異世界の部屋着がすごすぎる!
ワタシは至福の入浴タイムを終え、脱衣所へと戻る。
リニー少年のマッサージで上機嫌なワタシは、少年の用意した部屋着に、なんの疑問ももたずに袖を通した。
「…………え?」
着替えの途中で、動きがぴたりと止まる。
異世界の部屋着は……ワタシが予想していたものとは、少しばかり趣が違った。
なんか、とっても生地が薄くて、ヒラヒラしたレースがふんだんに使われている。
長めの丈のゆったりとした前開きの服で、ボタンはなかった。羽織ったら帯で締めるという……まあ、締付けの少ないシンプルなデザインだ。
ワタシが着ていた魔王の正装と比べると、軽く、ゆったりとしている。
(……というか、軽すぎて、ゆったりしすぎよ! どういうことよ!)
胸元も大きく開いているし、ふとしたはずみで、前がはだけ、生足がすぐに見えてしまう。
足だけならまだいい。いや、すごくよくないけど、まだ許せる範囲……かもしれない。
下手したら下着から丸見えになっちゃうんですが!
異世界、どうしちゃったのよ!
しかも、用意してもらった異世界の下着。
下着としてどうなのか、と悩みたくなるくらいな……とてもアダルトでセクシーなデザインだった。サキュバスだって、こんなすごいのは履いていない。
履かないというわけにもいかず、まあ、見えなければいいか、と思ったのだが……。
うっかり油断したら見えちゃうじゃないか!
っていうか、油断してなくても見えちゃうのでは?
このとき、チョロイン聖女をなぜかワタシは思い出していた。
デザインは全く違うのだが、コンセプトに共通部分が垣間見られる……ような気がする。
部屋着というより、エロいバスローブというか、ムードのあるオトナのための夜着……といった方が、ニュアンスというか、用途的には近いのでは?
どう考えても、これは勇者ポジションで召喚されたヤツが身につける衣装じゃないだろう。
「リニーくん?」
「はい、勇者様?」
「これって、ホントウに、室内着?」
疑いの眼差しで、ワタシはリニー少年をじいっとっと見つめる。
いくらなんでも生地が軽い……いや、薄すぎる。
こう、ちょっと引っ張ると、ビリビリとかいって、破れてしまいそうだ。
こんな、耐久力の低い部屋着をまとってもくつろげない。
(こんなのありえない……)
いや、実際に、こうしてモノが実在していることからして、異世界ではありえる服装なのか?
動揺して、思考がまとまらない。
「そうですよ。勇者様。それは室内着です。とてもよくお似合いです」
同じような会話が何回か繰り返されたが、リニー少年の返事は、清々しいまでにも一貫している。迷いが全く無い。
ワタシの常識が崩壊する。
(……本当に、これが室内着?)
これが外着ではないことだけはわかる。
(……ワタシ、異世界をなめていた)
その場に崩れ落ちそうになるのを、ワタシは必死にこらえる。
恥ずかしいし、こんなスケスケな室内着を着るのは嫌だが、だからといって、さっきの盛装は疲れるので袖を通したくない。
これしかない、と言われれば我慢するしかないだろう。
ワタシが異世界の薄い部屋着に衝撃を受けているころ、リニー少年は上機嫌で夕食のセッティングを行っていた。
リニー少年の説明では、国王一家とともに晩餐を……というのは、召喚初日で混乱している勇者様にはあまりにも酷だ。
……ということになり、部屋でエルドリア王太子と夕食をとる、に変更されたらしい。
王様もご病気らしいから、お互いに晩餐は辛いだろう。
まあ、ワタシとしては、食事自体が必要ないので、「おかまいなく」と、お断りを入れたのだが……。
すると、例の「シェフが用意する料理に魅力を感じられないとは、あのシェフと、勇者様のお世話係は処分ですね」っていうリニー少年の言葉に脅された。
にこやかに笑いながら言われては、断るなんてワタシにはできない。
……っていうか、勇者様のお世話係って、自分自身のことなのに、処分対象としてさらりと言ってのけるリニー少年の意識が怖い。
またあのキラキラした王太子と一緒の時間を過ごすのか……と思うと、もともと存在しない食欲が、さらに減退したような気分になった。
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