異世界天狗と再召喚聖女 ~聖女に振り回されるおじさん天狗の楽しい災難~

@YasuMasasi

プロローグ

バトル

 どこまでも澄んだ青い空、そこに翻る漆黒の翼。


 そして、そんな黒い翼の周りにまとわりつくように飛翔する、白い光の尾を引く少女。


「逃げてるだけでいいの?」

「はは、それよりどうしてわたしとバトルを?」

「おじさんがわたしの夢を叶えるだけの力を持っているか確かめたいからよ」


 おじさんと呼ばれた漆黒の翼を持つ男は、この世界では、いや、彼が元々住んでいた世界基準でも奇妙なナリをして、ひと目でかなり可愛いとわかる白い少女を引き離そうとするべくジグザグに空を駆けていた。


 あくまで、引き離そうとして、だ。


 決してブルンブルン揺れる豊満な双丘を楽しみたいからでは、ない。


 と、再び黒白こくびゃくの航跡が交わる。


「夢、ですか?」


 二人の航跡が交わる瞬間だけ、そこに言葉がかわされる。


「うん、夢、すっごいバカバカしい、子供っぽい、夢」


 再び二人の体は離れ、言葉が途切れる。


 と、同時に、おじさんは右手に携えていた黒い鳥の羽でできた団扇のようなものを少女に向けて振り抜く。途端湧き上がる風とそこに秘められた無数の刃。


 しかし、その刃は、少女の周りを覆う白い壁に阻まれて霧散した。


 そしてまた、二人は息が届くほどの距離に近づく。


「甘いなぁ、それは無理ですよ」

「ハッハッハ、試してみただけですよ」


 言葉をかわし、すぐさま離れる。


 そして今度は、少女のほうがおじさんに向けて手をかざした。


「光よ穿て、我が敵を、我が障害を……<レイ・インドラ!>」


 瞬間、少女の手がビカリと光る。


 そしてその直後、鼻をつくような何かが焦げる匂いがして、一筋の光が雲を突き抜け空の彼方へと消えた。


「ふぅ、なんですかあれ」


 おじさんは、そのゆくへを振り返って独り言を言う。


「ち、なんで避けれるのよ」


 少女は、そんなおじさんを見て同じ様につぶやく。


 ただその瞳は、とても嬉しそうに輝いていた。

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