災厄の群像劇〜異世界孤児学校の破滅的天災カウンセラー〜
赤はな
第一章:逃亡のフォルト
「逃亡のフォルト①」
「え〜と、この世界は魔法が中心だった。武力、生活、娯楽、そして国政までもが魔法に支えられていたんだ。」
四十一人居る教室に、ガビガビとした、人工的な声が響く。紛れもなく私の声だ。
「けど、そうなると、魔法を使うための魔力がより多く、より魔法に向いている種族が幅を効かせるのが当然の理だ。実際、当時は魔法を使うのに適した身体構造をしている、悪魔族、魔族、竜族、そしてエルフ族が世界の中心であり、それらの種族の国が各地へ武力侵攻を行い、それによって圧政を敷いていたんだ。この当時の状況を«ツインドミナ»と言ったんだ。そしてここで問題。この状況で当時支配される側の立場で、どうだったと思う?はい、そこの赤茶髪の子」
「………」
「……あれ?」
「…ねぇねぇ、多分サイカ指されてるよ?」
「へ?アタシ?」
私が対象の子に手のひらを上にして指しても、その子は気にも止めずに、机に設置された授業用のタブレットを見ている。その様子を見かねたのか、隣の子が横から肩を叩き、指されている事を教えてくれた。
「ゴメンゴメン。今日から授業を持ったばっかりで、名前が分からなくてさ。わかりにくいと思うけど、慣れるまでは指す時に特徴呼びになっちゃうから、化粧とか髪のセットとかちゃんとしてね。という訳で、はい赤茶髪ちゃん。どう思う?」
「えっと…どうだったかだから……良くなかったんじゃないですか?支配されるだけならまだしも、それが別の種族で尚且つ自分達より上位の存在なら尚更、気に食わないと思う方も出てくると思いますし」
「なるほどね。確かにその考えも一理ある。じゃあ実際はどうだったのかだけど、その前に、種族別の睡眠時間と寿命の違いを見てみよう」
パソコンの共有画面を変え、種族別の睡眠時間と平均寿命のグラフに移動する。
「どう?結構違うでしょ?」
画面に映し出されるグラフには、最も基本的な種族である、人間族、悪魔族、エルフ族、魔族、獣族、竜族、ドワーフ族、
「えっと、注目するべきところを順に解説していくから、聞き逃さないようにね」
テストに出やすいやつを教えるように頼まれた私は、それぞれの種族の寿命と、睡眠方法とその必要性について説明した。
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「……とまぁこんな感じに、種族によって睡眠時間も、睡眠をする理由も違ってくるんだ。じゃあ、これらを踏まえたうえで、当時の支配はどうだったのか…流石にもうわかるよね」
周りの様子を伺い、一呼吸置き、説明を始める。
「お察しの通り、この状況はあまりにもクソだったんだよ。なにせ、寿命から考え方、挙げ句の果てに睡眠時間に食事を含む生活様式までもが、その地域を支配している種族が基準だったんだ。まぁ、支配してる側は、されてる側のことなんてどうでも良いからね。因みに言うのが遅れたけど、支配される側の国を植民地、支配する側の国を宗主国と言うよ。で、生活様式というものは急に変えることは無理だ。そもそも、生活様式という言葉自体が、ある集団を指す言葉だしね。それで、実際の例として、当時の悪魔族が支配していた人間族の国の仕事について……話せそうだね」
教室の時計を見ると、授業終了まで後五分。きりが良いところまでいけるか微妙な時間だ。少し駆け足になってしまうけど…まぁ、校長の生徒さんだし大丈夫だろう。
「時間ないから駆け足でいくよー。画面に注目して。見たら分かる通り、支配される前の当時の人間の国の労働時間は九時から十八時までで、間に一時間の休憩がある、八時間労働。支配されてからは、二十四時から十二時までの十二時間労働になってるんだ。一見労働時間が二時間増えた上に、休憩時間が無くなっただけに思えるかもしれないけど、問題はそこじゃないんだ。そもそも生物には適正活動時間というのがある。人間だったら朝早く起きて、睡眠時間は大体七、八時間程度。対して悪魔族は夜に主に活動するし、睡眠時間なんてせいぜい三時間程度だ。人間が悪魔族の生活様式に合わせると、ほとんどの場合、身体はぶっ壊すし、早死するだろうね。実際、この植民地となった国は、一年で滅んでいる。原因は単純に、疲労感とか不健康な兵士が全体の八割を占めている状態で、他国に攻められたらどうしようもない。それだけだよ。ついでに悪魔族はどこまでも冷静な種族だからね。切り捨てるのも早かった。残酷だねあと……」
私がもう少し深掘りをしようとしたところで、終了のチャイムが鳴った。私は小さくため息を付く。
「終わっちゃったか…宿題を出そうと思ったけど、肝心のところを話せてなかったから、宿題は無しでいいよ。しょうがないね。因みにだけど、種族の支配のせいで、未だに解決できてない問題とかもあるから気になった人は図書室で調べてみてね。多分将来役に立つから。あと、次回は概念的な存在と、魔力をあまり持たない種族が生み出した、ハイテク技術だったり、銃だったりを解説するよ。あと、最近暑くなってきたせいで、子供狩りが増えてきたみたいだから、そこのところ注意しといてね。それでは、号令おねがい」
授業終了の号令をし、歓喜の声が上がる教室を去った私は、授業内容の報告をするために校長室へ向かった。
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「ん?校長に何か用があるの?」
名ばかりの校長室のドアの前に立ち、ノックをしようとした瞬間、横から声をかけられる。振り向くと、見慣れた養護教諭のクワッドさんの顔があった。
「はい、今日から歴史の授業を持つことになったんで、やった内容を報告しないといけないんですよね〜」
「そういうことね。校長なら今実験中だから、報告は後で行ったほうが良いよ」
「あ〜……あそこは一般人が過ごせる環境じゃないですからね。それに、この前行った時なんて、時期のせいで蒸し暑さまで備わって、ホント生き地獄でしたよ」
「それは嫌だね……そういえば最近、気温の上昇で保健室に来る子が結構いるのよね」
「へぇ〜そうなんですね。まぁこの辺はヒートアイランド現象モロに受けてますからね。多少はしゃーなしってやつですよ」
「軽度だったらそうなのだけど……体育の時とかは重症化し易いし、特に気に掛けないとなのよね……」
「体育の時に謎に着込む子も居ますからね〜そういう子は注意すべきか悩みますし、かといって、何も言わないと熱中症になりそうだしで、対応がムズいですよね〜」
私の言葉に、クワッドさんの顔が呆れるような顔になっていく。
「……カウンセラー……最近鏡見た?」
「え?どうしたんですか急に……」
「……いや……自分の服装を見たことあるのかなって思ってね」
そう言われ、私は改めて自分の服装を見る。喪服の上に魔法使いが着てそうなゆったりとしたローブを上から着ている。
「ここに来てから、変わらずに着ているお気に入りの服装ですし、ネクタイを整える為にも毎日見てますよ」
「いや、そんなことが聞きたいわけじゃないんだよ……毎年言ってるけど、その暑苦しい不審者みたいな格好やめたほうが良いんじゃない?」
「でも、この服装じゃないと落ち着かなくて」
「それは少し分かるけど……それだったら、私みたいに半袖の白衣にするとか色々代案はあるでしょ……」
「まぁ、考えておきます」
「本当、生徒に示しがつかないからやめてよ……まぁ、反面教師ぐらいにはなるかもしれないけど」
そう言い、クワッドさんは保健室の方へと歩いて行く。
(相変わらず、他者の気持ちがよく判ってる方だ)
私は真っ白なウルフカットの髪を持つ彼女の後ろ姿を見送ると、次の私の目的地へ歩き出す。今日は久し振りのカウンセラーとしての仕事がある。
カウンセラーは公的には助言者、相談員としての意味を持つ。他者に助言や相談を行うのは、そう簡単なことではない。それは、多くの経験が必要であり、それに加えて他者を思いやる気持ち、そして大人としての包容力が必要だ。当然生半可な者がやって良いことじゃない。
しかし、それだとこの学校でカウンセラーを出来る者は一人だっていないことになる。それでも、私はカウンセラーという役割を任された。する資格がない不相応な役回り、それでも……やれる事をやれる時にやれる分だけ責務を全うする。それが私に出来る最大の大人になるために必要な要素だ。
私は覚悟を決め、相談室のドアを開ける。開けた部屋の中には、金髪の少女が居た。
私はその少女の向かいの椅子に座り、笑顔で話しかける。
「はじめまして。今日は、君の今後に響く相談をしていくよ」
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