ペリドット商会

 さて、さっそくイェランとペリドット商会内部へ。

 俺は自然に腕を出すと、イェランが首を傾げた。


「いや、周り見ろよ……男性は女性に腕貸すのが普通なんだよ」

「はああああ? あ、アタシと腕組んで歩くのかよ!!」

「嫌なのはわかってるけど、そうしないと俺が『なにアイツ、女性に腕も貸せないクソ野郎なの?』とか『あの男最低~』とか言われるんだよ」

「そ、そこまでは言われないと思うけど……ああ、もうわかったよ」


 イェランはそっと腕を組んだ。

 そのまま、イェランに合わせて歩き、ペリドット商会へ。

 店内に入ると……なんというか、有名デパートの貴金属売り場みたいな華やかさだった。しかも香水の香りもすごいし、店員さんはみんなドレスで着飾っている。


「すっご……これがペリドット商会」

「ざっと見、アクセサリー、化粧品、お茶類、魔道具類ってところか」


 広さは学校の体育館くらい、バスケコート二面分くらいかな。それぞれ、四分の一ずつ化粧品、魔道具、お茶関係、アクセサリーと分割されている。そして、それぞれ四人くらいずつドレスの店員さんが見回っている感じか……当然、店員さんは全員女性。


「こりゃすげえな……さて、さっそく魔道具を」

「待った。見るならまず化粧品だ。去年、夏に向けた新製品は化粧品だった気がする」

「そうなのか?」

「ああ。日差しが強い日が続いてな、日焼け止めクリームっていう、肌に塗ると日焼けを防止する魔法のクリームを発売したんだ」

「へえ、日焼け止めかあ」


 日本じゃポピュラーなモンだけど、異世界じゃ画期的なモンらしいな。

 魔道具に限定されないなら、いろいろアイデアはあるぞ。

 化粧品を眺めていると、店員さんが近づいてきた。


「何かお探しですか?」

「え、ああ……彼女の肌に合う化粧品を探してまして」

「は!?」

(馬鹿、合わせろ)

(うぐ……ゲントク、覚えてろ)


 別にコソコソする理由はないけど、なんかスパイっぽくて楽しい。

 女性店員さんは、イェランの顔に「失礼」と言って手を伸ばした。


「綺麗なお肌ですね、でも……少し、髪が傷んでいます。お化粧も大事ですが、髪も綺麗にしましょうね」

「あ、はあ……」

「あの、すみません。この世界……じゃなくて、基本的な化粧品ってどんなのありますか?」


 俺の質問だ。

 店員さん曰く、洗顔は普通に水洗いで、その後に白粉を薄く塗り、眉を整え、口紅を塗るのが一般的らしい……って、なんか思ったよりシンプルだった。

 白粉も、いろいろ種類があるそうだ。貝を砕いて粉上にしたものや、植物から作ったもの……その種類は百種類くらいあり、自分の肌にあった白粉を付けるらしい。

 

「つまり、白粉を選ぶことが大事ってことか」

「ええ。肌に馴染む白粉を塗り、肌を白く見せるのが美肌のコツですね。去年発売した『日焼け止めクリーム』は、日焼けを止める魔法の水に、白粉を溶かしたクリームで、塗るだけで日焼けを防止する一品です。少しお値段は高くなりますが、いかがですか?」

「いいですね。あの、今年の夏とかは新商品とか出したりしますか?」

「ふふ。それは秘密です」


 あるんだな。日焼け止め以上の物が。

 話を聞くと、ペリドット商会は百種類以上の白粉や口紅を販売しているらしい。

 俺も詳しくないけど……化粧ってもっと複雑なのかと思った。化粧水とか乳液とか、昔、デパートの化粧品売り場の空調を修理しに行ったことあるけど、アイシャドウとかチークとかもっと複雑だった気がする……さすがに化粧品のことはわからん。

 とりあえず、場所移動。


「ゲントク、次はどうする?」

「魔道具だな。美容品の魔導具ってどんなのあるのかな」


 魔導具売り場へ。

 と、そこにあったのは……なんとも意外。


「な、なんだこれ……」


 あったのは、デスマスクみたいな魔道具だった。

 イェランが眺めていると、店員さんが来て説明する。


「こちらは、『美容マスク』です。顔にはめてスイッチを入れると、マスクが細かく振動してお肌を刺激し、美容効果を得ることができるんです。お客様、お試しになられますか?」

「え、あ、アタシですか」

「お願いします」

「お、おいゲントク!!」


 イェラン、お前の犠牲は無駄にしない。

 イェランはデスマスクをはめ、スイッチを入れた……すると、マスクが細かく振動する。


「あひゃ、あひゃひゃひゃ!! く、くっすぐったい、あひゃ!!」

「ぶふっ……」


 で、デスマスク付けて細かく振動してるの、ぱっと見クソ面白いな。

 マスクを外すと、イェランはゼーゼー言いながら俺を睨み、足を思い切り踏んできた。


「いって!?」

「……笑っただろ、お前」

「わ、悪かった」


 素直に謝ります。でも、かなり面白かった。

 いろいろな魔道具を見た。

 お腹に巻いて振動を起こし、お腹を引き締める魔道具。

 腕や足に巻いて振動させ、肉を引き締める魔道具。

 そして、お椀が二つにチューブのようなものがついた魔道具。


「これは?」

「これはバストアップ魔道具です。胸につけ、振動を起こすことで胸を刺激し、サイズアップをさせる物ですね……お試しになられますか?」

「えーっと」


 イェランを、正確にはイェランの胸を見る……うん、立派な果実だ。


「いえ、大丈夫です。立派なモンあるんで」

「……外出たらアンタ殺すから」


 やべえ龍の逆鱗に触れちまった……ど、どうしよう。

 とりあえず、魔道具は見た。

 残りは、アクセサリーとお茶だ。そっちに人が集中している。

 すると店員さんが言う。


「アクセサリーは、ペリドット商会の商会長、バリオン様のデザインです。当店一番の人気商品でございます」

「バリオン様……って、ジャスパー侯爵家の?」

「ええ。三男なので爵位を継ぐことはありませんが……ジャスパー侯爵家の支援の元で、このペリドット商会を興し、今では王都で一番、女性にとって最高の商会となりました。バリオン様は、デザイナーとしての才能も一番で、その斬新なデザインから、王家からもアクセサリーのデザインを依頼されるほどですのよ」

「へ、へえ……」

「ふふ。それに、バリオン様のエピソードの一つに、『真実の愛』というのがありまして。ご存じですか?」

「い、いえ」

「バリオン様は、魔法学園に在籍中、有名な伯爵家の女性と婚姻関係だったそうです。ですが、とある男爵家の少女と恋に落ち、真実の愛を知ったとのことです……そして、自身が悪となり、伯爵家の少女と婚約を破棄し、愛する女性と結ばれた……とのことです。ああ、素敵……」


 いや、ただの最低野郎じゃねぇか。

 一目惚れした相手と結ばれるために、決まっていた女性……サンドローネとの婚約を一方的に破棄。自分が悪者とか言ってるけど、実際はサンドローネが悪役になって実家から追放されてる。

 まあ、貴族の力でどうにかしたんだろうなあ。なんか胸糞悪いし、もういいか。


「とりあえず、また来ます……帰ろう、イェラン」

「う、うん」


 ペリドット商会の商品はなんとなくわかった。

 美容魔道具……一つ、面白いモンでも作ってみるか。

 そのまま、店を出ようとした時だった。


「「「キャーッ!!」」」

「ははは、すまない、道を開けてくれないか? きみたちの美しさに思わず歩を止めてしまう……目を閉じ歩くことを許して欲しい」

「「「バリオン様ぁぁっ!!」」」


 クソ妄言を吐きながら歩いてきたのは、ややウェーブがかった金髪のイケメンだった。

 こいつがバリオンか……なんか、背ぇ高いしけっこういいガタイしてるな。

 すると、バリオンは俺を見て、にっこり微笑んだ。


「これはこれは……サンドローネ専属の魔導具技師じゃないか。ははは、敵情視察かな?」

「……まあ、そんなところかな」

 

 お、俺のこと知ってんのかい!! 

 し、調べたのかな……平静を装ってるけど、かなりビビったぞ。


「勝負のことを聞き、どんな新商品を出すかヒントを探しに来た……というところか」

「…………」

「ゲントク、バレバレだね。ってかそっぽ向くのガキっぽいからやめなよ」

「う、うるせ。まあいいさ……いい店だ。でも、俺の作る新しい商品のが、もっといいね」

「へえ、それは気になる」

「まあ、勝負の時にな。はーっはっはっは!!」

「なにその高笑い……あ、待ってよゲントク」


 俺は笑ながら店を出た……なんかこっちが悪役みたいじゃねぇか。

 とりあえず、バリオンか……なんか、こいつには負けたくないぜ。

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