第23話 女子会・男子会・そしてレース
9月4日(月)。
放課後の黒木モータースにて、美郷学園カート部の面々が集合していた……約一名を除いて。
「あれ、今日はベガちゃんは?」
「あー、夏休みの宿題が間に合わなかったらしくて、今頃罰テストですよ」
黒木コーチの質問にクラスメイトの
「ありゃりゃ、今週末はレースなんですけどねぇ」
「ま、留学生だからなぁ。日本史とかしんどいんじゃないか?」
そう、この日曜には早速レースがある。幸いにも新学期が始まって以降、夏の暑さは陰りを見せており、数年ぶりに秋らしい秋が訪れる気配だった。
なのでカート部としても涼しい環境でレースが出来るのは願ったりだ。体力的にも楽だし、エンジンやタイヤにかかる熱負担も減って、よりアグレッシブかつ作戦や戦略を生かした走りが出来るのだ。
今回の出場は3年の
結局、部活は明日に順延ということで解散となった。星奈と美香は家が反対方向なので、一度学校方面に引き返すことになる。
「じゃ、また明日」と声をかけて自宅へ向かう坂本姉妹を見送って、男性陣も出しかけたカートや工具を片付けにかかる。
「ねぇ、有田先輩。ベガ先輩ってクラスではどんな感じなんです?」
一年の
「んー、多分想像通りだよ。誰にでもホント壁が無いって言うか、距離が近いって言うか……どした?」
「あ、いえ。留学生ってどんなのかなー、って思って」
ちょっと赤面しながら両手をぶんぶん振るガンちゃん。
それを見たイルカは(ははぁ)とニヤついて詰め寄る。
「狙ってんのかー? ちなみに今のところ、誰かと付き合っている様子はないぜ」
「い、いえいえいえめっそうも無い!」
ガンちゃんの家は地元でも有数の地主で、跡取りの彼は立場的に人生がある程度縛られている。そんな彼が外国人留学生のベガとお付き合いするのは意外性があって、ある意味興味をそそられる。
「話は聞いた! 俺も混ぜて貰おうか」
そう言って後ろから顔を出したのは部長の黒木だ。受験勉強の合間に外の空気を吸いに来たら、後輩たちが面白そうな話をしていたのでこれ幸いにと混ざりに来たらしい。
結局、黒木親子も交えた4人で、ベガ・ステラ・天川という女子を語る男子会へと突入することとなった。
「というか、僕はイルカ先輩と付き合ってるのかと思ってましたけど」
「へ、俺と?」
ガンちゃんが言うには、こないだのバーベキューの時に特にイルカを追っかけまわしてハグするなど、距離が近かったのがそう思う原因らしい。
「ふむ……他に男子とハグしたりする事はあるのか?」
「さすがに見た事無いですねー、女子にはしょっちゅうですけど」
「「思いっきり脈アリじゃないか!!」」
全員のツッコミにイルカがいやいやいや、と首を振る。彼女のスキンシップは天真爛漫丸出しで、恋愛感情が入っている気配は皆無だったし。
「誘い受けを狙ってる、とは考えられんかね」
「それでドン引きされたらどーすんですか。それより、ガンちゃんの方はどうなんだよ、脈あったら突撃して見るか?」
なんか自分が対象になってる気がしたので矛先を後輩に振ってみる。が、ガンちゃんは首を左右に振ってから意見を述べる。
「魅力的な人ではありますけど……来年には帰るんでしょ、アメリカに」
「「だよなー」」
ほぼ結論めいた意見に全員が同意する。そう、彼女が日本にいられるのは来年の3月まで、なので親しいお付き合いをする関係になっても、ほどなく別れが待っているのだ。
ましてやガンちゃんは家の農家を継ぐ立場である。とてもアメリカンガールと恋愛をする立場にはない。ちなみに彼は学校でも結構モテてはいるのだが、背が低くて垢抜けない彼に女子が寄って来るのは、まぁ間違いなく玉の輿狙いだろう。
「あっちに彼氏とかいるのかなぁ、やっぱ」
「確かに。西海岸のオープンな女子だから、いそうだよな」
「だとしたら出番は無さそうだなー、俺ら軒並み田舎者だし」
「違いない」
ゲラゲラと笑ってお開きとなる。彼らにとって未だ別次元の美女であるベガは、恋愛対象として見るにはまだまだ敷居が高そうだ。
◇ ◇ ◇
家に帰るべく学校まで戻って来た坂本姉妹が、校門から出て来たベガとばったり出くわす。
「あれ……ベガ。もう罰テスト終わったの?」
「ハイ! なんとか全部イッパツでクリアしました……戻ってるってコトは、もう部活終わっちゃいマシタカ」
「まねー。まぁ明日改めてやるからいーんじゃない?」
「それじゃ、お詫びにドリンクおごりまショウ!」
かくして学校近くの自販機のベンチで、カート部の三人が女子会へと突入する。
「ねぇねぇ、ベガパイセンってアメリカに恋人とかいるの? オトコと寝た経験は?」
「ちょ、いきなり何聞いてんのよ美香ってば!」
いきなりド直球に切り込む美香に、星奈は顔を赤くして二人に割って入る。
「あははは、お姉ちゃん寂しい人なのがバレバレじゃん」
「う、うるさいわね! つかあんたこそ清く正しい交際してるんでしょうね!?」
「ホワット! ミカ、カレシいるデスカ? ぜひ教えてほしいデス!」
「……お姉ちゃん、なんでわざわざバラすかなぁ」
ベガへの質疑応答のはずが、坂本姉妹の暴露大会へと早変わりしてしまったので、観念して二人の恋愛事情から明かすことになった。
「OH! ガンちゃんと付き合ってるんデスカ!」
「まー最初はクラスのみんなに引っ張られてだったけど、同じ部活してたらけっこうイケてるかなー、って」
この事実を知っているのは星奈だけで、他の男子全員が気付いていない。多くの女子から適当な好意を向けられるガンちゃんとのお付き合いは、それ自体が恰好のカモフラージュになるらしい。「あの二人親しくね」「ガンちゃんだからなぁ」でごまかせるという訳だ。
「と、いう訳で秘密厳守ね。さすがに言っちゃったらバレるし」
「OKデス、ガンバってクダサイ!」
ちなみに星奈のほうは恋愛経験ゼロだとか。というか真面目で一生懸命な彼女はどちらかというと、他の男子からも「尊敬できる人」なイメージが強く、恋人として並ぶには「自分が足りてない」とコンプレックスを抱くらしい。
「さーて、ベガパイセンにも大暴露してもらいましょーかねぇ」
「ワタシ?
「えー、うっそだー」「同感」
ベガの美貌やその明るい性格、そして人前でハグまでするスキンシップ力ならさぞ言い寄って来る男は多いだろう。ましてやアメリカ西海岸の男達なら、このスタイル抜群の美少女にアプローチをしないとは思えない。
「言い寄られたコトは多かったデスケドネェ、ミンナ本気のオツキアイをする気は無かったみたいデス」
「本気のお付き合い?」
「Yes! ケッコンをゼンテイとしたオツキアイといいうヤツですネ」
「「え、えええええええっ!?」」
ベガの家、天川家はかなり厳粛な家庭らしく、「キス以上をしたなら責任を取れ」というのが家訓らしい。父親の豪人もかつて妻のリリーとの『一夜の過ち』の責任を取るべく、結婚はもちろんの事、思いっきりアメリカのノリに自分を染めて行ったそうだ。
で、妻のリリーはそれが可笑しかったらしく、じゃあ自分はとことん日本文化に染まろうとしてああいうキャラになったらしい。
「ま、まぁアメリカ人の男ならエッチなことにはオープンでしょうから……」
「ヤッたら結婚、なんて言われたらそりゃ逃げるわよねぇ。で? コッチで気になる男子とか居ましたか?」
なおも食い下がる美香に対して、うーんとしばし考え込んでから、ベガはこう返した。
「イルカとは何か……運命を感じマスネ」
「おおおーっ! 衝撃の事実!!」
「そこ詳しく!!」
抜群の食いつきを見せる坂本姉妹に、ベガは腰に手を当てて「エッヘン」のポースを取り、ドヤ顔で言葉を返した。
「私はベガ、つまりニホンのシンワで言えばオリヒメボシですヨ! イルカならヒコボシにピッタリじゃないデスカ」
「……?」
「そのココロは?」
「だってヒコボシといえばアルタイルデスヨ! アリタイルカ、ツマリ『アルタイル』なわけデス」
「「名前かいっ!」」
ツッコミを入れながらずっこける坂本姉妹。まぁ確かにイルカの苗字の有田は「アルタ」と読めない事も無いけど、それで運命の出会いって思考が乙女すぎませんか?
「ま、まぁ確かにくっついたとして、ベガパイセンがアメリカに帰ったら遠距離恋愛になるんだし、織姫と彦星みたいに見えなくもないかもだけど」
「ソーデスよネ、ロマンチックですヨ!」
「織姫と彦星を分断するのが太平洋って遠すぎでしょ? あ、いや、天の川は銀河だから何十万光年も離れてるのか」
「お姉ちゃん、そこマジで考えないの!」
なんか色恋沙汰の話が明後日の方向に向かっちゃったので、とりあえずはそこで解散となった。
◇ ◇ ◇
そして週末がやって来る。美郷学園レーシングカート部の『
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