したんだが……なんかダメだったか?

 するとブランシュが言う。


「今日の宿に到着しますわ。おじさま、わたくしたちが利用する宿でよろしいですか?」

「ああ、構わない」


 さて、とりあえず。

 明日は別荘掃除、その後はいよいよ別荘を買いに行くぞ!!

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